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205 地獄の亡者達

 神気のコントロールが完璧になった俺は、スワガロ大陸の様子を窺う為ゲートで亡者による被害が特に酷いというカナンマ王国へ足運び、王都へと向かった。アリシアさん、カナデ、メリー、フィアナ、美穂子のいつもの面々と一緒に、桜と紅葉も連れて。


「酷いな。想像以上だ」


 ゲートを抜けると、雲が覆っている訳でもないのに真っ黒な空が大陸全土を覆い、日中だというのに薄暗かった。


「シンテイ大陸やエルト大陸よりも酷いぞ」

「季節によって開くゲートが違いますから、現在冬のこの大陸には地獄のゲートが開いています」


 地獄といえば確かに地獄なのかもしれない。魔物達に混じって、あの世の亡者達が地面から次々と湧いて出てきていた。

 その中には、俺達が以前会った事がある悪党の姿もあった。


「貴様、よくもこの俺の前にノコノコと!」

「あら、こんな所で会うなんて」

「貴様のせいで私は終わりのない苦痛を味わってんだぞ!」


 王都の検問所の前で、ファウーロ族の集落でフィアナを陥れようと企んだバルゴと、秋葉を唆して大規模戦争を起こそうと企んだセンティオの元王女と、ナンゴウの聖なる海域を埋め立てようと暗躍したジラガが俺達の前に立ち塞がった。

 三人ともかなり悪い事をしていた為、転生の機会も与えられず地獄に落とされていたみたいだ。


「うわぁ、俺はもう会いたくなかったぞ」

「黙れ!聞けばフィアナと婚約したらしいじゃないか!こんな女を抱くなんて、頭がおかしくなったか?」


 バルゴはフィアナに嫉妬し、自分こそが戦士長に相応しいと思い込んでいるバカだったな。というか、俺の前でフィアナを馬鹿にするなんていい度胸してんじゃねぇか。


「アナタが私を買い取ってくれなかったせいで、私があの島でどれだけ辱めと苦痛を味わったと思っているの!結局最後は過労で死んでこの有様だわ!」

「知った事か!」


 お前は秋葉と違ってまったく反省していなかったから、引き取る気になれなかったんだよ!それ以前に引き取る気なんて無かったけど。


「貴様さえ来なければ、私は新たな町を得て新しい領主になる筈だったんだぞ!それを貴様は!」

「こっちも全然反省してねぇな」


 だから三人とも地獄行きになったのだろう。というか、何でこんな連中とここで遭遇する羽目になるんだ。


「だが、ここでこの俺と会ったのが運の尽きだ!」

「今度こそ、私がこの世界の頂点に立って見せるわ!」

「亡者となった今、貴様等では私達を傷つけることは出来ない!」

「食らいなさい」


 冷めた口調で美穂子は、アイテムボックスから瓶に入った水を三人に向けてかけた。


「「「ぎゃああああああああああああああああああああああ!」」」


 その水を少し浴びただけで、三人から焼き焦げる臭いがし、身体がボロボロと崩れていった。遭遇して早々、呆気ない最後でしたな。


「流石は、ザイレン聖王国で生産されている特製の聖水ですわ。すごい効き目です」

「はぁ‥‥‥」


 確かに、亡者達にとって聖水は毒みたいな物だからな。これを食らった亡者達は、魂が消滅してしまうので存在そのものがなくなってしまうらしい。

 そうならない為にも、早い所地獄に帰った方が良いぞ。存在そのものが抹消されては、転生のチャンスすらも無いからな。それが分からない連中だから、こうして湧いて出てきているだろうけど。

 そんな亡者達を一瞥しながら、俺達はカナンマ国王に会いに行った。


「こんな大変な時にわざわざ来てくれて、申し訳ない」

「いえ、私も気になっていましたので」


 実際に目にするとかなり酷い。

 町を出ると亡者達がそこかしこに湧いて出てきて、完全に地獄と化していた。しかも、通常攻撃は効かないらしいから聖魔法を使える魔法使いと、ほんのちょっとの聖剣使いで何とかしのいでいる感じであった。


「幸いな事に町には入って来ないが、村や集落、特に集落の被害が酷い。それによって町は避難してくる難民で溢れかえっていて、逃げ遅れた人は無残姿で遺体となって発見されるから本当に困っているのです」


 町には各国の主神達が結界を張ってくれているけど、数が多すぎるため間に合わず、やむを得ず人口が多い町を優先している状況だ。


「早いとこ何とかしたいが、準備に手間取っていてな。申し訳ない」

「仕方がないです。こんな状況では」


 兵を募りたいけど、一歩町を出ると亡者達に襲われてしまう為迂闊に外を出歩けない。しかも、聖魔法は生まれた時に身につく先天的なものである為、他の属性魔法の様に訓練をして後天的に身に着けることが出来ない属性魔法だから。特に、魔人族は聖魔法の適性がないからな。


「まあ、ザイレン聖王国やウェスティラ神王国から聖水を輸入しているから、そこは何とか対処しているよ。それよりも、トイース竜王国とキョウゴ和王国へと向かって欲しい。その二つも、我が国同様に亡者共による被害が酷いんだ」

「ああぁ‥‥‥」


 スワガロ大陸の東側に存在するその二つの国は、他の四つの国の様にシンテイやエルトとの貿易が思うように進んでいない。理由は単純に距離の問題があり、船による貿易が盛んなトウラン武王国とナンゴウ海王国、そしてノースティル鉄鋼国から最も遠い。

 西側を回るという手段もあるが、あの海域は波が激しく航海が困難だからという事であまり利用されていない。

 その為、聖水の輸入が思うように進んでいない状況にあるそうだ。


「分かりました。ちょうど訪れないといけないなと思っていましたので」

「助かる。それと、馬を二頭与えよう。騎馬戦術が使えた方が、いちいち馬車を停めないで済むと思うから」

「感謝します」


 カナンマ国王への挨拶を済ませ、俺達は王都から出てすぐにアイテムボックスから馬車を出して、カナンマ国王から頂いた二頭の馬に繋げた。二頭とも赤毛で、一頭は鼻が白く、もう一頭は右後ろ脚が白かった。桜には俺が、紅葉にはメリーが騎乗した。


「またメリーに」

「私だって乗れるぞ」


 我慢しなさい。カナデが馬に乗れないし、フィアナは口ではそういっているが実際には騎乗しての戦闘はあまり得意じゃないだろ。


「バルバソードを使うから関係ないだろ」

「だとしても、馬車の警備を疎かにする訳にもいかないし、お前は騎馬での戦いになれていないだろ」


 安全第一という事で、フィアナには馬車に乗ってもらう。

 その点メリーは、何でもそつなくこなす為騎馬戦術も難なくこなせられる。


「二時間交代で行く。次はアリシアさんと美穂子だ」

「はい」

「任せてくださいまし」


 アリシアさんと美穂子は少し嬉しそうにしていた。何で?まぁいい。聖魔法が使える二人なら、剣を抜くという手間も省ける。


「んじゃ、行くぞ」

「はい」


 俺とメリーを先頭に、俺達は東のトイース竜王国へと向かった。

 王都・ゼルグアからトイース竜王国の国境検問所までは、馬でおよそ六日掛かる距離にあるが、今は地獄から亡者達が溢れ出てきている為なかなか前に進めないでいた。


「自由だ!俺達は自由になったんだ!」

「バカ野郎」

「ひゃっほう!久々に暴れられる!」

「邪魔です」


 久々の地上に舞い上がった亡者達が、次々に俺達に襲い掛かってきていた。馬車と新たに加わった二頭には、美穂子が聖魔法を掛けて亡者達から守っているが、入って来られない訳ではない。なので、フィアナがそっちの対処でてんてこ舞いであった。

 かく言う俺達も、しつこく襲い掛かってくる亡者達の対処に追われていた。まぁ、シクスカリバーとザラグラードを使えば瞬殺できるのだけど。こういう時、聖剣は物凄い力を発揮するから本当にすごい。


「にしても数が多すぎだろ」

「それだけ重い罪を犯した人がたくさんいるという事なのでしょう。ハーディーン様もさぞ苦労されていたでしょう」


 他人事のように言うメリーだが、その苦労を今度はフィアナも味わう事になるのだぞ。頭に血が上りやすいフィアナには、とてもじゃないが冥界神は務まらないと思う。恐怖で押さえつけるやり方もあるが、それだとクフォト王国やセンティオ戦王国と何も変わらない。地獄だから関係なのか?


「放っておくという手もありかな?」

「なりません。それですと罪を犯した者達を公正に裁く事が出来ません。冥界神という存在は必要なのです」

「さいで」


 そういえばアリシアさんやデリウスも言っていたな。破壊や死といった力を司る神も、何だかんだ言っても必要なのだと。その上の神である冥界神は特に。


「それにこの状況も、ハーディーン様がいて下さったらこんな事にはなりませんでした」

「それをガリアーナが消滅させた上に力を吸収したからな」

「ヨイヤオ様が代理で管理されていますが、出て来てしまった亡者を地獄に戻すには、やはりサンクチュアリを封印しなければならないそうです」

「やっぱそうなるよな」


 他にも、自然神のエルバーレがいなくなった事で生態系のバランスを保つ事が出来なくなり、海洋神のアストランテがいないと海は荒れて生き物が住めなくなってしまう。壁のせいで状況を確認できないが、クフォト王国は今かなり荒れた土地になっているそうだ。

 今は世界神様の眷属である八人のうち四人が管理している為、何とかその均衡を保つ事が出来ているが、いずれは俺のお嫁さんとなる四人が引き継がないといけない。ヴァルケリー曰く、それは早くても一万年後になるそうだ。随分長いね。


「新しい大陸神は誕生しないのだな」

「ええ。元々クフォト王国が大国になった事で新たに出来たというだけですから、本来は必要としない役職だそうです。クフォト王国が再建すればその限りではありませんが」

「それは無理だろう」


 住民は一人残さず殺されている為、レイラ一人がいても再建は不可能となる。尤も、レイラはクフォト王国が滅んでしまっても全く気にした様子もなく、むしろスッキリした様子であった。曲がりなりにも生まれ育った祖国なのに、あそこまでスッキリされても反応に困る。


「ひゃあぁはあぁ!やっと自由に慣れた!」

「ああ!これでまた戦争が出来る!」

「うえぇ‥‥‥お前もいたのかよ」


 そろそろ休憩しようという矢先に、狂気に満ちた顔で俺達を見る男達が目の前に湧いて出てきた。そのうち一人には見覚えがあった。


「ん!?お前は我が国を滅ぼした紛い物の勇者!」

「誰が紛い物だ!というか、お前の国が滅んだのはほぼ自業自得だろ!」


 その一人というのがコイツ、センティオ戦王国国王のアブソート・カウ・センティオであった。


「ほほぉ!お前がアブソートの言っていた紛い物勇者か!俺様は偉大なるイースティア大帝国皇帝のクロトア・イースティアだ!」

「あぁそう」


 長い茶髪に剣の様に鋭い目付きをした男が、俺を嘲笑う様に見下しながら言ってきた。アンタがイースティア大帝国の皇帝だったのか。死んだ後でお顔を拝見する事になるなんて。正直言って、会いたくありませんでした。


「はは!コイツが倅を殺し、我が国を滅ぼした大罪人か!」

「偉大なる我が国を滅ぼした罪、今ここで償ってもらうぞ!」

「我が国が滅びるまで何もしなかったのも罪!死を持って償え!」

「貴様のせいで、我が国は壊滅した!」

「ああぁもう!どいつもこいつも黙れ!」


 おおよその見当はついた。コイツ等は、歴代のセンティオ国王とイースティア皇帝だったのか。というか、一族全員が地獄行きだったのかよ!


「貴様が、俺様が築いた国を滅ぼした悪党か?」

「へっ!対して強そうじゃねぇじゃねぇか」


 次に前に出てきたのは、黒色のやたら豪奢な服を着たスキンヘッドの男と、赤色の軍服に似た服を着たパーマのかかった金髪のおっさんであった。


「アンタ誰?」

「偉大なるイースティア大帝国建国者、リューハン様を前にして、頭が高いな」

「俺様はジャック。百戦錬磨の大戦力を持つ大国、センティオ戦王国を建国した偉人だ」

「へぇ~」


 となるとこの二人が、二千年前のウェスティラ教皇が行った勇者召喚によって召喚された紛い物勇者で、地球で死刑を受けた犯罪者。当然ながら、勇者としての務めを放棄して、たくさんの犯罪行為を行ってきたのだから二人揃って地獄に堕ちたみたいだ。


「俺は会いたくなかったよ」

「俺等がこえぇのか?あぁ?」

「弱虫は引っ込んでるんだな」

「いや違う。お前等みたいな面倒臭い奴等と会いたくなかっただけであって、俺はお前等なんかに負ける気なんて微塵も感じない」


 というより、コイツ等からは小物臭さしか感じられない。


「ああぁ?俺等が雑魚だと言いてぇのかゴラ!」

「どうやら死にてぇらしいな。亡者になって、無限の力を手に入れた俺達に勝てると本気で思ってんのか?」


 吠えるだけは一人前だな。

 というか、こんなにたくさんの亡者達を相手にしても全く負ける気がしない。


「どうせ休憩するつもりだったから、桜達から降りて戦うぞ」

「承知」

「桜と紅葉は、馬車の方に行ってくれ」


 馬である二頭が理解しているとは思っていないけど、「ヒヒィーン」相槌を返してくれて、降りてすぐに馬車の方へと向かった。


「フィアナ。お前も手伝ってくれ」

「ああ!」


 待ってましたと言わんばかりに、フィアナは腰に提げてあったバルバソードを抜いて駆けつけてくれた。


「へっ!ガキと女だけで俺達に勝とうて言うんか?」

「随分と舐められてんじゃねか。お前等、一族の誇りに掛けてコイツ等を八つ裂きにするぞ!」

「女は生かしていっぱい遊んでやろうぜ!」

「復讐してやる!」


 あぁあぁあぁ、コイツ等ちっとも反省していないな。特に建国した二人。二千年も地獄で苦しんできたくせに、何一つ学習していない。


「先ずは俺様からだ!」


 最初に飛び込んできたのは、えっと‥‥‥名前なんだったっけ‥‥‥まぁいいや。センティオを建国した初代王が拳を向けてきた。


「死ねぇ!」

「お前が死ね」


 冷めた態度で俺は、シクスカリバーを斜めに振り上げてセンティオの初代王に当てた。


「ぎゃあああああああああああああああああああ!何だこれはぁああああああああああああああああああああああ!」


 切っ先が触れただけの一撃なのに、初代王の身体は断末魔と共にボロボロと崩れていった。流石聖剣。触れただけでアンデットや亡者には絶大な力を発揮するな。


「おお、お前一体何をした!?」

「何って、聖剣で斬っただけだ」

「貴様等は知らんだろうが、聖剣で斬られたアンデットと亡者は存在そのものが抹消されるんだ」

「魂その物を消しているのですから、存在が無くなるのは必然です」

『え?』


 それを聞いたセンティオとイースティアの歴代の王様達は、額から脂汗が滝のように流れ出ているぞ。魂だけの存在でもあんな汗をかくのだな。


「か、関係ない!数で押せば勝てる!」


 コイツは確か‥‥‥ヤバイ、名前が思い出せない。まぁいい。初代イースティア皇帝が、皆の指揮を上げる為にそんな事を言ってきた。

 それに触発されて、他の王様達が再び襲い掛かってきた。


「一分でケリをつけるか」

「遅い、四十秒だ」

「いいえ。三十秒もあれば全滅させられます」


 ハードル上げないでくれないかな、お二人さん。まぁ、いくら数が多くても所詮は烏合の衆。統率も何もない攻撃なんて怖くもなんともない。

 なので、コイツ等を全滅させるのにそんなに時間は掛からなかった。特にメリーがすごく、物凄い速さであっという間に八割以上の敵を倒していった。俺とフィアナ、要らなかったかな?そして時間も、メリーの宣言通り三十秒でケリがついた。


「また速くなったな」

「アイツ等が弱かったというのもあるが、神気に目覚めてから更に速くなったぞ」


 もはや人ではなくなっているぞ。半神になっているのだから、あながち間違いではないか。

 何にせよ、センティオとイースティアの歴代の王を全滅させた俺達は、休憩した後に先へと進んだ。



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