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204 過ち

 ミユキの葬儀を終えて、俺達はガリアーナとの最終決戦に向けて最後の調整に入っていた。俺達は現在、デリウス、ヴァルケリー、サラディーナの加護を与えてくれた三人の女神の指導の下、神気のコントロールの訓練を行っていた。


「へぇ、タケミヤとの最後の試練の後、ここまで使いこなせるようになるなんて」

「そこに、私達の加護の力も加わればガリアーナなんて恐るるに足らないわ」

「あとは、纏う神気を紙の薄さまで薄くさせれば完璧よ。翔馬様はそれに近い薄さまで薄く出来ているけど、あとの五人はもっと薄くしないとダメ」


 三人の感想はそれぞれで、サラディーナからは少し手厳しい意見が出てきた。

 現在俺の全身を覆う神気の薄さは、紙一枚には及ばないもののそれに近い薄さで纏えていた。それでも、サラディーナからしたらまだ不完全なのだそうだ。

 なので、小学生の教科書くらいの厚さの五人はかなり苦労していた。でも、俺から言わせれば十分に使いこなせていると思う。なんせ最初の頃の俺は、デリウス曰く国語辞書並みの厚さだったらしいからな。


「分かっているとは思うけど、君一人ではまだタケミヤには程遠いわ。紙一枚の薄さまでコントロール出来れば、タケミヤやガリアーナが行ったように素手で神器による攻撃を防ぐ事が出来るわ」


 あの二人が、素手でハバキリの攻撃を防げたのはそういう事だったのか。という事は、デリウスにも同じことが出来るのか。


「それを破る事が出来るのは、同じ様に神気がコントロール出来て、尚且つ専用神器を使っている神でないとね。専用神器というのは、その神の神力に合わせて作られた神器だから、普通の神器の何倍もの力を秘めているわ。タケミヤが使っていた叢雲の剣の様に」


 管理されているだけの神器と、自分専用の神器にそんな違いがあったなんて知らなかった。ヴァルケリーにも、俺が最初に鍛えた刀の一つである火車斬を自分専用の神器に作り替えた事で、今まで以上の力を出す事が出来るようになったという訳か。


「けれど、普通は専用神器なんてものは作れないものなの。ヴァルケリーは私達に匹敵する力を持っていたから出来たけど、下級神以下の神では絶対に出来ない事なの。タケミヤ達の様な、世界神様の眷属でもない限り、決して与えられるものではないの」


 そりゃそうですか。となると、専用神器を持っているのは世界神様の眷属の八人の下級神とヴァルケリーと、俺達だけという事になる。デリウスも強いのだけど、専用神器を与えられる程の位は持っていないのだな。


「私も太陽の鏡を持っていたけど、世界神様の意向でハーフエルフのお嬢ちゃんに譲渡されちゃったから、今は持っていないわ。魔王との戦いが終わった後は、上級神でも太陽神でなくなるから関係ないけど」


 今回の不祥事の責任を取る事になったサラディーナは、世界神様の命令で上級神の座から下ろされる事になった。なのにサラディーナは、そんな事全く気にした様子もなく開き直っていた。デリウスから自己保身の塊と聞いていたけど。


「それよりも、集中しなさい。同盟軍の再編が終わったらすぐに向かわないといけないだから、時間はないわ」


 サラディーナに言われて、俺達は再び神気のコントロールの訓練に戻った。

 それから何時間経ったのか分からない。心を無にして、自身の中にある神力を感じ、それを自分の意志で大きくしたり小さくさせたり、出したり引っ込めたりして。

 こうしてコントロールし、向き合う事で分かった。神力も神気も同じだと今まで思っていたが違った。

だが、違っていた。

 神力とは身体の中に存在している物で、それを自分の意志で操って外に出す事で神気へと変わる。神気は、読んで字のごとく身体から発せられる神秘の力であり、その人が持っている雰囲気であり、生命の力でもある。

 身体の内側ではなく、外に出す事で気へと変換される。だからタケミヤとガリアーナは、素手で絶対斬撃の能力を宿すハバキリの斬撃を防ぐ事が出来た。

 属性魔法の根源を理解するのと同じ、神気もその深い所まで理解する事で本当の力を発揮する事が出来る。日本から来た俺は、それを理屈っぽく考えてしまうからそこに辿り着くのが遅くなったのだ。


「良いわよ。全身を覆う神気の膜が徐々に薄くなっていっているわ。そう、神力と神気、その違いを理解して更に深い所まで理解する事で、神気はあなた達に無限の力を与えてくれる。属性魔法の根源を理解するのと何ら変わらない。それを習得する事で、神気は完璧な形で発現される」


 サラディーナの言葉が聞こえたように感じたが、集中していた俺達にはその内容が頭には入らなかった。だが、今なら分かる。これが、神気というものなのだと。

 極限まで薄くなったのを感じた所で、俺達は神気を引っ込めて目を開いた。気が付いたら、もう日が落ちていた。


「ははは、もうこんな時間になってたんだが」

「はい。ずっと集中していましたので気付きませんでした」

「そう言えば、お腹空いたわ」

「わたしも、流石にお腹が空きました」

「だけど、あんだけ神気を使ったのに全然疲れを感じない」

「ええ。まったく疲れを感じません」


 それぞれ感想を述べた後、俺達は屋敷へと帰って行った。


        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 翔馬達が屋敷へと帰って行った後、三人の女神達は神気を完璧に使いこなせるようになった六人の背中を見送りながら、不思議と感慨に更けていた。


「まさか、たった八ヶ月であそこまで完璧に使いこなせてしまうなんてね」

「ええ。これならガリアーナにも対抗できるでしょう」

「翔馬様だけでなく、あの子達の上達速度もかなり早いわね。当時の私達と同じね」


 懐かしそうに天を仰ぎ、神になる前の事を思い出していた。


「同じって、ショウランも神気のコントロールを完璧にするのに時間が掛かったのですか?」

「ええ。もう何百万年も昔になるけど、今でも鮮明に覚えているわ。伝説の神の戦士なんて呼ばれているけど、剣以外は何の取り得もなく、属性魔法は使えても才能が無きに等しく、MP値も雀の涙ほどしかなかったわ」


 そっと目を閉じ、当時に自分達の事を語るサラディーナ。


 それは、サラディーナがまだ人間だった頃。

 当時のサラディーナは、麦を栽培していた農家の娘であった。その一方で、親に内緒で魔法の訓練を日々行っていた。

 そんな平和な時は長く続かず、村が突然魔物の襲撃に遭い、サラディーナの両親も殺された。一人生き残ったサラディーナは何とか対抗するも、多勢に無勢な為あっという間に追い詰められてしまった。

 もうダメだと思った瞬間、サラディーナは彼に出会った。青色の髪をなびかせながら、青色の剣を持ってサラディーナを守り、村に侵入してきた魔物を一匹も残らず倒していった。


「大丈夫ですか?」

「え、ええ‥‥‥」


 差し伸べられた手を握った瞬間、サラディーナは胸のドキドキが止まらなくなり、胸の奥から湧き上がる感情に戸惑いながらも嬉しく思っていた。


「俺はショウラン。君は?」

「えと‥‥‥サラディーナ」


 裏表のないその笑顔、サラディーナはときめいてしまい、立ち去ろうとするショウランを引き留めて一緒に旅がしたいと言いだした。最初は渋ったショウランだが、サラディーナが粘り強く懇願した事で折れたショウランは動向を許可した。

 ショウランと一緒に旅をしながらサラディーナは、日々の魔法の練習を欠かさず、魔法や知識面で何度もショウランを助けていった。

 その後、アストランテ、エルバーレ、ハーディーンと仲間に加わっていった。三人とも不思議とショウランに惹かれていき、一緒に旅をしていくうちに五人は固い絆で結ばれ、次々に起こる試練を共に乗り越えていった。

 同時に、サラディーナの中で大きくなっていった感情が徐々に抑えが利かなくなっていった。


「ショウラン様」

「ん?」

「私はあなたを、ショウラン様の事をお慕いします」

「え?」

「愛しています、無事にこの世界を救ったら、私と結婚してください」

「サラディーナ!?」


 勇気を振り絞って告白したサラディーナ。最初は戸惑っていたショウランだったが、次第に笑顔になり頷いてくれた。

 五人が力を合わせた事で、ハルブヴィーゲを襲った危機を退け、ショウランは英雄となり、神の戦士となった。

 それから二百年後、五人は正式な神となって神界へと招き入れられた。そう思っていた。

 世界神様が、自分の後継者としてショウランが選ばれた時、自分の今の地位を下ろされる事を恐れた神からの脅迫と、ショウランに対する悪い噂を流す事で神の座を剥奪させるように仕向けた。

 結局ショウランは、神の座を奪われ神界から追い出される事となった。

 なのに、ショウランは最後まで穏やかで、サラディーナ達を置いて神界を去った。

 絶望に陥ったサラディーナは、緑色だった神気がオレンジ色に変色し、全てにおいてなんの関心も抱かなくなった。

 その後、ショウランを追い詰めた神は断罪され、神界を追放されてしまった。地上に落ちると同時に堕天して、再びハルブヴィーゲに危機が訪れてしまったが、世界神様が新たに御霊を宿した八人の眷属によって全員倒された。

 だけど、サラディーナ達の気分は晴れる事は無かった。

 それから二万年後にサラディーナ達は上級神となり、太陽神となってトウラン武王国の主神を務めるようになった。

 だけど、全てに関心を無くしたサラディーナは自己保身に走るようになり、クフォト王国が大国へと成長し、主神にエルバーレの眷属だったガリアーナが選ばれ、五人目の上級神へとなった。

 けれど、サラディーナを初めとした他の上級神達はガリアーナの事は見向きもしようとせず、彼女が苦悩している間も何のアドバイスも励ましを行わないで無関心を貫いた。

 更に、クフォト王国の暴挙と行き過ぎた反宗教思想より人間を憎む様にになったガリアーナは堕天してしまい、史上最悪の魔王へと変貌を遂げてしまった。


「今思えば、私達がもっとガリアーナと向き合っていれば、こんな大事にならなかったのかもしれない」


 今更悔やんでも仕方がない事だと分かっていても、サラディーナは自らが犯した過ちを悔やまずにはいられなかった。


「そうですね。そもそもサラディーナ様は根暗でなよなよし過ぎなのです」

「根暗でなよなよって、まぁ間違ってはいないけど‥‥‥」


 自分の眷属であるデリウスに面と向かって言われ、若干イラっときてしまったが、サラディーナはそれ以上何も言い返す事が出来なかった。


「でも、今度は違う。もし翔馬の世界神任命を反対する輩いたら、私が断罪して容赦なく消し炭にしてあげる」

「ヴァルケリーが味方に付いてくれればこっちとしても安心だし、世界神様も二度も同じ過ちを犯さないと思うわ。ま、もしそんな事が起こったら私も協力するわ」

「デリウスまで加わったら、鬼に金棒ね」


 デリウスとヴァルケリーのやり取りを聞いて、サラディーナは自然と笑みがこぼれた。


「あなた達二人に気に入られるなんて、流石はショウラン様の生まれ変わりね」

「「何か?」」

「いえ、なんでもない」


 何食わぬ顔でサラディーナは、屋敷に入って支給された個室へと入った。


「私が上級神では無くなっても、私の加護は翔馬の中で残り続ける。私の想いが届かなくても、私の想いは残り続ける」


 本当は分かっていた。翔馬が自分を選ぶわけがない、ショウランと翔馬は全くの別人なのだという事も。

 だけど、あの時は感情のままに行動してしまった。謹慎処分を受けている間に大分頭が冷えて、ショウランの生まれ変わりであっても翔馬はショウランではないと気付く事が出来た。


「でも、お陰で踏ん切りがついた。これからは、二度と同じ事が起きないように若い神達を導いてあげないと」


 不思議とサラディーナは、付き物が落ちたみたいに穏やかな表情を浮かべていた。過ちを犯してしまったのなら、それが二度と起こらないようにしなければいけない。

 それこそが、生き残った自分の新しい使命なのだ。そう思うようになった。


「その為にも、私も翔馬をサポートしないとね。それが、上級神としての私が出来る最後の使命」



        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 その頃


「魔王様、連れてきました」

「通せ」


 クフォト王国の王城だった所で、ガリアーナはたくさんの堕天した神々と共にあの男が連れて来られるのを、王が座っていた椅子に座って待っていた。

 クフォト王国は今、堕天した神々と魔族以外の種族は存在しておらず、住民は全員殺した後であった。否、一人だけ残していたのであった。衆人環視の中で罪を晒し、処刑する為に。

 手枷を付けられたその人物は、アルベールによってガリアーナの前まで連れてこられた。その人物というのは、クフォト王国元国王のナルダン・チス・クフォトであった。


「無様だな。ナルダン」

「我が国の主神様、何故偉大なる我が国を滅ぼそうと!」

「私の名前も知らないのか。ま、知っている訳がないか。今まで私の名が語られた事なんて無いのだから」


 恐怖に怯えつつも、何で自分がこんな目に遭わなければいけないのか全く理解できていないナルダンに、ガリアーナは怒りでどうかなりそうになっているのを何とか抑えていた。


「どうかこの手枷を外してください!私には、我が国が奪われた全ての土地と資源と有能な戦士を取り戻すという使命が残されています!主神様のご協力があれば、この国を本来あるべき姿を取り戻す事が出来ます!どうか!」

「神たるこの私さえも悪用しようとは、何処までも性根の腐った男だな」


 もはやこの男には何を言っても伝わらない。ガリアーナはそう判断し、立ち上がってナルダンを睨み付けた。


「聞け!この男は、私が与えた恩恵を無下にし、破壊しただけに飽き足らず、この世界の私物化を図って恐怖で支配しようと企んだ、この世界で最も卑劣で卑怯で自分勝手な史上最悪の独裁者だ!」

「違います!私こそがこの世界の王となるべく選ばれた、真に選ばれた人間!そうです、貴方様に選ばれた!」

「神の前で虚言を言うとは!」

「嘘ではありません!」

「私に嘘は通じない!貴様の醜い考えなんて全てお見通しだ!」

「はあっ!?」


 全て読まれたナルダンは絶望に打ちひしがれ、その場に膝を付いてしまった。


「更にこの男は、自分こそがこの世界の神なのだと言って国民を誑かし、世界を混乱に陥れようとした。その罪は重く、斬首刑による公開処刑を行う」

「はあっ!?」


 無常とも言えるガリアーナの判決に、ナルダンはこの世の終わりだという顔をして硬直した。

 やがて、傍にいたアルベールの剣を抜いてナルダンの首に刃を向けた。


「何故!?私はこの世界を真にあるべき姿に戻す為にずっと奮闘してきたというのに!」


(その為に、私の意に反する事をする奴は徹底的に排除していき、この世界に住んでいる愚民共が私の為に働き、私の為に全てを貢ぐ。そうして、この世界の王となる為、この世界を私の好きなように作り替えて、私の意志を全て尊重する真に平和な世界を実現する為にここまで来たのだ。それこそが、真にあるべき世界だから。なのに、何でこんな事になるのだ!)


「国を、いや、世界を私物化しようだなんて、やっぱりこんな男なんて殺すだけではダメだ。処刑した後、魂は私の神器によってこの世から完全に消滅させないといけないな」


 何処までも傲慢で自分勝手なナルダンに、ガリアーナは自身の神器のである大地の指輪で剣を作って前に出てきた。


「嫌だ嫌だ!私は、私の為の世界を作るという使命がまだ残っているのです!こんな所で死ぬことは許されていないのです!」

「往生際が悪いぞ。ガリアーナ様を苦しめた罪は非常に大きい。その命を持って償うんだな」


 ナルダンの命乞いも虚しく、アルベールの剣はナルダンの首を刎ねていった。その死体から出てきた魂を、ガリアーナが神器で作った剣で跡形もなく消滅させた。

 最後まで自分が犯した過ちを過ちと認めず、傲慢な道を進んだ愚王は自国の主神によってその命を絶たれる事となった。



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