2 神刀ハバキリ
「んん・・・・・・」
眩しい日の光に目を覚まし、俺はゆっくりと身体を起こした。
辺り一帯が何処にでもある草原であったが、肌身に感じる雰囲気と今時の日本ではお目にかかれない馬車道。
そして何より、茂みから顔を出す見た事も無い動物達が俺の住んでいた世界とは違う世界なのだという事を実感するには充分すぎた。
「って事はここ、本当に異世界なんだな」
記憶が確かなら、日直の仕事を終えて日誌を職員室へと持って行こうとした。教室を出てすぐ、足下に魔法陣が浮かび上がり光と共に刀の女神・デリウスと名乗る女性に選ばれ、魔王を倒して欲しいという事でこの世界、確かハルブヴィーゲとかいう世界に人の話も聞かずに飛ばされたんだったな。
「・・・・・・痛い、夢じゃない」
試しに自分の頬を抓ってみたが、とても痛かった。
やはりここは、異世界ハルブヴィーゲという世界なのだろう。
「来てしまったものはしょうがないが、ここは一体何処なんだ?」
見渡す限りは草ばかりで、左には馬車道らしき道があるだけの殺風景な景色であった。
「ん?」
立ち上がろうと地面に手をつくと、右手が何かに触れた。金属っぽい感触から、生き物ではないだろうと思うがい世界に来てしまった以上絶対とは言えない。
「・・・・・・何だ?」
ゆっくりと視線を向けると、そこに黄金色に輝く刀が置かれていた。
「刀?こんなの持ってたっけ」
訝しげにその刀を見つめた後、手に取ってゆっくり鞘から抜いてみた。
金ピカという点を除けば、外見は普通の日本刀。刀にしては少し長めで、反りと波紋の部分は金色で、刃の部分は鮮やかなサファイアブルーで、一見刀とは思えないくらい美しい物だった。
「そう言えば、あの女神が言っていた刀ってこれの事なのか?」
この刀を見た第一印象は、見た目だけ豪華ななまくら刀。人を斬れるとは到底思えない。確かに見事な出来栄えだが、実践的かと聞かれればちょっと微妙であった。神の武器というのはこういう物なのだろうか?
《あぁーあぁーあぁー。聞こえるかな、帯刀翔馬君》
「うわぁ!?」
突然頭の中から、あの頭のおかしい女神の声が聞こえてきた。というか、直接頭の中に話しかけないで欲しい。
《そんなに驚かなくてもいいだろ。こうする事で顕現出来なくても陰ながら君の事をサポート出来るのだから》
ほほぉ。それは非常に助かる。ちょうど何をしたら良いのか分からなかったところだし。
《あと、この状態だと君の考えは私に筒抜けだから先程頭のおかしい女神と思った事もバレバレだよ♪》
思考まで読まれるなんて、物凄く迷惑だ。
《だからもし、この私に対してエッチな妄想をしてもすぐにバレるわよ》
そんな妄想なんてしてないって。お前相手に。
「それよりも、そっちは大丈夫だったんか?」
《あ、わざわざ口に出さなくてもいいよ。誰かに聞かれたらイタイ人だと思われるわよ》
頭で考えるだけでいいのなら早く言え!
《まぁまぁ。向こうも無事にクフォト王国という国へと召喚を終えたよ。名目上、私のミスで全く違う場所に召喚されてしまったと知った時、向こうは大騒ぎだったわ》
そりゃ騒ぐでしょう。召喚されるべき勇者五人のうち一人が、全く違う場所に召喚されたとなれば。
あと、儀式を行っていた国はクフォト王国という所なんだな。
《その上他の女神達からも滅茶苦茶怒られたわ。覚悟していたとはいえ、正直キツかった》
俺が眠っていた間にそんな事が起こってたんだな。
《城では行方不明になった君を探しに、救助部隊が編成されているわ。私達の方は、召喚した勇者にしか就く事が出来ず、関わっていない他の女神もこれ以上は干渉しないみたいだからとりあえず安心して》
それ、本当に安心していいのだろうか?クフォト王国からは、俺を探すための部隊が動いているのに。
それにしても、他の勇者も俺みたいにそれぞれ担当の女神と頭の中で交信してるんだな。まぁ、俺としてはこの交信が他の女神達にバレないかどうかが心配だけど。
《それは私が気を付ける事なんだけどね》
そうですか‥‥‥‥‥‥。
《あぁそうそう。私からのプレゼントは気に入ってくれたかな》
「プレゼント?あぁ、この金の刀の事か」
目覚めた時に、俺のすぐ隣にあった金とサファイアの様な物で出来たこの刀。やっぱり、神器か何かだったんだな。
《それは私が趣味で鍛えた刀の中では渾身の出来なの。それこそ、正式に神器として認められている物と遜色ないくらいに》
「ちょっと待て!じゃあこれは正式な神器ではないというのか!」
《私が趣味で作った物の一つ。そのせいか、正式な神器として認められないのよ。信じられる!》
そんなの知るか!てか、それ神器じゃなくてあんたのコレクションみたいなもんじゃん!
《まぁでも、それが物凄く良い刀だというのは間違いなし、何より私の力をこれでもかと言わんばかりに注ぎ込んだから、そんじょそこ等の剣や刀とは比べ物にはならないから期待してて》
「んん‥‥‥」
ま、そこまで言われれば期待するさ。
《あと、せっかくだからその刀に名前でも付けてあげて。これから君の相棒となる刀なのだから、名前を付けてあげないと》
「そうだな‥‥‥」
見た目が金ピカの刀で、刀身は金とサファイアを融合させた感じになっている。だけど、見るもの全てを惹き付ける何かがあり、サファイアブルーに輝く刃が日の光に反射して神々しく輝いている。パッと見は最初に見た時の通り、華奢なだけのなまくらに見えるが。
《なまくらって酷いわ。これでも他の女神達との模擬戦でも使ってみたけど、折れたりヒビが入ったり刃毀れした事もないよく斬れる業物だよ。鍛えた私が言うのもなんだけど》
女神同士の模擬戦でも、その力を遺憾なく発揮した。それなら確かに、正式な神器と言ってもいいレベルと言っても良いだろう。それならば、神話にまつわる名前が良いな。
叢雲
いや、これは直剣って感じではない。浅いけど反りはあるし、刃も片方にしかない正真正銘の刀。
エクスカリバー
そのネーミングは完全に厨二臭いぞ!だからこれは刀だって!
童子切安綱
いや、それは神刀ではなく妖刀だから。
やはりこの刀らしい名前を付けたい。黄金色で、刀にしては長めの刀身。
長めの‥‥‥
「ハバキリ。ハバキリっていうのはどうだ」
《ハバキリか。君の住んでいた世界の神話で、八岐大蛇を退治した時に使われた長剣、天羽々斬から取った名前か。いいね。私も気に入ったわ》
「よく知ってるな。ま、その通りだけど」
《それじゃ君の相棒、ハバキリを大切にしてね》
「あぁ」
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名前:ハバキリ
ランク:S
種類:神刀
持ち主:帯刀翔馬
能力:不壊・持ち主固定・絶対斬撃・魔力吸収・盗難防止
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何か目の前に突然こんなのが表示された。