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25 ダンジョン探索 5

「美味しかった」

「お腹いっぱいなの~」


 お腹が空いた為に、発掘作業を切り上げたサリーとローリエと一緒に食事を取った俺達。特に、発掘作業をしたサリーとローリエの食欲は凄まじく、多めに作った鶏肉の香草焼きを二人で全て平らげてしまったくらいだ。


「二人が申し訳ありません」

「いや、いいよ。あの食欲にはちょっと驚いたけど」


 一仕事終えて、たくさん食べたサリーとローリエは、お腹をさすりながら仰向けに倒れていた。こりゃ、しばらく動けないだろうな。


「そんじゃ、今日はここで野宿するか」

「よろしいのですか?」

「無理をする必要なんてないし、あの二人には発掘を頑張ってもらったんだし」


 このダンジョンがまだ顕在していると言う事は、まだ誰も最下層に到達していないと言う事になる。なら、まだそんなに焦る必要もないだろう。

 だったら、その間にやりたい事がある。


「折角モンスターが出て来ないんだから、メリーの武器を作ろうと思うんだ」

「わ、わたしの武器ですか!?そんな、ご主人様から剣を頂いたばかりだと言うのに!」

「気にすんなって。折角ミスリルが手に入ったんだから、メリーの為の武器を作っておきたいんだ」


 作る武器は、もちろん薙刀だ。

 この所の探索で、メリーにも剣術のスキルが身に付いたから、そのまま剣で戦わせても良いが、折角だから薙刀も作ってあげたいと思った。それに、レベル以上に高い戦闘能力を有していた為、俺と一緒に前に出て戦う事が出来る。そんな彼女にふさわしい武器を作ってあげたい。


「ご主人様自らが、わたしの為に武器を!」

「いいな~。あたしも欲しいなぁ~」


 何言ってんだ。カナデには荷電魔銃と言う、お前には勿体なさすぎるくらいの魔法銃があるじゃない。


「カナデは先ず魔法を覚えろ。アリシアさん」

「はい。ではカナデ様、あなたは私と一緒に魔法のレッスンを受けましょう」

「えぇ~~~」


 情けない声を上げながら、魔法のレッスンの為にアリシアさんに連れて行かれるカナデ。だけど、魔力のコントロールを学ぶ為に魔法を覚えるのはよくある方法だし、俺もアリシアさんに魔法を教わりながら魔力のコントロールを覚えたのだから。


「さて、俺も始めるか」


 早速手頃な石を積み上げて、即席の窯を作るとそこに木炭と藁を詰めて火を点けた。洞窟内とは思えないくらいに風通しが良く、煙が充満する心配がない。

 そこへ、アイテムボックスからミスリルを取り出し、高温の窯の中に突っ込んだ。鋼材としてのミスリルは、ブルーアイアンには劣るものの、軽くて丈夫と言う事で武器や防具によく使われる金属としてとても有名だ。

 その間に、壁の隅にあった湧き水から水を汲み、砥石と台座とハンマーを取り出して準備した。メリーは、そんな俺の様子をキラキラした目で見ながら嬉しそうに眺めていた。尻尾も落ち着きがなく、ゆらゆらと揺らしていた。

 こうして改めてみると、メリーもかなりの美人だと思う。俺と同じくらいの長身に、スレンダーなモデル体型で、脚もスラッとしていて長く、露出しているお腹も引き締まっていて。覗き込むように屈んでいる為、奴隷服の隙間から控え目ながらも胸の谷間がチラッと見えていた。

 い、いかんいかん!平常心平常心!

 無防備なメリーから視線を外し、頭の中から煩悩をなんとか取り払いながら薙刀作りに集中した。デリウスから教わったお陰で、俺にも鍛冶スキルが身に付き、刀身の短い剣くらいならデリウスの指示が無くても作れるようになった。

 熱しては叩いて伸ばしを繰り返し、ちゃんとした形になる様に伸ばしていった。作業としては地味なのだけど、メリーは俺から目を離す事なく、しまいには身体まで寄せ来た。自分の武器が徐々に出来上がっていくのがよほど嬉しいのだろう。というか、何でこんなに良い匂いがするんだ!

 それからどのくらい時間が経ったのだろう、最後の研ぎも終えて刀身六十センチの薙刀の刃が完成した。


「よし。あとは・・・・」

「あの、ご主人様、厚かましいお願いとは思いますが、わたしにも刃を触らせてもらえないでしょうか?」

「あぁ。どうぞ」


 完成した薙刀の刃を受け取り、それをメリーは嬉しそうに眺めていた。その間に俺は、それに合う柄の部分をアイテムボックスから物色していた。


「そうだな・・・・お、これが良いかな」


 そう言って取り出したのは、赤色の装飾が施された長さ百六十センチの長めの棒であった。この棒は、俺がこのハルブヴィーゲに召喚される前にデリウスが薙刀用に作った物の余りであった。


「メリー、そろそろこれに刃を取り付けるから、一旦貸してくれないかな」

「はい♪」


 声を弾ませながら刃を俺に渡したメリーは、今度は背中に身体を寄せて、頬が接触するくらいに顔を近づけてきた。背中からは柔らかい二つの膨らみが、白い髪の毛から石鹸の良い香りが漂い、ひょこひょこと動く猫耳が俺の髪の毛に触れてどうにも落ち着かない。

 静まれ!俺の心臓!平常心だ!明鏡止水だ!

 持ち前の精神力で何とか心を落ち着かせ、黙々と組み立てて言った。組み立て自体は大して時間を掛ける事無く、組み上がった後で鞘の型を取るとその通りに木を削り、糊でくっ付けて乾くのを待った。


「よし。鞘はまだだけど、薙刀自体は完成した」

「これが、わたしの武器♪」

「あぁ。名前は赤椿だ」

「赤椿」


 受け取った自分専用の武器、赤椿を嬉しそうに眺めながら呟いた。

 ちなみに、赤椿のステータスはこちら↓


=========================================


 名前:赤椿

 ランク:A 

 種類:薙刀

 持ち主:メリー

 能力:軽量化・連続刺突・連撃アップ・持ち主固定


=========================================


 デリウスの指示なしで初めて作ったが、Aランクの上物が出来て良かった。それに、Aランク以上になると持ち主固定が自然に付くみたいだけど、自分の作った武器に四つも能力が付与されるなんて思ってもいなかった。

 そんな俺が作った赤椿を、メリーは感触を確かめるかのように何度も振ってみた。


「すごいです!手に馴染んで使いやすく、その上軽いです。こんなに素晴らしい武器をくださり、本当にありがとうございます!」


 深々と頭を下げ、大袈裟に喜ぶメリー。ま、それだけ喜んでくれるのなら俺も作った甲斐があったってもんよ。

 その後、魔法のレッスンを終えたアリシアさんとカナデとも合流し、更にそのまま寝てしまっていたサリーとローリエも目を覚まし、俺とメリーと合流した。


「お姉ちゃん、その薙刀すごくカッコいいの~」

「ご主人様がわたしの為に作ってくださったのだ」

「いいな」


 姉の持つ赤椿を眺めるサリーを尻目に、ローリエが物欲しそうな眼差しを俺に向けてきた。ローリエの分もその内作ってあげるから、そんな目で見るのはやめなさい。

 それからしばらくすると、鞘をくっ付けていた糊も乾き、戦闘時以外は納めておくようにしておいた。

 武器一つを制作していたので、流石に疲れた為食事を取った後俺はすぐに寝転がって瞼を閉じた。魔法のレッスンを受けたカナデも、疲れたのか俺のすぐ近くで寝転がり、すぐに寝息を立てた。うら若き乙女が、仰向けになって大の字になってイビキかくな。

 そのカナデを指導したアリシアさんも、俺の目の前で横になって眠っていた。カナデと違って、こちらは静かに眠っていた。

 ずっと俺の作業を眺めていたメリーは、俺から貰った赤椿をすぐ近くに置き、俺の背中にピタリと体を密着させて眠っていた。何だか柔らかい所がいろいろ当たっていて、全然落ち着かない。

 逆に、さっきまで眠っていたサリーとローリエは全然眠れず、俺達を起こさない様にしながら宝石発掘を再開していた。あの二人は、本当に発掘が大好きだな。


       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 数時間仮眠を取った後、俺達はダンジョン探索を再開する為前に進んだ。サリーとローリエの二人だけはクタクタのご様子だったが、直前まで宝石発掘をしていた二人に気を使っている時ではない。何故なら、この先の、次の階層から何やら不穏な空気を察知した為、ただ事ではないと思った俺は先を急ぐことにした。


「サリーとローリエには申し訳ないけど」

「いえ。元はと言えば、仮眠も取らずに発掘作業をしていた二人が悪いのです。ですから、ご主人様が気にする事はありません」

「メリー、厳しい」

「ごめんなさいなの~」


 まぁ、二人とも反省しているようだし、今後は気を付ける様に言い聞かせておくか。


「それよりも・・・・・・」


 次の階層に繋がる出入口を目の前に、俺達は立ち止まっていた。

 背筋から悪寒が静電気のごとくビリビリと流れる、額から冷や水の様な冷たい汗が流れ、全身から鳥肌が立った。今まで感じる事が無かった、この感覚。

 こんな感覚を覚えると言う事は


「ショーマさん」

「あぁ。おそらく、この次は・・・・・・」


 危険察知のスキルのお陰で、この次に遭遇するであろう危険に身体全体が反応しているのだろうと思った。おそらく、次に行きつく階層は相当危険なモンスターが居ると言う事になる。それこそ、あのゾンビタイタンクラスのモンスターが。


「それでも進むんでしょ」

「あぁ」


 カナデの言う通り。それでも俺は、次の階層へと進もうと思っている。例えどんな危険が待ち受けようとも。


「危険は承知だが、それでも皆には付いて来て欲しい」


 足を踏み入れる前に皆に確認を取ったら、全員何の迷いも無く頷いてくれた。


「何処までも、ショーマさんと一緒に行きます」

「ここまで来て、今更尻込みするなんて無いでしょ」

「この身が尽きるまで、ご主人様と共に歩みます」

「サリーも~」

「ん」


 それでも一緒に来てくれる皆の思いが嬉しかった。

 オリハルコンゴーレムの時は何とかなったが、この先一人ではどうする事が出来ない事に直面するするだろう。分かっていても、心の何処かで仲間を作る事に抵抗を覚えていたのかもしれない。前の世界では、どんなに頼んでも誰も俺の味方になってくれなかった。親も、他の門下生達も、近所の人達も、同級生達も。

 でも、今はそんな俺に付いて来てくれる人達が居る。信頼できる相手が。彼女達と一緒に居れば、どんな困難でも乗り越えられる気がする。そう思うと、自然と身体を支配していた悪寒は無くなり、額から流れた冷や汗も自然と治まった。


「良し。行くぞ」


 俺の合図で、皆が俺と一緒にこの階層の出入口を潜り、次の階層へと移った。


「ここは・・・・・・」


 目の前にはサッカーグランドの3倍もの広いスペースがあり、天井もゾンビタイタンと初めて遭遇した時の階層よりも高く、だけどモンスターは1匹も存在しなかった。

 一言で言えば、ただ広いだけの何もない空間。あると言ったら、広場の中心にドス黒い大きな結晶が浮いているだけであった。だけど、その黒くて大きな結晶から今まで感じたことがない程の危機感を感じていた。


「もしかしなくてもあれが」

「はい。あれが、ダンジョンコアです。私達は、最下層へと辿り着いたのです」


 アリシアさんの確認も取れたことだし、ここが最下層で、中心にあるあの黒い結晶がダンジョンコアである事が確信した。

 だが、ただそこにあるだけのコアからただならぬ気配を感じるのは、一体どういう訳なのだろうか。


「何にしても、あれさえ破壊してしまえばすべて解決なんでしょ」


 俺が感じている様な危機感を全く感じていないカナデが、アイテムボックスから荷電魔銃を取り出して、ゾンビタイタンを粉微塵に吹き飛ばした荷電粒子砲もどきをコアに向けて放った。

 通常であれば、その一撃でコアは木端微塵に砕けてしまう。だけど、あのコアはカナデの荷電粒子砲もどきを食らってもビクともしなかった。


「ちょっとウソでしょ。何で砕けないのよ」

「くっ!」


 信じられないとばかりに目を見開いて驚くカナデをよそに、俺はハバキリに手を付けていつでも抜ける様にした。そんな俺に続いて、メリーも薙刀の鞘を抜いて構えていた。


《いくら強力な魔力砲をぶっ放しても、あのコアはビクともしないわ。直接攻撃で砕かない限りは》


 俺とメリーが臨戦態勢に入った直後、広場中にデリウスの声が響いた。おそらく、さっきの荷電粒子砲もどきに耐えた事でデリウスの憶測は確信へと変わったのだろう。口調が今まで聞いた事が無いくらいに強く、威圧感さえも感じられるくらいであった。


《いつまで黙っている気?冒険者達は騙せても、この私を欺くことは出来ないわよ。あんた、ただのコアの分際で魔族と結託して、自分自身も魔族へと変えたのでしょう》


「何!?」


 じゃあ何か!あのダンジョンコアは、魔族になってしまったというのか!だから、全身を悪寒が走り、言いようのない危機感を感じていたのか。


「フッ!フハハハハハハハハハハハハハハハ!」


 デリウスに問い詰められたことで、ダンジョンコアがついに正体を現した。コアから黒い靄の様なものが漂い、あっという間にコア全体を覆ったと思ったらすぐに靄が晴れていき、そこに身長三メートルくらいはある頭に三本の角を生やした人が姿を現した。否、あれは断じて人などではない。角があるのはもちろん、皮膚の色が毒々しい紫色をしている。そして、下顎から突き出る様に長い犬歯が生えていた。


「あれが、魔族」


《えぇ。最悪ね。まさかコアが魔族と結託して、しかも己自身も魔族になってしまうなんて。だから、通信を妨害できたのだね。折角舞い込んできた得物をみすみす逃がすわけにはいかないから》


 通信が妨害されていたのはそのせいだったのか。女神であるデリウスの念波までは、妨害できなかったみたいだけど。


「だから何だというのですか?魔王様のお陰で私はこうして自分の身体を得る事が出来て、その上戦う力までくださったのですから。ただ存在するだけで、ここまで辿り着いた冒険者達にやられるだけの存在ではもうないのです」


 おそらく、そこを魔王に付け込まれ、良いように利用されてしまったのだろう。だけど本人は、力を得た喜びに酔いしれていてそれに気付いていない。


《惨めね》


「何とでも言え。今の私を止められるものなど存在しない。例え異世界の召喚勇者であろうと!」


 完全に今の自分を過信し、心酔しきったコアは地面から二メートルを超える大剣を取り出し、片手剣みたいに軽々と振り回した。


「クソ!」


 俺はハバキリを抜き、メリーも臨戦態勢に入った。


「サリーとローリエは下がって待機!」

「はいなの~!」

「ん」

「アリシアさんとカナデはそれぞれ魔法と荷電魔銃で援護を!」

「はい!」

「任せなさい」

「メリーは俺と一緒に特攻だ!」

「承知!」

「無駄な事を!」


 俺達が特攻を仕掛ける前に、コアの方から大剣を上段に構えて襲い掛かってきた。

 それに合わせて俺も走り出し、ほぼ同じタイミングでメリーも駆け出した。襲い掛かってくる大剣を、俺はハバキリで真っ二つに両断した。これには攻撃を仕掛けたコアも驚愕した。


「貴様!それはもしや神刀!」

「あぁ!」


 これに斬られれば、魔族はひとたまりもない。それを瞬時に理解したのか、コアは一蹴りで五~六メートル下がったが、そこをすかさずメリーの薙刀が首元を捉えた。薙刀を手にした事で、これまでとは見違える程良くなっており、動きに無駄が無くなり洗礼されたものへとなった。

 だが、首を斬られたにもかかわらずコアは何事も無かったかのよう更に後方へ下がり、今度は両手に先程の大剣を持って態勢を整えた。しかも、斬られた首は元に戻っていた。


「ははは!愚かめ!そんなものでこの私を倒せると思ったか!」

「その割には随分と余裕が無さそうだがな」


 相手の弱点を瞬時に見抜く事が出来る俺は、あの一瞬でコアの弱点を見抜く事が出来た。

 だけど、そこを突くのは一筋縄ではいかない。何故なら、ここダンジョンはコアにとっては身体の中も同然。先程の様に何処からでも自在に武器を出す事が出来、腕や足はもちろん首を切り落としても瞬時に元に戻ってしまう。俺一人では、こんな奴を倒すのは難しいだろう。

 そう。俺一人では難しけど、仲間が居ればそれも不可能ではない。


「申し訳ございません。仕留め損ねました」

「いやいい。お陰であいつに勝つ方法を見つけ出す事が出来たよ。だけど、俺一人ではどうしても無理だ。手伝ってくれるか」

「何をおっしゃるのですか。わたしは何処までもご主人様と共にあります」

「サンキュウ。ちょっと耳を貸してくれ」


 メリーは少し身をかがめて、俺の言葉に猫耳を向けた。デリウスの念波が漏れている為、直接口で伝えるしかない。

 今の俺には、頼れる仲間がいる。彼女達が居れば、俺は誰にも負けない。そんな風に考えられるようになる。


「よし、行くぞ!」


次でダンジョン探索が終わります。

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