22 ダンジョン探索 2
また長く書いてしまいました。
「冗談じゃないわよ‥‥‥」
姿を現したゾンビタイタンに、アリシアさんとカナデは身体をガクガクと震えていた。
(そんなにヤバい魔物なのか?)
(鑑定眼を使って、ご自身で確認してください!)
言われるまま俺は、ゾンビタイタン相手にステータスを使った。魔物やモンスターに使うのは、何気に初めてだな。興味なかったし。
『ステータス』
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名前:ゾンビタイタン
危険度:☆×50
スキル:不老不死・再生
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出来た。てか、なにこれ?星の数が多ければ多い程危険って事なの?もしそうならこのモンスター、滅茶苦茶危険じゃん!
(そういえば、ギルドの資料で見た事があったな。忘れてた)
(忘れないでください!)
えっと確かゾンビタイタンは、この世界で五本の指に入る程危険なアンデット系の魔物で、十メートルを超える巨体を持っている。
厄介なのが、切っても切ってもすぐに再生してしまう驚異的な再生力で、例え頭を吹き飛ばしてもすぐに元通りに再生してしまうとんでもない魔物である。常に尽きる事のない空腹に襲われ、視界に入る生き物は何でも食べてしまい、時にドラゴンでさえ捕食してしまう危険極まりない奴だ。
救いがあるとしたら、数が極端に少ない事と、ダンジョンの中にしか存在しないと言う事と、ダンジョン消滅と同時に消滅してしまうと言う事だろう。
だが、もし遭遇したら逃げるか、魔石を直接狙って砕かないと絶対に倒せないのだ。だが、魔石を砕いた冒険者は過去に一人もおらず、英雄として名高いユズルですら逃げるしかない程で、実は魔石なんて存在しないのではと噂されるくらいだ。
おそらく、先に進んだ他の冒険者はみんなこのモンスターに成す術も無く食われてしまったのだろう。
「こんなの、どうやって倒せって言うんだ・・・・・・」
幸い距離があり、相手の動きがのっそりとしていた為、先ずはこの魔法を試す事にした。
「『ウェルダン』」
その瞬間、ゾンビタイタンの全身を黒い炎が覆い、肉が焼けるような臭いを漂わせながら燃えていた。
敵の体の芯まで黒焦げにしてしまう、俺が作った魔法「ウェルダン」。これならいかに再生力に優れたゾンビタイタンでも、仕留められる筈だと思っていた。
だが、そんなには甘くなかった。いくら燃やしても、ゾンビタイタンは倒れる事無く、ゆっくりこちらに近づいていた。次第に炎は鎮火していき、黒焦げになったゾンビタイタンが姿を現したが、十秒もしないうちに焦げは無くなり元の姿に戻って行った。
「黒焦げにしてもダメかよ」
だが、恐ろしいまでの再生力に驚愕している暇なんてない。俺達が視界に入ったゾンビタイタンは、それまでのゆっくりとした動きからは想像が付かないくらいに素早く手を伸ばしてきた。
「クソ!」
「きゃああ!」
「わああぁ!」
幸いにも俺もアリシアさんもカナデも捕まらずに済んだが、伸ばされた手は地面に深くめり込んでいた。恐ろしい程のパワーであった。
「何処でもいい!岩陰に隠れて奴の視界から外れろ!」
俺の指示で、アリシアさんとカナデは左右にそれぞれ分かれた後、ゾンビタイタンの背後に素早く周り、適当な岩陰に身を潜めた。
ゾンビタイタンの背後に回った俺は、フレイムブレイドで急所である魔石が埋め込まれている心臓付近に炎の刃を伸ばした。
これまでたくさんの魔物を倒してきた経験から、魔石を持たないスライムを除く全ての魔物は心臓にあたる部分に魔石が埋め込まれていた。
人型のモンスターであるゾンビタイタンも、おそらくそこに魔石が埋め込まれている筈だと思った。そもそもコイツは、ただ食欲に動かされているだけで、そんな動きからでは相手の弱点を見抜くのは難しく、ほぼ直感で攻撃しているだけであった。
だが、ゾンビタイタンの心臓付近からは魔石に触れるような感覚が全く無く、ただただ肉の塊を貫通するような不快な感覚だけが手に伝わった。
「おいおいおい。ここには魔石はねぇのかよ」
素早く炎の刃を縮めて引っこ抜いた直後、ゾンビタイタンが俺に気付いて、振り返ると同時に両手を伸ばしてきた。
「クソ!」
フレイムブレイドで、襲い掛かってくる両手を切り刻もうとした。
「『ウィンドカーテン』」
直後にカーテン状の風の盾が目の前に現れ、ゾンビタイタンから俺を護ってくれた。すぐに右の岩肌に視線を向けると、アリシアさんが風魔法を使っていたのが見えた。
「助かった」
すぐに俺は左手を前に出し、魔法を発動させた。
「『ファイアショット』」
呪文を唱えた後、掌からバスケットボールサイズの火の玉が飛び出し、ゾンビタイタンの目を潰した。
出した魔法は、超初級のショット系魔法。初級魔法でも、注いだ魔力が多ければ多い程威力が増す為侮れない。王道の攻撃魔法として、魔法を使える冒険者がよく使う魔法でもある
その隙に再びゾンビタイタンの股下を潜り、もう一度背後へと回り込んだ。
「今度はここだ!」
次に炎の刃で突き刺したのは、ゾンビタイタンの後頭部、つまり脳にあたる部分だ。だが、ここの突き刺しても大した手応えが感じられなかった。
「ここもハズレかよ!」
素早く炎の刃を引き抜くと、今度は喉元を貫いたが全く手ごたえが感じられなかった。
「チキショウ!一体何処に魔石があるんだ!」
それらしい所を突いても全く手応えが無く、全身を燃やしてもすぐに元通りに戻ってしまう。他の魔法を試してみても良いが、結果は変わらないだろう。
ゾンビタイタンが再びこちらに向く前に、俺はもう一度股下を潜って背後に回り、ゾンビタイタンの視界から外れた。
考えろ!アンデット系魔物でも魔石は絶対に存在する。もう少し冷静になれ。何処かに必ず弱点となる魔石はある。他に考えられる場所は・・・・・・。
そんな事を考えている間に、背後から何かが近づいて来る気配を感じた。
「こんな時に新手のモンスターか」
ゾンビタイタンに神経を向けつつ、俺後ろを振り返りは背後より近づいて来る何かを目視した。姿を現したのは、犬耳と犬の尻尾を生やした十四歳くらいの少女と、猫の耳と猫の尻尾を生やした十六歳くらいの女と、十二歳くらいの少女であった。
あの三人には見覚えがあった。サフィラ大鉱山に向かう馬車の中で見た、心無い冒険者に買われてしまった奴隷の少女たちであった。
「あなたは隠れてください!私達でゾンビタイタンを引き付けますので!」
ゾンビタイタンの気を引く為か、大きな声を出したのは三人の中で最年長で、ボサボサの長い白髪の猫獣人の女の子であった。
「こっち。こっち。」
「まだ食べ足りないのか鈍間~!」
犬獣人の少女と、もう1人の猫獣人の少女も最年長の猫獣人の少女と一緒に大きな声を出して、ゾンビタイタンの注意を引き付けた。
「あの三人の主は」
『ステータス』
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名前:ローリエ 年齢:十五
種族:獣人(犬) 性別:女
レベル:7
MP値:1370/1800
スキル:嗅覚B 物探しC
その他:奴隷(主なし)
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名前:サリー 年齢:十二
種族:獣人(猫) 性別:女
レベル3
MP値:329/950
スキル:危険察知B 発掘技能D
その他:奴隷(主なし)
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名前:メリー 年齢:十六
種族:獣人(猫) 性別:女
レベル15
MP値:2061/3200
スキル:危険察知B 神速D 薙刀術D 棒術E
その他:奴隷(主なし)
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やはりあの三人は、あの時馬車で見た奴隷の獣人だ。主なしと言う事は、三人のご主人様はすでにゾンビタイタンに食われたのだろう。ならば助けが来るまで隠れていれば良いのに、何でわざわざゾンビタイタンの気を引く様な事をするんだ!
案の定、ゾンビタイタンの視線は三人の方へと向いた。
「わたし達が引き付けますので、三人はその間に逃げてください!」
「ご主人様の命令ですから~!」
「命令は絶対。」
そのご主人様はもうとっくに死んでいるというのに、この三人は律義にそれを守ろうとしている。前の主は一体何のつもりで、あの三人にあんな命令を出したんだ。しかも、失敗して食われて死んじゃってるし。
「あぁもう!」
だからと言って、三人を見殺しには出来ない。
「三人ともこっちに来い!カナデ!コイツに最大級の魔力砲をぶっ放せ!」
「分かった!」
岩陰に隠れていたカナデに指示を出し、俺は神速のスキルを使って三人の下へと向かい、ローリエとサリーの二人を抱えてアリシアさんの居る岩陰まで走った。
神速のスキルを持っているメリーには俺の後を付いてもらう事にした。
直後に、岩陰に居たカナデが、ゾンビタイタンに向けて最大級の荷電粒子砲もどきを荷電魔銃から撃った。馬鹿魔力を持つカナデの魔力砲は、ゾンビタイタンの全身を覆い消滅させた。この際、魔石は諦めるしかない。
それよりも
「三人とも、怪我の具合は?」
救出した三人に声をかけ、怪我の状態を確認した。三人とも大きな怪我は無いが、所々擦り傷や切り傷があった。
「アリシアさん」
「はい」
俺の意思を理解したアリシアさんが、すぐに両手を三人の獣人の少女達に向けて意識を集中させた。
「『ヒール』」
アリシアさんの両手から光の粒が放たれ、それが三人の全身を包み込んでいき、あっという間に傷が治っていった。聖魔法「ヒール」は、身体にある傷や怪我を一瞬で治す回復魔法で、アリシアさんが得意としている魔法の一つである。
「これでもう大丈夫です。消耗した体力は、ポーションを飲んで回復してください」
そう言ってアリシアさんは、ポーチ型のアイテムボックスから体力回復のポーションを出して三人に渡した。
「ショーマさんも」
「ありがとう」
ポーチから魔力回復のポーションを取り出し、それを俺に渡してくれたアリシアさん。俺はそれを受け取り、一気に飲み干した。対して獣人の少女三人は、ポーションを飲む事を躊躇っていた。
「あの、これは皆さんで飲まれた方が・・・・・・」
そう言って最年長のメリーが、ポーションをアリシアさんに返そうとしていた。それに釣られて、他の二人もポーションを返そうとした。
「あの・・・・・・」
困った表情でアリシアさんが、俺の方を向いた。おそらく、俺の指示を尊重しようとしているのだろう。
「気にせず飲め。こんな所でバテるとあっという間にモンスターの餌食だぞ」
俺からの許しを貰い、ローリエとサリーの二人は嬉しそうにポーションを一気飲みした。メリーは少し躊躇いながらも、ポーションを飲み干した。
「改めて、助けていただきありがとうございます。わたしは猫族の獣人、メリーと言います。こちらは、妹のサリーと言います」
「サリーなのです~」
ボサボサの長い白髪で、カナデよりも猫っぽい猫目でスレンダーなモデル体系をしたメリーと、姉と同じく白髪で(こちらはショート)、若干間延びした口調をした顔が姉そっくりの妹サリー。顔が似ていたから、何となく姉妹とは思っていたが。
「ローリエ。犬族の獣人」
簡素な自己紹介をしたローリエ。切れ長の目に若干丸顔、茶髪のセミロングをツインテールに結んだちょっとぼんやりした少女だ。
「ちょっとあんた達!あたしを放っておいて呑気に自己紹介をしてる場合じゃないわよ!」
頬を膨らませながらこちらに歩いて来るカナデだが、すぐ横に落ちていた二センチにも満たない小さな肉片がムクムクと動きだした。次の瞬間、あんな小さな肉片からは考えられない程の大きな腕が伸び、それがカナデの胴を掴んで捕まえた。
「きゃああああぁっ!」
カナデを捕まえた腕の根元から、ボコボコと肉の塊が飛び出し、あっという間に先程消滅させたゾンビタイタンが再生してしまった
「そんな・・・・・・」
「あんな状態から生き返るなんて・・・・・・」
アリシアさんとメリーが、驚愕の表情を浮かべながら身体を振るえさせた。サリーは姉の後ろに隠れ、ローリエはアリシアさんの後ろに隠れた。
驚くのも無理もない。あんな小さな肉片からでも、ゾンビタイタンはあっという間に再生してしまったのだ。着ていたボロ服も一緒に。恐ろしいまでの再生力だ。
「コラ離しなさいよ!離しなさい!」
捕まったカナデは、両手で何度もゾンビタイタンの手を叩くがビクともしない。荷電魔銃は、肩掛けカバン型のアイテムボックスに入れてしまったのだろう。なす術も無く、もがく事しかできないカナデ。
「カナデ様!」
「お前達はここに居ろ!俺がカナデを助ける」
「ショーマさん!一人では!」
アリシアさんの制止を振り切り、俺はゾンビタイタンへと駆けていった。今度は背後ではなく、正面に立った。
「俺の予想が正しければ、魔石はちゃんと存在する。でも、普通に攻撃しては簡単には当たらない」
先程の再生を見て俺は思った。あんな小さな肉片からでも、ゾンビタイタンは再生してしまった。しかし、逆に言えばその小さな肉片の中に核となる魔石が埋まっていたのだ。
そう、最初の心臓への攻撃で手応えが無かったのは、小さすぎて魔石に命中していなかったからなのだ。あの肉片が二センチくらいの大きさだったことから、ゾンビタイタンの魔石は大きくても一センチ程度しかないのだ。
身長が十メートル以上あるのに、魔石がたったの一センチしかないのだ、ピンポイントで狙うなんて簡単には出来ない。だから、奴に戦いを挑んだ他の冒険者はなす術も無く食われていったのだ。
だったら
「ピンポイントで狙えねぇのなら、その周囲の肉片もまとめて破壊するまでだ!」
俺はナイフを鞘に納め、両手を高く上げてゾンビタイタンに掌を向けた。
イメージしろ。狙いは、左胸全域に穴を空ける感じで。
「離せ!離せ!助けてぇ!」
ゾンビタイタンが大口を開き、今まさにカナデを食べようとしていた。だがその前に、俺の三つ目の魔法が発動した。
「『ボム』」
その瞬間、ゾンビタイタンの左胸からドンッと物凄い爆発が発生し、奴の胸に大きな風穴を開かせた。例え小さくても、埋め込まれた魔石を粉々に粉砕する程の大爆発を起こしたのだ。
三つ目の魔法、「ボム」
相手の身体の一部を爆発させる魔法で、身体に限らず地面や建物にも使う事で敵の進行を妨害する事も出来る。
魔石を失ったゾンビタイタンは、糸の切れた人形のごとく倒れていき、同時にカナデを掴んでいた手を離した。
「わああああああぁっ!」
十メートルの高さから落下するカナデに向かってジャンプし、その体を抱き寄せながら地面に着地した。衝撃吸収のスキルを持つ女神の靴のお陰で、人一人抱えた状態でも難なく着地する事が出来た。いわゆる、お姫様抱っこと言うやつだ。
「大丈夫かカナデ?」
「う、うん。ありが、とう・・・・」
珍しく頬を赤く染めて、視線を泳がせるカナデ。下ろしても何だかソワソワしており、怖い思いをした筈なのに全く取り乱した様子は無かった。
「ショーマさん!」
ゾンビタイタンが起き上がらないのを確認した後、アリシアさんが猛ダッシュで俺の胸の中に飛び込んできた。その後にメリーとサリー、ローリエの三人も駆け寄ってきた。
「カナデ様を助ける為とは言え、あまり危ない事をしないでください」
「・・・・ごめん」
何だか照れ臭かったが、心配してくれたアリシアさんの頭を撫でてあげて落ち着かせた。
「それにしてもすごいです!討伐不可能と言われているあのゾンビタイタンを倒すなんて!」
興奮した様子でメリーは、ゾンビタイタンを倒した俺を絶賛した。サリーはジャンプしてはしゃいでおり、ローリエは表情を変える事無く動かなくなったゾンビタイタンを指で突いていた。
「そ、それにしても、お兄ちゃんでさえ倒せなかったゾンビタイタンを良く倒せたわね。って言うか、魔石は本当にあったの?」
先程のソワソワした態度から一変し、急にムスッとした表情を浮かべて、いつもの口調に戻ったカナデが俺に言った。
「魔石ならあったよ。さっき再生した時に見た小さい肉片があっただろ。魔石はあの中に埋め込まれてたんだよ」
アリシアさんを一旦離した後、ゾンビタイタンが何故今まで倒せなかったのかを話した。
十メートル以上の巨体に似合わず、一センチにも満たないあまりにも小さな魔石のせいで攻撃が命中せず、結果的に誰も倒す事が出来なかった事を話した。
「確かに、そんなに小さいと魔法による攻撃でも当てるのは不可能に近いでしょう。砂浜から小麦一粒を探す様なものです。それなら確かに、誰もゾンビタイタンを倒せなかったのも頷けます」
フムフムと頷きながら、分かり易い例えも言ったメリー。おそらくこの子、分からない事は分かるまで徹底的に調べるタイプだな。
「だけど、それに気付くショーマさんはすごいです!これなら、金ランク昇格も間違いないでしょう」
「だと嬉しいけど、俺は別にこの国に仕える気なんてないし、尽くすつもりもないからな。危険があったら守るくらいはするけど」
アリシアさんはそう言ってくれるけど、カナデの兄であるユズルは金ランクに上がった事で王都に拠点を移す事になったくらいだ。
金ランクに上がると、必ず王都に行かないといけなくなってしまう。そうなるくらいなら俺は、銀ランクのままで十分だろうと思う。そもそも王様からしたら、金ランク冒険者は自然災害等の天災と同じ扱いになるみたいだし。
「いいじゃん別に。仕えていると言っても書類上のことであって、お兄ちゃんは今も自由に行動してるわよ」
「それに、金ランクに上がった方がいろいろと融通が利きますし、昇格しておいて損はないと思われます」
「言いたい事は分かるけど・・・・」
カナデとメリーは、それでも金ランクに上げる事を進めて来るが、それでもあまり気乗りしなかった。
「まぁ、嫌がる人を無理やりにって訳にもいきませんし、何よりショーマさんが自由を望むのであれば銀ランクのまま留まるのも有りだと思います」
事情を知っているアリシアさんだけは、無理に昇格を進めなかった。出来るだろうとは言ったけど、無理に昇格させる気はない様だ。
「でも、あなた様の活躍、とてもすごい」
「そうだね~。まるで一月前にクフォト王国に召喚された四人の勇者みたいなの~」
「へぇ・・・・・・そう・・・・・・」
ここに来てまだ一ヶ月弱であるにもかかわらず、クフォト王国に召喚された他の四人の勇者も順調に成果を上げており、あっという間に他の国にも伝わっているようだ。奴隷であるローリエとサリーも知ってるくらいだ。
「だけど本来は五人召喚される筈だったのに、一人全く別の場所に召喚されてしまって大騒ぎになっているわ」
「わたしもその話を聞いています。その人だけ違う所に召喚されて、最悪わたしみたいな奴隷に落とされていなければ良いですが」
「仮ニモ召喚勇者ダヨ。ソレハ大丈夫ジャナイカト思ワレマスヨ」
片言な上に、思い切り挙動不審な態度だと思う。その違う場所に召喚されたただ一人の勇者は、今あなた達の目の前にいますよ。デリウスのお陰で、青い髪の毛と青い瞳に買えてもらっているけど。
「そういえばあなた様のお名前、ショーマ様でしたよね。召喚された他の勇者様も、あなた様と似たようなお名前をされているみたいですし」
「そうだけど。俺と似たような名前の人なんていくらでもいるだろ」
そもそも、カナデやユズルだって日本人っぽい名前だろ。変な所で鋭いですね、メリーさん。
俺とアリシアさんが冷や汗をかいている中、更に最悪な面倒な事が起こった。
《ハロー♪君の女神、デリウス様ですよ♡はぁ、上級神共も面倒な仕事を押し付けちゃって、一日掛かったけどようやく終わったわよ》
「「・・・・・あれ?」」
「ちょっと何!?何この声!?」
「この辺り一帯に響いています!」
「すご~い~!何この声~!」
「なにこれ」
驚くのも当然。何故なら、デリウスの声は俺とアリシアさんの頭の中にではなく、この辺り一帯に響いているのであった。というか、外ではもうすでに一日経っていたのかよ。
《あらどうしたの二人とも。そんな顔しちゃって。というか帯刀翔馬、君は一体何処に・・・・・・》
「ちょっと待って。ショーマ、あんたまさか」
「仮名がタテワキと言う事なのでしょうか」
「まるで勇者様みたい~」
「決定的証拠」
カナデとメリー、サリーとローリエに注目され、俺はただただ固まるしかできなかった。アリシアさんも、気まずそうな顔をしているし。
《もしかして、タイミング悪かったかしら?》
悪いどころか、最悪でございますよ。この、天然マイペース駄女神。