事故紹介
自己紹介を促されたカメラは、
何故かいつになく威厳があるように見えた。
パッと見の外見が特段変わった訳では無いのだが、
何故か不思議と胸を張って居るようにも見える。
「やぁやぁ我こそはナノ寄生生命体である。名前はまだ無い。」
そこで一呼吸置いて改めて彼、彼女、
わからないが目の前のカメラが、しばらく間を置く。
「ここまでで何か無い?」
と聞いてくるが玲音はいえいえ後ほど、と先程とは打って変わって少し落ち着いた様子で答えた。
「ではでは、引き続き。」
仕切り直してカメラ、いやナノ寄生生命体が続ける。
「僕達は宇宙の果てからやって来たんだ。それこそ君達の技術力では及ばない遠くの宇宙からね。事情は色々とあるんだけれど、僕達には天敵である種族が宇宙には居て、そいつらの侵略を受けて僕達は大した抵抗も出来ずに逃げたってわけ。」
心無しかションボリしているようにも見えるカメラを眺めながら、玲音には実は半分程は内容が入ってきて居なかった。
まだ半分夢か幻かを疑って居るし、なんならそれ以外にも重要な疑問はいくらでもあったのだ。
つーか使えんのかこのカメラ。高かったんだぞ。
「僕達は仕方なく文明を持つ種族を探して宇宙を彷徨ったんだ。気の遠くなる程の時間をかけてね。結局いくつか見つける事には成功したんだけど、未発達の文明や僕達が適合し得るような環境の機械を使う文明にら出会わなかった。」
聞きながらなるほど、と思うと同時に遅れて衝撃を受けて玲音はつい口を開いてしまう。
「文明を持つ種族を”いくつか”見つけた!?」
カメラは少し誇らしげに、そうだよ。と答えた後に続けた。
「僕達には案外難しい事では無いんだ、何の機械にも寄生していない僕達は寄生している時よりも遥かに弱い存在ではあるんだけど、その分身軽に動く事が出来るし、なにより我々は寄生生命体だからね。宿主を見つける為の執念には自信がある。」
まるで最後はメンヘラの中学生か手練のヒモ男のような事を言い出したが、結局なんとなく聞き入ってしまう玲音。
「そしてある時ある種族に出会った。彼等の機械には寄生生命体が入り込めないようなある種のアンチウイルス的な機構が施されて居てね。了解なく侵入しようとした仲間が約半数はやられてしまったんだ。我々はそこでも多くを失ったよ。」
そう声のトーンを落としてまた悲しげにする寄生生命体の声音を察知して、なんとなく合わせて玲音も俯く。
「で、結局どうしたの?」
玲音は改めて質問してみた。
「結局は僕達の様子を見て何かを察知してその種族が宇宙空間へ我々でも寄生可能な機械を射出してくれた。その時に我々の集団を率いて居た誘導個体がそれに寄生して晴れて休戦って訳」
それを聞いて少し安堵した玲音は大して音のしない拍手をカメラに向かって送る。パチパチパチと玲音の拍手と換気扇の音、それからどこか遠くから聞こえるバイクの音がうっすらと聞こえる部屋の中、数秒の間を置いてカメラ、いや、寄生生命体が続ける。
「その種族が随分前まで観察し時折手を加えたと言う星があると言うから是非教えて欲しいと誘導個体が頼み込んだんだ。彼等は快く銀河マップを宇宙空間へ投影して場所を示してくれたんだ。」
「それが…ここ?」
玲音がそう言って部屋の床を指し示した。
「そうだね、局所的に言えばそうなるんだけど…地球さ!」
そう少し大きい声で言う寄生生命体を見ながら玲音は余計に頭を悩ませたのだった。