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キャラメルレモンソーダ  作者: 河北春
4/8

四話 夢を見ました

 畳のいい匂いのする大きな部屋。押入れにはふかふかの布団が入っています。私への待遇はめちゃくちゃ良いです。

 すごく汚い部屋とか覚悟してたのに肩透かしを食らった気分です。みこと先生の家は意外と大きくてびっくりです。みこと先生の家の庭は和風で修学旅行で行った京都を思い出します。

 みこと先生からは学園に入学してから、学園から逃げないのであればこの部屋は自由に使っていいと聞いています。私はその学園に入学したいわけではないのですが……私に拒否権はないようです。

 みこと先生に私が入学させられる学園はどういう学園なのか聞こうとしましたが、はぐらかされてしまいました。

 ケチな大人です。教えてもなくなるものではないじゃないですか。私が大人になったらあんなケチくさい人間にはならないようにしたいです。まあ、大人にも事情というものがあるのでしょう。

 そういえば、入学の日付だけは教えてもらいました。みこと先生は確か四月七日と言っていました。今日が四月六日なので明日入学となりますね。展開が早すぎます。ですが、なんかもう慣れてきちゃいました。

 ……それにしても私、異世界に来ちゃったんですよね。まだ全然実感わかないです。いつかは帰れるのでしょうか。

 しかし、この世界がどういう世界なのかも全くわかりません。

 そうだ! みこと先生にもらった学園の教科書を読んでみるのはどうでしょう。教科書を読めば少しはこの世界のことがわかる気がします。我ながらとてもいいアイデアだと思います。やっぱり私って天才なのでしょうか?

 ……ここまで来たらもう断言してもいいんじゃないでしょうか。私は割りと天才! 以上。

 では、早速教科書を読んでみましょう。なかなか分厚い教科書ですね。国語辞典位の厚さです。

 ……ちょっと待ってください。私は結構重要なことに気づいてしまいました。まだ教科書を開いていないのでなんとも言えないのですが、もしかしたら文字が日本とは違う異世界語的なものかもしれません。それは流石に困ります。いくら優秀な私でも知らない言語を入学までの短時間で一から覚えるなんて無理があります。

 ああ、急に教科書を開くのが怖くなってきました。出来ることなら開きたくない。でも開かないと何も始まらない。うーん、こういうのは勇気を出して行動するのが大事だと思います。

 じゃあ開きますよ。えいっ!

 あれ? めっちゃ日本語じゃないですか!? はぁ、良かったです。これで日本語じゃなかったら私、どうしていいかわからなかったです。いやぁ、マジで神様がいるなら感謝したいところです。

 でもどうして異世界の教科書が日本語なんでしょう。そもそもみこと先生も日本語しゃべってましたし、本当は異世界ではないのでしょうか?

 いや、それはないですね。私の勘がそう言っています。それにみこと先生は魔法みたいな不思議な力も使っていましたしね。

 では気を取り直して教科書を読んでいきましょう。まず、この教科書は何の教科書なんでしょう。

 ふむふむ、魔法についての教科書みたいですね。面白そうなことがいろいろ書いてありますね。ラノベの公式設定資料集を読んでいる気分です。私は畳の上で寝転がって教科書を読み始めました。

 数十分後。

 なかなか面白かったです。この教科書は最初に魔法の基礎が書いてあって、その後は魔法の応用について書いてありました。

 私は基礎が書いてある部分ちょろっと読んだだけですが、この世界の魔法は簡単に言うとプラスの魔法とマイナスの魔法があるようです。

 マイナスの魔法は魔法そのものに変化をもたらす魔法らしいです。例えば魔法を無効化させる魔法や、魔法を壊す魔法はマイナスと言った感じです。いろいろ定義があるそうですがプラスの魔法は簡単に言うとマイナス以外の魔法、ということらしいです。

 また、普通の魔法に加えて生まれたときから使える固有魔法というものがあるそうです。

 ちなみに親がプラスの固有魔法を使う魔法師とマイナスの固有魔法を使う魔法師だった場合は、子供の固有魔法がマイナスになるといった感じで、プラスとマイナスの計算のようにすると子供の固有魔法のタイプがわかるんだとか。

 この世界の人たちのほとんどが固有魔法を持っているらしいのですが、マイナスの固有魔法を持っている人は人口の一割にも満たないんだそうです。

 それで、魔法を知るためには欠かせないのが魔粒子という粒子。魔粒子は陰と陽があるそうで、酸素みたいにその辺に飛んでるらしいです。

 魔法師が魔法を使う際、空気中の魔粒子を体内に取り込んで体内で陰と陽の魔粒子が均等になるようにすると初めて魔法が使えるみたいです。

 うーん、強いて感想を言うならば情報量が多い、ですかね。

 でもここでめげてはいられません。そういえば私が入学させられる学園は教科書の内容からしてもしかしたら、魔法について学ぶ学園かもしれません。でも魔法はほとんどの人が使えるそうなので魔法について学ぶことは必須なのかもしれませんけどね。

 はぁ、疲れました。私は部屋にある時計を見てみました。時計は四時を指しています。異世界だからといってめちゃくちゃな時計というわけではないんですね。

 私の体感時間が正しければ異世界に来てから二時間ぐらい経っているんですよね。で、私が茜さんに頼まれてたのを買いに行ったのが二時頃。ということはこの世界と私がいた元の世界は時間が一致しているということなのでしょう。私が元の世界に帰るのに役立つかもしれないのでこれは覚えておきましょう。

 そういえば入学式が明日だと勝手に思ってましたが、時間が一致しているようなので日付も元の世界と一致しているのでしょう。日付については私の勝手な想像ですけどね。

 はぁ、この短時間でいろんなことが起こりすぎて、これは夢なんじゃないかと思います。ちょっと眠くなってきました。いや、寝てはダメですよ、私!

 忘れているかもしれませんけどみこと先生は私に危害を加えないと言ったわけではないですし、まだ警戒すべきです。

 ですが、とても眠くて……疲れて、いるのでしょうか?

 まあ、少しぐらい寝たって……大丈夫ですよね。

 私は我慢できずに寝てしまいました。


 ──ん。ここはどこでしょう? というか私の目の前で倒れているこの男の子は誰なのでしょう。どこかで見たことがあるような……。

 あっ、この子顔色がとても悪いです。駆け寄ろうとしましたが体が動きません。

 「『──』! しっかりしてください!」

 えっ? 私の……声? でも私、今声を出していないと思うんですけど。

 「──っ! みんな『──』から離れて! 早く!」

 声がする方を見ました。私と同い年くらいの女の子が立っています。悲痛な叫び声。今にも泣きそうなその声を聞いただけで、私の胸はぎゅっとなって今まで感じたことのない痛みを感じました。

 「『──』! ……おい、ぼけっとしてないで早く!」

 その声の主は女の子の隣に立っている少年でした。動こうとしない私を心配しているのでしょうか。必死になって私に呼びかけています。

 しかし私は動こうとしません。なぜでしょう。動けません。

 「はぁ、やっと見つけました! もう手遅れです。早く行きましょう」

 みこと先生?

 みこと先生は空から降りてきました。文字通り空から。全身の至るところから血を流しています。あんな量の出血をしていたら動けないはずなのにどうして私をこの場から逃がそうとするのでしょう。

 ……逃がす? 何から?

 「よくわかんないけど早くそいつを逃がしてください! ここは俺たちで止める!」

 止めるって何を?

 「待って! 『──』! 『──』!」

 私はみこと先生に抱えられてしまいました。今ここから離れてはいけない気がします。あの男の子の側から離れてはいけない、今すぐあの子のところに駆け寄りたいのに……なのにどうして。どうしてみこと先生は離してくれないのでしょう。

 みこと先生は私を抱えたまま走り出しました。どんどんあの男の子から離れていきます。すると男の子から異様なオーラが出始めました。そして女の子と少年に攻撃をし始めました。

 どんどんあの男の子や女の子、少年と距離が離れていきます。そして見えなくなってしまいました。

 「はぁ、はぁ、着きました。これできっと大丈夫」

 みこと先生は自分に言い聞かせるように言いました。

 「これはもう既に聞いたかもしれませんが、あなたは今からとても混乱すると思います。ですが何かあったら私に頼ってください。そして……自由になってください」

 私の意識はそこで途絶えました。


 「待って! ……って、あれ? 夢?」

 気づいたら私は起き上がってそう叫んでいました。

 辺りを見ると畳と障子、それに壁と……みこと先生。私はみこと先生と目があってしまいました。

 「だ、大丈夫ですか? すごくうなされてましたけど……」

 なぜいるんでしょう。

 「年頃の女の子が寝ている部屋になぜ三十代の男の人がいるんですか」

 「えっ!? 三十代ってすぐわかりました? 私ってよく二十代くらいに見えるって言われるんですけどね……まあ、まずはおっさんって言われなかったことに感謝します」

 「いや、話を逸らさないでください。どうしてここにいるんですか?」

 私の立場なら当然の質問だと思うんですけど。

 「まあまあ、そんなに怒らないで。私はあなたを心配してここに来たんですよ? だって一階まで聞こえる声でうなされてましたから。で、様子を見に来たらすごく苦しそうにしていたので、布団を敷いて畳の上で苦しんでいたあなたをわざわざ布団まで運んで寝かせてあげたんですよ。ね、私いい人でしょう?」

 「……そうですか。ありがとうございます」

 いい人アピールをされても不審者にしか見えません。

 「話した感じ元気そうで何よりです。そろそろ夕食を食べるのでリビングにいきましょう」

 「いいですけど食べ物に毒とか入ってないですよね?」

 「もう、そんなに心配しなくてもいいじゃないですか。私はあなたを利用したいから連れてきたんです。だからそろそろ安心したらどうですか?」

 確かにみこと先生の言う通りです。ただの善意で何かしてもらうより利用するために何かしてもらう方が信用できます。

 「そうですね、少しはあなたを信用しようと思います」

 それに、夢で見たみこと先生は私のことをとても心配してくれていましたしね。

 「素直じゃないですねぇ」

 みこと先生はニヤニヤしていて気持ち悪いです。なんでしょう、思春期の女子がお父さんに対して持つ感情ってこんな感じなのでしょうか。私には父親も母親もいないのでよくわかりませんが……。

 「じゃあ、ご飯が冷めないうちに食べましょう! もうできているんですよ、早くいきましょう。今日は億万長者になる予定だったのでとても豪華な料理を用意しているんです」

 「豪華な、料理……」

 豪華な料理!

 やばいです。めっちゃ食べたいです。私は居候させてもらっていた身分なので今まですごくいろいろケチって暮らしていたんです。だから豪華な料理が食べれるなんてすごく嬉しいです!

 私は割りと典型的な貧乏暮らしをしてたんですよ。お茶漬けを食べるときは少しでもかさましするためにお米に水分を吸わせてから食べたり、もやしばかり食べていたり。野菜炒めなんか本当に野菜しか入れてなかったですしね。食べ盛りの女子中学生の食生活とは思えません。

 だからでしょうか。自分で言うのもおかしな話ですが、私は豪華な料理のように食べ物に関する言葉に弱いのかもしれません。

 私を誘拐するならまず食べ物で釣るべきです。現在進行形で釣られている気がしますがみこと先生は私を誘拐したいわけではないと思いますし、心配とかはしないですけどね。

 「早くしないと大量の素敵なご飯たちが冷めてしまいますよ。……それにしても嬉しそうですね」

 みこと先生はまたニヤニヤしています。

 「私の家はお世辞にも裕福とは言えないような家庭だったので」

 私は苦笑しながらそう言った。

 「あー、ええっと、今日の夕食は期待してもらってかまわないのですが、私の家もなかなか貧乏なので覚悟してくださいね」

 「えっ!?」

 家は大きいのに貧乏って……。期待した私がバカでした。まあ、急に裕福な暮らしができるようになったら逆に慣れない部分があるでしょうし、当分今までの暮らしのような感じでいいんですけどね。

 「じゃあ、そろそろいきましょう」

 「そうですね」

 そして私たちは豪華な料理を食べに向かいました。

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