第0話 有希子さん、到着ですよ
こんばんわ!
特別スピンオフ、スタートです。
惚れてしまった。きっかけはとても簡単だった。昨年のことだ。大学生である私はサークルの帰りが遅くなり、電車で帰宅する際に一人の男に絡まれた。
「なぁ、姉ちゃん一人?。よかったら俺と一杯付き合わない?」
そんな言葉にこの私、綾瀬有希子が応じなかったのは言うまでもない。
「嫌です!早く帰りたいので!」
八王子から自宅のある浦安まで2時間近くかかるから早く帰って休みたかったし、オッさんを相手にする理由もない。だが…。
「冷てえな!いいじゃねぇか!なぁ、お願いだよ!」
「やめて下さい!」
そいつはしつこく絡んできた上に私に抱きついてきた。私は怖くて体がすくんでしまい、思うように抵抗できなかった。最悪だ…そう思ったときだった。
「あ、先輩ー!」
遠くから聞き覚えのある男の子の声が聞こえた。そして、声の方向を振り向くと、その彼がいた。
「森君…。」
「どうしたんですか?ところでこの人誰?」
彼…森拓人は訳がわからない様子で私達を見ていた。絡んできた男は「チッ!」と舌打ちして去って行き、私は難を逃れた。助かった。そしてホッとした私は…。
「森君…うわぁぁぁん!ありがとぉ!」
「な、え!?どうしたんですか、先輩?!」
思わず彼に抱きついて泣いてしまった。偶発的とは言え、私は彼に助けられた。森君はまだ状況が飲み込めずに困っていたが、訳を話すと…。
「そうだったんですか。先輩が無事で本当に良かったです!」
屈託の無い笑顔でそう言われた。その笑顔を見た私の心は完全に動かされていた。
(カッコいい…♡)
元々容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能として評判な森君だったが、私は彼のさりげない優しさに一目惚れしてしまった。これが私の初恋物語である…。
「うーん…だめよぉ、森君。私まだ心の準備が…。」
「先輩…綾瀬先輩!起きてください!到着ですよ!」
何か寝言を言っていた私は、隣にいた沖村一恵に体を揺すられて起こされた。
「ふぁぁぁ…よく寝た。」
「もうイギリスですね!いやぁ、13時間のフライトってやっぱ長いですね。」
そうだ。私達はイギリスのロンドンに交換留学に来たんだ。日本時間のお昼前に羽田を飛び、飛行機内に表示された現地時間を見てみると15:30。時差およそ9時間の日本はもう真夜中だ。それからしばらくして、旅客を下ろす準備が出来たのか、乗務員の人達の誘導により、私達は飛行機を降りる。入国審査に向かって歩いている時、沖村さんが聞いてくる。
「先輩。寝てる間ずいぶん楽しそうにしてましたけど、何の夢見てたんですか?森君が出てきたようですが。」
「そ、それは…。」
私は困った。流石に自分の妄想丸出しなエッチな夢を見ていたなんて言えるわけがない。
「が、学校の夢よ!森君に勉強教える夢!」
と適当にはぐらかした。
「そうでしたか。私は全然寝れませんでした。飛行機の中ってうるさくって…。ふぁぁ、疲れた。」
沖村さんは眠そうにそう言った。かくいう私も長時間飛行機に乗ったことで少し肩が凝っていた。やがて、私達二人は入国審査、そして税関の荷物検査を済ませ、到着口を出た。
「着いたー、ロンドンだー!」
「いよいよですね。」
そんな事を話していると、私と沖村さんの名前が英語で書かれている紙を持ったスーツ姿の若い白人男性を見つけた。
「Hello.Are you're Yukiko Ayase,and Kazue Okimura? 」
「「Yes, that's light!」」
男性に聞かれて、私達は声を揃えてそう返事をした。
「ようこそロンドンへ!私はヒースロー大学国際交流センターの室長、アーサー・ロビンソンです。お二人をお迎えに来ました!どうぞ、こちらへ!」
アーサーさんは私達を親切に迎えてくれた。案内されて付いていくと、そこにはマイクロバスが止まっていた。
「学校までお送りいたします!荷物をこちらに。」
私達はマイクロバスのトランクにスーツケースを詰め込み、案内されるままバスに乗り込む。
「なんか、緊張しますね。先輩。」
「そうね。でも、ここまで来たからには頑張って見せるわ!勉強も恋もね!」
力強くそう言った私。一度は振られたが、日本に残した片思いの後輩君である森拓人の事は諦めていない。ここで頑張って、帰国したときに成長した私を彼に見せたい。そして、もう一度自分の想いを伝えようと私は決意した。かくして、私の留学生活はスタートした。絶対レベルアップして、自分を磨き上げよう。そんな私の思いを背に、マイクロバスは出発したのだった。
こんばんわ。
有希子の留学生活が始まりました。
プロローグのつもりだったんですけど、少し長くなってしまいました。
ごめんなさいm(_ _)m
連載ですが、不定期に更新します。
本編である、「俺アプ」の方も読んで頂けると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします!