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6 デリウスの決意

「ふぅ・・・・周りには誰も居ないわよね」


 周囲に他の神が居ない事を確認したデリウスは、何食わぬ顔で自室か複数の神々がのんびり過ごす広場へと足を運んだ。


「あ、デリウス」

「来たか」

「少しは反省したか?」

「ふふ」


 声のする方を見ると、四人の女神が噴水の近くにシートを広げてそこに座っていた。声を掛けた順番からそれぞれ、剣、魔法、銃、聖の、他四人に加護を与えた女神達であった。


「まったく。一体どうやったら全く別の場所に召喚させてしまうのよ。見た目だけは凛としてるくせに、中身はマイペースな天然バカだもんな」

「どうも、天然バカです」


 デリウスに憎まれ口を叩くこの女神は、神界でナンバーワンの射撃の腕を持つ銃の女神・カラミーラー。

 長い赤髪を首の後ろで結い、大きく吊り上がった目と中性的な顔立ちをした宝塚の男役の様な外見をした女神だ。


「帯刀翔馬君だったわよね。自分が加護を与えたいくらい気に入ってたのに、あんたが横取りなんかするから今頃大変な思いをしてるだろうなぁ」

「うるさい!と言うか、最初に目を付けたのは私だから」


 デリウスと同じく、翔馬の事を気に入り加護を与えたがっていたこの女神は、剣の女神・アラエラー。

 カラミーラーよりも鮮やかで、燃え盛るような真紅の長髪をポニーテールに結び、切れ長の目をしたデリウスと同じく凛とした雰囲気を醸し出している。性格は、どちらかと言うと子供っぽく、勇者召喚の直前までデリウスと翔馬を奪い合った程だ。


「ですが、彼だけ違う場所に召喚されたのもきっと何か理由があったに違いありません。交信は出来ても、それ以上の干渉が出来ませんので、わたくし達はただ祈るばかりです」


 祈りを捧げる様に両手を胸の前で重ねるこの女神は、癒しを司る聖の女神・イリューシャ。

 ふわふわと緩いウェーブがかかった長い金髪に、協会の聖女の様に美しい容姿をしたこの中ではダントツの美人。そして、胸にはやたらと大きな脂肪の塊があり、同性でもつい目が向いてしまう。

 その隣に座っているのは、魔法の女神・サラフィ。

 この中では唯一のショートヘアの、黒髪不思議っ子タイプの口数の少ない女神。あと、外見年齢もこの中では一番幼く、十四歳くらいに見える。


「まぁ一応交信は出来るけど、どういう訳は接続が悪くすぐに切れてしまうのよね」


 もちろん嘘である。


「失敗の影響?」

「その可能性は高いわね。全く、自分が担当すればこんな事には」

「何時までもネチネチ言うな。デリウスと同レベルだぞ」

「私とアラエラーが同レベルってどういう事!」

「喧嘩はよくありません。彼を信じてあげるのです。私達がお祈りを捧げれば、どんなピンチも乗り越えられます」

「「「その根拠は何処にある!!!」」」

「喧嘩はダメ」


 デリウスとアラエラーとカラミーラーの三人が口喧嘩をし、それを神なのに祈りながら喧嘩をいさめるイリューシャ、短い言葉で簡素に諫めるサフィラ。

 この五人の女神は、いつも一緒に居るのにいつもこのような感じであった。


       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 四人の女神と一頻戯れた後、デリウスは再び自室へ戻り、ふかふかなベッドの上にダイブした。


「はぁ・・・・かなり神経使った・・・・」


 そもそも、勇者召喚を行っているのはクフォト王国の第一王女である。デリウス達女神は、候補の中から気に入っている人間を一人選出し、うまく召喚できるようにサポートと、自分の加護を与える事である。

 その為、本来召喚されるべき場所を神の力を使って変えると言う行為は、反則中の反則で本来許される事ではない。

 それを犯してしまったデリウスの処分は、かなり重いものとなった。


「はぁ~~~私のオアシス、古代樹の森への出入りを二百年禁じるだなんて、残酷すぎるでしょう」


 そうでもなかった。


「・・・・帯刀翔馬を何処に召喚させるのかをあの短時間で決めたり、軌道修正を行ったり、言い訳を考えたりと。前半の二つだけでも、かなりの神力と神経を使ったのに・・・・」


 分かり易く言えば、召喚される勇者五人は本来敷かれた一本道のレールを真っ直ぐ進み、目的地へと向かわせるもの。

 デリウスが行ったのは、その一本道に無理やり別ルートを作り、選んだ特定の人物をその道に引っ張り込む行為。言い方が悪いが、デリウスは翔馬を誘拐したようなものだ。誰にも気付かれぬように。


「そもそも、私達のせいで生まれた魔王を別の世界の人の子に倒させるなんて、どこまで自分勝手な連中なのよ」


 実を言うとデリウスは、今回の勇者召喚にはあまり乗り気ではなかった。自分達の犯した罪の尻拭いを、神の力を持たない人間にさせようと言うのだから虫唾が走る。更に不幸な事に、勇者を選びサポートする神メンバーの一人にデリウスも選ばれてしまった事と、勇者候補の一人にお気に入りの翔馬が選ばれてしまったのだ。


「確かに、帯刀翔馬の実力なら予定よりも早く魔王を討伐できるだけでなく、あの世界でも敵なしの最強の勇者になれるでしょう」


 中学校の時に大人の門下生を打ち負かし、更には時期師範である父親すらも打ち倒した剣の腕があれば可能である断言できる。

 その代わりという訳ではないが、普通の人よりMPが極端に低く、魔法の才能が皆無に等しかった。だがそれも、魔物や魔族をたくさん討つことで解消される。あとは本人の努力次第だが、翔馬なら大丈夫だろうと確信があった。


「だけど、その類まれな剣の才能が仇になるなんて・・・・」


 そう。その剣の才能に嫉妬した両親と他の門下生達が、翔馬に対して嫌がらせをする様になったのだ。初めは彼を無視し、稽古の相手をしないと言った物だった。それから次第にエスカレートしていき、 翔馬の物を何処かに隠し、ボロボロにして捨てると言ったものへとなり、両親も翔馬から部屋を取り上げ、しまいには家に入れない等と虐待にも似た行動をとるようになった。

 更に、彼等の嫌がらせはこれに留まらなかった。翔馬の根も葉もない悪い噂を近所に広め、まるでもうこの町にお前の居場所なんて無いのだぞと言わんばかりに。

 それによって翔馬は、次第に人間を信じられなくなっていき、高校に入る頃には人間不信に陥ってしまった。

 それでもささくれる事無く、暴力沙汰を起こすなどの問題を起こさないのは翔馬の心の強さが伺えたが、勇者として城に仕えるには問題があった。

 だが、同時にチャンスだと思った。

 女神である彼女が抱くべきではないかもしれないが、翔馬を苦しめたあの世界から完全に切り離す事が出来る。そういう意味では、今回の勇者召喚は好機だったのかもしれない。幸いにも、今回選ばれた他四人の勇者は彼に対して偏見を抱いておらず、普通に接する事が出来る。あのままでいてくれたら、だけど。


「それでも、魔王から世界を守ると言う大役をこなすにはやはりまだ問題がある」


 だからデリウスは、翔馬を別の場所に召喚させてクフォト王国から切り離そうとしたのだ。


「魔王を倒すには仲間との連携は必要不可欠。与えられた仲間ではなく、自分が心から信頼できる相手とパーティーを組ませる必要がある」


 彼を召喚したあの国の住人は、国王も含め比較的おおらかな人が多く、人間不信に陥ってしまっている翔馬には丁度良い所であった。それでも不安があると言うのなら、奴隷を買えば良い。奴隷なら絶対に主を裏切らないし、完全な人間嫌いに至っていない翔馬なら、奴隷であっても差別し虐げるなんて事は行わない。非情になり切れないからな。


「その為に出来る事は何でもやる。必要以上に干渉してでも」


 今回与えたあの刀、ハバキリは神器と遜色ない程の力を有しているデリウスの最高傑作。正式な神器ではない為、下界の人に譲渡しても何の問題もない。

 全ては、翔馬の心の傷を癒し、人間不信を解消させる為。


「はは・・・・こんな事をするなんて、女神失格かもしれない。でも、それでもかまわない」


 召喚に関わった女神は百年下界に降りられないが、それでも出来る事は何でもすると決めたのだから。

 全ては、私が気に入った彼、帯刀翔馬の為。


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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ利害の一致で共闘できても成したあとは裏切る者が大半やからなぁ(笑)
2020/01/31 21:56 退会済み
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