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不思議な力

「こんなこと突然言われても、信じられる訳ないよね。」と言って緑川さんはクスりと笑った。

「具体的に言うとね、周りの人の、少しだけ先の未来が見えるの。自分の未来は全然分からないんだけど。」

そう言うと彼女は、絵の縁を人差し指でゆっくりとなぞった。


「それは…いつ頃からの話?」と僕は半信半疑のまま尋ねた。

「はっきりと分かるようになったのは、父が亡くなってしばらく経った頃だったかな。未来って言ってもね、良くない事ばかり分かるの。病気とか事故とか、そんな事ばっかり。私が不吉な予言みたいな事を口にしてそれが次々に当たるものだから、近所の人たちは私のことを気味の悪い子だって言うようになった。」

緑川さんは昔を思い出すように、ふっとため息をついた。


「それである時ね、母にこう言われたの。あなたに周りの人の未来が分かってしまうのは、余りにも感受性が強すぎるからなのよって。人が抱え込んでいる不安や悲しみを、敏感に感じ取ってしまうからなんだと。だからこれからは、周りの人に不幸な予言をするのはやめなさいと母は言ったの。それで私は、例え誰かの不幸な未来が見えたとしても、口に出したり、それに対して何かしようとしたりする事はなくなった。中学一年生くらいの頃だったかな。」

僕は肯定することも否定することも出来ず、緑川さんの話の続きを待った。


「でも母が亡くなってこちらに戻って来てからね、私の所に奇妙な依頼が来るようになったの。入院している家族を見舞って、その人の絵を描いて欲しいっていう依頼。」

「それは…一体どういうこと?」と僕は緑川さんに尋ねた。

緑川さんは困った顔で僕を見ると、

「絵を描いて欲しいっていうのは勿論ただの口実でね、つまり、自分の家族があとどのくらい生きられるのか教えて欲しいっていうことなのよ。私はそういう依頼を全部断った。あの能力はもう2度と使わないって決めていたし、それに、人があとどのくらい生きるか分かった所で、一体何になるのか理解できなかったから。そういうのって、本来知ってはいけない事なんじゃないかって思うの。」と言った。


「でも去年の今頃だったかな、私が小さい頃から凄くお世話になった方で、町田さんっていう人の奥さんから依頼が来て、それだけはどうしても断れなかった。それに、町田さんの事を純粋にお見舞いしたい気持ちもあったの。」と言いながら、緑川さんはもう一度その絵をじっと見つめた。

「病室に入って町田さんを見た時、ああ、この人はもう1週間もしないうちに亡くなるんだって私には分かったの。見た目にはまだまだ元気そうだったんだけど。」

絵に描かれた町田さんは、確かにこの先すぐに亡くなる人のようには見えなかった。


「それは…ご本人とか奥さんには伝えたのかな?」と僕は尋ねてみた。

彼女は首を横に振ると、

「ううん。でも町田さんはね、そんな事言われなくても分かってた。麗さん、きっとうちの家内に言われて来てくれたんだねって、町田さんは最初に言ったの。自分の死ぬ時期くらい、言われなくても分かってるって。」

緑川さんは窓の方へ歩いて、晴れ渡った空を見上げた。まるで故人を懐かしむように。

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