4 スライムの群れ
一通りステータスの説明を聞いたので、ハバキリを手に持ち、とりあえず目的地である古代樹の森を目指して馬車道をひたすら真っ直ぐ歩いていた。
デリウスが言うには、古代樹の森は太古の昔からある木々が何万年も枯れる事無く存在する森の俗称なのだそうだ。
「だけど、本当に良いのか?その森って、神々が住まう森として崇められていて一般人はもちろん、祭司や巫女でも足を踏み入れない特別な森なんだろ」
そう。これから目指す森は、この世界の住民達にとって近づく事ですら恐れ多い程神聖な森。そんな特別な森に、俺みたいな余所者が土足で踏み込んでよいものなのだろうか?
《良いも何も、古代樹の森は私が趣味を満喫する為にあるような森だから、その私が良いって言っているのだから問題ないわ》
「さいで・・・・・・」
神々が住むなんて言っているが、実際はデリウスの別荘の様なもので、森に住む神というのはデリウスの事であった。何万年も枯れる事無く生い茂っているのは、デリウスの力が働いているお陰だというのか。
それが何時しか、神々が住まう森としてこの世界の住民から信仰の対象にされている様だ。
コメントに困る内容であった。
《このまま馬車道を真っ直ぐ行くと、すぐ右側に背が高い木々が密集する森が見えるから、それが目的地である古代樹の森こと私の別荘♪》
ハッキリと別荘って言っちゃってますよ、この女神様は。というか、神様のくせにそんなに頻繁に下界に降りて大丈夫なのだろうか。
ま、この女神ならきっと満面の笑みで「気にしない気にしない」と答えるに違いない。
《いやぁ~~~~照れるなぁ~~~~♡》
なんか語尾にハートを付けていそうな言い方だな。いや、絶対に付けてるに違いない。ていうか褒めてないから。
これ以上コメントする気になれなかった俺は、何も考えずにただただのんびり馬車道を道なりに真っ直ぐ進む事だけを考えて歩いた。
道中はこれといったイベントや、トラブルなどに遭遇することなく三十分以上ただただボォーと青い空を眺めながら歩いていた。
「一見すると、魔王がこの世界を恐怖に陥れているだなんてとても信じられないくらい平和だな」
《この辺りは、まだ魔王の力が及んでいないから比較的平和だけどね。というか、魔王自身も今はまだそんなに強くはないから目立つ行動が出来ないだけなのよね。それでも、今の君や他の勇者達では瞬殺されるなんてレベルじゃないわね》
「今の俺では瞬殺されるのがオチか」
本当ならまだ弱いうちに倒しておきたいが、それは俺達だって同じ。時間が経てば敵はどんどん強くなるだろうけど、中途半端な強さでは魔王を倒すなんて絶対に無理だろう。だからこそ、こちらも魔王なんて寄せ付けないくらいに強くならなければいけないのだけど。
その結果、魔王が強くなってしまうのは避けられない事なのだろうか。
《今はまだ、表立って活動せずに暗躍している状態だね》
「だからこそ、それ以上に俺達もいっぱいレベルを上げて強くならないといけない訳だ」
《最低でもレベル500以上はないと、勝てないわね》
それ何時になったら実現するんだ?
でも、それだけ今の俺達と魔王との力の差が開いているという事なのだろうか。
デリウスの説明を更に聞くと、魔王はまだ弱い状態と言ってもレベルは250以上あるらしく、将来はレベル500以上になるのではないかと予想している。俺達勇者は、一般の冒険者に比べてレベルの上がる速度が速い。
しかし、それでも半年で90も上がれば上出来という領域。どんなに頑張っても、一年で180という所。それで考えると、魔王討伐に向かえるのは三年後という事になる。
気が遠くなる話だ。
けれどそれも、俺達が異世界から召喚された勇者だから出来ることであって、普通の人はレベル50以上になるとなかなか上がらないもので、一生の間にレベルが80以上に達した者はたった五人しか存在しないくらいだ。
そう考えると、異世界から来た俺達ってかなりチートなのかもしれない。にしても、時間が掛かり過ぎる気がする。
《もっと早く上げるスキルもあるにはあるけど、いくら魔王より高いレベルになってもソロで挑んだら当然勝てる訳がないわ。他にも、パーティーを組めば人数に応じて上がる速度も速くなるけど、練度を高めるにはそれなりの時間が必要になる訳だし、今はまだ焦る必要もないわ》
世の中そんなにうまく出来ていないという事か。
そんな事を考えていると、茂みの中から何やら赤やら青やら白やらと、それぞれ異なった色のブヨブヨした物凄く気色の悪いゼリー状の生き物が姿を現した。
もしかしなくても、あの生き物はおそらく・・・・・・。
《早速スライムの群れが現れたわ。塵も積もれば山となる。ちゃっちゃと討伐しましょう》
やはりスライムでしたか。というか、あんな気色の悪い生き物が俺みたいな初心者にうってつけの魔物と言うのも何だか微妙であった。
「ま、変に動き回るよりは動きの鈍いクソ雑魚モンスターの方が楽に戦えると言うもんだな」
早くも戦闘経験を積む事になり、俺はハバキリをベルトに差してから抜いた。片手で刀を扱うのに慣れていない為、鞘を腰に巻いているベルトに差すという不格好な姿になってしまったが、自分の命が掛かっている以上今はそんな事を言っている場合ではない。
力一杯地面を蹴って一瞬で敵の懐に入り込み、横薙ぎにハバキリを振り、立った一振りで四~五匹のスライムを真っ二つに斬った。正確には、中にあった丸い核を狙った。
それで俺の攻撃が終わる訳がなく、続けて左右に居る他のスライムに斬りかかった。
帯刀流の剣術は、敵を一撃で相手を戦闘不能に追い込む剣技。一対一はもちろん、一対多戦においても強い力を発揮できる実践的な剣術であった。
それを可能としているのが、初見であっても一瞬で相手の急所を見定める洞察眼。寸分の誤差もなく、正確に敵の急所を斬る正確な太刀筋。例え防御しようが、鎧や兜で守られていようが諸共切り裂く重い斬撃。
敵の防御を破って一撃必殺の下に敵を斬る。それが、帯刀流剣術だ。
相手の動きの鈍いと言うのもあって、大して苦戦することなくおよそ百匹以上のスライムを一匹残らず駆逐した。
《流石ね。私が説明しなくても、正確に敵の急所を見定めて一撃で屠るなんて。しかもノーダメージで》
「さすがにあんな雑魚モンスターから攻撃を食らう事なんてないって」
攻撃の動作がまる分かりだった上に、動きがこれでもかと言うくらいに鈍かった為、百匹以上居ても楽に全滅させることが出来た。
《まぁ、スライムは人間が捨てたゴミや汚れや魔物の亡骸とかを食べて綺麗にしてくれる有難い魔物なんだけどね》
「ちょっと待て!それって倒しちゃダメなパターンじゃねぇのか!」
危険どころか、人畜無害の益虫ならぬ益魔物じゃないか。
《そんなことないわよ。初心者が最初に倒す魔物として打って付けなのは本当だし、駆け出しの冒険者も最初はスライムと戦ってある程度慣れる物なのよ》
そうですか。
それを聞いて少しだけ安心した。
《それに、あんな魔物でも増えすぎると農作物への被害が出るから、倒しておいて正解だよ》
「ふぅん」
まぁ、農家の人達にしてみれば害虫みたいなものなのだろう。
何にせよ、ここに来て初めての魔物との戦闘が経験できたのは大きいと割り切る事にした。
その後も、スライムや、枯れ木に目と口があり腕が生えたような見た目をしたトレントとの戦闘を経験し、四時間以上掛けてようやく目的の古代樹の森の前に到着した。
修正しました。
誤字の指摘、ありがとうございます。