210 龍の宝玉
青龍の突然の登場により、テロリスト達の指揮は一瞬で下がり全員捕縛する事に成功した。
その後、教皇様は王都に住んでいる人達に青龍の本当の意志を改めて伝え、もしまた過激派の団体が出たら厳しく糾弾すると同時に、それでも改めない場合は奴隷に落として鉱山に送ると宣言した。青龍だけじゃなく、教皇様も龍神教のイメージを悪くさせる行為だと言ってかなり怒っていたからな。
それでもドラゴンは全て保護すべきだとほざく連中もいたが、トウヤが青龍の姿に戻るって御告げという名の脅しをした事で納めた。というか、街中で龍の姿にならないで欲しいぞ。龍がドラゴンの倍の大きさに対し、青龍はその龍の三倍もの巨体を誇り、尻尾の長さを含めると二百メートル以上はあるぞ。
何にせよ、青龍が全て丸く解決してくれるのなら俺等が出向く必要なんてなかったのではないだろうか。
「まあ、そんな事を言わないでくれ。ショーマ殿一行が来てくれて良かったと思うし、青龍様もショーマ殿の実力を見る事が出来て良かったと言ってくださいました」
「なんか釈然としません」
その後、ディアマドと緑子はテロリスト共を地下牢へと放り込んだ後に、青龍の命で再び亡者達の対応に向かった。二人とも大変だな。
そんで俺達は今、トウヤと一緒に竜王陛下の案内で城の地下にある宝物庫まで案内されていた。今回の報酬として、そこにある宝を一人三つまで貰う事になった。テロリスト共の制圧で一つ、ドラゴンの素材の提供で二つである為、合計三つまでもらえる事になったのだ。
「素材を提供してくれた上に、テロリストの基地の制圧にも協力してくれて感謝する。好きなのを持って行ってくれ」
「ありがとうございます」
宝物庫に入ると、女性人達がそれぞれ興味のあるアクセサリーや宝石に目を輝かせていた。
俺も良さそうな物があったら、それを貰って今後に生かそうと考えた。
「とは言われても、何を貰えば良いのか」
高そうなアクセサリーや宝石はもちろん、装飾が派手な武器、金の装飾が施された鎧ならまだ良いが、いずれも自分で作った方がもっと良いのが出来る。
高そうな壺や彫刻等もいろいろあるが、どれも実践では使えなさそうな飾り物ばかりであった。やっぱり実践で使えそうなものが欲しいな。
《うわ、脳筋の発想だわ》
うるさい。皆が趣味で飾るのは構わないが、自分の部屋に意味もなく飾られるのは正直言って困るんだよ。邪魔になるだけだし、やっぱり日頃から使う物がいいな。
《まぁいいじゃない。お部屋のレイアウトの為に飾って置く物があっても良いし、訪れた人に好印象を持たせるのに効果的だよ》
そう言うもんですかね。俺にはよく分からないけど。
《それに、全部が全部ただの飾り物という訳でもないわ。目をよく凝らして探しなさい。勇者には強運が付いて回るから、もしかしたらすごく良いアイテムが置かれているかもしれないわよ》
「強運ね‥‥‥」
まぁ、確かにこういう時に良いアイテムが見つかりやすいのは勇者の恩恵みたいなものだし、オリエの町にいた時もSランクのアイテムボックスを見つけたからありがたい。だけど、今の所興味を引くものは見つからない。
難しい本は読んでもチンプンカンプンだし、そもそも何処が分からないのかすら分からないだろう。
何の魔物の物か知らない大きな魔石と、金ピカの鯱もただスペースを取るだけだろ。
発想を切り替えて、仲間の為になる物を貰うという手もあるが、せっかくの機会だから自分の為になる物が欲しいな。
宝石という手もあるが、どれもこれも大きすぎてアクセサリーに付けることが出来ない。
絵画や壺や大皿などの骨董品も置かれているが、俺は剣や刀以外にはそんなに興味が無いからな。
《それはそれでどうなのよ。結局何も欲しいものが無いという事じゃないの》
おっしゃる通り。
要は、せっかく宝物庫に来たのに戦いで使えそうな物があまり置いていないのだ。武器はたくさんあるし、本も内容が分からなければ意味がないし、置物や骨董品には全く興味が無かった。俺は一体、何を選べばいいのだ?
女性陣の方は、目的をもって選んだ物から、何の用途で使うのか全く分からない物まで幾つかチョイスしていた。
アリシアさんは、錬金術の本と、古代魔法書と、宝石生成ガイドという本に決めていた。というか、本ばかりじゃない。アリシアさんらしい。
カナデは、絶滅した超巨大魔物の大きな魔石と、レッドドラゴンの角で出来た彫刻と、昔使われていた金の鯱に決めていた。魔石と彫刻はともかく、金の鯱なんて貰ってどうする。カナデの事だから、物珍しさから選んだのだろう。
メリーは、新鮮な湧き水を出す事が出来る「水樹の苗」と、土に養分を送らせる事が出来る「恵みの宝玉」と、常に指定した温度を保つ事が出来る「火力の赤板」に決めていた。せっかくの機会なのだから、自分の為に選びなさい。メリーらしいと言えばらしいけど。
フィアナは、バスケットボールサイズのルビーとサファイアとアメジストに決めていた。見事に大きな宝石ばかりですね。フィアナって、実は結構キラキラした物が大好きだからな。
美穂子は、この世界の有名偉人が書いた絵画と、歴史を感じる貴重な壺と、美しい絵が描かれた大皿に決めていた。こちらは骨董品ばかり選びましたな。美穂子って、意外に渋い趣味をしていたのだな。
《ほらほら、まだ決まっていないのは君だけだよ》
「分かってる」
とは言え、一体何を選んだら良いものか。武器も鎧も自分で作れるし、骨董品もこれといって欲しい物は無いし、ただ置くだけの物にはやはり興味が無いし。
《寂しい男》
うっさい!
こんな事なら、素直に現金を貰うべきだっただろうか。何て、今更考えても仕方がないか。
「‥‥‥ん?」
悩んでいる俺の目に、黄金色の大きな丸い球が映った。サイズはソフトボールと同じくらいで、それが三つあった。普通に見たら金の玉に見えるのだが、俺は不思議とその玉に惹かれていた。
《おや、なかなかお目が高いわね》
デリウスがこう言っているのだから、かなりすごいアイテムなのだろうな。
「それは龍の宝玉です」
「え?」
反射的に振り返ると、笑顔を浮かべているトウヤこと人間に化けた青龍が後ろに立っていた。
「この宝玉は、私がトイース竜王国の主神に選ばれた時に、当時の竜王陛下に私が与えた贈り物だったんだ」
懐かしそうに龍の宝玉に触れながら、青龍が話してくれた。
龍の宝玉とは、ゴッドに進化した龍のみが生成する事が出来る特別な宝玉で、龍の宝とも言える宝玉であった。
青龍は、トイース竜王国の主神になり、国民の前に姿を現してこの国の繁栄を委ねた後、初代竜王にこの宝玉を三つ作って与えたのだそうだ。
この世界に危機が迫り、自分達の力ではどうする事も出来なくなった時に、これを使うと良いと告げて。
「だったら、俺がこれを持って行くのはマズイな」
「いいえ。この宝玉は、まるで導く様にあなたをここまで誘導した。これはきっと、運命だと思う」
「運命?」
「はい。龍の宝玉には――――」
「ほほぉ、ショーマ殿は龍の宝玉を選ばれたのですね」
「はい。青龍からこの宝玉の特性を聞き、是非使って欲しいと」
「貴方の先祖に与えておきながら、他所の国の者に譲渡させるようなことして、申し訳ない」
結局俺は、龍の宝玉三つを持って宝物庫から出てきたのだ。最初は驚いた竜王陛下だが、すぐに納得して頷いてくれた。
「気にしないでください。それに、神の戦士となられる勇者様に使っていただけるのでしたら、私も本望です」
「‥‥‥分かった」
申し訳なさそうに頭を下げる青龍を見て、俺は龍の宝玉を選んでしまった事に対して申し訳ない気持ちで一杯になった。そんな気持ちを抱えたまま、俺は謁見のままで戻った。龍の宝玉を持つ俺を見て、城の関係者全員から驚かれてしまった。
「何か、すごく突き刺さるような視線を感じるんだけど」
「無理もありません。ショーマさんが選んだ龍の宝玉は、トイース竜王国が建国した時から大切にされた国宝級の宝なのですから」
「「「「げ」」」」
アリシアさんの話を聞いて、他の四人の女子達も状況が読めたみたいで気まずそうにしていた。ごめんね。
この国の王家の家宝を持って行こうとしているのだから、そりゃそうだよな。
「まぁまぁ。それよりも翔馬殿、ハバキリを出してください」
「あ、ああ」
皆が見ている前で、俺はアイテムボックスからハバキリを取り出し、鞘から抜いて床に置いた。
その直後、青龍は一メートル以上もある大きな青い五角形の板を何処からか取り出した。
「それは?」
「私の鱗だ」
鱗って、青龍の鱗だとたった一枚でこんなに大きいのかよ。
「ハバキリの刃に、龍の宝玉を一つ当ててください。軽く触れるだけで構いません」
「はぁ」
言われた通り俺は、三つある龍の宝玉を一つハバキリの刃に軽く触れた。その上に、青龍が自分の鱗をコンと当てた。
その瞬間、ハバキリと龍の宝玉と青龍の鱗が光り出し、宝玉と鱗が青色の光となってハバキリの刃へと吸い込まれていった。
その光景を目にしたうちの女性陣と竜王陛下、教皇様と家臣の人達が「おお!」と声を上げていた。
しばらくすると光は治まり、ハバキリの刃に竜の鱗の様な模様が刻まれていた。
「これが、青龍が言っていた」
「はい。龍の宝玉と共に、私の力の一部がハバキリと一体になり、より強力な力を与える事が出来るのです」
そう。あの時青龍は、この事を話してくれたのだ。
龍の宝玉には、武器に素材の素となった魔物やドラゴンの力を与え、その武器に無限の力を与える事が出来き、その武器のランクをワンランク上げるアイテムだ。
言うなれば、Sランクの普通の武器を神の武器に変える事が出来る能力で、ただの刀だった蒼龍と虎鉄が神刀になるのと同じ感じ。
その力を神器に与えると、他のどの神器よりも強大な力を秘めた神器へと生まれ変わらせる事が出来るのだ。そうすれば、前回の様に素手で受け止められるという事を出来なくさせる事が出来るそうだ。
「我等の神である青龍様は、我が王家の家宝でもある龍の宝玉を使って、勇者であるタテワキ・ショーマ殿の力を与えよとおっしゃった。我が王家の家宝が、勇者殿に魔王を倒す力を与えられるのだ。これは名誉であるぞ」
竜王陛下の宣言に、先程から棘のある視線を送っていた家臣達が一斉に歓喜の声を上げた。確かに俺に渡す様に言っていたが、これは流石に大袈裟過ぎないか?
「このくらい派手にやれば、後々反発も起こりません」
ま、青龍が気にしていないのならそれも良いか。
とりあえず俺は、床に置いてあったハバキリを手に取ってみた。
「スゲェ。持っただけでもその力強さがひしひしと伝わってくる」
それでいて、今まで以上に手に馴染み、まるで自分の身体の一部の様に感じた。こんなにすごい刀が、自分専用の神器だというのがいまだに信じられない。
少し名残惜しいが、ハバキリを鞘に納め、腰に差してあった普通の刀をアイテムボックスに収納して、代わりにハバキリを差した。
「それはそうと青龍、頼みがあるんだが」
「分かっています」
俺の意図を呼んだ青龍は、自分の鱗を新たに二枚出してくれた。マジで何時何処から出したんだよ。まぁいい。
「アリシアさん、カナデ、来てくれ」
「え?」
「何?」
「こっちに来て、太陽の鏡と緑の勾玉を出してくれ」
小走りでこちらに来た二人に、それぞれ太陽の鏡と緑の勾玉を出す様に指示を出した。何となく察した二人は、アイテムボックスからそれぞれ太陽の鏡と緑の勾玉を出して俺の前に差し出した。
「まったく、現金だな」
何て言いつつも、俺は太陽の鏡と緑の勾玉にも龍の宝玉を当てて、青龍がその上に自分の鱗を当てた。光と共に鱗と宝玉が吸収され、二つの神器がその姿を変えた。
太陽の鏡は、裏面に龍の鱗の模様が描かれた緑色の鏡へと変わり、名前も「知識の鏡」と変わり、持ち主もアリシアさんとなった。
緑の勾玉は、今までよりも少し大きくなって、色も琥珀色へと変わっていった。名前も「琥珀の勾玉」へと変わり、持ち主がカナデになった。
「すごいです。今まで以上に手に馴染みます。私の魔力との相性も良くなりました」
「これが、あたしだけの神器。なんだか不思議な感じがする」
二人とも、生まれ変わった自分専用の神器をニコニコしながら眺めていた。
何故この二人を指名したかというと、この二人の持っている神器はまだ持ち主が指定されておらず、以前の持ち主のままとなっていたからであった。
メリーとフィアナは、それぞれ自分が愛用している刀と剣にアストランテとハーディーンの神器が融合し、全く新しい神器として生まれ変わり、完全にメリーとフィアナの専用神器となった。
だけど、アリシアさんが持っていた太陽の鏡も、カナデの持っていた緑の勾玉も、前の持ち主であるサラディーナとエルバーレの力に依存していた為、本当の意味でアリシアさんとカナデの物になった訳ではないのだ。
なので、龍の宝玉の力を借りて二つの神器を二人の専用神器へと変えようと思ったのだ。自分専用神器は、普通の神器よりも強力な力を秘めている上に、他のどの神器よりもその神の手に馴染むと聞いた為、二人の為に使おうと思いました。
エルバーレは完全に消滅してしまったし、サラディーナは上級神の座から下ろされるし問題ないだろう。
「ありがとうございます、これでもう魔王なんて恐れる事はありません」
「今まで以上に力が発揮でいそうだわ」
アリシアさんとカナデがニコニコ顔で喜んでいる後ろで、唇を尖らせる三つの顔があった。
「そんな顔をしても、メリーとフィアナには既に自分専用の神器があるんだから必要ないだろ」
「ですが!」
「何かズルいぞ!」
そんな顔をされても、二人には立派な専用神器があるのだから文句は無しだ。
「でしたらせめて、自分専用の神器を持っていない私を選んでもよろしかったのでは?」
「まぁ、それはおいおい」
―――そんな事言ったって、イリューシャのエルクリスを勝手に美穂子専用の神器にさせる訳にはいかないし、その内に自分専用の神器も与えられるだろう。
(随分と楽観的ですこと)
(あは、あはははははは‥‥‥)
いや、だけど本当にエルクリスを勝手に専用神器に変える訳にはいかないと思っているから、その辺は我慢してもらうしかない。
「まぁまぁ、世界神様の力を宿した勇者の眷属なのですから、そう遠くないうちに自分専用の神器を自分で生成できるようになります。そんなに焦る事はありません」
「うぅ‥‥‥まぁ、釈然としませんが、青龍様に言われては仕方がありませんわ。今はそれで妥協してあげますわ」
ナイス、青龍!まぁ、俺もちゃんとした神器を自分で作れるようになったらそれを美穂子に与えるつもりだから、それまで美穂子には我慢して待ってもらうか。
「何はともあれ、この私がここまでお膳立てしてあげたのだから、必ずガリアーナを倒してください」
「ああ」
俺達が力強く頷くと、周りにいた家臣の人達が再び歓声を上げた。彼等の期待に応える為にも、二度目のガリアーナ戦は絶対に負けられない。
次こそは必ず勝って見せる。