第5話 お邪魔虫、現る!
こんばんわ!
有希子達の目的地とは一体どこでしょう?
私、一恵ちゃん、玲の3人は渡英最初の休日におでかけをしようと、大学近辺から飛び出し、少々迷子になりかけながらも無事に目的地の最寄り駅であるヴィクトリア駅に到着をした。そして、駅を出た所で今回私達を案内してくれるシモンズさんと合流した。彼女は私達と同じ大学に通う女の子で、国際交流センターのアーサーさんを通して今回の案内を引き受けてくれたのだった。
「わざわざ休日に案内していただいて、ありがとうございます。シモンズさん。」
「ジュリアでいいわ。いいの、いいの。日本の人にも是非ロンドンの魅力を伝えたくってね。」
ジュリアはウインクしながら私にそう言った。明るい性格で、雰囲気も年齢の割に大人っぽく、眩しいオーラが出ていた。何だろう、こういう女性結構憧れるな。
「アーサーさんの話だと、日本の文化に興味があると聞きましたが。」
一恵ちゃんがジュリアにそう訊ねた。確かにアーサーさんは日本の文化に興味がある子が案内してくれると言っていた。まぁ、確かに興味があるからこそ今回引き受けてくれたのだろう。
「うん。日本のアニメとか、日本食とか、着物とか大好き。小学校の頃一度北海道にスキーに行っただけだけど、もし機会があったらまた行きたいわ。お寿司も食べたいし、着物で古い町歩きたいし、セーラームーンの衣装も調達したいわ!」
彼女の言葉から、かなり日本への愛情は深いものだと思った。最近は色々な国で日本食や着物など、日本古来の文化に注目が集まっていると聞いたことがあるが、イギリスも例外ではなかった。そして、セーラームーンも人気あるんだな。ちなみに私は、セーラーマーキュリーが一番推しである。
「ほな、いつでもおいでや!私の地元、兵庫もええ所ぎょうさんあるで!食べ物も美味いし!」
「うん。兵庫って姫路城がある所でしょ?イギリスのお城とずいぶん違うから近くで見てみたいわ!」
「そやそや!さすが日本が誇る姫路城!海外の方からも知ってもらえて嬉しいわ!」
そして、めちゃめちゃ日本に詳しい。玲の方も地元の事を知っていてくれて大喜びだった。日本に理解あるし、親切で話していて安心感がある。この人が案内してくれるなら大丈夫だろう、と私は思った。そして、私達4人は駅から目的地を目指して歩いて行くのだった。
そして、数分歩いた後、ようやく目的地に到着した。
「こ、これは…。」
「すごい…。」
「ほ、本物は違うわぁ…。」
私も一恵ちゃんも玲も、目的地に付いた瞬間息を飲んだ。なぜなら、今まで写真やテレビでしか見たことが無いイギリスの名所の一つが目の前にあるのだから。
「どお、凄いでしょ?これが本物のバッキンガム宮殿よ!」
ジュリアは満面な笑顔で私達にそう言った。そう、目的地とはロンドンでも有名な観光スポットの一つ、バッキンガム宮殿だ。18世紀に貴族の邸宅として建てられたのがルーツとされているその建物は、綺麗に整った花壇、そしてヴィクトリア女王記念碑の後ろに、圧倒的な存在感を放って立っていた。まさか、イギリスに来て一週間で本物をこの目で見れるとは。アーサーさん、ジュリア、ありがとう。
「ジュリア、本当にありがとう!本物が見られるなんて最高!あなたに付いてきてよかったぁ!」
「わっ。ちょっと痛いわよ。それに、喜ぶのはまだ早いわ!」
私は嬉しくて思わずジュリアに抱きついてしまった。ジュリアはびっくりしつつ、私達に説明を続ける。
「今はまだ夏だからね、ただ見るだけじゃ物足りないでしょ?」
「え、どういうこと?」
ジュリアの言葉に玲は首をかしげた。私もどういうことなのかまだピンと来ていない。すると、ジュリアは鞄の中から何かを取り出して私達に配り始めた。
「はいこれ、入場券。」
「何のですか?」
「何って、宮殿のよ。」
「入れるの?」
一恵ちゃんも私も目を丸くした。こっちに来る前も来てからも、生活に慣れるため語学の勉強ばかりしており、観光地に関するリサーチはほとんどしていなかった。
「うん。普段は入れないけど、7月末から9月末限定で中に入れるわ。アーサーさんがあなた達の為にとってくれたの!」
「えっ?ホンマに?アーサーさん神様やな!」
「ホントホント!もう、感謝しかないわ!」
「お土産買って、週明けアーサーさんに渡さなきゃですね!」
玲、私、一恵ちゃんは感激のあまりテンションが急上昇していた。学校生活だけでなく、ここまでお世話してくれるアーサーさんが留学生担当なら、今後この大学に留学してくる学生は安心だろう。
「さあ、行きましょう!」
ジュリアは私達に声を掛け、中に入る為の入り口を目指す。休日で天気が良いだけあって、宮殿前は多くの観光客で賑わっていた。ああ、宮殿をお目にかかれるだけでなく、書かに入ることができるなんて私達は何て幸せなんだろう。そう思った。ワクワクしながら列の方へ向かっていたのだが、ここで思わぬ邪魔者が入ってきた。私達が歩いていると、突然横の道路に車が止まった。しかも、そこらの乗用車ではなく、黒光りした巨大なリムジンだった。映画と海外でこんな車見たことないと思いつつ、私は宮殿の入り口を目指した。しかし、後ろから突然…。
「そこのレディ、待ちたまえ!」
男性の声が聞こえた。振り返るとリムジンから降りてきたであろう男性が笑顔でこっちを見ている。身長は175はあるだろうが、まるで重量級の力士みたいに体の横幅、顔がデカかった。いや、力士に失礼になるので撤回しよう。滅茶苦茶肥満体なのだ。一体どうやってあのリムジンに乗っていたのか気になる。そして、瓶底みたいな分厚い眼鏡を掛け、イソギンチャクみたいなモジャモジャの赤毛の髪の毛をしている。服はシャツもズボンも綺麗に選択されており、高級感が溢れているが、恐らく特注品だろう。男性は尚も、私の事を見続けている。
「私ですか?」
「そうだよ。君だよ、アジアンガール!」
その男性はのそりのそりと私のもとへ歩いてきた。正直何で呼びとめられたか分からないし、嫌な予感しかしなかった。
「何や、あのデブ?熊みたいやな。」
「もしかして、ジュリアさんの知り合いとか…?」
「知らないわ。何なの、あのおっさん?」
玲、一恵ちゃん、そしてジュリアですら首をかしげている中、男性は私の目の前に来てうれしそうに言った。
「君は中国人、韓国人、それとも日本人?」
「日本人ですが。」
「Oh,Japanese girl!英語も上手いな。どうだい?今日は僕と楽しい1日を過ごさないかい?」
「そもそもあなたは誰なんですか?」
またナンパか。しかもよりによってこんな太ったおっさんに。私はイライラしながら尋ねた。
「おっと、自己紹介がまだだったね。僕はケーシー・グレゴリウス。イギリス№1の大手、グレゴリウス化学の跡取り息子さ!」
「急いでるんですけど何ですか?」
私はだんだんと苛々してきた。ナンパもそうだし、せっかくこれからみんなで宮殿の中に入れるわくわく気分を邪魔されたからだ。
「僕もこの宮殿に来るのが大好きなんだ。いつ来ても楽しい。だけどね、君みたいに美しい女性と一緒に観光出来たらもっと楽しい。つまり、君の美しさに惚れてしまったんだ。いいだろう?そん所そこらの男なんかよりもずっと優雅で楽しい日が過ごせる。一緒に来てほしい!」
「結構です。友達が待ってますんで。」
「そんなこと言うなよ。僕はどんな女性でも楽しませる自信あるのに。」
「私のタイプじゃないのでお引き取り下さい!」
私はグレゴリウスとか言うおっさんに結構きつめに言い放った。グレゴリウスのおっさんは不服なのか眉間に皺を寄せ始める。すると、後ろから玲達がやってきた。
「なぁ、おっちゃん!有希子が困ってるやろ!ええ歳して若い女の子困らせてカッコ悪う思わんのか?ああ?」
「先輩を困らせないでください!先輩はあなたみたいな男性好きにならないんでいくらお金持ちでも無駄ですよ!」
「今日は私が彼女たちにロンドンの魅力を伝えますんで、邪魔しないでくださいね!Good bye,sir!」
私同様、みんなもグレゴリウスのおっさんに苛々してたのか怒り心頭で詰め寄った。そして、ジュリアが私の手を引いて列の方へ走り始め、玲と一恵ちゃんがそれに続く。
「有希子、大丈夫?」
「うん。ありがとうジュリア!」
「あのおっちゃん、どの面下げて有希子ナンパしとんねん!有希子には彼がおるもんな!」
「そうだけど、今言わないで玲。恥ずかしい…。」
「有希子先輩、また顔が真っ赤ですよ。」
「も、もう!いいから早くいくわよ!」
ただでさえ少し暑いのに恥ずかしさとイライラで更に体温が上がりまた汗だくになってしまった私。邪魔は入ったが、これから宮殿に入って気を取り直そう。
こんばんわ!
有希子ちゃん、災難でしたね。
でも、気を取り直して観光を楽しんで欲しいものです!
次回もお楽しみに!