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181 避けられない面倒事

 馬泥棒(正確には違う)の遭遇には参ったが、俺達は目的地である王都・エデルに到着した。街並みは、中世ヨーロッパとバンコクが合わさったような感じであった。

 カナンマ王国同様、エトウス国王陛下から事前に聞かされたお陰ですんなり王城に入ることが出来た。王城には、俺と神宮寺の二人が向かう事になった。


「よく来た。待っていたぞ」


 王が座る玉座に、ノースリーブの茶色い服の上にマントを纏った、バキバキの筋肉を持ったゴリマッチョな男性が座っていた。この人が、クミナミ鳥王国国王のアラムス・シュバ・クミナミか。


「お初にお目にかかります。トウラン武王国から参りました、帯刀翔馬と言います」

「ザイレン聖王国より参りました、神宮寺美穂子と申します」

「うむ、二人の勇者に会えて、私こそ光栄だ」


 二メートル近い長身のクミナミ国王が近づき、握手を求めてきたがゴルディオ並みのマッチョな筋肉に俺は内心辟易としていた。手が滅茶苦茶大きかった。

 神宮寺もおっかなびっくりと言った感じで、クミナミ国王陛下と握手を交わした。

 それにしても、二メートルの長身にバキバキの筋肉、割れた顎、人気漫画のスナイパーの様な目と眉、鷲鼻、完全にゴルディオの特徴と一致しているぞ。まさか、ゴルディオの行き別れた親父さんじゃないだろうだろうな。


《残念ながら赤の他人でした。でも、親子を疑うレベルでそっくりだね。私も正直ビックリした》


 確かに、ゴルディオが男になったみたいな感じがするよな。と言っても、ゴルディオもステータスを見なかったら絶対に男と思うがな。しかも声も、ゴルディオの声を更に低く野太くさせたみたいな感じであった。


「ところで、馬を引いて来られたと聞きましたが、何か問題が起こりませんでしたか‥‥‥?」


 気マズそうな顔で俺に尋ねるクミナミ国王。もしかして、馬泥棒の事を気にかけているのだろうか?


「え、えぇ。五人の賊に馬を取られそうになりましたが、撃退した後に近くの村の憲兵に引き渡しました」

「やはりそうか。申し訳ない。もっと取り締まりを強化せねばな」


 どうやら、馬泥棒に遭遇するかもと心配していたみたいだ。これは相当気に病んでいるな。


「動物愛護を訴えるの結構だし、それが我が国の国民性というものだ。しかし、だからと言って家畜や馬を野に放っても苦しむのは自分達だというのに」


 国王の方はその辺はきちんと弁えているみたいだが、そう思わない連中が問題を起こして混乱を呼んでいるのは事実。ほぼ毎日、そう言った連中と揉めているのだろうな。


「まったく嘆かわしい事だ」

「国王陛下が気にする事はありません」

「そうは言っていられません。我が国で生産される牛と豚の肉は、我が国の貴重なブランド品でな、この大陸の国の人達にも人気が高いから非常に困っているのじゃ」

「それは‥‥‥」


 それは確かに死活問題だな。

 国王としては、何としてもそういう連中を取り締まらないといけないよな。家畜に手を出されると、クミナミの国益にも大きく影響してしまうもんな。


「おぉ、気負わないでくれ。これは我が国が何とかせねばならない問題だから、ショーマ殿のお手を煩わせる訳にはいきません」

「そうですか」


 それは良かった。ここでも面倒な依頼を受けるのは、勘弁してもらいたいからな。そんな連中って、大抵は話の通じない人が多いのだから、出来れば関わり合いにはなりたくないのだよな。うん、助かる。


「だが、そなたでないと出来ない頼みもあるのも事実」


 って、あるんかい!さっきまでの安心感を返せ!


「実は、ここから東に進んだ先にあるエレカ村の近くにある二つの山に凶暴な二頭のドラゴンが住み着いておってな。そのドラゴンを、ショーマ殿に退治していただきたいのです」


 やっぱり来たよ。どいつもこいつも、何で俺が来たタイミングで依頼してくるのでしょうか?


《それが君の定めなのかもしれないわね。諦めなさい。しかも内容がドラゴン退治だから、間違いなく君にしか頼めない依頼ね》


 そりゃないよ‥‥‥。


       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 結局逃げきれないと判断した俺は、クミナミ国王からの依頼を引き受けることになった。報酬は、王金貨二十枚とドラゴンの牙と爪を二本ずつ。

 この事を宿で待ってもらったアリシアさん達にも伝えると、もはや諦めに似た眼差しで俺を見ていた。


「ショーマさんが行く所行く所に、必ずトラブルがありますね」

「しかも今回はドラゴン退治だなんて。ショーマと一緒に旅をするは、本当に飽きないわね」


 アリシアさんとカナデは、諦めてはいるが「ドラゴンだけは」というのが表情から見て取れた。そりゃそうだよな。


「何でそんな依頼引き受けてしまったんだ!」

「‥‥‥すまん」


 ドラゴン恐怖症のフィアナからは、胸ぐらを掴まれて物凄い剣幕で怒鳴られてしまった。そんな顔をしなくても、お前はここで留守番をしてもらう。


「ですが、本当にショーマさんとユズルさん、ミホコさんとミヤビさんだけで行かれるのですか?」

「ああ。流石にドラゴンが相手だとな」


 幸いにも、こっちには俺も含めて金ランクが四人も来ているのだから、ドラゴンなんて楽勝で倒せる。


「それと、アリシアさんにはエレカ村の住民の説得を、カナデとヴィイチには俺達の付き添いで付いて来てもらう」


 メリーとラヴィー、ローリエとエリの四人にはフィアナと一緒にお留守番をしてもらおうと思う。流石にフィアナ一人で待たせるのも可哀想だし、あまり大人数で言ってもかえって面倒になるだけだろうから。

 通常なら、ドラゴン退治ならどこも全財産をなげうってでもお願いしたい事なのだけど、動物愛護に厳しいこの国ではすんなりといかない可能性が高い。ドラゴンですら保護すべきだと言うバカもいるくらいだし。


「明日出発するから、今日はゆっくり休むか」


 ここまでの道中いろいろあったし、目的地までは馬車で三時間しか掛からない距離にある。別に焦る必要はない。

 なので今日は、旅の疲れを癒したい。


        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ドラゴン退治が明日になり、旅の疲れを癒す為に美穂子は夕食の後ベッドに横たわっていた。


「ドラゴン退治に同行させて頂けるのはありがたいですが、帯刀君の心にはもう私はいないのかな‥‥‥」


 この世界に来て、翔馬は変わった。よりカッコよく、より勇敢に。召喚前の優しさと、誰かの為に尽くそうとするところは変わらず。美穂子がずっと好きだった帯刀翔馬のまま、よりカッコよく。


「でも、帯刀君には大切な人が出来た。あんなに美しい人達が、彼を慕い、助け合い、そして愛した。私なんかが、入る余地なんてありませんわ」


 全員がかなりレベルの高い美人で、それでいて規格外の能力を有している。

 膨大な知識を持ち、魔法に長けたハーフエルフの女の子、アリシア。

 底なしに近い魔力量を誇り、射撃に長けた胸がとても大きな女の子、カナデ。

 光のごとく素早く動け、翔馬の剣術全てを習得した猫耳の獣人の女の子、メリー。

 圧倒的な馬鹿力を持ち、同じく剣術に長けた誰もが目を奪われる絶世の美女、フィアナ。

 四人にはそれぞれ違った長所があり、翔馬では出来ない事を四人と組む事で補い合ってきた。

 四人全員がレベルの高い美人で、特にフィアナの美貌で右に出る女性は美穂子も見たことがなかった。

 そんな彼女達が、翔馬の全てを受け止め、そして愛した。

 時間は掛かったらしいが、彼女達は翔馬と婚約する事が出来た。

 それが美穂子にはとても悔しかった。


「エルクリスは、何故私を選んでくださったのでしょうか。こんなにも醜い私を」


 エンゲアとの戦いの時は、ほんの一瞬だけメリーを見捨てようと考えてしまった。彼女一人がいなくなったところで、翔馬の気持ちが自分に向く訳でもないのに。それでも、そう考えてしまった自分がいた。


「帯刀君を想う気持ちなら、私だって負けていませんのに」


 ザイレン聖王国で再会するまでの間に、彼女達は翔馬との仲を進展させた。彼を心から愛し、彼を心から求めた。そして、美穂子から翔馬を奪った。その時美穂子は、初めて嫉妬というものを知った。翔馬を奪った、あの四人が妬ましいと。

 だけど、それでも美穂子は見捨てることが出来なかった。メリーに限らず、アリシアもカナデもフィアナも、皆が翔馬だけでなく美穂子にも優しくしてくれた。そんな彼女を、美穂子は見捨てたくなかった。

 翔馬と彼女達が結ばれれば、自分がその中に入ることが出来なくなると分かっているのに。


「私の想いは、もう‥‥‥」


 前の世界からずっと想い続けてきたのに、翔馬の心は彼女達で一杯となっていた。

 そう思うと、美穂子の瞳から自然と涙が零れ落ちてしまった。


「だからって、諦めたらダメです」


「え?」


 声のする方を向くと、メリーを先頭にアリシアとカナデとフィアナの四人が部屋に入っていた。


「何か?」


 慌てて涙をぬぐった美穂子は、ベッドから起き上がった。そんな美穂子の隣に、メリーが腰を下ろして真っ直ぐ美穂子を見ていた。


「あの‥‥‥」

「ミホコ様も、ご主人様の事が好きなのですね」

「え!?」


 笑顔のままメリーの言葉に、美穂子はどう反応すれば良いのか分からず、彼女にしては珍しくオロオロとしてしまった。


「それは、その‥‥‥」

「ゼフィル鉱山でエンゲアを倒し、わたしがご主人様に駆け寄った時、とても辛そうにしていましたのでもしやと思いました」

「そ、そんな事は‥‥‥」

「いえ、ずっと前から気付いていたのに、わたし達も自分の事で精一杯になっていました。申し訳ありません」

「う‥‥‥」


 それ以上何を言ったら良いのか分からず、美穂子は黙ったまま俯いた。そんな彼女の前に、アリシアとカナデとフィアナがしゃがんで美穂子の顔を見ていた。三人の表情も笑顔であった。

 全く気にした素振りを見せない四人を見て、美穂子は胸の奥が熱くなり再び涙が溢れ出てきた。


「大好きです。困っている人を助けようとする所が好きです。酷い目に遭ってもやさぐれる事無く優しくしてくれる所が好きです。この世界に来てから勇敢になった彼が好きです。好きです。大好きです。心より愛しています」


 一度口に出してしまった感情を抑えることが出来ず、美穂子はこれまで溜め込んでいた感情を全て吐き出した。


「本当は、皆さんに嫉妬していました。地球にいた時から好きだった私ではなく、あなた方を選んでしまった事に。メリーさんがエンゲアの攻撃で重傷を負った時も、一度は見捨ててしまおうと思ってしまいました」

「でも、ミホコ様はわたしを見捨てませんでした。わたしの命を救ってくださいました」

「それでも、見捨てることが出来ませんでした」


 そこまで美穂子は非情にはなれなかった。美穂子にとっても、彼女達の存在は非常に大きいものとなり、見捨てることが出来なくなるくらいに親しい仲となった。


「だからミホコ様は、エルクリスに使い手として選ばれたのだと思います。自分の中に醜い感情があっても、それに屈する事無く手を差し伸べてくださったその強さが、神器を扱うにふさわしい勇者として認められたのだと思います」

「‥‥‥私が、勇者‥‥‥」


 今まで翔馬ばかりが勇者と呼ばれ続けてきたため、美穂子は自分も勇者として召喚された事を時々忘れてしまう時があった。

 数多くの実績を残し、多くの人を助け、たくさんの脅威から国や町を救ってきた翔馬が、勇者として絶賛されるのは当たり前のことだし、美穂子もそう思っている。

 だから、翔馬ほどの活躍が出来ていない美穂子は、自分が勇者として相応しいとは思っていなかった。

 なので、メリーから改めて勇者と呼ばれて初めて、自分も勇者の一人で翔馬の仲間なのだと初めて実感する事が出来た。


「でも、自分の気持ちから目を逸らして逃げては意味がありません」

「あんたも、ショーマの事が好きならきちんとそれを言わないとダメだよ」

「あいつは相手の好意に対して鈍感だから」


 アリシアとカナデとフィアナが、背中を押すような発言をした事に美穂子は驚いていた。


「どうして?」

「わたしが推したからです。ミホコ様も、わたし達の仲間に入れてはどうかと」

「え?」


 メリーの言っていることが理解できず、美穂子はキョトンとしてしまった。

 そんな美穂子に、メリーは笑顔で話してくれた。


「ミホコ様も、ご主人様と婚約されてはいかがでしょうか?」

「わ、私が!?」


 思いがけない言葉に、驚いてしまった美穂子。


「ミホコ様は、未だに地球での常識に囚われていたから、ご主人様と婚約したわたし達に嫉妬され、最終的には折れかけてしまったのではないですか?」

「それは‥‥‥」

「けれどここは、ご主人様やミホコ様が住んでいた世界とは違います。今のご主人様でしたら、わたし達全員を養っていくことが可能です。ミホコ様一人増えた所で変わりませんし、わたしはわたしを助けてくださったミホコ様を信じられます」

「メリーさん‥‥‥」

「なので、ドラゴン退治が終わったら自分の気持ちを全て打ち明けてください。わたし達も援護しますので」


 それは、美穂子にとって願ってもない誘いであった。この世界に来てよりカッコよくなっていた翔馬を結婚出来たら、それを考えた事無ない日は一日も無かった。

 だから、婚約を果たした彼女達が妬ましかった。

 しかも、四人全員というのに若干の抵抗があったが、それがこの世界では認められていることだから周りは誰も気にする事無く祝福していた。

 メリーの言う通り、美穂子は未だに地球での常識に囚われていたのかもしれない。


「本当に、よろしいのですか?私が、私も帯刀君と結婚しても」


 四人は躊躇なく首を縦に振ってくれた。


「一緒にショーマさんを支えましょう」

「あいつ、あぁ見えてもまだ人見知りが治ってないから」

「ミホコがついてくれると助かる」

「皆さん‥‥‥」


 四人から暖かく迎え入れられたことで、美穂子は自分の中にあった地球での常識を完全に切り離す覚悟が出来た。

 迷いが無くなり、翔馬に自分の想いを伝える決心がついた美穂子を、きっかけを作ってくれた四人がそっと抱きしめてくれた。



「妖しの魔鏡」と「鬼嶋の鬼」も是非読んでみて下さい。

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