178 伝説の聖剣の作り方
石碑破壊の裏に魔王が絡んでいると分かり、俺達はカナンマ国王陛下にこの事を伝えた。
「まさか、我が国にも魔王の魔の手が伸びていたのは」
「この事は、国民の皆には内緒にお願いします」
「分かっている。余計な混乱を生んでは敵の思う壺じゃからな。じゃが、同盟国の代表には伝えても良いかの」
「はい。それはお願いします」
報告を終えた俺達は、報酬を受け取った後すぐに王城を後、一旦皆が止まっている宿へと戻った。
その前に、ゼフィル鉱山で発掘した虹牙鉄の塊を少しだけ国王陛下に献上した。枯渇したと思われた虹牙鉄がたくさん採れたことに驚かれたが、カナンマ国王は満足気に受け取ってくれた。与えた量は、俺が持っている分の三分の一。
残りを俺が貰い、帰ったら半分をトウラン国王陛下に献上する予定だ。それでも、かなりの量の虹牙鉄が俺の手元に残るのだけど。
神宮寺は、この虹牙鉄を俺の手によって武器や防具にさせて、それを騎士団や銀ランク以上の冒険者に高値で売ろうと考えていたみたいだ。流石は元大企業の令嬢、お金が絡むと強いな。
「報告を終えましたか?」
「ああ。カナンマ国王が、同盟国の王様達に伝えるって」
宿に戻ってすぐ、アリシアさんが俺に近づいて声をかけてくれた。
「翔馬から虹牙鉄を貰った時の国王、すごく驚いていたな」
「無理もありません。百年前に枯渇したと思われた希少金属が、ゼフィル鉱山でたくさん発掘されたのですから‥‥‥」
向うで発掘に協力したメリーは、あれが本当に失われた金属なのかと疑いを抱く様になっていた。そしてそれは俺も同じなのだが、発掘大好きのローリエは何時でも掘れると言って喜んでいたけど。
「それはそうと、もう皆準備を終えて馬車で待ってるわよ」
「分かってる」
アイテムボックスを背負い、俺達もチェックアウトを済ませて馬車の前まで来た。
「そういえば、ヴァルケリーはこの後どうするんだ?」
馬車に乗る前に俺は、赤色の服を着て黄色い刀身の剣を腰に提げたヴァルケリーに今後の予定を聞いた。
「しばらくスワガロ大陸にいるつもり。堕天していても、私が行った事は決して許される事ではないから、罪滅ぼしついでに他の黒騎士も消そうと思っている」
「そうか」
となると、俺達とは別行動を取る事になるな。堕天していたから仕方ないといえ、裁きの女神としてはそれが許せないのだろう。
「それはそうと、手に入った虹牙鉄はどうするつもり?」
「無論、剣や刀に鍛える」
愚問である。折角にて入った希少金属なのだ、剣や刀にするのは当然でしょ。
「流石、神級武器職人の称号を持っているだけはあるわね。本職の人は意気込みが違うね」
「いや、本職じゃないから」
「そんな翔馬君に朗報。カナンマ王国に伝わる聖剣の作り方を、正確には聖剣と呼ばれるキッカケになった、コアとなる玉の作り方を教えるね」
「え!?」
カナンマ王国に伝わる聖剣って、確か吸収した魔物が持っていた力を使う事が出来て、その上武器その物の力も上げてくれるという反則じみた剣だったな。
虹牙鉄だけでは、魔物の素材を吸収することは出来ない。それを可能にしているのは、聖剣に装着されていた丸い球体と聞いていた。けれど、そのコアの作り方は伝わっておらず、結局その聖剣一振りを鍛えて以降作ら得ていないそうだ。
ヴァルケリーはその球体、コアの作り方を知っているというのか。
「それは興味があります」
「あたしも欲しい」
「わたしも是非欲しいです」
「私も欲しいぞ」
「私も欲しいですわ」
うちの子達と神宮寺が、一斉にこちらへと押し寄せてきてキラキラした眼差しで俺を見ていた。その目は何か?俺にその剣を作れというのか?メイド達も、口には出していないが自分達も欲しいと目で訴えていた。
「作っても良いが」
「お金なら出します。なので私には剣を」
「あたしは魔法銃を希望するわ」
「僭越ながら、わたしは刀を」
「私は剣を」
「私も剣を希望しますわ」
大方予想通りの注文が来ました。剣や刀ら別にかまわないが、魔法銃はお断りだぞ!え、駄目?
「ほら、あんた達も催促しなさい。こんな機会でもないと、自分専用の武器なんて作ってもらえないかもよ」
「じゃあ、私は剣を」
「その、僭越なら、私はハルバードを」
「ご主人様が作られる武器なら何でも」
「わたくしはグリーヴを」
ヴァルケリーが言うもんだから、メイド達まで武器の希望を言ってきたじゃない。作るのはいいが、具体的にどんな武器が欲しいのか言ってくれないと少し困るぞ、エリ。
「良いね。僕も刀をお願い」
「お金は払うから、私のもお願い。剣で」
馬車から顔を出したユズルとミヤビまで!?
結局、全員から伝説の武器の制作をお願いされてしまった。その上、帰ったら絶対に国王陛下とシュウラからもお願いされるから、合計で十三人分も作らないといけないのかよ!
《その上、ナンゴウの女王陛下とホクゴの獣王陛下、更にはキリカや水島隆文やエフィアも希望するだろうから、合計で十八人だね》
更に増えているのですけど!?
「君も苦労してるね。帰った後の休暇は長めに取った方が良さそうだね」
「ははは‥‥‥」
ヤバイ。胃に穴が開きそうだ。ヴァルケリーに同情されてしまった。
「で、材料は何?」
俺が材料を尋ねると、十一人が一斉にヴァルケリーに注目した。
が、その材料を聞いた瞬間、俺も含めて何名かの表情に影が落ちる事になった。
「ジェリースライムの核だよ。それも無傷の状態の」
うわあ、魔物の魔石ではなく、あの気色の悪いゲル状のスライムの核が材料なのかよ。皆がげんなりしている中、フィアナとメリーとユズルの三人だけは表情を変えていなかった。けど、よく見たら目が死んでいた。あんた等も嫌なんだな。
そんな中、アリシアさんだけが何納得したように頷いていた。あなたはあの気色の悪いスライムが平気なのか?
だが、ヴァルケリーはそんな俺達に構わず説明を続けた。
擦れるくらいなら大丈夫だが、剣で傷つけてしまったり、壊れたり割れたりしたものだとコアが出来上がらないそうなので、扱いは慎重にした方が良いそうだ。
一個のコアを作るのにジェリースライムの核は十個必要で、何やら聞いた事も無い薬品の名前がポンポン出て来て、それ等を混ぜた液体の中に核十個を三日間浸けて不純物を取り除く事から始まる。
不純物を取り除かれた核を、今度は別の薬品が入れられた液体の中に入れ、魔力を注ぎながらかき混ぜていくのだそうだ。そうして三十分混ぜ続けることで核が融合し、一つの丸い球が出来上がるのだそうだ。そしてそれが、伝説の聖剣のコアなのだそうだ。
正直言って、全くのチンプンカンプンでした。これは、錬金術のスキルを持つアリシアさんに任せた方が良さそうだ。
「それにしても、材料がまさかジェリースライムの核だなんて」
「しかも、無傷の状態で回収しないといけないって、あれの中に手を突っ込まないといけないのですよね」
ヴィイチとラヴィーが、あからさまに嫌そうな顔で呟いた。そりゃ、あんな気色の悪いスライムの身体に手を突っ込むなんて誰だって嫌だよな。俺だって嫌だし。
「何がそんなに嫌なの?ジェリースライムって、服は溶かすけど命までは取らないから大丈夫だと思うけど」
『それが嫌なの!』
当然の事ながら、女性陣から一斉に罵声を受けるヴァルケリー。というか、自分だって裸を見られるとパニックになるクセに何他人ごとのように。
「ジェリースライムなら、道中にたくさんいると思いますので、私が取り方をレクチャーいたします。そうすれば、取り付かれずに核だけを取り出す事が出来ます」
女性陣の中で唯一怯えていないアリシアさんだけが、ジェリースライムの核の取り出し方を教えると言いだした。前から思っていたけど、意外と肝が据わっていますな。
「ぐぬぬ‥‥‥あ、新しい武器の為だから、ここは我慢すべきかもしれないわね」
「でも、一個作るのにジェリースライムの核が十個も必要だなんて‥‥‥」
「ううぅ‥‥‥」
新しい武器の為に我慢しようとカナデに、ヴィイチが残酷な現実を口にした。一個のコアを作るのに、ジェリースライムの核が十個も必要なのだから。そりゃそうなるよ。
「ねぇショーマ。その武器って一体幾つ作る予定なの?」
口は笑っているが、目が全く笑っていないカナデの問い詰めに押され、俺は正直に答える事にした。
「ここにいるメンバー全員と、帰ったらうちの国王とシュウラからも絶対に頼まれるし、そこにデリウスからナンゴウの女王陛下やホクゴの獣王陛下、更にはキリカや水島やエフィアも欲しがるだろうと言っていたから、合計で十八件」
「十八件も!?嘘でしょ!」
そりゃそうなるよな。だって、一個に付き十個の核が必要だから、最低でも百八十個もの核が必要になるのだから。
核や魔石に含まれている不純物ってかなり多く、ソフトボールサイズの魔石でも、最終的にはお祭りですくうスーパーボールサイズにまで小さくなる。テニスボールサイズのスライムの核なんて、最終的には一円玉サイズしか残らない。それでは力不足だから、十個も必要なのだろう。
だからどの業者も、常に魔石を必要としているのだ。
「まぁ、この中で誰かさんが諦めてくれたら十七件で済むんだけど」
「何であたしを見るのよ。絶対に作ってもらうんだからね」
ダメですか。ダメ元でカナデの方を見て催促したが、どうしても譲る気はないみたいだ。
逃げ場がないと判断したアリシアさん以外の女性陣は、諦めに似た感情で渋々馬車に乗った。一応、途中で革製の手袋でも買っておくか。
「別に命を張る訳でもないから、そんなに難しく考えなくてもいいって」
情報を教えてくれた女神様は、あっけらかんとした表情で言うが、俺達にとってはとても深刻な問題なのですよ。
「まっ、何にせよ、あなた達は気にせずにここの大陸での旅を楽しみなさい。黒騎士は、私がどうにかする。それが、壊滅させてしまった村や町に住んでいた人達に対する、私が出来る償いだから」
「背負いこみ過ぎだ」
「それが私なんだから、仕方ない」
残りの黒騎士をどうにかする事で、ヴァルケリーは自分が犯してしまった罪を償おうとしているのだな。仕方がなかった、と言ってしまえば簡単だが本人が納得しないだろうな。
《いくら止めても無駄よ。それがヴァルケリーの性分なんだから》
デリウスもそう言っているし、ここは任せるか。
「それにしても、よく完全な堕天を防ぐ事が出来たな」
「いくら弱っていても、カリンヴィーラごとき女神にこの私を完全に堕天させるなんて不可能よ」
流石は、下級神の中でも五本の指に入る程位の高い女神。そう簡単には堕天しないか。
「ま、君の様なイレギュラーに出会えたのは本当に幸運なんだけど」
「イレギュラーって‥‥‥」
「だって、ただの人間に神力が宿るなんて普通はあり得ないから」
おっしゃる通りです。
「それじゃ、今度こそ私は行くね」
「ああ」
何にせよ、心強い味方が出来て、俺も少しは気が楽になれるというものだ。
「あ、行く前にちょっと良いかしら」
「ん?」
何かを思い出した様にヴァルケリーが俺の前に立ち、突然手を握ってきたのだ。その瞬間、うちの女性陣からの殺意の籠った眼差しが一斉に俺に降り注いだ。
そんな彼女達の殺気を気にする事無く、ヴァルケリーは目を閉じながら意識を集中させた。
すると、ヴァルケリーの全身から朱色の神気が発生し、その一部が手を通じて俺の中へと入っていくのが分かった。
この感覚には見覚えがある。
《ヴァルケリーも、粋な計らいをするもんだね》
そうしてしばらくすると神気が治まり、ヴァルケリーも目を開けた。同時に手も離した。
「ステータス確認してみて」
「おう」
言われた通り、俺は自分のステータスを開いてみた。
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名前:帯刀翔馬 年齢:十八
種族:半神半人 性別:男
レベル:615
MP値:46000
スキル:刀術SSS 鍛冶SSS 剣術SSS
観察眼SSS 二刀流SSS 斬撃術SSS
危険察知SSS 回避術SSS 覇気SSS
剛力S 槍術S 神速S 跳躍力S 脚力S
火魔法S 料理S 風魔法S 柔術S
格闘術S 騎馬術S 指揮S 雷魔法E
称号:ファウーロ族の英雄 ドラゴンスレイヤー
ゴブリンスレイヤー 神級武器職人
トウラン武王国の英雄 勇者
蟲殺し 無敵剣豪
大蛇殺し ゴーレムバスター
不死王殺し ユンゲンの町の英雄
ウルヴァ族の英雄 ザイレン聖王国の英雄
ダンジョンマスター オリエの町の英雄
シガロの町の英雄 ホクゴ獣王国の英雄
ツガワの町の英雄 神殺し
その他:刀の女神の加護
太陽神の加護
裁きの女神の加護
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相変わらず無駄に長いステータス情報だが、気になる部分を見つけることが出来た。
特に気になったのが、新たに裁きの女神の加護が加わった事であった。おそらく今のは、加護を俺に与える為だったのか。雷魔法はおそらく、ヴァルケリー加護を授かった事で一緒に付いて来たのだろう。
「あんた」
「私を助けてくれたお礼。それに、私も君の事を気に入ったから」
輝くような笑顔を見せた後、ヴァルケリーは俺達の前から去って行った。
「また新しい女神様から加護を貰いましたね」
「俺が一番ビックリだよ」
たぶん俺、この世界で最も多くの神の加護を宿しているだろうな。
「妖しの魔鏡」と「鬼嶋の鬼」も是非読んでみて下さい。