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188 神鉄の刀

「ああぁ‥‥‥よく寝た!」


 昨日までずっと工房に籠りっきりだったから、肩やら腰やらいろんな所が凝ってしまって堪らん。


《うわ、爺臭!》


「うるせ」


 腰には、虎鉄と緑鉄と海鉄を差し、朝稽古の為に広場へと向かった。広場には、メリーとフィアナが既に美穂子に稽古をつけていた。


「おはよう、三人とも」

「おはようございます」

「遅いぞ」

「ワリィ」


 俺が挨拶をした瞬間、稽古をしていたメリーとフィアナと美穂子が、小走りで俺の所へと駆け寄った。


「寝坊してしまった」

「仕方がありません。ずっと聖武器の制作をされていたのですから」

「翔馬から貰ったこれ、すごく良いぞ」


 二人とも、俺から貰った聖武器に手を添えて満足そうに微笑んでいた。


「使ってみて違和感とかなかったか?」

「問題ありません。ご主人様から頂いた滝切に、何ら不具合はありません」

「そうか」


 メリーにあげた赤色の刀の聖武器、滝切を抜いて見せてくれた。何故滝切という名前になったのかというと、試し切りを行う際に滝を縦に真っ二つに切ってしまった事からそう命名された。赤色の刀なのに、名前が滝切なのかというツッコミはなしで。

 能力は全て同じだが、刀身には竜が描かれているのが滝切の最大の特徴。アリシアさんに指導してもらいなら、何とか出来上がった。


「軽すぎるのが難点だが、概ね問題なしだ」

「そりゃ、フィアナにとってアメジストは軽すぎるだろけど」


 フィアナに与えた紫色の直剣型の聖武器は、紫色の刀身という事で紫色の宝石からアメジストと命名した。こちらも全く同じ能力であるが、刀身に稲妻模様が刻まれているのが最大の特徴だ。

 三人には聖武器の事は既に話してあり、それが聖剣でも何でもないタダの剣と刀であっても納得してくれていた。

 それでも、とてもいい剣と刀が手に入ったと言ってとても喜んでくれていた。

 そんな事を考えていた丁度その時に、シュウラが奥さんのユニさんも連れて来ていた。その手には、見た事も無い刀が握られていた。

 何か焦った様子で、スタスタとこっちに来ていた。


「翔馬殿」

「おはよう、ショウラ」

「おはよう。来て早々申し訳ありませんが、翔馬殿に見て欲しいものがあるのです」

「はあ‥‥‥」


 そう言うとシュウラは、手に持っていた刀を俺に差し出してきた。メリーとフィアナと美穂子も、それぞれ聖武器を鞘に納めて興味深そうにその刀を眺めた。

 パッと見は普通の刀と変わらないが、手に持った瞬間に何かこの世の物とは思えない何かを感じた。


「抜いてみても?」

「構いません」


 許しを得た俺は、刀をゆっくり鞘から抜いてみた。そして、刀身を見て驚いた。


「何で‥‥‥」


 刀身は黄金色をしていて、遠目で見るとゴールドアイアンかと思うけど、よく見ると全然違う。でも俺は、これが何なのかすぐに分かった。何故なら、これと同じ素材で鍛えられた刀を俺も持っているから。メリーとフィアナも気付いたみたいで、顔を顰めていた。


「これを何処で?」

「ナンゴウの中腹部に根城を構えている盗賊共が持っていました。キリカ殿がその内の一人を斬り殺し、ソイツから奪った物です。ただならぬものを感じて女王陛下に見せてみたら、やはり同じものを感じたらしいのです。それで、重鎮達の反対を押し切って父に送られ、翔馬殿に渡して欲しいと。翔馬殿なら何かご存知ではないかと思い」

「これを盗賊共が持っていたって!?」


 よりにもよって、盗賊共が持っているだなんて。これの存在が世に知れ渡ったら、大変な事が起こる。それを昨夜デリウスとしたばかりだというのに。


「デリウス」


《いいえ。確かめてみたけど、一つも減っていなかった。どうしても気になるのなら、後で自分でも確かめに行ってみると良いわ》


「デリウス様もご存知なのですか?」


 シュウラは俺とバディーの誓いを結んだ為、彼にもデリウスの声が聞こえていた。一方で誓いを結んでいないユニは、キョトンとした顔で首をかしげていた。


《ええ。これは私達の世界でしか取れない金属、神鉄だわ》


「やはり神鉄か」


 そう。この刀の素材となっている神鉄は、古代樹の森の工房にもあった物で、俺のハバキリにも使われている物だったからだ。

 神鉄とは、神界でしか取れない神の力が宿った鉄で、その力は色付きアイアンでさえ凌駕すると言われている程だ。更にこの神鉄、タケミヤが持つ叢雲の剣を除く全ての神器の材料にも使われている為、神界ではありふれた素材ながらもその価値はかなり高い。


《補足すると、造られた物全てが神気になる訳ではないわ。その中から特に強い力を持っているのはもちろん、いろいろな基準をクリアしていった僅か一握りの物が神器となるの》


 そうだったな。でなきゃ、ハバキリだってとっくに神器になっているよな。


「そんな物が何故?」

「分からない。デリウスも何処から持ち込まれたのか分からないって言っていたし」


 ま、そこから先は聞かなくても何となくわかる。大方、トウラン国王陛下からこの刀の出所を探ることと、刀の回収及び破壊を依頼する為に来たのだろ。

 その事を聞くと、シュウラは少し重苦しい表情をしていた。


「確かにそれもありますけど、それ以上に厄介な事が起ころうとしているのです」

「厄介な事?」


 苦しい表情をするシュウラに変わって、王太子妃のユニさんが答えてくれた。


「実は、この刀の存在がクフォト王国にまで伝わってしまったのです」

「「「「なっ!?」」」」


 自体は俺が思っていたよりもかなり深刻であった。

 クフォト王国が、神鉄で出来たこの刀の存在を知ったら、どんな手を使ってでも手に入れようとする。


《だったらモタモタしている場合ではないわ!これがクフォト王国の手に渡ったら、世界規模の脅威になりかねないわ!魔王どころではなくなるわ!》


 デリウスが焦るのも無理もない。

 あの国がこの刀を手に入れると、更なる領土拡大の為に戦争を仕掛けようとする。勇者を政治と権力の象徴に利用しているくらいだから。だからシュウラは、重苦しい表情をしていたのだな。


「すぐに準備します」

「感謝します。謝礼の方は‥‥‥」

「いえ、この刀を全てこちらが頂くのですから、報酬はそれで十分です。それに、これは人の手に渡って良いものではない。デリウスからも、何としても回収して処分すべきだと言っていた」


 いかに神鉄で出来たこの刀でも、同じ神鉄で出来て、しかも絶対斬撃の能力が付与されたハバキリなら破壊する事が可能だと言っていた。そもそも、神器で絶対斬撃の能力を有しているのはハバキリだけだ。


「では、王城までお願いします。城のゲートからオエドに行って、そこからトコサワ村まで行って欲しい」

「向こうに着いたら、キリカ様と水島様とエフィア様も同行すると言っていました」

「そうか」


 キリカと水島とエフィアも一緒に来てくれるのなら、これはかなり心強い。

 それなら、すぐにでも出発しないといけない。


「メリーはすぐに馬と馬車の準備を。馬は桜と紅葉が良いだろう」

「承知」

「フィアナはアリシアさんとカナデにも、すぐに準備するように伝えてくれ。俺は水と食料の準備をする」

「分かった」

「美穂子も一緒に来てくれ」

「分かりました、すぐに準備いたしますわ」


 事は急を要する為、俺達は大急ぎで出発の準備を進めた。例の如く、メイド達が連れて行ってと訴えてきたが、今回はのんびり旅をするわけではないので全員仲良くお留守番をしてもらう事にした。我慢して欲しい。

 水と食料の準備を終えた俺は、自分が使用する刀をアイテムボックスに全て入れた。

 全ての準備が整い、アリシアさんとカナデも馬車に乗り込んでいた。


「では、早く来てください。クフォト王国よりも先に、その武器を回収して破壊しなければなりません」

「俺もそう思う。あの刀は、人が使っても良い物ではない」


 シュウラとユニさんが乗る馬車の後を、俺達の馬車が続いた。今回の同行メンバーは、アリシアさん、カナデ、メリー、フィアナ、美穂子の五人。美穂子の方も、ザイレン教皇にしばらく帰れないと言っていた為、今回の動向も何ら問題はないそうだ。


「まさか、神器の材料となった鉄がこの世界に降りて、それも盗賊達の手に渡っていたなんて」

「俺だって信じられないさ」

「とにかく、その刀をもう一度見せてもらってもよろしいでしょうか?」

「ああ」


 美穂子にも改めて見てもらう為、俺はアイテムボックスからその刀を取り出して渡した。


「抜いてみてもいいですか?」

「ああ」


 刀を鞘から抜いてみた美穂子は、黄金色に輝くその刀身を見て少し眉を潜めた。


「確かに、すごい力を秘めていますが、改めて拝見いたしますと造りが少し荒いですわね。翔馬さんが作った刀とは雲泥の差です。こんななまくら刀では、私の心は動きません。最初見た時、すごいと思ってしまった私が恥ずかしいですわ」

「ははは‥‥‥」


 そのような評価を頂けるのは少々恥ずかしいですが、造りが荒いのは確かである。そもそも、人間が加工できるような代物ではないから、無理矢理刀として鍛え上げた結果そうなったのだろうと思う。

 粗悪品でも、ここまで鍛え上げるなんてすごいな。


「けれど、こんなお粗末なものでも、クフォト王国の手に渡ってしまったら、世界規模の脅威になりかねないです。念波でガリウムさんに確認しましたけど、日比島君達三人がこの刀の押収に向かったそうです」


 よりにもよってあの三人が来るのかよ!

 最初はガリウムが向かうように言われたが、上手く言い訳をしたお陰で何とか行かずに済んだ。その代りにあの三人が行く事になったのか。

 刀のチェックを終えた美穂子は、鞘に納めてすぐに俺に返した。


「例えなまくらでも、こんな物を世に出回らせる訳にはいきませんわ」

「そうだな。特に今のあの三人の手に渡る訳には」


 返してもらった刀をアイテムボックスにしまい、デリウスに初歩的な疑問をぶつけた。


「なぁデリウス、そもそも一体どうやって神鉄を手に入れたんだと思う?」


《仮定の話だけど、隕石と一緒に地上に降りたというのがあるわ。極稀に隕石となって地上に落ちる事があるのよ》

《ですが、その場合ただの隕石として扱われますので、武器として加工される事はありません》


 確かに、加工前の神鉄って石炭の様に真っ黒だからパッと見それが、神界から落ちてきた神の鉄だなんて思わないよな。

 でもそれは、一万年に一度起きるかどうかというかなり低い確率であって、落ちたとしても大半が大気圏で燃えて殆ど残らないそうだ。


《もう一つ考えられるのは、誰かが意図的に持ち込んで加工のしかたを教えたか》

《神鉄は、わたくし達の世界ではありふれた鉄ですので、手に入れようと思えば誰でも容易に入手する事が出来ます。神器になるのはごく僅かですが、人間にとっては十分な脅威になります》


 神器にならないと言っても、神剣や神刀になるから地上の人達にとっては十分な脅威になる。事実、この刀も神刀と分類されている。


《神刀や神剣になると、普通の武器では対抗できないし、通常の魔法さえも寄せ付けない。全てに魔力吸収の能力が就く訳ではないけど、リィーシャクラスの魔法使いの魔法でない限りは打ち破ることは出来ない》

《まさに、人類にとって脅威となりうる武器です》


「チキショウ!神刀がこんなに厄介だったなんて」


 今まで俺達しか使ったことがなかったが、神刀と神剣って実はかなり厄介な武器だったのだな。


「関係ない。私達には翔馬が作った剣と刀がある。神刀であっても、翔馬が作った剣や刀には敵わない」

自身に満ちた表情で、フィアナが腰に提げてあった聖武器アメジストに手を添えて言った。

「そうね。それに、あたし達には聖武器があるから」


 ホルスターから黄色い魔法銃、拳銃型の聖武器の天宝魔銃を取り出して俺達に見せるカナデ。ネーミングセンスについて聞くのはやめて欲しい。パッと頭に思い浮かんだのがそれなんだから。


「そうですね。これがあれば、恐れるものなんてありません」


 美穂子も、腰に提げてあった橙色の聖武器、金剛に手を添えて言った。名前の引き出しがあまりなかったから、戦艦の名前を使ってしまった。美穂子からも突っ込まれました。


「ただ、次に私の剣を作る時はせめて三笠や赤城、陸奥や生駒あたりにして欲しいですわね。瑞鶴や長門もありですわ」

「それ、美穂子の好きな戦艦じゃないだろうな」


 というか、戦艦の種類もバラバラじゃねぇか。ちなみに俺は、武蔵が好きだ。

 アリシアさんも、腰に提げてある新しい聖武器のベガに手を添えた。星の名前をそのまま付けてしまったが、この世界にはそんな知識はないから問題ないよな。


「まさか、お星さまの名前を付けてくださるとは思いませんでした」


 知っていました。


《ちなみに広めたのは、羽賀高政だったりする》


 羽賀さん、またですか。

 まぁいい。魔法主体のアリシアさんも、剣を使う事があるから持っていても損はないだろう。

 それに、魔法をも超えるアリシアさんの最大の武器は膨大な知識。皆が知らないような事も知っていて、俺達は事前に対策を立てて行動を起こす事が出来るのだ。

 知識のアリシアさん、魔力のカナデ、スピードのメリー、パワーのフィアナ、回復の美穂子。

 この五人が揃えば、どんな相手であろうと恐れる事は無い。


「ご主人様。城に到着しました」

「おう。じゃ、一旦馬車から降りるぞ」


 馬車をアイテムボックスに収納し、桜と紅葉をメリーが引いて王城の地下にあるゲートからナンゴウの王城へと移動した。


「よく来てくれた。此度の依頼には、うちからキリカ殿と水島殿とエフィア殿にも同行させて欲しいのじゃ」

「よろしく頼むでござる」

「お前と一緒に行動するのは初めてだな」

「クフォト王国よりも早く目的の物を抑えないといけませんね」


 礼儀正しく頭を下げるキリカと、相変わらずぶっきらぼうな態度を取る水島と、初の大きな依頼で少し気合の入っているエフィア。

 金ランクと勇者とその従者も加われば、今回の依頼あの三人に後れを取ることは決してないと確信できる。


「こちらこそ、ありがとうございます」


 三人と固い握手を交わしながら、俺達は女王への挨拶もそこそこにすぐに目的地のトコサワ村へと向かうよう女王に言われた。



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