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6

 私は再び、路子さんへと視線を移す。今日もその首元には、白く輝く真珠のネックレスが飾られていた。



 その後もいくつかのシーンを転々とする。


 それは子供の卒業式であったり、観劇会であったり、音楽鑑賞であったり、内容は様々だ。ただ、私が見る路子さんの首元には、いつも真珠のネックレスがひっそりと輝いていた。


 そして最後に周りが変わったとき、ふと鼻孔をくすぐったのは線香の香りだった。

 目に入ったのは、真っ白な菊の花。そして、その中央では老年と言える男性がこちらを見つめて微笑んでいる。


「……お葬式?」


 一体誰の? と思って視線をずらすと、一番祭壇に近い親族席には初老の女性がいた。ただ、今までの光景を早送りで見ていた私は一目でそれが路子さんだとわかった。

 真っ黒な喪服に身を包んだ路子さんは、片手にハンカチを片手に握りしめたまま、呆然とした様子で祭壇の中央で微笑む男性を見つめていた。年齢を感じさせる首元には、やっぱり今日も真珠が輝いている。そして、その傍らには今回の依頼者である土屋さんがいた。


「もしかして……」


 私はもう一度祭壇を見つめる。この人は、路子さんの旦那さんだろうか。そして、路子さんは──。


 ──ガタン。


 不意に物音がして驚いて振り向く。バシンと景色が変わり、いつの間にか私は元居た和室にいた。


「え……?」


 私は驚いて周囲を見渡す。

 扉のところには真斗さんがいて、びっくりした様子できょろきょろする私を見つめ、目を瞬かせていた。


「えっと……、どうかしたの?」


 気が付けば、いつの間にかミキちゃんはどこにもおらず、私の目の前には開かれた箱に入れられたままの真珠が置かれていた。


「いえっ、なんでもありません」


 私は慌てて、動揺を隠すように両手を目の前で振った。


「そうは見えないけど?」


 こちらに歩み寄った真斗さんは先ほど持って出た鞄をテーブルの上に置くと、商品名と値段を告げる。私は慌ててそれを買い取り用紙に記入した。



「付喪神にでも会ったかな」

「…………。なんでそう思うんですか?」

「だって、いる気配がするから」


 真斗さんは肩を竦めて苦笑する。

 私には感じないけれど、真斗さんは付喪神様がいるだけでなんとなくわかるらしい。


「実は、それらしき子に会いました」

「オレモアッタ」とフィリップが補足する。

「やっぱり。これかな?」


 大当たりと得意げな顔をした真斗さんは最後の査定品である、私が眺めていた真珠のネックレスをケースごと手に取った。


「真珠か……」


 ぼそりと呟くと箱の上蓋の文字を見てからネックレスを手に取り、ケースをテーブルの上に置く。途中に嵌っている『M』のエンブレムを確認し、次に目を細めるように留め具の金具を見た。刻印されている文字を読もうとしているのだろう。


「真珠ってさ、中古市場だと価値が落ちやすい宝石なんだよね」

「そうなんですか?」

「うん。殆ど値段がつかないことも多い」


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