35話 こうして、こう、やるっすか
おかげさまで今日もダンジョンの収支は好調。
今も3組の冒険者がダンジョンに潜っている。
「いやあ、ありがたいなあ」
「まあな。ちょっとソルトゴーレムを倒して引き上げる、みたいなヤツらが多いのが気になるがな」
ゴルンが言うとおり、2階層のモンスター部屋まで向かう者は稀だ。
このダンジョンはソルトゴーレムやソルトガーゴイルをチラッと狩ってサッと引く、みたいな稼ぎ方が主流になったらしい。
要領のいい冒険者になると背負子に革袋をいくつも用意して1日2回も潜るのだから大したものだ。
せっかく作ったのだから最後までチャレンジして欲しい気持ちはある。
だが、どうやらモンスター部屋は『高リスク』だと判断されているようで、挑戦者は平均レベル20くらいの5〜6人パーティーが多い。
そこまで頭数を揃えるのも難しいのか、挑戦者は少なめだ。
「しかし、ここまでゴーレムが狙われるなら生産が間にあわなくなるかもな」
「そうですね。今は幸いDPに余裕がありますし、そうなれば追加でモンスターの種類を増やすのもいいですね」
リリーはモンスターの増員を提案した。
それも解決策の一つではあるだろう。
俺は「なるほどねえ」とうなずき、DPを確認する。
現在は2906――モンスター部屋で死亡した冒険者もおり、順調に伸びたといえそうだ。
「わりとケガするやつもいるからな。あんまり厳しくしたくもないが……」
単純にモンスターが多様化すれば難度もあがるだろう。
それにソルトゴーレムやガーゴイルの比率が下がっては、冒険者たちの来場が減るかもしれない。
うまく回りかけてる今、設定をいじるのは勇気がいるが……どうしたものだろうか。
「あっ、変なのが来たっすよ!?」
「なんですかねー? 工事の人みたいです」
タックとアンが異変を見つけたようだ。
なんだかガラの悪そうなのが大勢引き連れて来たのが確認できる。
「数は17人ですが、範囲内に入らない人も大勢いそうですね――19人になりました。現在20人、まだ増えそうです」
男たちはドヤドヤとダンジョンの外を陣取り、陣幕のような大型のテントをいくつか張り始めた。
「なんだ? 野営陣地のようだが……」
俺が首をかしげると、リリーが「これはひょっとして」と小さく呟いた。
「知っているのか、リリー」
「はい……おそらく、これはダンジョンの占有ですね」
リリーが言うには占有とは人間の組織がダンジョンを占領することらしい。
ダンジョンへの入り口を制限し、組織で人の出入りをコントロールするのが目的だそうだ。
「出入りを制限すれば占有した人間は産出する資源や魔道具を独占することができます。鉱山タイプのダンジョンでは人間に採掘させて滞在ポイントを稼ぐやりかたもありますが……難しいとこですね」
「ふうん、彼らはウチの塩を押さえに来たわけか」
この辺りはダンジョンの特徴やダンジョンマスターの性格もあるだろう。
たしかに出入りをコントロールされるのは複雑だが、安定した収入は魅力ですらある。
「うーん、難しいところだな。仮に、この状況を打破するにはどうしたものだろうか」
「いろいろあるはずですが、一般的なものは暴走でしょうか」
リリーは眼鏡をかけ、気分を切り替えたようだ。
ちなみに俺は教師モードのキリッとしたリリーが好きだったりする。
ちょっとキツめに叱ってほしい。
「暴走とはモンスターの放流のことだな。占有している者に被害を与えて撤退させるわけか」
「そうです。当ダンジョンではエドやゴルンさんがトラブルに対処していますが、普通のダンジョンマスターに並外れた戦闘力はありません。基本的に攻撃にはDPを使ったモンスターを使用します」
なるほど、たしかにリポップではなくDP消費のモンスターならば強力な個体を呼び出すことも可能だ。
ダンジョンモンスターは一種の魔道生物である。
基本的にリポップモンスターは劣化版というか、ごく簡単な指示しか聞いてくれない。
DPモンスターならばマスタールー厶防衛や占有の打破などの任務もこなせるだろう。
「しかし、意思がハッキリとあるなら、ちゃんと世話もしなきゃかわいそうだし、維持のコストもあるからなあ」
ちなみに維持コストで考えるならば高給とりのゴルンやリリーはかなり高い。
もちろん能力は抜群なので問題はないが、なにごともバランスが大切である。
むやみに増やせば良いというものではない。
「戦力不足ならまだしも急いで増やす必要はねえだろ。コイツらの分析からだ」
「そりゃそうだ。リリー、分析を頼む」
ゴルンが指摘するように何ごとも戦力の比較からだ。
すでにリリーが手早く分析をしてくれている。
「はい、現在は27人が確認できます。レベルは……バラつきが大きいですが、この3人がレベルが高いようです」
「31、30、27か。コイツらはプロの傭兵か用心棒みたいだな」
リリーが指定した3人は装備もスキルも優れ、明らかに周囲とは雰囲気がちがう。
だが、全体を見れば大したことはなさそうだ。
ただの作業員みたいなのも混じっているし、文官みたいな者もいる。
総じて戦力は高くない。
「コイツ、この若いのが指揮官かな」
「ふん、徴税官みたいなツラだぜ。レベルは7、典型的なモヤシだ」
ゴルンは嗤うが、レベルは単純な戦闘力を測る目安にすぎない。
指揮官は若く、ひょろひょろしてるがスキルはなかなかだ。
経理(達人)、交渉(上級)、観察(中級)、看破(中級)、統率(初級)……ようは戦闘力を測るものさしでは表現されない能力の持ち主なのだろう。
「どうするっすか!? ババッとこうして、こう、やるっすか!?」
「うーん、様子を見るしかないだろうな。今のところはテント張っただけだし」
タックが身振り手振りで排除を勧めてくるが、今はまだ判断はつかない。
それに弱くても数がそろっているのは厄介だ。
「レベルは一つの目安さ。差があっても油断はできるもんじゃない。たとえば、コイツらが全員で逃げ回って、こっちがヘトヘトになったらやられることもあるだろう」
これは極端な例だが、レベルが高いからって絶対に勝つとは限らない。
一騎討ちを27回ではなく、27人と同時に戦えばまぐれあたりが致命傷になることもあるだろう。
あまり侵入者を甘く見るようになられても困るので、俺は一言だけタックを注意した。
「行儀よくしてるなら放置でもいい気はするが……これを見る限りは難しそうだ」
占有したヤツらはダンジョンから出てきた冒険者パーティーを取り囲み、無理やり塩を取り上げているようだ。
報酬は支払っているが、冒険者たちの不満顔を見るに満足なものではないのだろう。
「どうしたもんかねえ」
俺とゴルンならば蹴散らすのは簡単だ。
だが、コイツらを皆殺しにするような真似をしては冒険者が寄りつかなくなるだろう。
俺が「うーん」と悩んでいると、後ろから「お茶淹れましたよ」とアンに声をかけられた。
すでにゴルンとタックはバリバリとお茶うけの煎餅をかじっている。
(まあ、いいか。先のことに気を取られる必要もないし)
俺も一服することにした。
ちなみにリリーはどうやって煎餅を食べるのかなと観察していたが、懐紙の上で一口大に割って上品に口に運んでいた。
王女様は煎餅を食べる姿も高貴である。




