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9 冒険者

少し長めです。

「ここが・・・・・・」


《そう。トウラン武王国最大の商業町、オリエの町》


 町を囲う大きな壁の出入口の検問を済ませ(代金代わりに魔石を渡した)、門をくぐると石造りの建物と、馬車を引いた商人達、それを買いに町の住民達が商品を物色していた。

 ここが、クフォト王国の東に位置する大国・トウラン武王国でも一二を争う商業町、オリエの町である。後で分かった事だが、俺が今居る国は、トウラン武王国という武道が盛んな国なのだ。

 町って聞いたから、もう少しこじんまりした所だと思っていた。


《この世界にとって都市と言うのは王都の事を指していて、それ以外全て町、村、集落と言う事になっているのよ》


 つまり、王都ではないから都市と呼んでも良い程の大きな町なのに、都市ではなく町として扱われるのか。酷い格差だ。

 だが、それでも町は活気に溢れていてそんなの全く気にした様子は見受けられなかった。


《ほら。お金が無いのだから買い物は後。まずは冒険者ギルドへ行くわよ》


 せっかく感心してたのに、現実を突きつけないで欲しかった。そりゃ、無一文だからどの道ウインドウショッピングになるだろうけど。

 デリウスの先導のお陰で、俺は迷う事無く町の中心にある一際大きく、他に比べてとても豪奢な建物に着いた。

 ここが、冒険者ギルドである。

 中に入ると、厳つい顔をしたゴロツキ風の男達が左手にある掲示板に視線を送っていた。右手には飲食店があり、軽い食事を取っている人もいれば、朝から酒を飲んでいる連中もいる。


《ちなみに、この世界では十五歳で成人だから、君のお酒を飲む事が出来るわよ》


 そんな補足情報は結構。

 さてさて、早速登録を済ませる為に俺は真っ直ぐ受付の方へと足を運んだ。そこには空色のショートに、大きなエメラルドグリーンの瞳と、短いけど尖った耳をした俺と同い年くらい女の子が応対しに来てくれた。


「おはようございます」

「あぁ、おはよう」


 屈託のない満面の笑みで挨拶するこの子に、俺もつられて頭を下げて挨拶をした。多少ぎこちなかったが。


「ふふっ。もしかして、今日は初めてここに来られたのですか?」

「はい。冒険者登録と、依頼を受けに」

「そうですか。私は、ここの受付をしていますアリシアといいます。どうぞよろしくお願いいたします」

「こちらこそ」


 アリシアさんっていうのか。結構綺麗な人だな。それにしても、あの耳はひょっとして・・・・・・。

 『ステータス』


=========================================


 名前:アリシア       年齢:十六

 種族:ハーフエルフ     性別:女

 レベル:11

 MP値:3300

 スキル:聖魔法A   鑑定A   風魔法B   接待術B   速読C

=========================================


 やはりそうか。この子、ハーフエルフだったのか。ハーフとはいえ、ファンタジー世界の定番種族エルフ。この世界に来た次の日に、お目にかかるとは。

 と言うか、レベル11なのにMP値が俺のおよそ十倍もある。しかも、何気に聖魔法と風魔法を取得しているし。


「では、こちらの用紙にお名前と年齢、性別と種族、得意としている武器や戦法、出身地等を記入してください」

「あぁ、はい」


 現実に引き戻された俺に、アリシアさんは一枚の羊皮紙とペンを渡してくれた。

 名前や年齢、性別等は問題ないが、出身地や国籍などと言った埋められない欄もあった。


「あの、これは全部埋めないといけないのでしょうか?」

「もしかして、国籍と出身地が分かりませんか」

「え?」


 予想外の回答に、キョトンとしてしまった。たぶん、とびっきり変な顔をしてると思う。


「実は、あなたみたいに自分の出身地と国籍が分からない人って結構たくさんいらっしゃるのです。その大半が、小さい時に魔物に町を滅ぼされてしまっていたり、親を亡くした孤児だったりが大半を占めているのです。あなたもそんな感じなのでは?」

「え、ええぇ、まぁ・・・・」


 どうやら俺の事も、孤児か何かだと思ったのだろう。都合が良い。


「そういう場合は、空欄で構いませんので大丈夫です」

「そうですか」


 それは助かった。安心した俺は、改めて羊皮紙に目をやった。見た事も無い文字が並んでいる筈なのに、不思議とその字が読めた。


《この世界に召喚する際に、こっちの文字や言語が分かるようにしてあるの。字が読めなかったり、書けなかったり、何を言っているのか分からなかったりしたらいろいろと不便でしょう》


 道理で、アリシアさんの言葉も理解できたのか。

 そうと分かると、あとはもうスラスラと書けば良いだけ。先程言ったように、出身地と国籍以外全て。


「書き終わりましたら、この羊皮紙に血を一滴垂らしてください」


 そう言うとアリシアさんは、すぐ横にあった針に手を向けた。促されるまま俺は、その針に人差し指の先を軽く差して、羊皮紙の上に血を一滴垂らした。

 すると、羊皮紙が光り輝きだし、その形がみるみるうちに白色のカードへと変わっていき、同時に光も収まっていった。


「こちらがギルドカードになります。これで登録が完了いたしました」

「これが・・・・」


 白色のカードを手に持ち、まじまじと出来たばかりのギルドカードを眺めた。

 その後、アリシアさんがギルドカードと依頼について説明してくれた。

 まずギルドカードは、ランクに応じて色が変化していき、下から白→黒→青→赤→銀→金と色が変わっていくそうだ。ちなみに、最高ランクの金は世界中に僅か五人しかいないのだと言う。

 ランクを上げるには、依頼を数多くこなせばランクは上がって行くそうだが、失敗したり逃亡したりするとペナルティーが発生し、良くても半年以上依頼を受けられなくなり、最悪の場合は登録を抹消されることもあるそうだ。

 依頼には、討伐系と採取系と護衛系と制圧系の四種類があり、ギルドの方から提示されたり、住民から依頼を出されたりする事がある。

 討伐系依頼は、その言葉通り魔物の討伐が主。当然ながら、高ランクの討伐依頼になると危険度がかなり高くなり、自分の手に余る依頼を受けて命を落とす冒険者が後を絶たない。その代り、報酬が他の依頼よりも高いので人気が高い。

 採取系依頼も言葉通り、薬草や木の実等の薬や貴重な食材の採取が主。戦闘があまり得意ではない人、若しくはこれ以上失敗が出来ない冒険者が受けることが多い依頼。薬屋や、市場の人からの依頼が出る事が多い。

 護衛系依頼は、要人の警護、外回りの多い商人の護衛が主。高ランクになると、貴族からの要請もあるがこの町の冒険者からは嫌われており、ギルドの方から実力のある冒険者に直接依頼するパターンが多い。

 最後に、制圧系依頼について。これは山賊や海賊の制圧、及び討伐が主。すなわち、四つの中で唯一討伐対象が人間の依頼だ。相手が人間と言う事で、ソロで活動している冒険者にはこれまた人気の無い依頼。ちなみに、制圧した盗賊の宝は、全て制圧した冒険者の物になるか、持ち主に返して報酬を貰うかのどちらかである。


「と、ギルドカードと依頼についてはこんな感じです」

「ふむ」


 アリシアさんの説明を聞き終えた俺は、小さく頷いた後右手を小さく上げて質問した。


「一日に受けられる依頼数に上限はありますか」


 それは、ここに来る前から気になっていた事で、デリウスに聞いても職員の仕事を取る訳にはいかないと話してくれなかった。


「基本的には、一日に受けられる依頼に上限はありません。ただ、殆どの冒険者の方は遠出をする事がありますので、実質一件しか受けられない方が多いですね。近場でも、三件目を終えるともう日が暮れますので、それ以上受ける冒険者はいらっしゃいません」

「そうですか」


 上限はない。ただし、どんなに腕が良くても受けられるのは三件まで。それ以上は完全に夜になってしまう為、流石に四件目を受ける冒険者はいないそうだ。


「他に聞きたいことはございますか?」

「あぁそうそう。この町に来る際に魔物を何匹も討伐したのだけど、その時の魔石も買い取りとかは出来ますか?」

「可能です。お見せしてもよろしいでしょうか?」

「はい」


 アイテムボックスから、今朝討伐した魔物の魔石を全て出した。その魔石を一個一個手に取り、慎重に鑑定していた。


「ファントムウルフの魔石が八個、トレントの魔石が十六個、全部で二十四個。銀貨十九枚と銅貨二十枚ですね。すぐにご用意いたしますので、少々お待ちください」


 そう言ってアリシアさんは、一旦席を離れた。

 今の計算だと、ファントムウルフの魔石は一個銀貨二枚、トレントの魔石は一個銅貨二十枚と言った所か。

 一~二分程すると、銀貨と銅貨が入った布袋を持ってアリシアさんが戻ってきた。


「こちらが、銀貨十九枚と銅貨二十枚です」

「ありがとうございます」


 御礼を言って意外とずっしりする布袋を受け取り、俺はすぐに依頼書がたくさん貼られている掲示板の方へと足を運んだ。


「アリシアさんの話だと、ランクによって依頼書の色も違うらしいからな」


 白ランク(駆け出し)冒険者の俺は、白色の依頼書に目をやった。


 スライム五匹討伐。必要素材:核の破片。報酬:銅貨八十枚

 トレント五匹討伐。必要素材:魔石。報酬:銀貨一枚

 アイアンロブスター一匹討伐。必要素材:魔石・鋏。銀貨四枚


 討伐依頼の中ではこの三件が、白ランクの中で一番報酬が良かったので受ける事にした。他の依頼は、薬草の採取が銀貨三枚だけど時間が掛かりそうなのでパス。

 早速依頼書を、受付まで持って行って依頼の受諾を申請しに行った。


《白ランクでは、討伐依頼は滅多に入って来ないけど、今回は三件も入っていた良かったわね》


 デリウス曰く、白ランクの依頼に討伐依頼が入る事は滅多になく、あると真っ先に取る人が多い為大抵は残っていないそうだ。尤も、駆け出し冒険者に魔物討伐は荷が重く、七割以上が失敗してしまうか、慢心が油断へと繋がり死亡してしまう事もある。


《そんな事を聞いてもなお、討伐依頼を受ける君も大概だけどね》


 いずれは魔王と戦う事になるんだ、魔物との戦闘は避けて通れないさ。討伐依頼を優先的に受けた方が良い。


《そう。それなら私から言う事は無いわ。だけど、一つだけ約束して》


「ん?」


《絶対に死ぬな》


「あぁ。ここで生きていくと決めた以上、絶対に生き抜いてみせる」


 デリウスとの約束を胸に、冒険者として初の依頼をこなしにギルドを後にした。


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