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94 新しい服

「悪いな、面倒な事を頼んで」

「いいのです。これもメイドの務め。これでアリシア様やフィアナ様のように、ご主人様の夜のお相手が出来れば完璧なのですが」

「そういうのは結構だから」


 隣でアホな冗談を言うミユキと話しながら、俺は王都にある屋敷の自室の扉の前に立っていた。

 金ランク昇格武道大会が終わって五日後に、フィアナは国王の所へ行き、正式に金ランク冒険者として認められた。同時に家名を与えられる事になっているが、近いうちに俺と結婚するから不要だと大きな声で宣言した事で先送りとなった。

 城を出る前に、国王陛下から祝福の言葉を送られてしまった。何だか気恥ずかしかったが、同時に嬉しくもあった。

 そして今日は、それから更に三日が経った。

 この日は四人の新しい服が完成した日でもあった。その服を作ってくれたのがミユキであった。何故このミユキなのかというと、裁縫が出来るのがこのミユキだったからである。

 補足情報を付け加えると、その間ミユキには新たに裁縫技術のスキルを会得していた。


「それにしても、珍しくご主人様の方から懇願されたから聞いてみたら、まさか他の女の新しい服を作れだなんて」

「他の女って言うな」

「失礼しました。近いうちにご主人様とご結婚される四名ですものね」

「お前が言うと嫌味に聞こえるのは何故だろう」

「気のせいです」


 まぁ、贈ると言っておきながら結局裁縫の得意なメイドにお願いする羽目になってしまったのだから、立つ瀬ないわな。


「何をおっしゃっているのですか。素晴らしいデザインをされたのは、紛れもなくご主人様ではありませんか。それに、不器用で危なっかしい手つきで針を扱うご主人様を見かねて、代わりに作ると申し出たのは私ですから」

「うぅ‥‥‥」


 ミユキの言う通り。

 実を言うと初めは俺一人で作ろうとしていたのだが、何度も指に針を刺してしまって全然進まなかったのだ。それを見かねたミユキが、代わりに作る事になったのだ。不器用でごめんなさい。


「ですが、素晴らしいデザインをされたというのは本音です。一人一人に合った、素敵なデザインでした」

「そうか?」

「はい。奥様方も、大変喜んでいましたので」

「奥様方って、まだ気が早いって」

「ですが、いずれはそうなるのでしょ」

「はい」


 魔王の脅威がある今はまだ無理だが、いずれは四人とも娶って幸せにする。


「ところで、ホノカ姉さんとアカリを誑かしたクソ勇者はその後どうなりました?」

「さぁ。あの後すぐにクフォト王国へと帰って行ったみたいだから」

「ッタク、とんだクソガキ共だな。勇者としての務めも果たさず、いざ魔族を前にすると逃げ出すなんて」

「どうどう、落ち着け」


 言いたい事は分かるし、怒りを感じる理由も分かる。

 神宮寺を通してレイラから聞いたが、あの後三人は俺や神宮寺に顔を出す事も無いまま逃げる様にして、クフォト王国へと帰って行ったのだそうだ。何を考えているのやら。

 まぁ、その後は大人しくしているみたいだからもうしばらく様子を見ておくように、神宮寺を通してレイラにお願いをしておいた。


「ショーマさん。着替え終えました」

「入っていいわよ」

「ご主人様から頂いた召し物、生涯大切に致します」

「作ったミユキにも感謝だ」


 それぞれ着替え終わったと言う事なので、俺はゆっくりと戸を開いた。そこには、新しい服を着た四人の姿があった。


「素敵な服をありがとうございます、ショーマさん」


 アリシアさんが着ている服は、白地の生地に風をイメージした緑色の模様が描かれた上着に、膝上丈の緑色のスカートを履いていた全体的に緑色の割合の多い物であった。

 他にも、細かく砕いて加工したマナダイトを所々あしらった飾りベルトを付け、オリハルコンと耐性のルビーで装飾されたネックレスを身に着けていた。ちなみに、耐性のブレスレット以外のアクセサリーは俺が作りました。


「本当にいいわ!気に入った!」


 カナデに与えたのは、薄い黄色のシャツの上にオレンジ色のラフジャケットを着ていた。ジャケットの中にはホルスター装着されていて、そこに二丁の魔法銃を装備できるようにしている。太腿を大胆に露出させた茶色のパンツはそのままに、膝下までのブーツを履いたスタイルとなっている。

 そこへ更に、魔力伝導率を上げるサファイアを嵌め込んだイヤリングと、マナダイトで出来た指輪を両手の中指に付けていた。


「ご主人様がデザインされて、ミユキさん作ったこの服はとても素晴らしいです」


 メリーが着ているのは、剣道着をイメージした赤色の着物と赤色の袴をはいた侍風の物であった。靴がブーツなのはツッコまないで欲しい。上の着物には満月と三日月を模した、黄色い模様が所々に描かれていて、背中には黒い獅子の顔が描かれていた。

 そこにヒヒイロカネで出来た鉄甲を左腕に装着し、長い白髪をポニーテールに結っていた。


「翔馬が私達の為に考えてくれたんだ。すごくうれしいぞ」


 最後にフィアナに与えたのは、紫を基調としたメリーとは違ったタイプの着物を着ていた。上半身は、肩の部分に切れ込みを入れて肩を露出させ、裾を長めにして後ろから見るとスカートに見えるくらいにした。胸のあたりと背中には、黒色の稲妻模様が描かれていて、雷魔法を得意としているフィアナにピッタリの模様だ。下半身は太腿を露出させた、丈の短いパンツルックスにした。

 両手首と両足首には、マナダイトで出来た黒色のブレスレットとアンクレットを二枚ずつ身に着け、耐性のエメラルドが付いたピアスを両耳に付けていた。


「すごく綺麗だ。俺の予想を遥かに上回っているぞ」

「流石、ご主人様が一人一人イメージしてデザインされただけはありますね。ご自身で作られれば完璧でしたのに」

「ケンカなら何時でも買うぞ、女狐メイド」

「ケンカではなくSMプレイを希望します」

「もういい黙れ」


 これ以上相手にしては時間の無駄なので、ミユキの相手をするのは諦めた。

 だけど、四人とも本当によく似合っていて、俺は思わず見とれてしまった。


「しかし、こうして五人の服を見ると、まるで虹の様は配色ですね。ご主人様が青で、メリーさんが赤、フィアナ様が紫で、アリシア様が緑で、カナデ様が黄色ですから」

「青と赤と紫と緑と黄色?」


 そういえば以前デリウスから、世界神が居る神殿から青色の大きな御霊と、赤と紫と緑と黄色の小さな御霊が地上に降りたと聞いた事があった。

 一瞬それと関係があるのかと思ったが、そんな偶然がある訳がない為、たまたま俺達のイメージカラーがそうなっただけだと言う事にした


《(本当にそうかしら?だとしたら、あの声は何であの子達五人にしか聞こえないのかしら?)》


 デリウスは疑問に思っているみたいだが、俺は考え過ぎではないかと思う。

 その訳は、俺は地球で生まれ育ち、彼女達はここハルブヴィーゲで生まれ育った。生まれ育った世界が違うのだから、デリウスの疑問は杞憂だと思う。

 そんな事を考えている間に、彼女達はそれぞれ武器を装備していた。


「それでショーマさん。次はどちらへ行かれるのですか?」

「あぁ。ホクゴ獣王国に行こうと思っている」


 当初はホクゴ獣王国とナンゴウ海王国、どちらに行こうか迷っていたが、昨夜ナーナから国王陛下から直接の依頼が来たのだ。

 ホクゴ獣王国に最高位の悪魔型の魔物、サーターンが出没しだしたのだというのだ。

 サーターンとは、真っ赤な表皮をした人間そっくりの魔物で、蝙蝠の羽とヤギの角を生やしている。

 ペルトが作った試練のダンジョンで、フィアナが倒したパワーデーモンとは比べ物にならないくらいに強く、ドラゴンやゴーレムよりも危険な災害級の魔物だ。

 ただし、百年周期で現れる魔物となっている為、災害級でありながらあまり危険視されていないのだ。前回現れたのは五年前で、その時はゴルディオによって倒されたのだ。

 なので本来なら次に現れるのはそれから百年後なのだが、今回何故サーターンが現れたのか分からず、サーターン討伐と調査をホクゴ獣王国のジュガ国王から直接依頼を受けたのだ。

 急を要する案件であった為、改めて王への謁見は不要だと言われた。以来の受諾報告は、代わりにナーナが伝えに行ってくれるそうだ。


「ホクゴ獣王国に行かれるのでしたら、ここよりも古代樹の森から出発された方が二週間ほど早く着きます」

「分かった。俺とアリシアさんとメリーで馬と馬車の準備をする。フィアナとカナデは荷物の準備を頼む。ミユキたちメイドは、水と食料の準備を。昼には出発したい」


 メリーのアドバイスを貰ってすぐ、俺は皆に指示を出し、それぞれ行動に移った。ミユキ以外のメイド達からは、「私達を連れて行って欲しい」という要望が出たが、今回はあの超危険な災害級魔物のサーターンが相手なので、全員留守番してもらう様に言い聞かせた。


「で、その用事というの何なのよ?」

「ちゃんとした国の用事があるのです」

「カナデ、少し落ち着け」


 出発準備を終えた丁度その時にナーナが来たから、カナデが少し邪険にしてナーナに尋ねた。

 今回たまたまホクゴ国王に用事があるというナーナは、王都まで同行させて欲しいと言う事で来たのだ。


「で、その用事ってなんだ?」

「はい。来年の四月に開催される、四年に一度開催される二千五百回目になる大武道大会、トウラン武道祭の日取りの説明と、武道祭参加者の名簿を受け取りに訪れるのです。今回の運営責任者に、私のお父様が選ばれたので」

「トウラン武道祭ですか。もうそんな時期が近づいてきているのですね」


 アリシアさんは納得した感じで頷いているが、俺には何の事やらさっぱり分からないのだけど。俺だけじゃなく、フィアナも訳が分かりませんという表情をしていた。


「トウラン武道祭というのは、四年に一度我が国の王都・ランテイで開催されている大武道大会です。トウラン国内だけでなく、他の国からもたくさんの腕自慢の冒険者や武道家さん達が参加する、トウラン武王国でとても伝統のある行事なのです」

「へぇ、そんな大きな大会があったんだ」


 しかもそれが来年の四月、五ヶ月後に行われるなんて本当にすぐだな。

 言い忘れたけど、この世界の一年は地球と同じで十二ヶ月となっている。正月以外は地球と同じ行事は存在しないが、トウラン武王国の場合は何かイベントごとがある度に、小規模ながらも武道大会が開催されるそうだ。

 その間俺達は、町を離れて討伐依頼や旅に出ている為、そういった武道大会には全く顔を出していない。だけど、魔王を討伐したら何処かの武道大会に参加してみるのもありかもしれないな。


《言っとくけど、金ランク冒険者は大会に出場できないから、君とフィアナの参加は不可だから》


「それは残念だ」

「まぁ、デリウス様はこうおっしゃっていますけど、今回のトウラン武道祭は今年一年間で三人の新しい金ランク冒険者が誕生したと言う事で、今回だけの特別枠として金ランク冒険者のみの部門が出来たのです。当然、その部門にはショーマさんとフィアナさんにも参加していただく事になります」

「へぇ」

「国王も気が利いてるな」

「コラ。国王陛下に対してその口調はいい加減改めた方が良いぞ」


 その三人の新しい金ランク冒険者というのは、俺とフィアナと神宮寺の事だろうな。それを祝う為に、国王陛下がわざわざ企画してくれたのだろう。


「ですので、その企画書を改めてジュガ国王陛下に提出しようと思っています。ザイレンのジェシカ教皇猊下と、ナンゴウのミスズ女王陛下には既に報告を終えています。クフォトのナルダン国王には、うちの隠密部隊の兵士が使者に扮して報告に行っていますので」


 クフォトには関係者ではなく、隠密部隊の兵士が行っているなんて。まぁ、あんな国に単独で入らせるなんて危険な事はさせられないわな。

 だからナーナは、俺達に同行したいと言ってきたのだな。俺達がホクゴ獣王国に行くと聞いて。


「けど、それを考えるとショーマがこの世界に来てもうすぐ一年が経つのね」

「そうか‥‥‥もうじき一年か‥‥‥」


 トウランは比較的気候の温かい国だったから、十一月に入った今でも少し肌寒い程度の気温だ。十二月から気温が下がり、一気に寒くなるらしいけど。


《ザイレン聖王国はトウランと同じで比較的暖かい気候の国で、ホクゴ獣王国は全体的に気温の低い国で、特に今は物凄く寒いわよ。ナンゴウ海王国は四季がハッキリしていて、そういう意味では日本に最も近いわね》


 それってつまり、今のナンゴウ海王国も物凄く寒いと言う事になるじゃない。


《まっ、ホクゴ獣王国みたいに氷点下を滅多に下回らないだけマシだけどね》


 どんだけ寒い国なんだよ!そんな所でよく獣人達がたくさん住んでいるな!地球基準で言ってはダメかもしれないが。

 だから積まれた荷物の中に防寒着が積まれていたのだな。


「ま、そういう理由なら別に良いか。良いだろ翔馬」

「俺は構わないけど、帰りは?」

「ショーマさんが依頼を終えて帰ってくるまで、向こうの王都・レオルで待っています」

「そうか」


 まぁ、ナーナもホクゴ国王陛下とも面識があって仲も良いらしいので大丈夫だろう。


「そんじゃ、準備も終えてみんな揃ったところで、早速出発するか」

「「「「「はい」」」」」


 馬車につないだ桜と紅葉を引いて、俺達は屋敷の地下にあるゲートまで下りて行った。通常なら二十日掛かる距離を一瞬で到着できるのだから、ゲートというのは本当に便利だ。こんな事ならもう少しもらっておくべきだった。

 古代樹の森に着くと、先ずは桜と紅葉を馬車から外し、馬車を一旦アイテムボックスに収納してから森を抜け、馬車道に出た所で改めて桜と紅葉に馬車を繋いでから出発した。

 それにしても、見た目はただの白いリュックなのにこんなに大きな馬車まで収納できるのだから、マジで便利。まるで人気アニメのロボットが持っているポケットみたいだ。

 重量無限のアイテムボックスの偉大さを痛感しながら、俺は馬車を走らせた。


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