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ミユさんは私と真斗さんを不思議そうに見比べる。
「ちょっと店の備品を買い出しに来たついでに、休憩です。ここ、いいですか?」
にこりと笑った真斗さんがミユさんの隣の席を指さすと、ミユさんは「どうぞ」と笑顔で鞄を少し自分の方へと引き寄せた。
ええ! まさかの隣ですか!? と動揺する私に対し、真斗さんは涼しい顔をしてその席に座った。
トレーを置いた机の上にすぐさま白い文鳥──付喪神が飛んできて、「ピピッ、ピ」と鳴き始める。絶対に聞こえているはずなのに、真斗さんは顔色ひとつ変えずにカプチーノを口へ運んだ。
まあ、ここで反応したら完全におかしな人なんだけど。
「なんの買い出しなの?」
「文房具とか、色々です。四元さんは?」
「私はちょっと人と待ち合わせなんだけど、まだ来ないの」
ミユさんはスマホを確認するように画面を弄ったが、連絡は何も来ていなかったようですぐに画面を下にしてそれをテーブルの上に置いた。
そのとき、鞄が小さく振動していることに気付き、私は自分の鞄の中を覗く。緑色の着信ランプが光っており、画面には『亜美ちゃん』と表示されていた。
「ごめんなさい、ちょっと友達から電話がきたから話してきます」
「ああ、わかった」
私は軽く二人に手を振ると、足早に店の外へと向かった。
スマホを持ったまま出口へと向かった私は、店の外に出てぶるりと身を震わせた。
咄嗟に出てきてしまったので上着を着ていない。まだ冬と言うには早いけれど、薄手のニット一枚で過ごせるほど暖かくはない。
お店を出てすぐのところに立つと、ちょうどそこにいた男性と目が合う。二十代後半の、サラリーマンだろうか。短い髪は整髪料で軽く整えられており、清潔感のある人だ。
「もしもしー。どうしたの?」
電話口にでると、亜美ちゃんの電話の内容は明日の大学の講義の課題がどこだったかを確認するものだった。ラインだと気付かないかもしれないと思って電話にしたようだ。
今、教科書とノートを持っているわけではないので記憶を頼りに伝えると、亜美ちゃんの教科書にもそれらしきマークがきちんと付けられていたようだ。
「あ、ほんとだ。ちゃんとシャーペンで丸付けてたよ」
「よかった。そのひとつだけだと思うよ」
「助かった。ありがとー」
そんな会話を終えて、店内へと戻る。冷えた体を再び暖かな空気に包まれてホッとしたのも束の間、私はそこで繰り広げられている光景に目が点になった。
「どういうことだよっ!」
「だから、別れるって言ったの。一ヶ月も顔見せなかったくせに!」
「だから、それは事情があって──」
「とにかく、話は終わり」
事情はよくわからないが、そこではミユさんと先ほどの男の人が口論をしていた。ミユさんは首に付けていたネックレスを乱暴に外すと、それを男性に突き出した。
「これも返す」
「なっ」
男の人は絶句した後、はたと気付いたように、となりの席で眉間に皺を寄せたまま、どうすればいいのかと思案している真斗さんを睨みつけた。
「こいつが新しい男? さっき、外から汐里と楽しそうに話しているの見えたよ」
「まじか。そうくるの?」
突然話を振られた真斗さんは、あり得ないとでも言いたげな表情で口をへの字にする。
「違うわよ。真斗君は今たまたま会ったの!」
「どうだか。話が付かなかったときのために、新しい男つれてきたんじゃないの?」
また口論を始めた二人を見て、これはまずいと思った。既に店内でかなり注目を集めていて、チラチラとそちらを見るお客さんが迷惑そうに眉をひそめている。
「ちょっと、ちょっと。スト―ップ!」




