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第1話 金髪ヤンキーが駅のストリートピアノで神演奏していました

 私の名前は福永愛子、十六歳、今年から女子高生です。


 私は自分が嫌いです。

 何故なら、顔に大きな茶色い染み、痣があるから。左目の下、消しようのない痣が。

 病院に行っても消せない。薄くするにしても、どれだけ医療費がかかるか分からない。

 お父さんは私が小さいころに病気で死んでしまい、母子家庭にそんなお金ありません。

 学校に行けば、当然いじめの標的になりました。化け物だと。

 お母さんに、どうして普通の顔で生んでくれなかったの、と泣いて怒鳴り、お母さんを悲しませてしまったこともあります。なんて親不孝な娘…。顔も醜ければ、心も醜い…。


 私は将来にもう絶望していました。こんな顔じゃなければやりたいことたくさんあった。

 コスプレ、アイドル…。

 でも、そんなの無理…。私はあきらめました。

 小学生から不登校を繰り返してきた私、でも高校は出ておけとお母さんが言うので行くことにした。私も高校くらいは、と思うし…。お母さんが必死に働いて学費を貯めてくれた気持ちに応えたい。



 勉強は結構得意なので、県内でもトップクラスの進学校に合格できた。

 そして初登校の日のことだった。これから三年間利用することになる県内でも大型の駅。

 改札を出ると、自分の進路方向とは逆の方向から、いきなり素晴らしい音楽が聴こえた。そういえば、この駅はストリートピアノが置いてあると聞いたことがある。

 すごい、すごい、どんな人が弾いているんだろう。入学式まで時間があるから、私はピアノの方へ歩いた。


「え゛?」

 思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

 ピアノを弾いている人、身長は190センチくらいあるでしょうか。強面、筋肉で引き締まった逞しい体格、いかにも喧嘩上等と言わんばかりの金髪ヤンキーでした。

 なんというか形容しがたい光景でした。しかも、そんなおっかない容貌で弾いている曲が『魔法のお姫様☆ロゼアンナ』の主題歌『プリンセスドリーム』って…。

 でも全く別次元のプリンセスドリーム…。その旋律に私は聴き惚れてしまい動けなかった。泣いている人もいる。弾き終えると駅構内は拍手喝さい。金髪ヤンキーはペコと軽く頭を下げて何も言わずに去っていった。

 私はしばらく、その場から動けなかった。感動のあまりに。



 進学校だから、さすがにみな分別はあり、私の痣を見て化け物と言うこともなく、この痣でいじめが起きることはない。それなりに成績で示せば馬鹿にされることはなかった。


 陰口は叩かれる…。ひどい痣とか…。私なら生きていられないとか…。聴こえていないと思っているのか。

 やはり私は人付き合いが苦手で、教室ではいつもひとりぼっちだった。


 そんな私の唯一の癒しが駅のストリートピアノの金髪ヤンキーさんのピアノだ。

 彼の制服から私の高校のある駅南口反対の北口にある公立高校の生徒だと分かった。

 たまに放課後にも弾いている時がある。彼女なのか、ギャルたち二人連れている。モテる人らしい。そりゃあ、あんなピアノ弾ければモテると思う。私みたいな陰キャな三つ編み地味子など眼中にないだろう。


 ギャルたちに

「「探偵少女アイカ弾いて―」」

 と、猫なで声でリクエストされて、金髪ヤンキーさんは短く『はいよ』と応えて椅子に座った。

 金髪と赤髪のギャル嬉しそう。オッパイ揺れるほど大きくて羨ましい…。私は陰キャのうえ貧乳だし、トホホだよ。


 今日はアニメ『探偵少女アイカ』のメインテーマ…。駅構内に響いた。本当に聴き惚れてしまう。


 演奏を終えると駅構内は拍手喝さい、相変わらずすごい演奏。ギャルに

「ケンタ、次は妖滅の刀の赤蓮花が聴きたいなぁ」

 あ、それ私も聴きたいと思った。ケンタっていう名前なんだ。


「ダメダメ、一人五分の演奏と決められているんだから」

「えーっ、いいじゃん、誰もあと並んでいないしぃ」

 そりゃ、あんな上手い人のあとじゃ弾きにくいだろうな。

「そういうルールは大事なの。校則には守らんでもいいものもあるけど、こういうのは守らないとダメなんだよ、たとえヤンキーでも!」

 ケンタさんは消毒液を含んだウェットティッシュで鍵盤を拭いていた。意外、ヤンキーって横柄でルール破る人ばかりと思っていたけれど、彼は違うんだ。

「ぶう、じゃ、私たち帰るね」

「はいよ、さいなら」


 ギャルが帰っていく。ケンタさんは駅構内のベンチに座った。ピアノはそのあと何人かの人が弾いて、去っていった。ケンタさんはもう一度ピアノに歩み寄った。


 私はこの時、人生で一番勇気を振り絞り、彼に歩んで言った。


「あっ、あの!『魔法のお姫様☆ロゼアンナ』のキャサリンのテーマ弾いて下さい!」

「えっ?」

「あの…挿入歌なんです。高飛車お嬢様のキャサリンにピッタリの曲で…!」

「…ちょっと歌ってみてくれる?」

「はいっ、『~♪~♪』」

「ああ、思い出した」

「知っているんですか!?全二十六話で五回しか作中で流れなかったのに!」

「ああ…。昔に、そればっかり歌っていた子、知っているから」

「良かった~!」

「少し頭の中でイメージトレーニングして楽譜にするから、ちょっと待ってて」


『ああんっ?なんだ、この三つ編み地味子は!?』とでも言われるかもと思った。案外優しい人なんだ。

 それにしてもロゼアンナの主題歌を弾いていたから、もしかしてと思ったけれど、キャサリンのテーマも知っていたなんて…。これCD化されていないし、ネットにもないのよね。そればっかり歌っていた子、か…。


 彼はルーズリーフを一枚取り出して、鞄の上に。キャサリンのテーマを鼻歌まじりで歌い、何か書いている。その横顔、何というかカッコいい。それにしてもすごい…。知らない曲なのに、過去に聴いたことがあるだけで譜面にしてしまうなんて…。


「弾くにあたり、君に一つお願いがある」

「は、はい、私に出来ることでしたら」

「演奏終了後、駅構内のカフェに付き合ってもらいたいんだけど…」

「えっ、えええ!?」

 それって、もしかしてデートの誘い?

 人生初デートがこんな怖そうな人なんてハードル高すぎ!

 でも、こんな素敵なピアニストさんなら、お話していいかも。彼は続けて言った。


「実を言うと…ずっと話しかけようと思っていたんだ。いつも立ち止まって最後まで聴いてくれているし。でもほら、俺ってこんな風体だし怖がるかなと思って…」

「そ、そうですね。私ってあまり男性に話しかけられたことないし…」

「だから今日、話しかけてもらって嬉しいんだ。そんなに時間は取らせない。いいかな?」

「分かりました。お話くらいなら」

「ありがとう」


 ケンタさんはニコリと笑った。彼の書いた譜面を見ると

「それが譜面…なんですか?」

 五線譜もない、ただのルーズリーフに音符と数字、それと横線と縦線、記号が入り混じった意味不明の譜面だった。


「ああ、俺のオリジナル譜面だから」

「それで弾けちゃうんですか?」

「まあ、見ていてくれ。もしノッてくれたら」

「ノッてくれたら?」

「歌ってもいいよ」

「はいっ!」


 ケンタさんはピアノの椅子に座り一呼吸、そして演奏開始!

 全身が熱くなった。すごい!こんな、こんな、アニメで流れた時より勇壮で華やか!神演奏ってこのことだよっ!ロゼアンナの宿敵キャサリンのテーマだ!凄腕の魔法使いにして、とんでもない高飛車お嬢様のキャサリン、痣で人前に出るのを嫌がる私にとって憧れだった。そのキャサリンにピッタリの歌なんだ!


 ケンタさんのピアノ弾く姿、すっごいカッコいい!

『~♪~♪』

 自然に歌が出た。我慢できなかった。歌いだした私にニコリとほほ笑むケンタさん。

 歌が止まらない。自分の喉から出てくる歌声が気持ちよくてたまらない!

 さらに間奏中にあるキャサリンのセリフ


『わらわはヴィーナス帝国皇女キャサリン!存分に崇めるがよい!オーホッホッホッホッ!』

 キャサリンになりきって言ってしまった。昨日までの自分には信じられない大胆さだった。

 すごい、彼の奏でる旋律に全身が熱くなる。リズムにのって体が自然に動いてしまう。



 演奏を終えると多くの人がケンタさんと私に拍手を贈ってくれた。お礼にペコと頭を下げたけど、やっぱり私の顔の痣を見ると驚き、不快そうな顔をする人ばかり。

 アイドル気分を少しだけ味わえただけいいかな…。


 ケンタさんに演奏してくれたお礼を言おうとした時、彼から驚きの言葉が。

「相変わらず見事な歌声だね、土手の歌姫さん」

「……え?」

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