47 金ランク昇格
「あ、ああ‥‥‥」
トウラン城の城門を潜り、馬車を下りた先にあった大きな扉と、間近で見る本物の城に圧倒されていた。ここに来るまでの間に感じた感動が、一気に吹き飛んでしまうくらいに。
「やっぱり俺のこの格好、かなり場違いな気がする」
改めて自分の服装を見ると、この前買った青色の服に紺色のベスト、腰には三本の愛刀。冒険者としては普通でも、王に謁見を求めるにはふさわしくない格好であった。
「私も、今更ながら思いました」
「ん‥‥‥」
アリシアさんとメリーも、俺と同じことを考えていたのかもしれない。改めて自身の格好を見た。フィアナは気にしていない様だし、カナデはこういう場にふさわしいドレス姿で来ている。サリーとローリエは、メイド服を着ていた為俺達ほど浮いていなかった。
「あまり気にしないでください。今日はショーマ殿を正式に金ランクに上げる為に来たのだから、その格好の方が良い」
「そうです。それよりも早く、叔父様、国王陛下がショーマさん達をお待ちしています」
「それに、気を張るだけ無駄だと思うぞ」
「なので、楽な気持ちでいてください」
公爵殿下とナーナに励まされて、俺達はぎこちない動きで城の中へと入って行った。内装については、ハッキリ言って緊張のあまり目に入っていない。入ってすぐに、デリウスのツリーハウスよりも広い大広間と、大きな階段があった事くらいしか覚えていない。ごめんなさい。
何時間も歩いているみたいに感じ、俺達は王が待つ謁見の間に通ずる扉の前に立っていた。公爵殿下から入る時の作法を頭に叩き込み、俺達はゆっくり開かれた扉の向こうへと足を踏み入れた。
奥にある玉座に、公爵殿下とよく似た顔立ちの壮年も男性が、オレンジ色を基調とした服を着ていて、椅子のひじ掛けに黄金色の長剣が立てかけられていた。唯一違うのが髪型で、国王陛下がオレンジ色のショートに対して、公爵殿下は金髪のセミロング。
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名前:リュウラ・トウラン 年齢:四十八
種族:人間 性別:男
レベル:78
MP値:8930
スキル:剣術:A 槍術:A 火魔法:A
氷魔法:A 剛力:A 斧術:B
演説術:B 脚力B
その他:トウラン武王国国王
ドラゴンスレイヤー
デーモンキラー
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これが国王陛下のステータス。スキルや称号を見る限りでは、国王になる前に冒険者として活躍をしていたのだろう。流石、武王国の国王だ。
俺達は事前に公爵殿下に言われた通りに、王から三メートル離れた場所で片膝を付き、首を垂れた。
「うむ。表を上げてくれ」
王の許可が下りた事で、俺達はゆっくり顔を上げた。おやおや、なかなかにダンディーなオジサマって感じの渋い声ですね。
「そなたがショーマ殿か。よくぞ参られた」
俺の顔を確認すると、国王陛下は玉座から立ち上がり、ひじ掛けに立てかけていた黄金色の剣を手に取ってこちらに近づいてきた。
「詳細は全て、オリエの町のヤンシェ殿や、レイハルト公爵から窺っておる。魔族を二度も屠り、巨獣化したオリハルコンゴーレムやレッドドラゴンの討伐、ファウーロ族の危機を救った英雄ときたか。金ランクに昇格する前のユズル殿に匹敵する戦果だな。金ランクにふさわしい実力があると認めよう。というより、これだけの戦果があって金ランクでないのが不思議なくらいだ」
そう言うと国王陛下は長剣を抜き、剣の平の部分を俺の右肩にそっと乗せた。おっと、この長剣ってレッドアイアン製か。
これは一種の儀式の様な物で、金ランクに上がる冒険者は王が直々に昇格を言い渡し、特別な魔法の王魔法というその国の王だけが使える特別な魔法で、その人のギルドカードを銀から金に変えるのだそうだ。
「数々の功績を残し、我が国の為に戦った冒険者ショーマを金ランクにふさわしい実力があると認め、トウラン武王国国王の名において、ショーマの金ランク昇格を認めよう」
剣を通して魔力が注ぎ込まれ、懐に入れてあったギルドカードが銀から金に光り出していた。公爵殿下の話だと、これは俺のギルドカードが金色に代わっているのだそうだ。後で確認しておこう。
光が治まると国王陛下は長剣を鞘に納め、玉座の横に仕えていた家臣が黄金色の剣を持って来た。国王陛下は家臣からその剣を受け取り、しゃがんでそれを俺の前に差し出した。
「この剣を受け取ったその瞬間、君はこのトウラン武王国国王である我に仕える事が出来、また我に近い地位を得る事が出来る」
《その剣は、王に仕えている一流の聖剣鍛冶師が鍛えた聖剣で、金ランクに上がった冒険者全てに与えられる物なの。ちなみに、使われている素材もきちんとその冒険者に合わせて鍛えられているから、とても使いやすいわよ。更にもう一つ、その聖剣にはブルーアイアンが使われているわ》
ブルーアイアン製か。まさに、斬撃を得意とする俺にピッタリだな。
「ありがとうございます。これから先も、この国の為に、国王陛下の為に、そして民の為に尽力する事を誓います」
誓いの言葉を発し、俺はその聖剣を受け取った。ちなみに、その聖剣のステータスはこちら↓
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名前:シクスカリバー
ランク:S
種類:聖剣
持ち主:帯刀翔馬
能力:斬撃力・切れ味アップ・呪魔法消滅・亡者消滅・不壊
持ち主固定
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呪魔法の消滅や、亡者消滅の能力付とは。流石は聖剣。シクスとは、六本目という意味で付けられたらしい。この世界の人達って、ネーミングセンス無いな。
「最後に、金ランクとなった事で、君には貴族と同等の位が与えられる。ゆえにそなたには、家名が与えられる。何か希望はあるかな?」
家名、つまり名字か。それならもうあるからそれを言えば良いが、あえて悩むそぶりを見せて自分の名字を言った。
「では、帯刀の姓を。帯に差してある刀という意味を込めて」
「タテワキか。うむ、ではそなたにはタテワキの姓を与えよう。ショーマ・タテワキ」
うぅ。何だか外国の人に名前を呼ばれたみたいだ。だけど、これが俺の新しい名前。これで完全に、この世界の住民になった気がする。
ここまでは厳かな雰囲気の中、儀式は進められてきた。けれど、その雰囲気を壊した人物が現れた。
「ははははははははっ!なんてな。もうそんなに畏まらなくて良いぞ」
そう。厳か雰囲気を壊したのは、ほかならぬ国王陛下だったのだ。これには家臣や騎士団員達も、頭を抱えて首を横に振っていた。シクスカリバーを持って来た家臣が小声で、「またですか」と呟いているぞ。どうやら、日常茶飯事の様だ。
「いや、すまないな突然。なんせこういう厳かな雰囲気が嫌いなもんで、早く行事を済ませたいと思ってな」
肩を三~四回回して、大きく深呼吸をした国王陛下。だから行事を急いでいたのか。
「だから言ったであろう。気を張るだけ無駄だって」
「叔父様はいつもこうで‥‥‥」
公爵殿下はガハハッと笑いながら、ナーナは苦笑いを浮かべながら言った。
「申し訳ありません。いつもこうなので‥‥‥」
あっ、聖剣を持って来た家臣が俺に謝罪しに来た。いろいろと気苦労が絶えないね。胃に穴が開かないと良いな。
「マジですか‥‥‥」
一気に緊張が抜けた俺は、腰が抜けてしまいその場に尻餅をついてしまった。何とも情けない。
「ははは。聞いていた通りの人見知りだな。そんなに緊張しなくても良かったのに」
「兄上に会うのだから、緊張するなというのが無理な話だ」
ガハハハッと笑い合う似た者兄弟。確かに、気を張っていたこっちが馬鹿馬鹿しく思える。俺の後ろでは、獣人三人娘とフィアナがキョトンとしていて、アリシアさんとカナデは呆れながら首を横に振っていた。
(いつもこうなのです。うちの国王陛下は)
(お兄ちゃんの時も確かこんな感じだった)
(できれば早く聞きたかったな)
王位を継ぐ前は兄弟揃って冒険者をしていたらしく、兄のリュウラは銀ランク、弟のブライアンは赤ランクだそうだ。更にこの二人には妹も居たらしく、その人も赤ランクの冒険者だったそうだ。その妹は現在、ホクゴ王国のジュガ・ガウン・ホクゴ王と結婚しホクゴ王妃になっているそうだ。
(まったく。こんなんでよく国王が務まってるな)
((否定しない))
((((否定しないの!?))))
(だけど、お陰でだいぶ気が楽になった)
何とか立ち上がれるようになった俺は、聖剣を一旦左腰に装備して国王陛下と公爵殿下の方を見た。
「あの‥‥‥」
「おぉ、すまない。報酬なら用意してあるぞ。ここへ」
国王陛下が玉座の近くに居た執事を呼び、家臣からお金の入った袋を十二袋乗せた銀の盆を受け取って、こちらに近づいてきた。
「こちらが、報酬の金貨三百枚に、解体したドラゴンの素材の代金、更にクフォト兵からヒガ山を守ってくれたお礼も加えて、金貨千二百枚です」
「ありがとうございます」
と言う事は、一袋に金貨百枚も入っているのか。後で皆にも分けないと。
「君には本当に感謝している。ヒガ山は幾度となくクフォト王国に狙われていて、その度にブライアンや姪のナーナ達に追い払ってもらったが、全く懲りる事無く何度も進行してきてな」
「困った国ですね」
「全くだ」
フランクに話してしまったが、周りにいる家臣や騎士団員、更には執事やメイドの人達までも全く気にする事無く微笑んでいた。いくら言っても無駄なのだと、諦めているのかもしれないな。
「それと、そなた達にはここランテイ内にある屋敷を一つ与えたいと思っている。先程は、国の為に尽くす様にと言ったが、そんな事は気にせずに自由に行動してくれ。クフォト王国以外は、金ランクの冒険者を縛るつもりなんてさらさら無いから」
今までの行事の内容はあくまで書類上の事であって、実際には無理に行う必要は全くないのだ。なので、屋敷は貰っても無理に住む必要もないのだ。
だけど、折角大きな屋敷を貰うのだから、ありがたく頂き住ませてもらう。ツリーハウスにも、たまに足を運ぶか。
「あの、差し出がましいですが、貰う屋敷の候補の中で工房部屋がある屋敷はありますでしょうか?」
「工房部屋か」
「そう言えばショーマ殿は、刀鍛冶師でもあったな。剣や刀を鍛える部屋が必要なんだね」
公爵殿下には、俺の情報がある程度入っているみたいだな。
「ほほぉ、ではショーマ殿が腰に差している刀は、どれも自分で鍛えた物なのか?」
「金色のこの刀は、今は亡き私の恩師から譲り受けたもので、こちらの二振りは私が自分で鍛えた刀です」
そう言って俺は、蒼龍と火車斬に手を添えた。
《それにしても、亡き恩師って言う設定が何か嫌。勝手に私を殺さないでよ》
仕方ないだろ。他に言い訳が思いつかなかったんだから。
「そうか。なら、この屋敷が丁度良いな」
そう言って国王陛下は、懐から一枚の紙を取り出して俺に見せてくれた。
「この屋敷は、城から一キロ程しか離れていないし、裏手には小さな離れがあるから、二十日もあればそこを工房に改装する事は可能だ」
「本当ですか」
「あぁ。資金なら、私が出そう。ヒガ山では世話になったからな」
「そんな」
「やらせてくれ。私にできる、君への恩返しでもあるのだから」
「‥‥‥」
世話になったも何も、あれは依頼だったのだから。今だって多額の報酬を貰って、その上離れの改装費まで公爵殿下に負担させては罰が当たりそうだ。
《人の善意は素直に受け取るものよ。気にしないで受け取りなさい。その代り、この国を守りなさい。召喚勇者として魔王を倒し、トウランだけでなく、この世界の人々の為に戦いなさい。それが、君に出来る精一杯の恩返しだと思うわ》
勇者としての使命感ではなく、この国の為に、この世界の為に戦えって事か。確かに、俺にはこの世界で大切なものが、守りたいものがたくさん出来た。そして、こんな俺を受け入れてくれた彼女達の為にも。
「ありがとうございます。ですが、もし何か困った事があったら何時でも頼ってください」
「そうさせてもらうよ」
俺と公爵殿下は握手を交わし、離れの改装を依頼する事にした。
「交渉が成立したみたいだな。では、改装が終わったら改めて屋敷に住むと良い。それと、折角我が国に二人目の金ランク冒険者が誕生したのだ。その祝いとして、今晩は我が城で食事を用意しよう。料理長には、腕によりをかけてもらう。皆今日はこの城に泊まってくれ、皆の部屋は用意しよう」
「ありがとうございます。何から何まで」
「私達も一緒に頂こう。良いかな?」
「もちろんさ」
国王陛下と会食の約束をし、俺達はメイド達の先導で宿泊する部屋へと案内された。
案内された部屋は、天井がとても広く中心には豪奢なシャンデリアが吊るされていた。ベッドも大きく、ふかふかで高級感あふれるシーツで覆いかぶされていた。床も、これって絶対に大理石だろ。
「何か、落ち着かねぇな」
シクスカリバーをアイテムボックスに入れ、ふかふかのベッドに腰を下ろした後別々の部屋に居るアリシアさん達に、念波で会話をする事にした。
(俺、テーブルマナーとかよく分からねぇけど)
(奇遇だな。私もよく分からん。というか、村にはそんな物は無かったからな)
(わたしみたいな奴隷が、国王陛下と会食だなんて!)
(本当にすごいの~!)
(これ、夢なの!?)
すぐに返事を返してくれたのは、フィアナとメリー、サリーとローリエの四人であった。メリーとサリーは、姉妹と言う事で同じ部屋に泊まる事となった。
(そんなに気にしなくていいわよ。さっきもそうだけど、あの王様は細かい事はあまり気にしない性格だし、お兄ちゃんの時も厳かな雰囲気なんて全くなかったから)
(あの王様相手ですから、むしろ畏まる方が失礼というものです)
リュウラ国王の事をよく知るカナデとアリシアさんは、改まるだけ無駄だという言うが、やはりどうしても緊張してしまう。しかもカナデは、今回ドレスを着てきているし。気にするなとは言っているが、やはりこういう場にふさわしい格好というのは大事というのを分かっている。
(それよりも良いの?せっかくデリウスからツリーハウスを使って良いって言われてるのに)
(あぁ。デリウスからも、いずれはちゃんとした家に住むように言われているし。それに、ここまでしてもらってただ持っているだけって言うのも勿体ないだろ)
馬房や広い草原、湧き水が出る水場や井戸もある、その上俺が武器を作る為の離れの改装を無償で行ってくれるのだ。そこまでしてもらって、ただ持っているだけだなんて申し訳なさすぎるだろ。
その間に、準備しないといけない事もあるだろう。二十日もあれば、向こうでフィアナの剣も作ってあげられるし、必要な家具や日用雑貨も要るだろうし、揃えなくてはいけない物もたくさんある。
(でしたら、留守を任せられる人を増やしてはどうでしょう?あんなに広い屋敷を、サリーちゃんとローリエちゃんだけに任せるのは大変でしょうし)
(それには賛成だけど、どうやって雇う?オリエとランテイで、メイドと執事でも募集するのか?)
こう言っては何だが、俺はそう言うのが大の苦手だぞ。貴族でも何でもない一般ピープルの俺が、お手伝いさんを募集するなんて畏れ多いぞ。
(だったら、奴隷商から何人か奴隷を買うのもありだと思うよ。お兄ちゃんもそうしているし)
(また奴隷か‥‥‥)
メリー達の場合は、こう言っちゃ難だが成り行きでそうなったからな。自主的に奴隷を買うのは、何と言うか忌避間を感じてしまうのだよなぁ。
(あまり気になさらないでください。わたし達はご主人様にお仕えする事が出来てとても幸せです。他の奴隷達にも、この幸せを知って欲しいです)
(それに、奴隷を従えているからと言って、無理に周りに合わせる必要なんてないわよ。ショーマは平等に扱いたいって言うんなら、それでも良いじゃない。お兄ちゃんだってそうしてるんだし)
メリーとカナデがやたらと進めるな。一番手っ取り早い方法なのかもしれないけど。
《いちいち気にし過ぎなのよ。この世界で暮らしていくのなら、前の世界の価値観は捨てなさい。生活を支える為に奴隷を買うのは忌避される事ではないし、メリー達みたいに優しく接したって良いんだし、気にしすぎだよ》
気にし過ぎか。確かに、未だに前の世界の感覚が抜け切れていないところがあるが、だからと言って人としての尊厳を捨てたくないという気持ちも何処かにあったのだろう。
(ショーマさんは奴隷を捨て駒にする訳でも何でもないので、気負う事はありません)
(翔馬はいろいろと気にしすぎなんだ。この世界では普通の事なのだから)
アリシアさんとフィアナもあぁ言っているし、この世界の人達にとって自分達の暮らしの助けとして奴隷を買うのは普通なのだな。
(分かった。屋敷を譲り受ける二十日後に、この町で買おうと思う。何人くらい必要だ?)
(屋敷の管理と、離れと草原広場、馬房の管理等がありますから、十人弱は必要だと思います)
十人くらいか。休みの日を与えるとしたら、二十人くらいになるな。休みの日くらいは、奴隷達には好きなように過ごして欲しいからな。自由を失った奴隷に、精一杯の自由を与えたい。
必要な奴隷の数と、仕事の役割分担等を話し合った後、お城に仕えるメイドが迎えに来て客間へと案内された。目の前には、いかにも高そうな食材をふんだんに使った料理が並べられており、獣人三人娘とフィアナは目を輝かせながら料理を見ていた。
「気にしないで食べなさい。固いのは嫌いだから」
国王陛下から承諾を貰い、獣人三人娘とフィアナは目の前に出された料理を口一杯に頬張った。どうやら国王陛下も、奴隷を冷遇せずに平等に扱ってくれるみたいだ。
「城に仕えている家臣の殆どが、元は叔父様の奴隷だったのですが、差別する事を嫌う叔父様に引き取られた事で今の地位にあるのです。ただ、国王である叔父様に対して遠慮が無くなってしまいましたけど」
ナーナの補足情報を聞いて、思わず納得してしまった。というか、ここに居る家臣の殆どが実は奴隷だったなんて。ちなみに、シクスカリバーを持ってきてくれたあの家臣も、元は奴隷だったのだという。全然そんな風には見えない。
《本来奴隷に位や爵位を与えるのは禁止されているけど、トウラン武王国とナンゴウ海王国はその規制が緩く、国王の側近や家臣が元奴隷というのは結構あるわ》
だと思ったよ。
逆に、ホクゴ獣王国とクフォト王国はその規制がとても厳しく、ホクゴ獣王国では良くても宮使いや掃除婦等がせいぜいだそうだ。冷遇はしていないみたいだけど。
けれどクフォト王国では完全に道具や捨て駒扱いをしていて、人として見ようとしないみたいだ。予想通りだ。
ちなみに、ザイレン聖王国では奴隷制度そのものが禁止されていて、他所の国から買っても斬首刑になるらしい。他国出身の冒険者が奴隷を連れているのなら罪に問われないが、差別すると他所の国出身であろうと斬首刑になる場合があるので注意が必要になる。となると、クフォト出身で奴隷を引き連れているパーティーはザイレンに入国できないな。
「ところで、ショーマ殿は刀鍛冶師でもあったな」
「はい」
食事中に国王陛下から唐突な質問が投げかけられ、思わず気の抜けた返事をしてしまった。
「その二振りの名刀を鍛えたショーマ殿に頼みがあるのだが」
ここまで聞くと、何となく頼みたい事が分かった。
「剣と刀、両方鍛える事が出来ますけど、何かご希望はありますでしょうか?」
「おぉ、それなら話が早い!我にも名刀を一振り鍛えてくれないだろうか」
「刀でよろしいですか?」
「あぁ。前から欲しかった物で、倅とミスズ殿が、あぁナンゴウ海王国の女王陛下が使っているのを見て、羨ましいと思っていたのだ」
「分かりました。では屋敷を譲り受けたその日に、そのお礼で一振り与えましょう」
「そうか。感謝するぞ」
サリーとローリエのお陰で、素材はたくさんあるからいくらでも鍛えられる。
「それなら、私にも一振り頼む。実は刀は私も欲しいと思っていたので」
何だか公爵殿下まで欲しいって言って来たぞ!やっぱり似た者兄弟だな!
「メリーさんから聞きましたけど、彼女が使っている刀と薙刀もショーマさんが作った物らしく、その‥‥‥」
ナーナさん、遠慮しているのかもしれないけど、全身から「私も欲しい」オーラを出しまくっているぞ。
どうやら帰ったら、フィアナの剣だけでなくこの三人の刀も鍛えなくてはいけないらしい。こいつ等、本当に王族一族なのか?




