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キャラメルレモンソーダ  作者: 河北春
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六話 入学式前夜です

 「じゃあ次は刻印魔法の偽造をしましょうか」

 そういえばみこと先生が棺を開けたせいで面倒くさいことになったんでしたね。棺の中にいたときに聞こえたんですが、確かみこと先生は運ぶのが面倒くさいから棺を開けたみたいな感じでした。

 しかしそのあとどうやって運ぶつもりだったのでしょう。あの男の子を運んだときみたいに担ぎ上げていくつもりだったのでしょうか。でも売り払う予定だったのならそんな雑なことしないですよね。

 まあ、結果的にすごく面倒くさいことになったことだけはよくわかります。

 「偽造って言うと悪いことしてるみたいですね」

 「悪いことみたいっていうか悪いことなんですけどね」

 「そうなんですか?」

 「そりゃそうですよ、だって身分証明書を偽造しているのとほとんど変わりないですからね」

 みこと先生はタンスの中を覗き込んで何かを探しながら答えてくれました。

 「えーっと、ああ、ありました。これで偽造はなんとかできるでしょう」

 みこと先生はタンスから黒いマジックペンを出してきました。……ん!? マジックペン!?

 「えっ!? まさかそれで偽造するんですか!?」

 「何か問題でも?」

 刻印って言ってましたし、刺青みたいな感じなんでしょうか。それをマジックペンで……確実にばれます。

 「いや、流石にばれますよ!」

 「まあまあ、見ててくださいって」

 そう言うとみこと先生はマジックペンのキャップを取り外しました。

 「ちょっと腕出してもらってもいいですか?」

 「……いいですけどどこに書くんですか?」

 「二の腕です」

 二の腕ならもし失敗しても服で隠れますね。みこと先生は当たり前のように油性ペンを使ってますが、普通は水性ペンで書くと思うんですよね。失敗したらやり直しが効かないじゃないですか。

 そんな私にはお構い無しにみこと先生はキュッキュと音を立てながら二の腕に魔法陣みたいなものを書いていきます。

 みこと先生がマジックペンで書いた魔法陣はなぜかとても上手で、ぱっと見ただけではマジックペンで書いたとわからないくらいです。

 ですがこれ本当に大丈夫なんでしょうか。すごく心配です。

 「よし! 書けましたよ! あとは魔法で刻印っぽい雰囲気にするだけですが……葵さんはまだこっちに来たばかりで固有魔法の制御ができないですし……あれ? もしかしてこれすごく面倒くさい!?」

 それを今気づくなんて、やっぱり酔っているのでしょうか? 魔法についてよく知らない私でも面倒なのはすぐわかったのに……。

 というか本当に私の固有魔法気になります。いつ教えてくれるのでしょう。

 「うーん、ちょっと、いや、かなり面倒ですが頑張るしかないですね。仕方がないです。葵さん、私がミラクルなパワーを使うので動かないでくださいね」

 「わかりました」

 すると、さっきみこと先生がマジックペンで書いた魔法陣のようなものの上に重なるように青い光が全く同じ魔法陣を描き始めました。その青い光は腕にどんどん近づいて、当たるか当たらないかのぎりぎりのところで止まりました。

 「多分これで大丈夫ですね。これなら大抵の人は騙されます。それに普段は制服で隠れると思いますしね」

 私は魔法陣をじっと見ました。これって触ってもいいんでしょうか。私は魔法陣が気になったので触ろうとしました。

 するとみこと先生が慌てて止めてきました。

 「あー! 触っちゃダメですよ。葵さんはまだ固有魔法が制御できていないのですから、あなたがこれに触れたらせっかく偽造した刻印魔法が台無しです」

 「そうなんですか、すみません」

 「わかればいいんですよ、わかれば」

 さっきからずっと気になっているんですが、私の固有魔法気になりすぎます。本当にいつ教えてくれるのでしょう。もういっそのこと今聞いてしまいましょうか。

 「あの、私の固有魔法って──」

 「あー、あー、聞こえないなー」

 そんな典型的な聞こえないふりってなかなかないですよ。

 「そうだ! そろそろ棺に入ってもらえますか。もう入ってもらわないと時間的にやばいんですよね。学園に忍び込めなくなります」

 「いや、まず私の固有魔法を──」

 「あー、はいはい、そうですねー、ささ、いきましょう」

 私の話を聞かずに棺の方へと背中を押してきます。

 ここは意地でも固有魔法を聞かなくてはなりません。

 「ちょっと待ってください!」

 「なんですか?」

 「私は今、あり得ないくらいダサいTシャツを着ています! そんな状態で入学式に行かせたくなかったら、大人しく私の固有魔法を教えてください!」

 「……ふむ、あっ!」

 みこと先生は少し考えてからノリノリで答えてきました。

 「ふっふっふっ、葵さん、お忘れのようですがこの世界には魔法という便利なものがあります。魔法を使えば服を変えるのなんてちょちょいのちょいなんです」

 「なっ!?」

 すると私は白い光に包まれました。

 気づけば私は制服を着ていました。

 「ずるいです! 大人気ないです!」

 「なんとでも言ってください! 大人はずるい生き物なのですよ」

 うう、悔しいです。本当にずるいです。いつか仕返ししてやります。

 「今すごく失礼なこと考えていたでしょ」

 「いいえ、全く」

 私は満面の笑みでそう答えてやりました。

 「じゃあ棺に入ってください。男の子はもう入っているのでくれぐれも男の子の肌に触らないようにしてくださいね」

 「なんでですか?」

 「理由を答えたら葵さんの固有魔法わかっちゃうじゃないですか。そう簡単には教えませんよ」

 やっぱりダメですか……。もうここまできたらみこと先生から話してくれるまで待つしかないですね。

 「はいっ、固有魔法の話はここまでです。もう時間がやばいので棺に入ってください」

 みこと先生はそう言って私の背中を押し始めました。棺は結構大きくて成人男性が入っても余裕があるくらいの大きさです。

 もうこれ以上は固有魔法について聞いても意味がないと思うので、私は大人しく棺に入りました。

 するとみこと先生は棺の蓋を閉めながらこう言ってきました。

 「それでは学園に着くまでゆっくりしていてください。あっ、それから学園では一人称は僕でお願いします。そっちの方が女の子だとばれにくいでしょうしね」

 「えっ!? ちょ、待ってくだ──」

 バタン。

 ……え? 普通そこで閉めます? 人の話は最後まで聞くべきじゃないですか。

 「拒否権はないですよー」

 棺の蓋越しにみこと先生の声が聞こえてきました。なんか、こう、うざいです。うざいという表現が一番似合います。人にこんなにイラついたのは久しぶりです。

 しかし、学園までどのくらいあるのでしょう。あんまり時間がかからないといいですが……。

 すると棺がガタンと揺れました。みこと先生が持ち上げたのでしょうか? いや、それはないですね。だって力なさそうですもん。

 「はい、着きましたよ」

 えっ!?

 また棺の蓋越しにみこと先生の声が聞こえてきました。

 それにしても早すぎませんか? 私が入っていた棺は学園と関係ないところにあったんですよね。棺が開いてからみこと先生の家まで歩いて行きましたがそんなに時間はかからなかったですし……。どういうことなのでしょう?

 「私は一旦帰りますね。もうすぐ棺は勝手に開くと思うのでそこで待っていてください」

 みこと先生はそう言い残してどこかへ行ってしまったようです。

 えっ?

 私の扱い雑じゃないですか?

 私は棺から勝手に出るわけにはいかないので一人寂しく棺の中で大人しくしていました。

 ……早く開かないでしょうか。

 そう思う私は数分後に棺が開くことをまだ知らないのでした。

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