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1話 ダンジョンマスター、やらないか?

 魔王城、玉座の間。


「魔将エルドレッド・ホモグラフト、ただ今もどりました」


 戦闘から帰還した俺は久しぶりに魔王様へと謁見を果たしていた。


「うむ、大儀である……(おもて)をあげよ」

 

 俺は魔王様の声に応え、視線を上げた。


 長く美しい銀の髪、全てを見通す紅玉の瞳――そこには威厳に満ち、気高く美しき女王がいた。


「いかがであったか、侵入者は」

「はっ、我が隊は勇者を自称する平均レベル43の冒険者隊8人と交戦。これを全滅させることに成功しました。被害は負傷者が2名、現在療養中です」


 俺の仕事は魔将。

 つまり魔王領へ侵入する冒険者を撃退するパトロール部隊の隊長だ。

 将なんていうと聞えは良いけど、要は中間管理職である。


「見事だ。少し話がある……近こう寄れ。他の者は下がるように」

 

 魔王様は人払いをし、俺を近づけた。

 そして席を立ち、手を合わせて「ゴメーン」と頭を下げる。


「あのさ、四天王の話なんだけど流れちゃった」


 その言葉を聞き、足元がグラリと揺れた気がした。

 俺は現場たたき上げで23年もやっている。

 さすがに40近くなって年齢的にも実働部隊は厳しくなってきた。


 そこで四天王(かんりしょく)の話がでていたのだが……さすがに昇進がダメになったのはショックだ。


「本当にゴメンなさい。ホモくんはしっかりやってくれたのに」

「は、いや……しかし、私以外の適任者がいるならば、それは仕方がないのでは?」


 魔王様は美人だ。

 それがシュンとうなだれていると俺もキツくは言えない。


(まあ、名字を変なとこで切るのはやめて欲しいが……)


 魔王様が父上の跡を継ぎ、8年になる。

 俺はこの美人上司に弱く、こんなささやかな苦情も言えないままだった。


「違う、ホモくんは間違いなく適任者だ。だけど、定年のローガイン元帥がアンデッド化して退職が延びてしまって――」

「ああ、ポストが空かなかったんですか」


 四天王はその名の通り、4人。

 これに魔法団長や近衛武官長を加えて5~6人が魔王軍の最高幹部とされる。

 つまり、どれだけ実績や能力があっても、上のポストが空かなければ出世はできない。

 この伝統で涙を飲んだ者は多いのだ。


(まあ、俺もその1人か)


 俺は今年で39才。

 さすがにパトロールしながら剣や槍を振り回して冒険者と戦うのはキツくなってきた。


 俺は不器用でキャリアは武官のみ、しかも現場一本槍だ。

 このタイミングで昇進がダメなら閑職に回るか、早期退職しかない。


(こうなれば退職して警備会社か、食堂の親父かな)


 俺は幸い独身だ。

 いつになるか分からない次のチャンスを待つよりは、体が動く年齢で新しい生き方を見つけたい。


「伝えづらいことを直接お話いただきありがとうございます。優れた後進も育っておりますし、これを機に――」

「待て待て、早まるな」


 魔王様は「武官はせっかちで困る」と唇を尖らせた。

 もういい年のはずだが、正直かわいい。


「あのな、実はダンジョン公社から新しいダンジョンの設置を頼まれていてな」

「はあ、左様ですか」


 ダンジョン公社とは魔王城の外郭団体だ。

 たしか数年前、先代の魔王様が民営化して公社化したはずだが……馴染みがない言葉に少し戸惑ってしまう。


「ダンジョンマスター、やらないか?」


 魔王様は鈴の鳴るような声で俺の出向を告げ、ニンマリと笑った。



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― 新着の感想 ―
[一言] >俺は今年で39才。 >さすがにパトロールしながら剣や槍を振り回して冒険者と戦うのはキツくなってきた。 魔族なら人間より長寿で、 39なんてまだまだ子供か若造な気がするが・・・ この世界で…
[一言] ホモはせっかち
[良い点] まおーさま [気になる点] ホモ呼び [一言] 魔王軍の内部事情が、なんだか世知辛くて面白いですね。
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