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【書籍化】付喪神が言うことには ~文京本郷・つくも質店のつれづれ帖~  作者: 三沢ケイ
第三話 MIKIMOTO パールネックレス

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5


 ふと気が付くと、知らない町にいた。

 周囲には人がたくさんいるのだけど、服装がなんとなく違う。これは、テレビで見たことがある高度経済成長期の──。


 大通りに行き交う人々は、誰もここでは少し異色な格好をした私には気が付かない。


「お姉ちゃん、こっちだよ」


 いつの間にか横にいた、ミキちゃんに手を引かれる。連れてこられたのは、真っ白の石造りのお洒落な外観の建物だった。


「これ、なんのお店?」

「私が路子(ミチコ)のために買われたお店」

「路子?」


 ミキちゃんはそう言うと、ドアをするりと通り抜ける。手を握られたままの私は『ぶつかる!』とぎゅっと目を閉じたけれど、衝撃はやってこなかった。


 そっと目を開けると、そこにはショーケースとその前で商品を吟味する身なりのよい親子がいた。

 中心にいてショーケースの中を見つめているのはクリーム色のワンピース姿の若い女性──年齢的には二十代前半だろうか。少しだけウェーブのかかった黒い髪を真ん中分けに纏めあげ、興奮からか、白い肌は僅かに紅潮している。

 その傍らには、十代前半の紺色のワンピース姿の女の子がいた。隣にいる四十歳前後の女性は落ち着いた雰囲気の着物を着ており、男性はズボンにジャケット姿だ。


「あれが路子さん?」

「そうだよ」


 私が中心にいる若い女性を指すと、ミキちゃんはにこりと笑う。

 一方、路子さんは熱心にショーケースを眺め、中の商品を指さしている。


「こちらでよろしいでしょうか?」


 手袋をつけた店員がショーケースからネックレスを取り出す。そして、路子さんに後ろを向かせると、それを首元に付けてあげていた。


「あ、あれ……」


 私は小さな声を洩らす。そのネックレスに見覚えがあったのだ。


 真っ白に輝く真珠が数珠状に連なり、首元で艶やかな輝きを放っている。程よい粒の大きさのそれは、ただの白なのに圧倒的な存在感があった。


「素敵ね」と路子さんが感嘆の声を漏らす。


「お姉ちゃん、綺麗!」

「とてもお似合いですよ」


 妹さんの言葉に路子さんが口許を綻ばせると、店員さんもにっこりと微笑む。


 店員さんが出した何種類か粒の大きさや長さが微妙に違うデザインのものを試していた路子さんは、最後にもう一度最初と同じものをつける。そして、「これがいいわ」と笑顔を見せた。


 帰り際、店員さんは商品の入った袋を手渡すと、路子さんとご家族に「ご結婚おめでとうございます。ありがとうございました」と告げた。すると路子さんも「ありがとう」と言い、嬉し恥ずかしそうにはにかんだ。


(だれかと結婚するのかな?)


 私は両親と思しき男女と共に店を後にした路子さんの後ろ姿を見送った。


 不意に画面が切り替わる。

 気がつくと、私の周りには着飾った多くの人々がいた。


「えっと、ここ……」


 振り返ると、そこには小学校の校舎が見えた。


「入学式?」 


 学校の入り口には『入学式』と書かれた白い立て看板が置かれ、看板の周囲はピンク色の花紙で作った大きな花で飾られていた。

 校門からは親に手を引かれた子供達が続々と中へと入って行く。お決まりのように女の子は赤、男の子は黒のランドセルを背負っているのが印象的だ。


 戸惑っていると、くいっと手を引かれる。


 ミキちゃんが指さした先には、さっき見たときよりも少し大人びた路子さんがいて、小さな男の子の手を引いている。男の子は初登校に緊張しているのか、少し強張った表情をしていた。体に対してランドセルがやけに大きく見える。


 男の子の緊張をほぐすように、路子さんはちょっと屈んでその顔を覗き込んだ。首元に白く輝く真珠が揺れる。路子さんが何か二、三言告げると、男の子は周囲を見渡して表情を明るくした。そして、手を握ったまま笑顔で体育館へと消えていった。



 また景色が切り替わる。


 今度は……結婚式だろうか。何度か行ったことがあるので見覚えのある明治神宮の境内を、神職と巫女に誘導された花嫁と花婿が歩いていた。白無垢姿の花嫁と、黒色の紋付袴姿の花婿にかざされた朱色の傘が、色鮮やかに二人の門出を彩る。

 そのすぐ後ろをあるく女性の黒留袖の着物は足元の部分に金色を基調とした見事な柄が入っており、帯の金色も相まってとても華やかだ。


「わぁ。綺麗……」


 最近はウエディングドレスを着てホテル内にある教会で上げる式が多い印象だけれど、初めて間近にみる和装の結婚式の思った以上に美しい光景に、思わずため息が漏れる。その参進の列を眺めていた私は、ふと視線を留めた。


「あっ、あれ……」


 参進の列の新郎新婦の少し後ろを歩く女性に、見覚えがある気がしたのだ。

そして、その女性をじっと眺めて私の予想は確信へと変わる。

 そこには、濃いめのクリーム色の華やかな衣装を着た路子さんがいた。胸元にはレースを使ったコサージュが飾られ、風で少し揺れている。そして、傍らにはついさっき見た男の子と、手を繋ぐ男性がいた。


「ねえ、ミキちゃん。あの新婦さんは、路子さんの妹さん? 最初のお店にいた女の子かな?」

「そうだよ」




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東京・文京区本郷にある不思議な質屋を舞台にしたハートフルヒューマンドラマ
「付喪神が言うことには~文教本郷・つくも質店のつれづれ帖~」
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