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43 公爵の真意

「先ずは何から聞きたい?」


 ヒガ山の麓近くにある公爵の屋敷に招かれ、客間のソファーに座った俺達に、公爵殿下はテーブルを挟んだ向かいのソファーに腰かけて俺達に聞いた。ここで俺達が疑問に思った事を話してくれるそうだ。


「いろいろあるけど先ずは、何でこの依頼を赤ランクにして、しかもドラゴン退治であるにもかかわらずたった五人でこなす様に指定したのですか?」


 最初に俺は、依頼の内容自体について聞く事にした。通常、ドラゴン退治には多くの人手が必要だ。それを何故、こんな無茶苦茶な条件で赤ランク指定にしたのだろうか。


「ギルドで受付の人から聞いたように、君を試す為なのだよ。ショーマ殿」

「何故ですか?」

「君の勇敢さと、誰かの為に戦おうという正義感と、どんな無茶な依頼があっても立ち向かう度胸を試した。ここに来た時点で、さっき言った条件はすでにクリアしたことになる。あとは、ヒガ山に住み着いているドラゴンを少人数で討伐してもらう事で、君を金ランクへと昇格させようと思っている」

「つまりこれは、私を金ランクに昇格させるにふさわしいかどうかを試す為の物だったのですか?」

「あぁ」


 かなり高い功績を残した銀ランクの冒険者にのみ与えられる、いわば英雄クラスのランク。その代り、金ランクの冒険者は常にクフォト王国の執拗な勧誘にあい、それから守る為に王都に点在しなければならなくなる。そこだけを聞けば、自由に行動できなくなるように聞こえるが、実際は当人の自由はきちんと保証されているのだ。

 だけど俺は、そんな面倒事に巻き込まれるのが嫌で銀ランクに留まっているのだ。


「ヤンシェさんから話は聞いているが、それでは余計に面倒な事になる。クフォト王国は君の意思とは無関係に金ランクに上げて、クフォト出身の冒険者にしようと工作している事が分かったのだ」

「うわぁ‥‥‥」

「汚い手を使ってくるな。聞けば聞く程、反吐が出る国だな」


 フィアナの失礼な発言を流し、公爵殿下は話を続けた。一応ヤンシェさんにも、彼女がファウーロ族の人間だと言う事は話してあるから、フィアナが気位の高い性格をしているのは公爵殿下の耳にも入っていると思う。


「今は兄上が、国王陛下が圧力を掛けてくれているから何とかなっているが、正直言ってそう長く持たない。だから」

「クフォト王国から私を守る為にも、リュウラ国王陛下直々に私を金ランクに上げたいのですね」

「そうだ。君がれっきとした、我が国の冒険者である事を証明する為にも、君には金ランクに上がってもらいたい」


 俺の知らない所で、そんな事が起こっていたなんて知らなかった。トウランの国王は、俺をクフォト王国から守る為にトウランで金ランク昇格させて、改めて自国の冒険者である事を世界に伝えようとしているのだな。

 あまり気乗りしないが、そうしないとクフォト王国の強引な手段により向こうの冒険者にさせられる。それだけは御免だ。国王陛下も、苦肉の策としてこのような手段を取ったのだろう。


「君を試すような真似をしてしまった事には謝罪する。けれど分かって欲しい。これも、君をクフォト王国から守る為でもあり、君が本当に金ランクにふさわしい器なのかを確かめる為でもあるなのだよ」

「分かりました。この依頼をこなした暁には、この国の冒険者として誠心誠意尽くします」


 これも避けられたい事だと思い、俺はその提案を受け入れる事にした。本当は嫌だけど、俺の知らない間に勝手に進められるよりはマシだと割り切る事にした。クフォト王国が、強硬な手段に出たせいで。


「感謝する。あ、金ランクになったからと言って、無理に王都に来る事は無い。体裁をとる為に、私が用意した屋敷を君に譲渡して、王都に居るのだと言う事を示して欲しい。ただし、あくまで形だけであって、わざわざ住む必要はないよ。国王陛下も、ユズル殿と同様に君の自由は保障するそうだ」

「そこまでしていただき、本当にありがとうございます」


 ここまでしてくれて、断る訳にもいかない。俺は深々と頭を下げ、公爵殿下に感謝した。


「じゃあ次、あたしからも良いですか?」

「どうぞ」


 話がまとまった所で、カナデが右手を上げて聞いて来た。


「どうして公爵様はここに居るのですか?」

「どうしてって言われても、ここは一応私の所有する屋敷なのだから」


 キョトンとした表情で公爵殿下は答えるが、カナデの聞きたかった事はそこではない様だ。それはおそらく、俺も気になっていた事でもあると思う。


「じゃあ、聞き方を換えますね。公爵様はどうやって、王都からここまで来たのですか?王都からここまでは、物凄い距離がありますよ」

「おおぉ!すまないな。君達はゲートについては知らなかったのだな」

「「「「「ゲート?」」」」」


 聞き覚えのないワードに、俺達は声を綺麗に揃えて口に出した。


「ゲートとは、国王がいろんな国を行き来する為に作られた特別なマジックアイテムで、予め登録された場所一瞬で移動する事が出来るのだ」

「そんな便利なアイテムがあったのですね」


 つまり公爵殿下は、そのゲートをくぐってここまで一瞬で移動する事が出来たのだな。


「まぁ、国王だけでなく、私の様に王に認められた貴族も使用が許されていて、当然金ランク上がった冒険者にも使用権が認められているのだ」

「そうなのですか!」


 って事は、カナデの兄貴もゲートを使った事があるというのか。尤も、今の反応を見る限りでは妹の方は何も知らなかったみたいだけど。

 更に話を聞くと、未使用のゲートは王城の地下にたくさん保管されていて、自分が認めた相手に幾つか渡してあるそうだ。公爵殿下も、あと二つくらい持っているそうだ。

 ちなみにゲートは、予め登録された人物しか通る事が許されず、登録されていない人が潜っても何の意味がないただのガラクタなのだそうだ。

 もっと話を聞くと、各町の冒険者ギルドの地下にも設置されており、金ランクの冒険者は登録されたギルドへと一瞬で移動する事が出来るのだそうだ。ちなみに、オリエの町のゲートにはすでに俺の名前が登録されているのだそうだ。手が早いな!


「依頼が達成したら、この屋敷の地下にあるゲートを使ってオリエの町まで移動すると良い。報酬を貰った後、改めて王都に来てもらいたい。国王が盛大に君の金ランク昇格を祝い、報酬とは別に資金が渡され、ゲートもいくつか貰えるぞ」

「結構盛大なのですね」


 ま、派手にやらないと他国へのアピールにならないのかもしれないな。


「じゃあ、私からも良いか?」

「構わないぞ」


 ん?今度はフィアナが手を上げて聞いてきた。ここまで丁寧に説明してもらって、他に一体何が聞きたいのだろうか?


「あの山に居るドラゴンは、何体だ?」


 もしもしフィアナさん、声が震えていらっしゃいますぞ。


「一体だけだ。種類は、レッドドラゴンだ」

「レッドドラゴンって、赤くて凶暴で火を吐くデカい奴か!?」

「そうだけど、ドラゴンは殆どの種類が大きくて火を吐ける筈だが」

「うそぉ‥‥‥」


 うわぁ、超怖そうに震えている!

 確かレッドドラゴンって、高さが最大で12メートルもあり、非常に凶暴な性質をしている。ドラゴンとしての位も高く、力もかなり強く銀ランク冒険者では絶対に太刀打ちできず、金ランクの冒険者じゃなければ倒せない神獣なのである。

 誤解が無いように言うが、ドラゴンは魔物ではなく神の二つ下、精霊の下に位置するれっきとした神獣なのである。

 けれど、その殆どが非常に凶暴な性質をしている為、人が住む所に現れたらオリハルコンゴーレムと同等の最優先討伐対象になっている。尤も、ドラゴンが人里に迷い込む事はほぼ無いに等しいそうで、ギルドでも1年間で2~3件程度しか依頼が来ない程だ。一つの町で、ではなく大陸全体で。

 ところがここのところ、魔王の影響なのか人里付近に頻繁に出没するようになった。

 エンシェントやエルダー等の、高位のドラゴンなら人を襲う事は無いのだけど、位の低い種類やワイバーンなどの亜種はかなり凶暴だ。本来なら近づかなければ大丈夫なのだが、もし町等に近づくようなら討伐が急がれる。


「本来ならやり過ごしたいところだが」

「なら放っておけばいいだろ!」

「そうはいかない。あの山は我が国にとってとても領土を示す重要な山で、放っておいてしまうとクフォト王国が乗っ取ろうとしてくるから、何としても退治しないといけないのだ」

「そんな!」


 ちょっとフィアナさん、俺の肩にもたれかかるのはやめてくれない。仕方がないだろ、十キロ先にクフォト王国の国境があるのだから。


「ファウーロ族にとってドラゴンは超える事の出来ない壁であり、絶対的恐怖の象徴。それゆえ、ファウーロ族の人間は全員がドラゴン恐怖症みたいなものなんだよ」

「そう来ましたか‥‥‥」


 他のファウーロ族の人間がそうであるように、フィアナも他の皆と同じドラゴン恐怖症なのだな。

俺の肩にしがみ付き、ガクガク震えるフィアナの頭を撫でて落ち着かせた。


「そんなに怖いのなら、お前は無理をして戦う事は無いぞ。俺とカナデで何とかするから」

「まっ、まぁ、ショーマに頼られるのも満更でもないし、あたしならドラゴンの一匹や二匹」


 また強がりを言って、ここ最近は頼りになれるようになったが弱い事にはかわりが無い。あまりそう言う強がりを言わない方が良いぞ。


「まっ、待て!カナデが頼られて、私が後ろでびくびく震える訳にもいかないだろ。私も翔馬と共に戦う」


 何を張り合っているのか、フィアナも俺と共にドラゴンと戦うと言ってきた。気持ちはありがたいが、目尻に涙を浮かべながら言ってもあまり説得力がない。


「まぁ、一応私の所に就いている私兵の騎士団達も同行させるし、私も君の実力を見極める為に同行するから、あまり無理をしなくてもいいよ」


 お、公爵殿下も騎士団を引き連れて俺達に同行するのか。俺達だけで行かせて、死なせる訳にもいかないのだろう。他にも、俺の戦いを見極めるのも含まれているのだろう。


「それよりも、長旅で疲れているだろうから、今日はゆっくり休んで、明日討伐に向かうと良い」

「何から何まで、ありがとうございます」


 公爵殿下の厚意に甘え、俺達はそれぞれ用意された部屋へと泊めてもらう事になった。明日に備えて、今日は長旅の疲れを癒すとしよう。


        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「はぁ、食った食った」


《こらこら。食べてすぐに寝転がらないの》


 あの後俺達は、物凄く広い風呂に浸かってリラックスして、物凄く豪華な勝利の数々に舌鼓を打っていた。サリーとローリエの二人は、今まで見た事も無い料理に目をキラキラさせながらたくさん食べていた。後でお腹が痛くなったのは、言うまでもない。


《それよりも、明日使う武器は決まっているの?》


「あぁ。ベッドの脇に置いてある」

明日使う予定の武器、ハバキリとカシャギリ、そしてフィアナから貰ったファウーロの直剣の三本である。


《そんななまくらが、ドラゴンに通じるのかしら?》


 なまくらって言うな、なまくらって!確かに、デリウスからすれば直剣、面倒なので古墳剣(古墳時代に使われていた剣に似ている為)と呼ぶ。で、その古墳剣はデリウスからしてみればなまくら同然なのかもしれない。ランクもDだし。


《武器がフィアナに合っていなかったという君の意見は、正しいと思うわ。そもそもあれは、直剣にしては造りが少々荒いからすぐに刃こぼれしてしまう。そこに、フィアナの馬鹿力が加われば剣自体が耐えられる訳がないでしょう。下級の魔物や、人間相手なら有効でも、ドラゴンには全く歯が立たないわよ》


 散々な言われようだな。まぁ、確かに古墳剣がドラゴン相手に通用するのかと聞かれれば、答えはノーだけど。


「だけど、人間相手なら有効なんだろ」


《えぇ。人間相手なら問題ないけど、アイツ等もバカだよね》


「行って話が通じる相手なら、公爵殿下はもちろん、国王陛下だって苦労はしないっての」


 デリウスが念波で伝えてくれたが、どうやらヒガ山に武装した連中が入り込んでいて、ドラゴンを殺そうとしている様だ。武装した連中は、クフォト王国から派遣された兵士で、ドラゴンを討伐した後にヒガ山を奪おうと裏工作していたらしい。

 結果は、クフォト兵の惨敗。相手がレッドドラゴンだと、普通の兵士では相手にならないのも当然。

討伐が失敗し、何とか生き残った数名のクフォト兵はヒガ山に残り、宝石や鋼材等の発掘に切り替えていった。

 古墳剣を選んだ理由は、残ったクフォト兵を懲らしめる為に用意したもの。気絶させて捕縛するのが理想だが、それがかなわない場合は殺さないといけない。


《何処までもバカな連中ね。素人が掘ったところで、ホイホイとお宝が出て来る訳がないし、第一全く的外れな場所ばかりを掘っているから見つかる訳がない》


 宝石は鉱物の発掘には、長年積み重なった経験と勘がものを言う。それ以外だと、ローリエの様に嗅覚に優れたパートナーを連れて探させるという方法がある。

 当然の事ながら、連中はそのどちらの要素も持っていない。いくら豊富に取れる鉱山でも、素人が掘って簡単に見つかる訳がないのに。


「本当にバカな連中だな」


《連中に限らず、国そのものがバカなのよ。そもそもクフォト王国にも、ガリウム・ガルバロスという金ランクの冒険者が居るのだから、彼を派遣した方がもっと楽だったのに》


 確かに、自国の金ランク冒険者を送らないなんて。

 と言うか、ソイツの名前ってガリウムなのか?何と言うか、化学元素みたいな名前をしているな。


《こっちの世界にガリウムなんて物は存在しないし、そもそもその名前は彼が金ランクに上がり、国王直属の部下になった事で新たに与えられた名前なのよ》


「国王が付けた名前なのかよ‥‥‥」


 クフォト国王って、センスないな。


《彼に限らず、クフォトの貴族達は皆化学元素と同じ名前が付けられているわよ》


 マジかよ!?一体どういう因果関係があるのだ!それともただの偶然なのか?おそらく後者なのだろうけど、名前を付けられた貴族達が気の毒でならない。本人達はその事を知らないのかもしれないけど。


《何にしても、失敗の一報はもうすでにあちらさんに届いているから、増援が来る前にレッドドラゴンを討伐しないとね》


「あぁ」


 ハバキリはもちろん、カシャギリでもおそらく討伐する事は出来る。あとは、そのレッドドラゴンがどのくらい強いのかにもよるな。


《君はともかく、フィアナが問題じゃない》


 仕方ないだろ。小さい頃から刷り込まれた恐怖というのは、そう簡単に払拭する事が出来ないのだ。それに武器も、古墳剣だけでなく俺からも一本フィアナにあげようと考えている。確か、雷属性が付保してあった剣があったな。


《あら、あの剣をあげるのね。偶然できた剣だけど、彼女にはピッタリの剣だね。ランクもAだし、オリハルコンで作られているのだから、よほど下手糞な使われ方でもされない限り折れる事は無いわ》


「あぁ。それでも、フィアナには軽すぎるかもしれないな」


 なんせ、アリシアさんでさえ片手で軽々と扱えたくらいだから、フィアナにとっては重さすら感じないのかもしれない。

 その為に、明日はサリーとローリエには頑張ってもらいたい。ドラゴン退治に向かいつつ、フィアナの剣を作るのに必要な鋼材、ブラックアイアンを見つけて欲しい。


「それにしても、念波を繋げている状態でよく敵の正確な位置と、敵の情報を見て確認できるな」


《見てないわよ。見れる訳ないじゃん》


「じゃあどうやって?」


《マップというものを使っているのよ。上から地図を見る様な感じで目の前に表示され、現在地や敵や魔物の位置情報を細かく表示してくれるの》


「そんなのがあるんだ」


 女神様だから、そういうのが使えても不思議ではないな。


《何言ってんの。君だって使えるわよ》


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥はあぁ!?」


 ちょっと待て!そんな機能があったなんて今まで知らなかったぞ!てか、何で今まで教えてくれなかったんだ!


《‥‥‥いやあ、君の場合危険察知のスキルお陰で今まで必要としていなかったから、教えなくても良いかなって。てへぺろ》


 てへぺろ、じゃねぇぞ!というか、最初の間はなんだったんだ?本当は単に忘れてただけじゃねぇのか!


《(ギクッ!)》


「まったく、使い方教えてくれよ」


《はぁい》


 やけに素直だがまぁいい。

 その後俺は、デリウスからマップの使い方と見方を教わった。何か、地図を上から見ているみたいだった。てか、画面がやたら広い上にこちらが念じなければ消えることがないから使い勝手が悪すぎる。

教わっておいてなんだが、俺が使う機会ってあるのかな?


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