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176 裁きの女神 復活

 ヴァルケリーに目を付けられてしまい、相手の雷魔法をハバキリで何度も切って防ぐ、その繰り返しをしているが、限度オーバーである為完璧に吸収しきることが出来ないでいた。


「あのヤロウ!いつまでこんな事を続ける気なんだ!」

「『サンダーイーグル』」


 ショット系の魔法を撃ちまくったヴァルケリーは、今度は雷の鷲を俺に向けて放ってきた。


「しゃらくせぇ!」


 それを正面から縦に切って消滅させた。ヴァルケリーの魔力と神力をたくさん吸収したお陰か、徐々に衝撃が小さくなっていき、相手の攻撃を撃ち漏らす事も無くなってきた。


「全部防ぐのね。すごいすごい。そんな刀を使いこなす君がね」

「お褒めに与かり、光栄だ!」


 俺を称賛してくれるヴァルケリーをよそに、俺は地面を強く蹴って斬りかかっていった。

 決めるつもりではなかったが、上段からの攻撃をアッサリと防ぐヴァルケリー。


「でも、君はまだ本気を出していない」

「さっきからその一点張りだが、何が狙いなんだ!」

「何も。ただ、本気の君と戦いたいだけ。デリウスやサラディーナ様の加護ではなく、君自身の神力を使った」

「っ!?」


 この女神、俺がサラディーナの加護を授かっている事に気付いている様だ。一体どうやって。


《直感で何となく感じ取ったんだと思うわ。ヴァルケリーのそういう勘は、戦いに置いてかなり厄介だよ》


 ただの勘で俺の中にあるサラディーナの加護を見抜くなんて、これで未だに下級神というのが信じられないぞ。


「ほらほら、あっちはもうすぐ終わりそうだよ」

「ん?」


 ヴァルケリーに視線で訴えられ、俺はエンゲアと戦っているメリーと神宮寺、ローリエとエリに視線を向けた。

 エンゲアを相手に、メリーがスピードで、エリは毒針で翻弄し、神宮寺が魔法で装備転換をさせないようにエンゲアの気を逸らし、ローリエが大剣で何度も吹っ飛ばしていた。


「クソ!何なのよ、獲物のくせに!」

「誰が獲物ですか!」

「駆られているのはアナタの方でしてよ!」

「吾はそう簡単には狩られないです!」

「ん!」


 四人ともエンゲアを押しているように見えるが、エンゲアは少しずつ自身の身体に黒色の神気を薄く展開させていた。マズイ、あのままでは!


「調子に乗るな!」


 次の瞬間、エンゲアの全身から黒い神気で出来た矢が無数に飛び出してきた。


「『アイスウォール』」

「ああっ!」

「うぅっ!」

「ん‥‥‥!」


 神宮寺は氷の壁を作って何とか防いだが、メリーとエリとローリエの三人は身体中にたくさんの矢が刺さってしまい、その場に倒れてしまった。


「メリー!ローリエ!エリ!」

「言ったでしょ。勿体ぶらなければ、こんな事にはならなかった」

「クッ!」


 大量の血を流しながら倒れる三人。まだ生きているみたいだが、このままでは危険だ。


「はっはっはっ!獣人風情が、女神であるこの私に勝てるわけがないだろ!獣人の貴様等は獣と同じ、狩られる側なんだよ!」


 黙れクソ女神!


「獣は獣らしく、狩猟の女神たるこの私に狩られれば良いんだよ!」


 それ以上喋んな、この悪魔!

 そうだな。こんな所で油を売っている場合ではなかったな!さっさとこの悪魔も倒して、あのクソ女も倒さないと!

 大切な仲間を傷つけられ、怒りが込み上がった俺は自分の中にある神力を解放しようとした。

 その時


「彼女達は、獣ではありません!」


 氷の壁を砕いて怒りを露わにする神宮寺が、エンゲアに向けて大きな声で怒鳴った。


「彼女達は、共に帯刀君を支え、召喚された時一人だった彼を献身的に支えてくれました!彼が苦戦していると、共に剣を取って最前線に出て戦います。私よりもずっと勇者らしい人達です!」


 その言葉から神宮寺が、メリーとローリエとエリの事を、自分より勇者らしいと称賛してくれて、対等な立場で接してくれていたことが伝わってきた。


「だからこそ、あの子達を獣呼ばわりするアナタを、私は絶対に許せません!」


 神宮寺も、三人の事を仲間だと思ってくれていた。そんな風に神宮寺が思ってくれたことが、すごく嬉しかった。


「フン。戯言を。だったら、もう一度あの三匹を矢で射ってあげようじゃない」

「その前に傷を治して見せます。私に加護を与えてくれたイリューシャ様は、回復と癒しを司る聖の女神。傷ついた三人も、救ってみせます」


 神宮寺が両手を前にかざすが、この状況でメリーとローリエの傷を回復させるのは不可能に近い。それでも神宮寺は、自分の役目を果たそうと全神経を集中させていた。


「無駄な!」


 そんな動けない神宮寺を、エンゲアが黙って見ている訳もなく、鉈を納めて猟銃を手に取って向けた。


「させない!」

「それはこっちのセリフ」


 助けに向かおうとする俺を、ヴァルケリーは胸倉を掴んで動けない様にさせた。


「邪魔するな!」


 もうなり振りかまっていられない。俺は自分の神力に加え、デリウスとサラディーナの加護の力を発動させた。あまり熱さに、ヴァルケリーは掴んでいた胸倉を離して、俺から距離を取った。


「それでいい」


 口の端を小さく上げて笑うヴァルケリー。どうやら、このタイミングを待っていたみたいだ。

 でも今は、ヴァルケリーの相手をしている場合ではない。


 心配いらないわ。彼女に任せれば。


「なっ!?」


 またあの声が聞こえてきた。心配いらないってどういう事なんだ?

 その理由が分からないまま神宮寺を見ると、彼女の首に掛けていた十字架型の神器、エルクリスが黄緑色に輝きだした。

 同時に、エンゲアが猟銃を撃ってきたがエルクリスが発した光によって、鉛の弾丸は神宮寺に命中する前に塵となって消えた。あの光は、もしかしたら。


「バカな!?神器が人間を使い手に選ぶなんて!」


 やはりそうだ。エルクリスが、神宮寺を使い手として認めた証であった。それにより、神宮寺のレベルとMP値が急上昇し始めた。


「『ハイブリッドメガヒール』」


 魔法名を唱えた直後、この辺り一帯に金色の心地よい光が漂いだした。その光に包まれたメリーとローリエとエリの身体から傷が塞がり、逆にエンゲアとヴァルキリーの身体からは黒い煙が上がった。


「ああああああ!何なんだこの光は!」

「クッ!」


 光に包まれたエンゲアとヴァルキリーは、苦痛に顔を歪ませその場に膝を付いた。


「これは!?」

「痛いのが、治っていく」

「不思議です」


 傷が治り、更に失われた血液まで元に戻ったのか、血色の良い肌をしたメリーとローリエとエリが不思議そうに立ち上がっていた。


《「ハイブリッドメガヒール」は味方の傷と体力、状態異常を治すだけでなく、失われた血液まで戻してくれる万能の回復魔法よ》

《逆に、敵の表皮を百度の熱で熱してダメージを与える事が出来るのです。そこに私の加護が加わったのですから、相手に与えるダメージはとても大きいです》

《いかにエンゲアやヴァルケリーでも、食らえば動く事が出来なくなるくらいの大ダメージを受けるわ》


 という事は神宮寺、そんな魔法が使える様になったというのか。確か強力な魔法って、魔力の消費が非常に激しく、最悪の場合一発で魔力切れを起こしてしまう筈。

 けれど神宮寺は、エルクリスの影響なのか魔力切れを起こした様子が見られなかった。

 光が治まってすぐ、神宮寺は腰に提げてあった聖剣・セブンスカリバーを抜いて、エンゲアに向けて走って行った。


「はあああああああああああああ!」


 ダメージを受けて動けなくなったエンゲアは、神宮寺の接近に対処できず、そのままセブンスカリバーに胸を貫かれた。


「そん、な‥‥‥この、わたし、が‥‥‥狩られ、る、側に、なる、なんて‥‥‥」


 すぐにセブンスカリバーを引き抜き、エンゲアから距離を取った神宮寺。その直後に、エンゲアの胸から物凄い量の黒い靄が噴き出していき、エンゲアは徐々に姿を保てなくなっていった。


「申し訳、ありません‥‥‥」


「魔王、様‥‥‥」


「なっ!?」

「え!?」


 エンゲアの口から信じられない言葉が零れ、その真相を知る機会が無いままエンゲアは消滅していった。


「どういう事だ?」


 エンゲアは確かに、魔王様と言っていた。女神の中に、魔王と結託していたというのか。


《私だって信じられないわよ!まさか、私達の仲間の中に裏切者がいたなんて!》

《裏で魔王と繋がっていた神がいたなんて、わたくしだって信じられません!》


 デリウスとイリューシャも、エンゲアが魔王の軍門に下っていた事は知らなかったみたいだ。という事は、サンクチュアリを発動させようと企んでいるのは魔王だったのか。


「どういう事だ?」


 詳しい事は、残っているもう一人の黒騎士・ヴァルケリーにでも聴く事にした。


「さぁな。知りたきゃ、私を倒してみな!」


 満身創痍の身体に鞭を打ち、俺に向かって走り出したヴァルケリー。今なら神気を出さなくても倒せるが、今更引っ込みはつかない為そのままで迎え撃つ事にした。


「クソ!」


 俺は仕方なくハバキリを上段から振り下ろし、突っ込んできたヴァルケリーはそれを当然剣で防いだ。防がれるのは想定内。すぐに俺は、腰に差してある蒼龍を抜こうと左手を引っ込めた。

 だが、その直後にヴァルケリーは予想外の行動に出た。

 不意に左手を伸ばしたヴァルケリーは、ハバキリの刃を掴んで引き寄せ、右手に持っていた剣を足元に落とした。


「何の真似だ」

「‥‥‥‥‥‥」


 俺の問い掛けにヴァルケリーは答えず、ハバキリを握る左手に力が入ったのが分かった。当然、左手からは血と黒い靄が出て来ていた。

 その直後、ヴァルキリーの左手をハバキリから離し、傷口から勢いよく黒い靄が噴き出してきた。


「クッ!」


 苦痛に耐えるヴァルケリーは、更に予想外な事にもう片方の手で俺の手を握ってきたのだ。


「更に、神威、解放、して」

「何故?」

「早く!」


 ヴァルケリーの真意が読めない。自ら黒い靄を出して、その上得物を手放し俺の手を握ってきて、今度は更に神威解放をしろって言われても。


《言う通りにして!早く!》


「わ、分かった!」


 デリウスにまで言われ、俺は自分の中にある三種類すべての神気を放出させ、身体全体に大きく纏わせた。


「んん!」


 その瞬間、俺の神気がヴァルケリーの右手に吸い取られているような感覚に襲われた。これは一体?


《消費した分の神力を回復しているのよ。自分の中にある黒い物を全て放出した後で》


「黒い物って、まさか!?」

「うっ!」


 たくさん靄を放出した後、ヴァルケリーは左手を強く握り、朱色のオーラで傷口が塞がっていくのが見えた。

 同時に、ヴァルケリーの黒い鎧が砕け散り、黒だったオーラが朱色に変わっていった。


「あんた‥‥‥」

「ありがとう。お陰で戻れた」


 弱々しい声でお礼を言った後、ヴァルケリーは俺にもたれかかるように倒れ、そのまま気絶した。


「デリウス、これって」


《ええ。元に戻ったのよ》


「やはりそうか」


 あれだけしつこく本気を出せと言ったのは、自分の中にある黒いオーラを全て放出させた後、俺の神力を吸収する事で失った分の神力を回復させる為だったのか。


《流石ヴァルケリー。意識を完全に堕天させず、黒騎士として活動する中で元に戻る機会をずっと待っていたのだね》


「まさに、神の御業だな」


 流石は、下級神の中でもトップクラスの実力と地位を持っているだけのことはある。


「ご主人様!」


 俺を心配したメリーが、雷切を持って駆け寄ってきた。どうやら、傷はもう完全に治っているみたいだな。


「もう大丈夫だ。ヴァルケリーは、女神に戻ったんだ」

「戻ったって、本当ですか?」

「ああ。本当にスゲェ女神だよ」


 自力で堕天から元に戻るのだから、本当にすごいよ。俺の腕の中で、安らかな寝息を立てる金髪の令嬢風の女神に目をやりながら。


        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ゼフィル鉱山に魔物がいなくなったのを確認した後、俺達は王都に戻り事の顛末を全て話した。魔物の殆どが、王都に向かう途中だった二人の黒騎士によって狩られていた事も、二人の黒騎士のうち一人を無事に討伐された事も、ゼフィル鉱山に巣くっていた魔物は全て倒された事を話した。

 そして、黒騎士の一人だったヴァルケリーが女神に戻った事も話した。それを聞いたカナンマ国王は、悪魔に落とされてしまった女神が元に戻った事を大いに喜んだ。

 一方、戻る際に力を消費してしまったヴァルケリーは眠ったまま目を覚まさなかった。デリウスとイリューシャから、神力を注ぎ続ければそのうち回復して目を覚ますそうだ。

 なので、俺とアリシアさんとカナデ、メリーとフィアナの五人で交代しながら神力を注いでいった。

 余談だが、アリシアさん達も自力で神力をコントロールできるようになり、俺が神威解放をすると同時に神気が発せられる事も無くなり、自分の意思で出せるようになったそうだ。俺に迷惑をかけない為に、隠れてコントロールする術を学んでいた。

 そうして神力を注ぎ続ける事三日間。ヴァルケリーがようやく目を覚ました。



「妖しの魔鏡」と「鬼嶋の鬼」も是非読んでみて下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 結局偽善でしかも調子こいてるから誰かが傷つく。剣の道に生きてたのに守りながらの戦いもできず情けないわな。
2020/02/01 03:06 退会済み
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