21 ダンジョン探索 1
異世界ものの王道、ダンジョンに入ります。いつもより少し長く書いてしまいました。
ヤンシェさんの指示で、ダンジョンの入り口がある洞窟へと入って行った俺達。
魔石と宝石に目が眩んだ冒険者パーティーが先に行き、その後ろにダンジョン攻略に真剣な冒険者パーティーが続き、最後尾に俺とアリシアさんとカナデの三人が続いた。
「前の連中、欲望丸出しだな」
「砕けたダンジョンコアだけでも金貨二百二十枚もしますし、その上魔石と宝石も取り放題、売り放題ですから」
「お金は欲しいけど、あそこまで行くとマジドン引きなんだけど」
ダンジョンモンスターの魔石だけでも、通常の魔石よりも高く換金できる上に、最難関のダンジョンコアで金貨二百二十枚。
その上、純度の高い宝石まで採掘できるのだから、今まで以上に気合が入るのは分からなくも無い。
だが、ダンジョンモンスターは地上の魔物よりも強い個体が物凄く多い。こんな調子で入られては、ここで発生したダンジョンの思う壺だ。
「ショーマさん。そろそろ入り口が見えます」
アリシアさんに言われ、前の方を向く。
洞窟の途中から剥き出しの岩肌の洞窟から、黒い光沢を放つ滑らかな岩肌へと変わっている所があった。言うなれば、洞窟の中腹辺りから全く別の空間に繋がっている様な感じであった。
「こんなに分かり易いものなのですか?」
「掘り進んでいくうちに、成長するダンジョンの一部に接触する感じなのでしょう。稀ですが、こういう事もあるのです」
「一般的には、突然訳の分からない洞窟が出来て、それがダンジョンだったというのが多いわね」
アリシアさんは丁寧に、カナデは若干呆れながら教えてくれた。二人の言葉通りならば、今回見つかったダンジョンはまだ地上に突出する前の成長途中の段階だったと言う事になる。
「ですが、成長途中と言っても中に居るモンスターいずれも強力ですし、ここが一番上の一階層だとしても最低三十二階層までもありますので、全く油断が出来ません」
小さいダンジョンでも地下三十二階もあるのかよ。しかも中はこれと言って決まったルートも無く、最下層に辿り着くのも容易ではない。
これ、絶対に一日で攻略は無理だろう。先に進んだ連中、こんな調子で本当に大丈夫なのだろうか?ヤンシェさんも仕事があると言う事で、もう帰って行ってしまった。
もし何かあれば、事前に渡されたSOS信号が送れるマジックアイテムに魔力を送れば、すぐに別動隊が救助に駆け付ける。
しかし、誰かがコアを破壊してしまったら、崩壊と共に生き埋めと言う事にならないだろうか。
「コアを失ったダンジョンは消滅し、中に入っていた人達全員は強制的にダンジョンの外へと転送されますので、もし中に取り残されても大丈夫です。そもそも、ダンジョン自体が自然ではありませんし」
「便利だね」
本当に一体何の目的で発生しているのか、全く謎。
そんな事を考えながらも、俺達三人も最後にダンジョンの中へと入って行った。入ったというよりも、相手の敷地を跨いでいくような感じであるが。
ダンジョンに入るとすぐに八又の道に当たり、先に入って行った冒険者パーティーは各々違うルートへと足を運んでいった。
「さて、いきなり道が八つに分かれてるけど、二人はどっち行きたい?」
「一番左!何となく」
「私は、ショーマさんの意見に従います」
直感で一番左をチョイスするカナデと、俺の意見に委ねるアリシアさん。
二人の意見が割れたな。それなら
「右から四番目のこの道に進もう」
「はい」
「ちょっと!あたしの意見は?」
カナデの抗議を右から左に流し、ナイフを抜いて周囲を警戒しながら選択した道を進んだ。
ちなみに何故、カナデの意見を聞き入れなかったのかというと、何となく一番左の道からは不穏な気配を感じた為であった。これも、危険察知スキルのお陰なのだろうか。そしてそのスキルは、ここでも役に立った。
「二人とも、警戒しろ。前から五匹何か近づいてくる」
俺が手に持っていたナイフを前に向けると、後ろでアリシアさんが弓を構え、カナデは魔法銃を向けた。その直後、大型犬サイズの蟻が5匹姿を現した。確か、ジャイアントアントだったな。
確か、そんなに強くないモンスターだった筈だが、何にせよ戦ってみないと分からないな。
「カナデ。まずはアイツ等に何発かぶっ放してみろ」
「分かった」
最初にカナデに攻撃させようと思ったのは、一つに魔法銃の威力をこの目で見てみたかった。
もう一つは、その攻撃でジャイアントアントにどのくらいダメージを与えられるのか、それによってどんな攻撃が最も有効なのかも見極める事も出来る。少なくとも、俺はそれだけで相手の弱点を見抜く事が出来る。
でも
「ぶっ放すわよ!」
気合十分のカナデが引き金を引くと、拳銃からは考えられない程の物凄く大きな光線?荷電粒子砲?とにかく、物凄く大きな荷電粒子砲もどきが俺の横を掠め、その先に居た五匹のジャイアントアント全てを塵にしてしまった。魔石も残らず。後ろを向くと、撃ったカナデさんは反動で尻餅をついていた。
「・・・・・・何あれ?」
「あたしに聞かないでよ。あたしはただ、アリシアさんのレクチャー通りに撃っただけだよ」
「引き金を引く際、魔力を込める様にと言ったのですが、まさかこれ程の威力とは思いませんでした」
確かに、その魔法銃ならそれも可能なのかもしれない。
カナデに渡した魔法銃の詳細はこちら↓
=========================================
名前:荷電魔銃
ランク:S
種類:魔法銃
持ち主:カナデ
能力:持ち主固定・不壊・威力調節
=========================================
持ち主欄は、カナデが使った事で自動的にカナデの持ち物となったのだ。
というのは置いといて、この中で注目して欲しいのは、威力調節である。この能力は、注いだ魔力によって威力が変化する能力だ。少なければ、鉛の弾丸と同じサイズの光の弾が飛び出し、たくさん注ぎ込むと先程の様な荷電粒子砲もどきの光線を出す事が出来るのだ。
だけど
「一匹ならともかく、五匹まとめて屠るなんて、お前一体どのくらい魔力を注いだんだ?」
「そんなに注いでないわよ。本当にほんのちょっと注いだだけだって」
「そうか」
それだけでは信用できないので、一応カナデのステータスを開いてMP値を確認した。そしたらビックリ。ほんのちょっとと言っておきながら、実際には一万も消費していた。
(一万も消費してほんのちょっとって‥‥‥)
パートナーの誓いを結んだアリシアさんにも、カナデのステータス画面が見えているみたいだ。
(まぁ、最大MP値が8950万もあるカナデにとってはちょっとなのかもしれないが・・・・)
これは正直言って予想外。普通なら百程度の消費で良いのだが、カナデはその辺の調節がやや雑で、本人にとってはちょっとでも実際には通常の百倍もの威力で放ってしまうのだろう。こんなものを連射されては、最悪町一つ消滅しかねない。
「カナデ。注ぐ魔力をもっと少なくしてくれないか。今の威力は、ドラゴンやゴーレムクラスの魔物に使うといいだろう」
「難しいこと言うね。分かった。出来るだけ抑えてみるわ」
注ぐ魔力量を減らすだけなのに、何をそんなに難しく考えているのだろうか。
(魔力を一度も使った事がありませんので、魔力の調節をうまくコントロール出来ないのでしょう。そもそもカナデ様は、自分のMP値がこんなに高いなんて知りませんので)
(まぁ、普通は知る機会なんてないからな)
大方、カナデ本人は自分の最大MP値は一万くらいだと思っているのだろう。宝の持ち腐れとは思っていたが、ここまで酷いとは思ってもいなかった。
「でしたらカナデ様。もう少し楽な気持ちで、溶き卵に塩を一つまみ加える感覚で魔力を注いでみては」
「溶き卵に塩一つまみって、あたしは甘い卵焼きが好きなんだけど」
「卵焼きの味の好みを聞いてんじゃねぇんだけど‥‥‥」
何にせよ、これで少しは威力を抑えられると思う。一万から千に、欲を言えば五百までに抑えてほしい。アリシアさんのアドバイスのお陰で、カナデは荷電魔銃に注がれる魔力も八百までに抑える事が出来た。
だが、例え少量でもカナデの魔力は非常に純度が高く、たった一発で高い甲羅を持つストーンゴーレムを一撃で撃ち倒していった。
「やっぱお前、こっちの方が向いてんじゃねぇか」
「あたしも自分で撃ってみてそう思ったわ。というか、自分の力で魔物を倒したのは人生初だよ」
最大MP値がやたら高いだけでなく、魔力の質も非常に良く、おそらく100でも装甲の堅いアイアンロブスターでも一発で仕留めてしまいそうだ。
「まぁいい。次からカナデは、俺とアリシアさんが撃ち漏らした魔物の討伐を頼む。射撃の腕も悪くなかったし」
「やってみるわ」
Fのくせに射撃の腕が意外に良かったのは本当だが、今回はそれが仇となった。狙って撃ったのか定かではないが、カナデの撃つ魔力の弾丸は全て魔石の埋め込まれている所をピンポイントで撃ち抜いてしまっているのだ。
なので、回収しようとしてもすべてバラバラ砕けてしまっていて、ギルドに提出しても銅貨どころか鉄貨一枚もしないくらいに酷かった。
(あのままカナデに任せてたら、俺達の儲けが無くなる)
(流石にそれは困ります)
金貨六百枚以上持っているが、だからと言って怠慢はよくない。きちんと稼いでいかないと、将来的に家を買った時に困る事になる。
そうして歩いていると、通路の天井と道幅が一気に広くなり、ドラゴンが一匹通れそうなくらい大きくなった。
「これってもしかして・・・・・・」
「はい。ここから物凄く危険なモンスターが出てきます」
やっぱりか。突然道が広くなると言う事は、この先からはとても大きくて強いモンスターが出てくる確率が高いと言う事になるのだな。
周囲を警戒しながら慎重に進んでいくと、目の前に牛の首と下半身、ボディーは物凄く大きな筋肉で覆われた人間の身体の、身長が五メートル以上ある人型のモンスターが、血の付いた大きな斧を持ってこちらに歩み寄ってきた。それも三匹も。
これはもしや、ファンタジー世界で定番のモンスター、ミノタウロスではないだろうか。大きさが、先程のジャイアントアントの二倍近くで、何だか一気に危険度が高くなった気がするけど。
「何にせよ。ここを突破しねぇと」
早速俺は、右手に持っているナイフに魔力を集中させて、歯の部分に炎を纏わせイメージを固めていった。
「『フレイムブレイド』」
魔法名を唱えると、ナイフを覆っていた炎は瞬く間に細長くなっていき、長さ一メートル以上ある炎の細剣が出来上がった。
「カナデは待機。アリシアさんは左に居る一匹を頼む」
「はい」
「えぇっ!?あたしは!?」
カナデの返事を待たずに、俺は真ん中と右のミノタウロス二匹に向かって走って行った。左に居たミノタウロスは、アリシアさんが放った矢が右肩に命中し、その個体の注意は完全にアリシアさんの方に向いた。
その間に俺は、まず真ん中に居たミノタウロスの斧を持つ右腕をフレイムブレイドで切断した。
ンボオオオオオオオオオオオオ!
腕を切り落とされたミノタウロスは、痛みのあまり切断面を手で押さえながら転がりまわった。
その間にもう一匹のミノタウロスの方に視線を向け、相手の斧が襲い掛かってくる前に素早く背後に回り、フレイムブレイドの刀身を伸ばして後頭部から脳を一気に貫通して絶命させた。
俺が編み出したフレイムブレイドの利点は、長さを自在に調節できるという所にあり、五メートルもあるミノタウロスの脳天にも届くようになっているのだ。
「まず一匹!」
気を休ませる事無く、俺はすぐに腕を切断されたもう一匹に左手をかざし、二つ目の魔法をイメージした。
「『ウェルダン』」
直後に二匹目のミノタウロスの全身を黒い炎が覆い、十秒後には炎は鎮火しあっという間にミノタウロスの全身は黒焦げになっていた。当然絶命している。
二つ目の魔法「ウェルダン」は、その名の通り相手を黒焦げの灰になるまで黒い炎で焼く魔法。メリットとして、相手の芯まで焼き尽くす為大抵の魔物なら一発で確実に仕留める事が出来る。
だが、その分致命的なデメリット二つもある。
一つは、言うまでも無く水中では使えない事。
二つ目は、魔法を発動させる際に相手に魔力を注がなくてはいけなく、魔力を吸収する魔物とは相性が悪く、またかなり集中しなくてはならない為その間俺自身は完全に隙だらけになる。
「完全に一対一戦専用の魔法か。確かに、デリウスの言う通りだな」
情けない事に、俺の乏しい想像力ではこれが限界であった。最初にここに来た時、最大MP値が100しかなかったのも頷ける。俺には、魔法を構築する上で必要な想像力に欠ける。その分、剣術や刀術が高いのだろうけど・・・・・・。
その頃、アリシアさんの方も矢をミノタウロスの心臓と眉間に命中し、絶命させることに成功した。
「やるじゃない」
「はい。私にも出来ました」
「てかあんた、いつの間にかタメ口になってんわよ」
「あぁ」
しまった。こういうのは第一印象が大事だと思い丁寧語を使ってきたが、仕方のない状況とはいえ先程からタメ口で言ってしまっていた。
「良いですよ。私はむしろその方が良いです。ショーマさんとの距離が縮まったみたいで、嬉しいですし」
そうやって顔を真っ赤にして、照れ臭そうに言うのは反則だ。
「ま、まぁ、アリシアさんがそう言うなら別にいいけど‥‥‥」
俺としても丁度良かったというか、最初に丁寧語を使ってから引っ込みがつかなくなり、今までずるずると引きずっていたからな。
「何照れ臭そうに言ってんのよ。意外に素直じゃないわね」
「うるせぇ」
カナデにだけは言われたくない。と言うか、コイツの場合は初対面でありながらいきなり喧嘩を吹っ掛けてきて、目上の人に対しても尊大な態度を取る等。この世界では成人していても、性格はまんま思春期の子供であった。
「そ、そんな事より、さっさと魔石を回収するぞ」
「はい」
「ちょっと待ってよ」
アリシアさんは嬉しそうに、カナデは慌てながら腰に差してあった小太刀を抜いて、アリシアさんからレクチャーを受けながら魔石を取り出していた。俺も、黒焦げにしたミノタウロスから魔石を取り出した。魔石は無事で本当に良かった。
その後もミノタウロスを初め、サイクロプス等の大型のモンスターがたくさん出てきた。
「それにしても妙だ」
「何がよ?」
モンスターを倒した後、俺はさっきからおかしな事がある事に気付いた。後ろで魔石の回収作業を行っているカナデは、意味が分からず頭に疑問符を浮かべていた。
アリシアさんは俺と同じ疑問を抱いていたのか、魔石をアイテムボックスに詰めた後険しい表情でダンジョンを見渡した。
「確かに、おかしいです」
「アリシアさんまで、何がおかしいの?」
「分からねぇのか。ここまで進んでいるのに、先に進んで行った冒険者と一人も合流してないんだぞ」
「あ!?」
ここまで言ってようやくカナデも、このおかしな状況に気付いたようだ。
そう。どのくらい進んでいるのか分からないが、ここまで誰とも合流しないというのはおかしい。モンスターは頻繁に現れているのだから、討伐中の他の冒険者と合流してもおかしくない筈。なのに、誰とも合流しないのは異常である。
サイクロプスとミノタウロスは厄介ではあったが、それでも赤ランク以上なら倒せなくもないモンスターばかりであった。
そんな状況に、アリシアさんが推測を述べた。
「考えられる可能性としては、先に進んだ方達はすでにモンスター達によって殺されてしまったと言う事でしょうか」
「ミノタウロス達に?」
「いえ。それよりももっと強い、物凄く危険なモンスターによって」
「なっ!」
ちょっと待て。この先にもっと強くて危険なモンスターが、先に進んだ冒険者達を倒したというのか。でも、さっきから道の向こうから不穏な気配を感じてはいるが、もしかしてそいつがこの道に進んだ冒険者達を殺したというのか。
「っ!?」
意識を向けた瞬間、背筋が凍り付くような感覚に襲われた。これは、非常にマズイかもしれない。
「ちょっと待ってよ。じゃあ、この先にさっきのモンスターよりも強い奴がいるっていうの」
「可能性ではあるが、アリシアさんの推測はそれで正しいと思うぞ」
危険察知スキルのお陰で、こちらに近づいて来る馬鹿デカイ何かにいち早く気付く事が出来た。
「やはり何かいるのですか?」
「あぁ、それもとんでもねぇバケモンがな」
その言葉の直後、道の先から馬鹿デカイ何かがその全貌を露わにした。
パッと見の姿形は、ボロボロの布切れの様な服を着た人間の男性に似ているが、その大きさが10メートル以上はあり皮膚は腐敗していた。更に、目は虚ろで生気が感じられず、上耳まで裂けた大きな口をしており、その口の中から人の腕が飛び出ていた。
「ゾンビタイタン・・・・・・最悪です・・・・・・」
顔を青ざめながらアリシアさんが、現れたモンスターの名前を言った。