51 新しい魔法銃
さてさて、折角予定よりも二日も早く帰って来られたのだから、早速魔法銃の核の錬成を始めた。
「メリー、バケツの中に軟水と食塩と石灰を入れてくれ」
「かしこまりました」
木製のバケツに、デリウスが指示した分量分の軟水と食塩と石灰を入れた。更にそこへ、サリーが硫黄を、ローリエがノウバイを入れた。ある程度混ざった後、アリシアさんがアイテムボックスから瓶に入ったカルデリッヒとヒャルアを取り出した。
ノウバイとカルデリッヒは初めて見る未知の液体だったが、ヒャルアは何処か見覚えがある液体であった。
「これが、ヒャルア?」
「あっ!ショーマさん、臭いを嗅いだら」
アリシアさんの制止を聞かず、俺は蓋を開けてヒャルアの臭いを嗅いだ。
「うっ!すごい刺激臭!」
「だからやめなさいって、アリシアさんが言ってたでしょ」
そうは言うけど、このヒャルアという液体が俺の知っている通りの液体なのかを確かめたかったから。鼻を突き刺す様な刺激臭には参ったが、お陰でヒャルアという液体が何なのか分かった。
《あら、気付いちゃった。流石ね》
流石ね。じゃない!本当にこんな物を混ぜて大丈夫なのか?俺の住んでいた世界では、「混ぜるな危険」の洗剤によく含まれているのだから気にするわ!
《大丈夫よ。毒ガスの発生を防ぐ為に、この世界の薬品の一つであるノウバイを入れるのよ》
「んん‥‥‥」
「ご主人様、どうされたのですか?」
「いや、このヒャルアって言う液体、実は俺の元いた世界にも存在する物だったことが分かったんだ」
「そうなのですか?」
「あぁ、尤も呼び名が違っていて、俺の世界ではアンモニアって呼ばれているんだよ」
そう。ヒャルアの正体は、アンモニアだったのだ。正しくは、アンモニア水だが。
確かにこれは、カビを落としたり、油汚れを落としたりとお掃除洗剤によく含まれているのだよな。その代り、他の洗剤と混ぜると有毒のガスを発生させてしまうので、表紙には必ず「混ぜるな危険」と書かれているのだ。
「そうだったのですか。でも、有毒ガスを発生させないようにする為のノウバイだと思いますし、魔石にこびり付いている不純物を取り除くにはヒャルア、ショーマさん的にはアンモニアがどうしても必要なのです」
驚く俺をよそに、アリシアさんはバケツの中にアンモニア水っぽい液体を入れて混ぜちゃっているよ。その様子は、魔女が怪しい魔法の薬を生成している様に見える。
「ショーマさん。マギグラムゴブリンの魔石を、全てこの中に入れてください」
「全部入れて大丈夫か?」
「はい。確か、最大で十個の魔石を浸け込む事が出来るらしいので、問題ありません」
言わるがまま俺は、持っていた魔石を6個全て怪しい液体の中に投入した。
後は、この状態で一晩、八時間浸け込むだけだ。本来なら一個で十分なのだが、アイテムはたくさんあっても損する事は無い。なので、余分に五個も取っておく事にした。
「そんじゃ、サリーとローリエは夕食の準備を頼む。俺は一度、オリエの町のギルドへ行ってくる。今回の事を、ヤンシェさんに報告しないといけないから」
情報を提供する側が、報告を怠ったが為に卵産虫の寄生を許してしまった。きちんと報告する事で、二度とこんな事が起こらないようにしないといけない。
「わたしもご同行いたします」
「分かった。メリーは俺と一緒に来てくれ。アリシアさんはサリーとローリエと一緒に夕食の準備を、カナデとフィアナは必要な荷物をまとめてくれ」
「はい」
「あたしも一緒に行きたかったわよ‥‥‥」
「私だって。メリーばかりズルいぞ」
アリシアさんは、嬉しそうに微笑みながらサリーとローリエと一緒にツリーハウスへと上っていった。
カナデとフィアナは、悠々と紅葉の手綱を引くメリーの姿を見て頬を膨らませていた。
時々、彼女達が何に喜んで、何で機嫌を損ねるのかが分からない時がある。女の子って難しいなぁ。
《(はぁ。どこまで鈍いなのよ、この朴念仁は)》
俺は桜の手綱を引いて、森の外に出ると跨ってオリエの町へと向かっていった。その後ろを、紅葉に跨ったメリーが追いかけていた。
荷馬車に繋げている訳ではないので、馬車に乗っている時よりも早くオリエの町へと着き、ギルドの馬房に二頭を預けて俺とメリーはヤンシェさんの所へと行った。
「ヴァリーバ鉱山跡地が、そんな事になっていたなんて」
俺とメリーの話を聞き、ヤンシェさんは大きく溜息を吐いた後頭を抱えていた。
「たまたま、マギグラムゴブリンの魔石が必要だったので、アリシアさんからヴァリーバ鉱山跡地の事を聞き、現地に向かいました。ゴブリンの巣窟だと聞きましたので、初めはこんなものなのかと思い大して疑問に思いませんでした。ですが、出てくるゴブリンの数が尋常ではなかったので流石におかしいと思いました」
「不覚だ。まさか、卵産虫の寄生を許してしまうなんて」
「卵産虫という魔物は、アリシアさんから窺って初めて聞きましたので、そんな魔物がいるなんて思いもしませんでした」
「無理もないよ。卵産虫の出現頻度はかなり低い上に、出現したとしてもスライムにも劣る弱い魔物だから、寄生する前に他の魔物に殺されることが多いから、我々も警戒を怠っていたのかもしれない。S級の危険魔物でありながら、警戒を怠るなんて」
大きく溜息を吐き、自身の失態を悔やむヤンシェさん。いやいや、そもそも情報を提供してくれる人達が放置していたから、ヤンシェさんの耳やギルドの耳に入らなかったのだから。運が悪かったと言えばそれまでだが、悔やんでも悔やみきれないよな。
「もしや、二十日前のスタンピードも」
「いえ、スタンピードとゴブリンは全くの無関係だと思います。あの規模のスタンピードは、少なくとも一月前から起こっていた思います。ここからヴァリーバ鉱山跡地まで、馬車で2日かかる距離です。卵産虫を見つけたのは、本当に偶然でしかありません」
デリウス情報だから、間違いない。あのスタンピードと、卵産虫が生み出したゴブリンは関係ない。
「またショーマ殿に救われたな。報酬の方もこちらで何とかするよ」
「いえ、今回はマギグラムゴブリンの魔石を入手する事が出来たので、それで十分です」
「そう言えば、何故マギグラムゴブリンの魔石が必要だったんだ?」
「カナデに新しい魔法銃を作ってあげようと思いまして。物凄く苦労もしましたし、あんなに大変だなんて思いもしませんでした」
お陰で銃制作のスキルが身に付いたが、正直言ってこの先もまた作りたいとは思えない。構造が複雑すぎる。
「魔法銃が作りたいのなら、別にマギグラムゴブリンの魔石が絶対に必要という訳でもないぞ。使い捨てになるが、核を交換すれば普通に使えるのだし」
「えぇ。私もそれを後から知りました。教えてくれた人の性格が悪く、知らずにヴァリーバ鉱山跡地にまで行ってしまいました」
デリウスも知らなかったみたいだし、銃の女神様は相当意地の悪い性格をしているみたいだな。
「はは。それは気の毒だったな。だが、そのお陰で卵産虫を討伐する事が出来た。騙された君は納得いかないかもしれないがな」
「ははは‥‥‥」
まぁ、お陰で神様に対する評価がさらに下がってしまったけど。
《待て待て待て!確かに変な神が多いけど、そんな事で評価を下げないでよ!》
ハッキリと変なのが多いと言いやがったぞ!お前やマリア以外にも、変な神様がいるというのかよ!
《アリーナはともかく、私まで変神扱いしないで!》
((十分に変神だろ))
どうやら、神様に対する評価が下がったのは俺だけじゃないみたいだな。俺と誓いを結んだメンバーも、神様に対する価値観に変化が起こったみたいだな。まぁ、デリウスと接していれば無理もないか。
ヤンシェさんへの報告を終え、ギルドを出て、桜と紅葉に跨って古代樹の森へとゆっくり帰っていった。
明日には、カナデの新しい魔法銃が完成する。俺が作った武器を欲しがっていたカナデにとっては、待ちに待った瞬間なのかもしれないな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その頃神界では、デリウスがカラミーラーやアラエラー、サラフィが眠っている間に彼女達が加護を与えた3人の勇者の様子を窺った。他の女神が担当している勇者の様子を勝手に覗き見るのは、本来はマナー違反。
だけど、デリウスはどうしても様子を見ずにはいられなかった。
(たった数ヶ月ちょっとで、あの三人が落ち込むくらいに堕落してしまうものなのかしら。強大な力を得た事で、傲慢になる事ならあるかもしれない。帯刀翔馬にもそんな時期があったからね)
ただ、それなら絶対に越えられない壁にぶち当てて、伸びた鼻柱をへし折れば良い。クフォト王国には、ガリウム・ガルバロスという金ランクの冒険者が居る。将来的には超えるかもしれないが、今の彼等が全力を出しても敵う相手ではない。
それなのに、あの三人は三女神が落ち込むくらいに堕落してしまっている。絶対に他の要因がある筈。そう思うとデリウスは、確認せずにはいられなかった。
「じゃあ、ちょっと拝見して」
デリウスは今、クフォト城に居る三人の子供達の様子を見た。町の情勢と、翔馬に害をなしそうな要素はないか確かめる為に見る事はあったが、三女神の手前三人の子供達の様子を見る事はしてこなかった。
「一体何があったって言うの?」
クフォト王国は現在朝を迎え、全国民が国王の有難いお言葉を聞く為に外に出ていた。王都に住む住民は、王城に注目していた。
『諸君!今日も我が国の為に、その身を削って働くがよい!それと今日は、諸君に非常に大変な事を報告せねばならない。トウラン武王国に二人目の金ランク冒険者、ショーマ・タテワキが誕生した。彼は我が国で何年も前にトウランに連れ去られてしまった、哀れな少年だ。彼はその事実を知らないまま、トウラン国王の横暴により無理やりあの国に仕える事となった。私はリュウラ国王に強く抗議したが、奴は私の言葉に全く耳を貸さないばかりか、彼を自国の権力の象徴として悪用しようとしている。このような横暴は、断固として認めるわけにはいかない。そもそも、四人の哀れな金ランク冒険者は我が国に仕える義務を課せられているというのに、四国は未だにそれを拒み続けている。我々は彼等を取り戻し、この世界を本来あるべき姿に戻し、真の平和を取り戻さなければならない。その為に私は、戦い続ける。私に力を貸して欲しい』
ナルダン国王の言葉に国民が「おぉー!」と声を上げているが、第三者から見たら戯言を言っている様にしか聞こえない。
「相変わらずクズだな。あんなのが実権を握ったら、ハルブヴィーゲの秩序は乱れ、世界は崩壊してしまうわ」
今はトウラン武王国を含む四国が圧力を掛けているが、三人の勇者を抱えている今、クフォト王国は更に調子に乗り、下手をすれば大昔から存在する四国を滅ぼしかねない。
「そんな国だから魔王が潜んでいるのかもしれないが、だからと言って五人まとめてあの国に召喚させる事は無いでしょう」
帯刀翔馬はデリウスのお陰でトウラン武王国に召喚され、神宮寺美穂子はクフォト王国の暴挙に耐えられず、イリューシャの指示の下よその国へと亡命している。すでに二人の勇者と、二人の女神に見限られているというのに、この国は何処までも身勝手で横暴なのだろう。ガリアーナ様も、胃に穴が開きそうになるのも無理もない。
「さてさて、あの三人は今‥‥‥」
満遍なく王城内をチェックしていると、少し髪が長い茶髪の美男子が複数の女性に囲まれながら朝食を食べていた。
彼はアラエラーが翔馬の次に気に入っていた、剣を使う勇者として召喚された少年、日比島武治。
彼は朝食を食べ終えると、剣の稽古を行わずに女の子達を部屋へと引き連れていった。何をしているのか覗いてみると、思わず目を覆いたくなるような事を彼は女の子達に行っていた。更に問題なのが、女の子達が誰一人として嫌がる事無く、自ら望んでその身を捧げていた。
「はぁ。何をやっているのよ」
女を抱くなとはこの際言わない。だけど、剣の修行をほっぽって朝から女遊びをしているなんて。実戦経験は積んでいるみたいだけど、レベルが28と勇者としてはかなりの低レベルである上に、数ヶ月でこのレベルはあり得ない。相当大事にされ過ぎているのが分かる。
結局、武治が部屋を出たのはそれから五時間後、お昼前までずっと女遊びをしていたのだ。
「まったく嘆かわしい。まぁ、あっちもあっちで酷かったけど」
武治が部屋で女遊びをしている間に、デリウスは二人目の召喚勇者、銃の女神・カラミーラーのお気に入りの女の子、丸本日和を見つけた。出る所は出ていて、引っ込む所は引っ込んでいる黒髪ショートの可愛らしいルックスをした美少女。
武治が部屋で女遊びをしている間彼女は、たくさんの奴隷達を引き連れて町へ行き、ブランド物の装飾品やレアアイテム等を買い漁り、欲しい物がその店に無いと奴隷達に命じて暴力を振るい、他の人が買おうとするとその人を虐め、辱めを受けてから奪い取るという行為を行っていた。当然の事ながら、こっちも射撃の訓練は一切行わず、レベルも13とかなり低かった。
「カラミーラーも相当注意したけど、全く聞いてはくれなかったみたいだね」
欲しいものを好きなだけ与えた結果、あのような我儘で横暴な振る舞いを行うようになってしまったのだろう。自分の力でレアアイテムを手に入れたのではなく、他人から貰ったか奪ったかした財産で買い漁っている。それでは、手に入れたアイテムや装飾品を大切にするという感覚が麻痺してしまう。
「それを咎める人間が居なくなると、必然的にそうなるかな」
本来それをやってくれる人が、あんな風になってはあの二人も自分の行いを改めようとしないだろう。
王城の大図書館にて、文官達に殴る蹴る等の暴力を振るい、暴言を吐き捨てて罵る眼鏡の少女の姿が見えた。
彼女は、魔法の女神・サラフィのお気に入りの少女、左京弘美。翔馬のクラスで学級委員長を務めていた優等生で、自分に厳しい性格をしたお堅い委員長。
だけど、この国に召喚してしまった事でこちらもやたらチヤホヤされたのか、自分の思い通りに動けない文官達に暴言と罵声を浴びせていた。
「自分の判断こそが常に正しいのだと思い込むようになったのでしょう」
でも、一応は努力を積んでいるみたいで、レベルも他の二人に比べて高く32であった。それでも、召喚されて数ヶ月でこのレベルはあんまりだ。一般的な冒険者としては高いが、召喚勇者としてはかなり低い。
ここまではただ傲慢になっているだけだが、周りにイエスマンしかいなかったせいで自分こそが誰よりも正しい事をしているのだと、信じて疑わなくなってしまったのだろう。
「やっぱり、あの子達をクフォト王国なんかに召喚させるべきではなかった」
最初は勇者召喚に携われる事を光栄に思っていたが、その選んだ勇者があんな風になっては落胆も大きいでしょうね。そもそも、クフォト王国の悪評は神界でもかなり広まっていていたのだが、神という立場上依怙贔屓も差別も許されない。
だから仕方なく、デリウス達は勇者をクフォト王国に召喚させることを渋々承諾した。けれどデリウスは、それでも自分のお気に入りである翔馬をクフォト王国に送りたくなかった為、自身の主神であるサラディーナが統治しているトウラン武王国に召喚させたのだ。あの時の自分に出来る事は、それしかなかったから。
「一応、帯刀翔馬にも報告した方が良いよね」
彼も、クフォト王国に召喚されて、堕落してしまった三人の事を気にしていたし、どんな結果であろうと報告してあげた方が良いだろう。
「さて、今帯刀翔馬は何をしているのかしら」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大樹の近くで、ズドンズドンズドンという発砲音が響き、アイアンロブスター製の正方形の大きな板が穴だらけとなっていた。
時刻は正午。完成したばかりの魔法銃を、カナデが撃って感触を確かめていたのだ。
「どうだ?使ってみて違和感とかなかったか?」
「ううん。すごく良い!荷電魔銃よりも手に馴染んで使いやすいわ!」
「気に入ってくれて何よりだ」
カナデが使っている、新しい魔法銃のステータスはこちら↓
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名前:豪炎魔銃
ランク:S
種類:魔法銃
持ち主:カナデ
能力:持ち主固定・不壊・炎噴射・破壊力アップ・威力調節
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新しく出来上がった魔法銃、豪炎魔銃は炎を噴射する能力が加わり、加えて注いだ魔力の量だけ破壊力がアップする事が出来る。作っておきながらなんだが、とんでもない物が出来上がってしまったなと思う。
「本当はもう一丁作ってやりたかったが、時間が無かったから」
「いいわよ。こんなにすごい魔法銃を貰ったのだから、すごく満足してるわ」
「そうか」
いよいよ明後日は、王都・ランテイへ移住する。その為の準備はすべて終えて、することが無くなった今日と明日は思い切り休む事が出来る。
「さて、やる事は全て終わった。あと二日は泥の様に寝たい」
「あたし達の武器をずっと作ってたんだし、思い切り休んでもいいんじゃない」
「よっしゃぁ!」
そうと決まったら、昼食を食べて食休みをしたら早速温かいベッドの中でぐっすりと寝よう。丁度ツリーハウスでは、アリシアさんとメリーが昼食を作ってくれている。ちなみに、サリーとローリエは最後の荷造りを、フィアナはベッドの上で二度寝をしていた。
更に補足情報で、十五日間ずっと武器を作り、更に豪炎魔銃まで作っていたお陰で、「神級武器職人」の称号までついてしまった。言っとくが、武器職人に転職した覚えはないのだけど。
《ハロハロ♪あなたのアイドル、デリウス様のお出ましよ♪》
「残念ながら、駄女神はお呼びではありません」
「って言うか、今まで何してたの?もう正午だよ」
《メンゴメンゴ。ちょろっと、クフォト王国にいる三人の勇者の様子を見て来たところなの》
「っ!?それで、どうだった!」
気になる事があったので、俺は食い入るようにデリウスの話を聞いた。聞けば聞く程、前にいた世界では割と好印象だった三人が、そんな事をするなんて信じられない思いで一杯だった。
「何で、何でこんな事に‥‥‥」
「しかも、三人ともレベルがかなり低いじゃない。こんなんで勇者って呼べるの?」
変わり果てた今の三人の現状にも落胆しているが、レベルが勇者とはとても呼べないくらいに低く、今のカナデと勝負しても間違いなく負けてしまうくらいに弱い。
いくら周りにイエスマンしかおらず、チヤホヤされながら過ごしてきたからってここまで堕落し、尚且つ、レベルもそんなに上がっていないなんて、益々クフォト王国のあり方に疑問を抱かざる得なくなった。
「そもそもナルダンは、魔王を倒す気があるのかしら?」
《暴君でも一応は国王なのだから、呼び捨てにしてはダメよ》
だけど、カナデが呼び捨てにしたくなる気持ちもわかる。クフォト王国の国王のナルダンは、勇者を自国の権力の象徴として悪用し、更なる悪さを行っていると聞いている。民に向けた朝礼の内容も、実に自分勝手で横暴な発言であった。
「ッタク!何であの三人の女神は、もっとハッキリと嫌と言わなかったんだ」
《言える訳がないでしょ。カラミーラーは黄泉の神・ハーディーンの眷属だし、サラフィは海の神・アストランテ様の、アラエラーは大地の女神・ガリアーナ様の眷属なのだから、逆らうことなんて出来ないわ。ちなみに私は、太陽の女神・サラディーナ様の眷属》
うわぁ。お役所勤めの五人の上級神様の命令では、どうする事も出来ないか。それを考えると、俺をトウラン武王国に召喚させてもデリウスを許してくれたサラディーナ様は、意外に寛大な女神なのかもしれないな。
《全然!二百年も下界に降りる事を禁止されたのよ。二百年も有給休暇お預けされたのよ!》
まぁ、勝手に違う場所に召喚したのだから当然か。
「デリウス達神様も、立場って言うのがあるからこの国は嫌だから別の場所が良いとは言えなかったんだろう」
《でも、こんな事ならもっと強く反対しておけばよかった》
「仕方ないさ。それより、報告してくれてありがとう。俺も、あの三人の事が気になっていたから」
デリウスに一言御礼を言った後、俺とカナデはツリーハウスの方へと上がって行った。あぁは言ったけど、もしも俺が違う女神に気に入られ、何も知らずにクフォト王国に召喚されていたら、きっとあの三人と同じ事をしていたと思う。
上司の命令に背き、俺をトウラン武王国に召喚してくれたデリウスには本当に感謝している。お陰で俺は、この世界で大切なものを見つける事が出来たのだから。
だからこそ、勇者としてこの世界を守っていきたいと思っている。