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222 魔王の最後

 念波を使ってガリアーナを倒す方法を伝えた俺は、とにかくガリアーナから危険な泥を吐き出させ続けていた。

 念波で作戦を伝えたから、元女神であるガリアーナにもその内容は伝わっている筈なのだが、負のレイキュラを取り込み過ぎた影響でヒステリー状態に陥っている為、その内容が頭に入っていない様子であった。

 同時に、先程カナデの攻撃が通じなかった理由も、攻撃を躱しながら探る事も出来た。


「ガリアーナの奴、負のレイキュラを全身に纏ってバリアーの様な物を作っていたのか」


 右腕を再生させる時、ガリアーナは負のレイキュラで攻撃力だけでなく、防御力まで上げる為にバリアーも作っていた様だ。カナデの攻撃を防ぐくらいだから、かなり高い防御力を誇っていると見た。

 あのバリアーを壊すには、絶対斬撃の能力を持った神器のハバキリでないと無理だろう。

 だが、あの泥の攻撃のせいでなかなか近づく事が出来ないでいる。近づけたとしても、足を傷つけるのが精一杯だ。


「クソ!泥を吐かせ続けたとしても、これでは!」


 このままではこちらの体力が先に尽きてしまう。そう思った時、森からこちらに向かって走ってくる何かを見つけた。森で待機するように言った桜と紅葉が、俺達に向かって走ってきた。


「あいつ等、何でここに?」


《決まってるでしょ。君と君の仲間を助ける為にだよ》


 気持ちはありがたいが、ガリアーナの攻撃を避けながら近づくのは馬であるあの二頭には負担が大きすぎる。


《そんな事は無いみたいだよ。あの二頭はオリエの町からずっと君と一緒にいるから、神宮寺美穂子と同じ様に眷属化しているみたいよ》


 眷属って、あの二頭も神になりつつあるっていうのか?その証拠に、よく見ると桜には蒼色の、紅葉には紅色の神気が纏われていた。

 確かに、あの二頭には特別な思い入れがあるし、魔物にも恐れないその強い意志のお陰でとても頼りにしているし、六頭いる馬の中でも特に大事にしている自覚はある。

 でも、まさか桜と紅葉も俺の眷属になっていたとは思っていなかった。

 そんな事を考えていると、桜と紅葉は真っ直ぐ俺の方に向かって走って行った。


「まったく、馬にするには本当に勿体なさすぎるな」


 近づいて来る桜の手綱を握り、すぐに桜へ飛び乗った。紅葉はその後についた。桜を操りながらガリアーナの攻撃を躱し、アリシアさんの所へと向かった。


「紅葉はアリシアさんの所に行って!アリシアさん!紅葉に乗って!」

「はい!」


 アリシアさんの返事と同じタイミングで、紅葉も鳴いて返事をした。すぐに紅葉はアリシアさんの所へ向かい、アリシアさんはガリアーナが後ろを向いた隙に風魔法を使って紅葉に飛び乗った。


「よし!アリシアさんはカナデを、俺は美穂子を拾う!メリーとフィアナは引き続きガリアーナの気を引いてくれ!」

「承知!」

「分かった!」


 メリーとフィアナが上手くガリアーナの気を引いている間に、俺はすぐに美穂子の手を引いて後ろに乗せた。


「ありがとうございます」

「桜と紅葉が来てくれて助かった。あのままではこっちの体力が尽きるのが早かったと思う」

「そうですね。お陰で魔法に集中できます」


 俺の背中にしがみ付いた美穂子は、金剛を天にかざしながら魔法を唱えた。


「『ハイブリッドメガヒール』」


 俺の後ろで美穂子は、旧帝国全体に人全員に回復魔法をかけた。美穂子の回復魔法は、味方の体力と傷は瞬時に回復させる事が出来、魔族や堕天した神には逆に力を奪う事が出来る。


「あああああああああああああああああああああ!何なんだ、これは!力が、奪われて!」


 当然それは魔王に対しても有効で、美穂子の回復魔法を浴びたガリアーナは突然苦しみだした。それと同時に、ガリアーナが取り込んだ負のレイキュラが靄となって体から噴き出し、半分ほど浄化されていくのが見えた。


《負のレイキュラを浄化されるなんて、成長されましたね、美穂子様》

《感動している場合ではない。負のレイキュラはまだガリアーナの体内に残っている。死の泥による攻撃は封じることは出来ても、単純な肉弾戦に持ち込まれても厄介だ》

《油断しないで。負のレイキュラが浄化されたという事は、ガリアーナの理性も少し戻っているという事だから》


「分かった!」


 確かに、ガリアーナの中にある負のレイキュラは確実に減っているのが分かる。

 その証拠に、身体のサイズがさっきの半分くらいまでに小さくなっていた。それでも、俺が一年前に戦った巨獣化したオリハルコンゴーレムと同じくらいの大きさであった。

 更に、取り除いた土を周囲に撒いて自分が少しでも戦いやすい様にした。


「まったく!よくもやってくれたな!」


 周囲に黒い神気を送り、自身の足元から土で出来た手が無数に伸ばし、俺達に向けた。


「貴様等のせいでせっかく集めた負のレイキュラが半分も失ってしまった!だが、お陰で少しは冷静になれた!逃がさないぞ!」


 ガリアーナは肉弾戦に持ち込むことなく、自身の身体を削って作った土で伸びる手を作り、その手で俺達を捕まえようとした。

 それでも捕まえられないと思うと、ガリアーナは自分の身体を更に半分削り、その土から新たな手を作って捕まえようとしてきた。


「コノヤロウ!肉弾戦はやらない気か!」

「当然だ!小僧の神器で斬られた私は終わりだからな!」

「ほほぉ」


 だったら、このまま魔法を使わせ続けるだけだ。ある程度冷静な判断は出来るようになったが、それでもガリアーナは自分が今の状況を全く理解できていない様子であった。

 このまま順調にいけば、ガリアーナを倒す事が出来る。


「どうした?逃げるので精一杯か?」

「そうですね!そろそろ反撃といきます!」


 最初に動いたのはメリーで、雷切を右手に持ち左手で龍切を抜いて構えた。動きの止まったメリーに、土の腕が一斉に襲い掛かってきた。


「帯刀流剣術・五十嵐」


 土の腕がメリーに触れる直前、メリーがいきなりガリアーナの足元に瞬間移動した。着くと同時に、ガリアーナの正面にあった土の腕が粉微塵に切り刻まれていて、固まった死の泥の上にボロボロと落ちていった。


「何ですの!?」

「やっぱスゲェな」


 皆分かっていると思うが、メリーは決して瞬間移動をしたのではなく、ガリアーナの足元まで走って行ったのである。その際、ガリアーナの正面にあった土の腕を全て切り刻んで行ったのである。本当に恐ろしいスピードである。

 これには流石のガリアーナも、驚きを隠しきれないでいた。


「やるな、メリー!じゃあ、今度は私だ!」


 メリーに驚いて動きが止まったガリアーナの背後では、フィアナが左手を天にかざして神気を混ぜた魔力を注いだ。


「『雷撃』」


 左手から電撃を放ち、土の腕に全て食らわせた。電撃を食らった土の腕は、ボロボロと崩れていった。


「まだまだ!『ライリュウ』」


 次にフィアナは雷の竜を放ち、ガリアーナに巻き付かせた。その瞬間、ガリアーナの全身を雷が覆い苦しみだした。


「あああああああああああああああああああああああああああ!」

「もっと威力を上げましょう!『レイン』」


 今度はアリシアさんが、ガリアーナの頭上に雨雲を発生させて雨を降らせた。雨に濡れた頃で、フィアナの雷魔法が更に威力を増してガリアーナを攻撃した。

 ガリアーナは苦しんでいるが、まだ足りない気がした。もっと強い攻撃を加えないと。


「来い、ディアマド!雷のブレスでお前も加勢しろ!」


 左手をかざして魔力を集中させた瞬間、エンシェントに進化したディアマドが出現して、ガリアーナに向けて雷のブレスを放った。


「あたしだっているわよ!」


 皆に触発されたカナデも、豪炎魔銃から赤黒い荷電粒子砲もどきを噴き出した。

 三方向から攻撃を食らい、更に雨で雷の威力も上げられて流石のガリアーナもかなり苦しそうにしていた。

 その間にメリーが、俺達の所へと駆け寄った。


「ショーマ様!」

「ああ。倒すなら今のうちだ」


 考えていた方法がある。

 ガリアーナは魔法を使う時、右目が赤く光る。おそらく、右目があの状態のガリアーナの弱点でもあり、あそこ大地の指輪が埋め込まれているのだ。

 そこを突けば、ガリアーナは力を失い消滅する。

 しかし、それだけでは不安があったので魔力と神力をたくさん使わせる事で再生能力を奪う必要があった。ガリアーナが再生するのは、神力を患部に集中させる事で土を引き寄せて再生させているからだ。

 堕天してしまうと、神力と魔力にも限りが出来てしまうから、両方ともそこを突く事でそれが出来ないようにさせてきた。

 美穂子の魔法のお陰で、神力の方は負のレイキュラと共に外に流出した。残った魔力も使わせれば、再びヒステリー状態のまま暴れるだけの巨人になる。


「一気にたたみ掛けるぞ!メリー、美穂子を連れてアリシアさんの所に向かってくれ」

「承知!」

「美穂子はアリシアさんとカナデと替わって紅葉に乗って俺に続いてくれ。ガリアーナの中にある残りの負のレイキュラを、根こそぎ浄化して欲しい」

「分かりましたわ!」


 美穂子が桜から降りると同時に、メリーは美穂子を抱えてすぐにアリシアさんの所へと走って行った。


「『ウィンドボム』」


 残った俺は、風魔法でガリアーナを攻撃しながら正面まで桜で走らせた。


「少し無茶させてしまうが、付いて来てくれるか?」


 桜の首をポンポンと叩くと、桜は「ヒヒィーン」と鳴いて返事をしてくれた。まるで、大丈夫だと言っているみたいであった。


「さて。俺もぶっ倒れる覚悟で全ての神気を解放するぞ」


 一旦魔法を放つのをやめて、全意識を集中させて俺の中になる神気、自分とデリウス、サラディーナとヴァルケリーの四人の神気を一気に解放して全身に纏った。

 俺とデリウスの神気はどちらも青色だが、少し淡い方がデリウスの加護に宿った神気であった。サラディーナはオレンジ色の、ヴァルケリーは朱色をしていた。

 これだけの神気を纏っているにも拘らず、俺の身体にかかる負担はそれほど大きくなかった。倒れる覚悟で解放したのだが、これなら大丈夫だ。


「お待たせしました」


 美穂子が紅葉に乗って隣に着いたタイミングで、ガリアーナは額に血管を浮き上がらせながら残った魔力を全て使って皆の攻撃を強引に振り払った。


「調子に乗るなぁ!」


 逆上したガリアーナの魔力の波動により、皆の攻撃が霧散していった。魔力の波動を受けて、何とか踏み止まっているものの怯んでいるアリシアさんとカナデとフィアナに向けて、ガリアーナは拳を振り上げて殴りかかろうとした。


「させません!」


 振り下ろされる前に、メリーが電光石火の速さでガリアーナの左のアキレス腱を雷切で斬ってバランスを崩しさせた。


「じゃあ、あたしはこっち!」


 右足は、カナデが豪炎魔銃を使って抉る様に傷つけた。

 それによってガリアーナは、立っている事が出来なくなり倒れてきた。


「そっちに倒れるな!」


 俺と美穂子の方に倒れようとするガリアーナの胸に、黒曜を持ったフィアナが強烈な一撃を加えて、強引に反対側へと仰け反らせた。


「起き上がられては面倒です!『ウィンドインパクト』」


 そこへ更にアリシアさんが上から風魔法を使い、強引にガリアーナを叩きつけた。

 そこへディアマドが、ガリアーナの肩を押さえつけて起き上がれない様にさせた。


「今だ!」

「ええ!」


 俺と美穂子は、倒れたガリアーナの上を桜と紅葉に乗って駆け上がり、美穂子を乗せた紅葉は腹の辺りで一旦止まった。


「残った負のレイキュラも浄化させます!」


 金剛を一旦納めて、十字架の神器のエルクリスに神気を注ぎ、最大級の聖魔法を放ちガリアーナの中にある負のレイキュラを全て浄化させた。

 後は右目を攻撃すれば、魔王・ガリアーナを倒す事が出来る。顔面に向けて桜を走らせると、突然ガリアーナの全身にひびが入り黒色の瘴気の様な物がドバァと噴き出し始めた。


《急いで下がりなさい!》


「ん!?」


 デリウスに言われるがまま、俺は手綱を引いて瘴気に触れないようにガリアーナから離れた。その瞬間、ガリアーナはゆっくり立ち上がり、ひび割れも修復されていった。


「ははは、今のは本当に危なかったわ。最後に毒の瘴気を出しておいたお陰で助かったわ」

「毒だと!?」


《神をも殺す事が出来る毒を体内に蓄えて、危険が迫った時に放出出来るようにしていたのよ。すまない、私のミスだわ》


「何だと」


 周りをよく見渡すと、五人と紅葉とディアマドが苦しそうにその場にうずくまっていた。あの瘴気を浴びてしまったみたいだ。


「こんな事もあろうと、毒の瘴気を体内に蓄えておいてよかったわ。魔力は枯渇しても、大地の指輪に神力を移しておいたからそっちは枯渇しないで済んだわ」

「黙れクソが」


 大切な人達に毒を浴びせた事に腹を立てた俺は、持てる全ての力を解放し、全身を覆う四色の神気が青と金の二色に変り、これまでにないくらいに大きな物へとなった。


「な、何なんだこの力は!?」

「行くぞ、桜」


 桜を走らせて、俺はガリアーナの足元まで来た。


「小癪な!」

「何もするな」


 ガリアーナが何か仕掛けて来る前に、神気を纏わせたハバキリでガリアーナの右足を踝の所から斬った。その余波で左足も同じ様に斬れた。


「なに!?」


 突然両足を失ったガリアーナはとっさに両膝を付いて、周りにある土を吸収して再生しようとした。

 その前に俺は桜から飛び、ガリアーナの身体を上半身と下半身に両断した。支えを失ったガリアーナは、顔面から落下していった。


「小僧が小癪な!」

「『煉獄』」


 すかさず俺は、未だに膝を付いている下半身に「煉獄」の黒い炎を放って完全に焼き尽くした。完全に焼き尽くしたのを確認してから、残った黒い炎をハバキリに吸収させた。


「クソ!人間風情が生意気な!」

「『マグマドラゴン』」


 起き上がって再生しようとするガリアーナの後頭部に向けて、俺は炎の竜を放ち、後頭部から大地の指輪がある右目を貫通させた。その時、炎の竜の口に咥えた右目を噛み砕かせた。


「あああああああああああああああああああああああああああ!」

「いちいち叫ぶな!」」


 自分の神器を失い、再生する事が出来なくなったガリアーナは、顔面を抑えながら見悶えだした。


「これで終わりだ!」


 そんなガリアーナに、俺は青色の神気を纏うハバキリで胴体と両腕を粉微塵に切り刻んだ。


「何故だ!何故神である私が!」

「堕天した以上、お前はもう神ではない!」

「やめろ!私には人間を滅ぼすというやらねばならない事が!」

「人間も滅ぼさせないし、この世界もお前の好きにはさせない!」

「やめろ!私はまだ!」

「終わりだ!」


「帯刀流剣術・縦一文字!」



 首だけになっても足搔こうとするガリアーナに近づき、ハバキリを上段から振り下ろし、首を真っ二つに両断してトドメを刺した。


「神である私が、人間ごときに‥‥‥」


 首を縦に真っ二つに両断されたガリアーナは、涙を浮かべながらサラサラと崩れ落ちる砂の如く消えていった。


「デリウス」


《ええ。ガリアーナは完全に消滅したわ。毒の瘴気を浴びてしまった彼女達は、神宮寺美穂子が治してくれているわ。どうやら、自力で解毒出来たみたいで、皆の毒も解毒しているわ》


「本当か?」


《ええ。もう大丈夫よ。あとは少し休ませれば完全に回復するわ》


「そうか‥‥‥」


 皆が無事だと知り、俺は神気を体内に戻し、ハバキリを鞘に納めてその場に座り込んだ。

 そんな俺に桜が近づき、労を労うみたいに顔を寄せてきた。そんな桜の顎を優しく撫でてあげた。


「ようやく終わった。これで、全ての脅威は去った」



いつもの長さに戻りましたが、これくらいが僕にとっては丁度良いと感じましたのであえてこの長さにしました。

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