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173 襲撃の訳

 カラミーラーを倒し、マシラの町の人々から手厚い歓迎を受けた俺達。ここでも前に救った村と同様に、喜びに満ちた住民によるお祭り騒ぎに付き合う羽目になった。


「はぁ、疲れた」


 その日の夜、俺達は宿を取らずに馬車に乗って急いでマシラの町を出た。あのまま付き合っていては、いつまで立っても先に進む事が出来ないからな。あと、これ以上あんなバカ騒ぎの中にいたくない。

 桃と椿が引く馬車では、メイド四人とカナデが疲れて寝息を立てていて、バカ騒ぎに巻き込まれて疲れ切ったミヤビが手綱を引いていた。

 流石にこのままでは危ないので、人気のない森の中で馬車を止めて野宿する事にした。夕食時になると、眠っていたメイド四人とカナデがほぼ同時に目を覚ました。ちょっとお嬢さん方、ご飯の臭いで目を覚ますなんて残念過ぎるぞ


「ショーマさん、少しいいですか?」


 夕食を食べ終えて食休みをした後、先にテントに入って眠りにつこうとした時、ミカヅチを持ったユズルが俺を呼び止めた。


「これは本来ショーマさんが持つべき神器なのだよね。どうして僕に?」

「分からない。デリウスは、誰かがユズルの手に渡るようにしたのではないかって言うけど」


 デリウスよりも位の高く、尚且つ神器を操るくらい力の強い神。そんな事が出来るのは、五人の上級神と世界神だけだが、抜け殻状態で自己保身の塊である四人の上級神は考えられないから除外する。

 俺に固執しているサラディーナも、わざわざミカヅチに細工をしてユズルの手に渡る様にするとも考えられないし、必然的に世界神の仕業であるのが容易に想像付く。

 あの声の主が世界神である可能性が濃厚になり、デリウスもその可能性が高いと結論付けた。だけど、五つの御霊に関してはまだ確信を得るには不十分な為、今は考えない事にした。


「何の目的でユズルに渡したのかは知らないが、その神器はユズルが持っていた方が良いだろう」

「まぁ、ショーマさんがそう言うのなら持っておくよ。その代り、僕もショーマさんの手伝いをさせて欲しい。これも何かの運命だと思うから」

「それは助かる」


 世界最強の金ランク冒険者の協力を得られるなんて、こちらとしてもかなりありがたい事である。ユズルがいてくれると、魔王なんて襲るるに足らないだろう。油断や慢心は良くないけど、そういう気持ちになる。


「もう一つ気になる事があります。ユズルさんが手にした時に発せられた、あの光は一体何なのですか?」

「わたしも気になりました。あの距離からでも分かりましたが、あれは一体何なのですか?」


 神宮寺とメリーも気になっていたみたいだが、似たような現象はメリーも経験した事があると思うのだけど。


「だ、そうだ」


 説明するのは構わないけど、俺が説明するよりも女神であるデリウスが説明した方が信憑性は増すだろう。それに俺も、詳しく知っている訳ではないから。


《ミカヅチが、ユズルを使い手として認めた証だよ。神器が自信を使うのにふさわしいと判断すると、あんな風に光を発し、神器に宿っていた神力が使い手の全身を覆うの。帯刀翔馬だって、ハバキリが神器ななった時そうだったでしょ》


「言われてみれば、確かにそうでした」


《それに、帯刀翔馬だけじゃなく、アリシアやカナデ、フィアナやメリーだってそうだったでしょ》


 確かに、アリシアさん達が神器を手にした時にも同じ現象が起こっていた。ミカヅチだけでなく、他の神器でも同様の現象が起こるのだな。

 更に詳しく聞くと、あぁいう発光現象は最初だけであって、以降は自身が神気、もしくは魔力を注がない限り起こらないそうだ。


「私のエルクリスがその反応を示さないということは、私はまだ使い手として認められていないのですね」


 十字架型の神器を手に持って眺めながら、神宮寺は自分の力不足を悔やむのであった。


「焦る必要はないさ。神宮寺が強いのは俺がよく知っている」


 そうでなかったら、黒騎士との戦いの時一緒に来てほしいなんて頼まない。うちの四人と比べるのがそもそもの間違いだが、神宮寺だって彼女達に匹敵する実力を持っている。そう、比べる相手を間違えているだけで。


「あぁ、そうだ」


 寝る前に俺は、マシラの町に着く前に気になっていた事がある事を思い出し、後片付けを終えたばかりのアリシアさんの所へと駆け寄った。


「どうしました?」

「いや、マシラの町に向かう時、アリシアさんかなり焦っていたけど、あの時何か分かった事でもあったのか?」


 俺がその話を切り出した瞬間、全員それが気になっていたのかアリシアさんの所に駆け寄って注目した。

 あの時アリシアさんは、デリウス達から黒騎士がこれまで襲撃した村とその順路、更には時間帯までも聞いて何かに気付き、地図と大きな紙を広げて魔法陣らしきものを書いていた。それが何だったのか、何を現していたのか聞けないままだったからすごく気になっていたんだ。

 アリシアさんは、スワガロ大陸の地図と魔法陣が描かれた大きな紙を広げながら説明してくれた。地図には、大きな紙と同様に赤と青と黒の三色で描かれた魔法陣が書かれていた。


「これ、魔法陣?」

「はい。極大魔法、サンクチュアリを発動させる為の魔法陣です」

「サンクチュアリ?」


 聞いた事も無い魔法名に、俺は思わず周りにいる皆に視線を向けた。

 カナデとラヴィーは、分かりませんと顔に描いていた為スルーした。

 ユズルとメリー、神宮寺とエリも知らないみたいで、首を横に振った。

 フィアナとローリエは、ご飯の名前とでも思ったのか涎が垂れかけていた。

 ヴィイチはというと、サンクチュアリ自体は知らないようだったけど、あの村跡で見つけた石碑と何か関係があると思い、真剣な眼差しでアリシアさんを見ていた。

 そんな皆の反応を見て、アリシアさんは別の白紙の紙も取り出して説明してくれた。


「サンクチュアリとは、三界の扉を解放する禁断の魔法と言われています」

「三界?」


 聞き慣れない言葉に、ヴィイチが説明してくれた。


「三界というのは、天界、冥界、人間界の事を指してします」

「んん?」


 イマイチピンと来ていない俺に、アリシアさんとヴィイチが分かりやすく説明してくれた。


「天界というのは、デリウス様やイリューシャ様などと言った神々が住んでいる世界、神界の事を指しています」

「冥界というのは、悪事を働いた人に裁きを下し苦痛を与える、魑魅魍魎が住む世界、つまり地獄の事です」

「人間界は、流石に説明しなくても分かると思いますが、ショーマさんや私達が今いるこの世界の事です」


 つまり三界とは、天国と地獄とこの世の事を指しているのだな。

 けれど、今回の黒騎士の襲撃と、そのサンクチュアリが一体どう関係しているというのだろうか?


「サンクチュアリというのは、三界全てを支配して操ることが出来る魔法なのです」

「なっ!?」


 ちょっと待て!それってかなりヤバイ魔法じゃないのか!?皆も事の大きさに息を呑んでいた。


「もちろん。そんな事が出来る訳がありませんし、そんなものはただの言い伝えです」

「そうか」

「けど、この世界に天国と地獄の門が出現し、世界のバランスを崩壊させてしまう危険な魔法であることは間違いありません」

「マジかよ!?」


 つまり、神界と冥界との境を無くして、全てをこの世界と繋げてしまうというのかよ。


「そんな事をしたら、天界からは神の使い、天使や霊獣がこの世界になだれ込み、地獄からは魑魅魍魎や地獄の鬼が湧いて出て来てしまいます。そこにカリンヴィーラの力が加わり、それら全てが操られてしまいます。魔法自体に支配する力が無くても、本当に支配されてしまうことになります」

「あの悪神め、とんでもない事を企んでいやがったのか」


 この大陸の住民を恐怖のどん底に陥れる、それだけでも負のレイキュラがよく集まるというのに、カリンヴィーラは更にとんでもない事を企んでいたのかよ。


「でも、ただ襲うだけではこのサンクチュアリは完成しませんし、それ自体には何の意味はありません」

「完成させるには、その村にある石碑を破壊する必要があるのですのね」


 ヴィイチの言葉に、アリシアさんがうんと頷いた。


「石碑にはそれぞれ、天の石碑、地の石碑、人の石碑がありますので、それを破壊しなければなりません」


 破壊しなければいけないという事は、あの村跡でヴィイチが見つけたあの石碑もその三種類の石碑のうちの一つだというのか。


「じゃあ、マシラの町にも」

「ありました。天の石碑が」

「あったのか」


 ということは、これまで襲われた町や村や集落にはその石碑があったというのかよ。そして、それを破壊する為に黒騎士達は町や村を襲撃して回っていたのか。更に負のレイキュラを集める為に、住民全員を殺していたのか。

 でもここで一つ気になる事がある。


「何でその石碑を破壊すると、サンクチュアリが発動してしまうんだ?ヴィイチから聞いたが、あの石碑はこの大陸の六人の主神に力を与える為にあるって」

「確かに、あの石碑の本来の役割は、スワガロ大陸を守護している六人の主神の力を高める為の物とされています」


 アリシアさんも、それを認めているという事は事実なのだろうな。

 シンテイ大陸の主神である五人の上級神様には、そんなものは必要ありません。エルト大陸は、言い方が悪いですけど神に見捨てられた大陸である為置いても無意味。


「けれど、あの石碑にはもう一つの役割があって、極大魔法であるサンクチュアリを封印する為でもあるのです。スワガロ大陸の六人の主神は、この大陸を守護すると同時にサンクチュアリの番人も行っているのです」


 という事は、ここの守護をしている六人の神様って実はかなり責任重大な役目を負っているという事か。だけど、地上で起こっている事に関書する事が出来ない為、黒騎士達の石碑破壊をただ見ている事しか出来ないのか。


「けど、その石碑もただ破壊するだけではダメです。石碑によって、破壊しなければならない時間がそれぞれ決まっているのです。天の石碑なら日中、人の石碑なら夕方、地の石碑なら深夜と」


 黒騎士たちがそれぞれ別々の時間帯で襲撃するのは、日中と夕方と深夜で分担して石碑を破壊して回っているからだったのか。


「更に、襲う町や村の順番にも意味があるのです。よく見ると、それぞれが襲撃した村と村を順番に線で結ぶと、サンクチュアリの魔法陣が出来上がる仕組みになっているのです」


 そんな事まで付き留めてしまうなんて、アリシアさんのその膨大な知識と知恵には本当に脱帽だ。一体その知識を何処で取り入れたのだろうか?


「そうして順調に進めば、あと数ヶ月後に魔法陣が完成し、カリンヴィーラによる三界支配が始まってしまうのです」

「随分手の込んだことをしやがるな」


 あのクソ女神も、俺一人を殺す為だけにこんな大それたことをするなんて。

 だが、そうと分かると残りの黒騎士達が次に何処に向かうのか、それが予想できる。もうこれ以上好きにはさせない。

 しかし、二人の女神様はアリシアさんの推測に異議を唱えた。


《私は、カリンヴィーラがそこまで考えていたとは思えないわ》

《私もそう思います。カリンヴィーラは、手の込んだ謀略を立てる様な方ではありません》

《そもそもサンクチュアリの魔法陣は、神の間でもあまり知られていない事で、ある程度高い地位を持っていないと知る機会がないわ》

《はい。なので、万年最下位のカリンヴィーラがサンクチュアリの魔法陣を知っていたとは思えません》


「そんな、じゃあ黒騎士達が独断で石碑を破壊しているというのですか!?」


 驚きの回答に、アリシアさんが珍しく声を荒げた。

 でも、言われてみれば確かにそうだ。一度いい気分になった相手を絶望のどん底に陥れ、それを快楽と称するカリンヴィーラは相手が嫌がることだけに心血を注いでいる様なもの。二人の女神が言う様に、手の込んだ謀略を行うとはとても考えられない。

 エルト大陸に来てから暴走していたから忘れていたが、カリンヴィーラはあくまで自分の欲求を満たす事にのみ執着している女神。ゆえにサンクチュアリを発動して、そこからこの世界を支配しようという願望は持っていないと思われる。

 更にカリンヴィーラは、位も地位も与えられないまま万年最下位という立場になっている。二人が言う様に、ある程度の位がないとサンクチュアリの事を知ることが出来ないのなら、カリンヴィーラはサンクチュアリの発動を目的としていないという事になる。

 そうなると、黒騎士が独断で石碑を破壊して回っているとしか考えられない。十人の中の誰かがサンクチュアリの存在を知っていて、己の目的の為にそれを発動させようとしている。


「でも、それだとかなり厄介だぞ」


 黒騎士の中にも、この世界に仇をなそうと企んでいる悪い女神がいるという事になる。

 俺との一騎打ちを望んでいたアラエアーや、消滅する際に穏やかな笑顔を浮かべてお礼を言ったジーガが、サンクチュアリを発動させてこの世界を支配しようと考えていたとは思えない。その為、この二人はサンクチュアリの発動を目的としていない事が分かる。

 ユズルに首を刎ねられたカラミーラーが、どういう目的で町を襲撃しに来たのかは定かではないが、少なくとも勇者召喚に関わっていた女神がそんな事をする筈がないと信じている。

 考えられるのは、まだ遭遇していない残り七人の黒騎士の中にカリンヴィーラさえも利用して、サンクチュアリを発動させようと企んでいる奴がいという事になる。


「クソ!ここに来て益々敵の思惑が分からなくなっちまった!」


 でも確かに、デリウスとイリューシャの言う通りだ。

 カリンヴィーラの狙いは、負のレイキュラを集めて強力な魔物を生み出して俺を殺す事。

 サンクチュアリの事を予め知っていたとは考えにくいし、もしそれが狙いだったのならカラミーラーやジーガ、アラエラーだって俺達と戦って時間を無駄にするような真似はせず、真っ先に石碑を破壊したらそれで終わりの筈だ。

 なのに、何故?


        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ふっふっふっ。ジーガやアラエラー続いて、カラミーラーも失敗しましたか。でもいいわ。焦る必要なんてありませんわ」


 そもそもあの三人は、私の仲間に「カリンヴィーラ様から追加の命令がある」と言っただけだから、石碑の破壊をそこまで重要視していないのかもしれない。


「でも構いません。もうじき、あの御方の悲願が達成されるのですから」


 懸念があるとしたら、この世界に召喚されたという五人の勇者だが、一人を除いて誰もあの御方の脅威にもならない。特に、クフォト王国にいるあの三人なんて私達の部下だけで充分なくらいに弱い。


「厄介なのはあの男でしょうね。帯刀翔馬」


 あの男の力は、私でさえ計り知れない。ジーガとアラエラーを倒した程だ。私でも勝てるかどうか。


「まっ、いかにあの男が強かろうと、あの御方には絶対に勝てない」


 そもそも、帯刀翔馬一人だけが強くも他四人が弱ければ話にならない。

 それに、いかにデリウスの加護があってもあの男一人ではあの御方には勝てない。なので、あの御方を止められるものは神でも不可能という事だ。


「神はあの御方を追い詰めた。その報いを受ける時が来る。その時が来たら、私の悲願も達せられる」


 その為にも、スワガロ大陸にある石碑全てを破壊して、サンクチュアリを発動させなければならない。



「妖しの魔鏡」と「鬼嶋の鬼」も是非読んでみて下さい。

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