171 銃の黒騎士
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
翌朝。
俺達はすぐに次の町、マシラの町へと急いだ。
「しかし、来て早々三人目の黒騎士と対峙する事になるなんて」
「私達のせいかしら?」
馬車に揺られながら、俺と神宮寺は自分の強運とトラブル引き寄せ体質を呪った。お陰でミヤビから、「災難二倍マジヤベェ」と言われてしまった。
俺達のせいなの?
《勇者が持つ強運が、まさかこんな形で役に立つなんてね》
《デリウスさん。ご本人からしたら喜べない事です》
《ユズルも昔からトラブルに好かれていた、この二人は輪をかけて好かれているな》
はい、人の頭の中で井戸端会議をしているお三方。少し黙れ。
「あの、少しいいですか?」
俺達が落ち込んでいる中、アリシアさんが控え目に手を上げてデリウス達に質問してきた。何故デリウス達に聞いているのが分かるかって言うと、アリシアさんの視線が天井を向いているから。
「この大陸に来た黒騎士たちが襲った村や集落、更に襲われた時間帯を詳しく教えてもらえないでしょうか。討伐された二人も含めて」
《そうね。まず、ジーガとエンゲアとヴァルケリーは夕方に襲撃を仕掛け、アラエラーとサラフィは深夜、アルテミスとカラミーラーは日中に襲撃することが多いわ》
それを聞いたアリシアさんは、ポーチ型のアイテムボックスからスワガロ大陸の地図と大きな白紙の紙を取り出し、それらを床に広げてペンを走らせた。
カラミーラーは日中に襲撃することが多いって、急がないと襲撃が始まってしまうじゃない。いくら野宿した場所からそんなに離れていないと言っても、それでも馬車で三時間ぐらいかかるぞ。しかも、桜たちを休ませないといけないから、それ込みだともっと時間が掛かってしまう。
《ただ、次の襲撃が起こる日時、次に襲われる場所、行動原理については皆さんバラバラで、法則性があるとは思えないのです》
「構いませんイリューシャ様、教えてください」
今度は地図に何やら書き込んでいるアリシアさん。
改めて聞くと、確かに法則性があるとは思えなかった。次の襲撃が起こる日時は黒騎士によってバラバラだし、村と村との距離が近い訳でもない。一直線に進んでいる奴もいれば、そうでない奴もいた。
「こうしてみると、確かにバラバラだな」
「うん。私でもチンプンカンプンだわ」
俺と神宮寺が頭を抱え、フィアナとカナデは会話に入らぬよう明後日の方向を向いている。この襲撃に法則性や狙いがあるとは、聞いた限りでは考えられない。
そんな中、アリシアさんだけが何か気付いたみたいで、叩き付ける様にペンを走らせた。
「日中と夕方と深夜、襲撃された村や町、襲撃された町や村には必ず負のレイキュラが漂っているでしょうが、それを黒騎士全員が狙っているとは思えませんし、それに近くに違う集落があるのになぜそっちに」
ブツブツ呟きながらペンを走らせ、しばらくするとアリシアさんは何か確信を持ったようだ。
「そうか!こういうことだったのですね!」
次の瞬間、襲撃された町や村、集落を線で結び、白紙の方の紙に何やら魔法陣の様なものを描き出した。しかも、その線を赤と青と黒で分けて。一体何が分かったというのだ?
「日中は天の線、夕方は人の線、深夜は地の線、やっぱりそうです!出現日時をバラバラにしたのは、これに気付かせないためのカモフラージュだったのですね!」
法則性のない黒騎士たちの襲撃に、パーティーの頭脳であるアリシアさんが何か気付いた。そもそも、三色に線を書き分けたその魔法陣は一体何なのだ?
「急いでください!桜達には、私が回復魔法を使いますのでこのまま走ってください!襲撃が起こってからでは遅いのです!」
「え!?ああ、はい!」
手綱を握っていたメリーに指示を出し、次に後ろを走っているメンバーにも急ぐように伝えた。
「アリシアさん、一体何が?」
「後で説明をします!それよりも、カラミーラーを早く何とかしないといけません!」
「お、おおう」
鬼気迫る感じの覇気に思わずたじろいでしまったが、黒騎士達の襲撃に何か訳があるのではと思ったから焦っているのだろう。
その間に俺は、ハバキリをアイテムボックスから出して腰に差し、サブウェポンとして蒼龍を腰に差した。背中には、アラエラーから貰ったガラドボルグを背負った。いつでも戦いに行けるように、準備を整えた。
桜と紅葉、桃と椿には本当に無理をさせているが、四頭とも全速力で走った。その分馬車は激しく揺れたが、その辺は我慢しよう。
しばらく走っていると、目の前に黒煙を上げる町が見えた。間違いない、今まさにカラミーラーの襲撃を受けていた。
「俺とユズルとフィアナでカラミーラーを迎え撃つ!メリーとミヤビとヴィイチは使い魔の対処を!カナデと神宮寺は、メリー達の援護を!残りは住民の避難誘導と、怪我人の救助!」
皆の返事を待たず、俺は早速マップでカラミーラーの位置を確認し、無人と化した検問所を潜った所で俺とユズルとフィアナは先に馬車から飛び降り、止まった直後に他の皆も馬車から飛び降りた。俺とフィアナとユズルは建物の屋根を伝って目的地へと向かい、カナデと神宮寺は、ユズルが風魔法で浮かせて連れて行った。
その後を、ミヤビとメリーとヴィイチが走って追いかけて行った。
「酷いな」
建物は焼かれ、馬車道には逃げまとう人々で溢れかえっていき、目的地に近づくにつれて馬車道には生きた人ではなく、殺された人の遺体でいっぱいになっていた。
「ようやく敵のお出ましだ!」
町の中心付近には、向かってくる騎士団をオートマチックの拳銃で次々に撃ち殺していく、真っ黒い鎧に身を包んだ赤髪の女性の姿が見えた。
「デリウス!」
《えぇ!間違いない、銃の女神・カラミーラーよ!》
「アイツがそうか!『ファイアショット』」
カラミーラーに向けて「ファイアショット」を撃ったが、どういう訳かカラミーラーは弾丸だけで魔法を撃ち消したのだ。
「まっ、効かねぇよな。予想はしてたけど」
とりあえずこちらに注意を向けることが出来たし、良しとするか。
俺はハバキリを抜いて、カラミーラーの前に着地した。同じタイミングで黒曜を抜いたフィアナと、花月を抜いたユズルが着地し、カナデと神宮寺もそれぞれ建物の陰に隠れてカラミーラーの様子を窺った。
「あら、女性一人に対して五人で攻めるの?酷いわねぇ。勇者とは到底思えないわね」
「堕天したと言っても、女神を相手にするんだから妥当だ」
アラエラーのように、俺との一騎打ちを望んでいる訳でもなさそうだし、アンタみたいな敵に一対一で挑む訳がないだろ。
「あらあら、酷いなぁ。あ、でもこうしたら良いか」
ニヤリと不気味な笑みを浮かべた後、カラミーラーは左手に持っていた銃を地面に向けて撃った。
すると、撃たれた所からから黒い影が広がり、大きな蜂の魔物がぞろぞろと出てきた。やはり使い魔を使ってきたか。
「させません!」
カラミーラーが使い魔を放った瞬間、建物の陰から赤椿を持ったメリーが電光石火のごとく飛び出し、瞬く間に出てきた分の使い魔を全滅させた。
アラエラーの時、使い魔たちに手を焼いたのが悔しかったメリーは、センティオに赴くまでの間に剣術とスピードに更なる磨きをかけた。
その上体力もとんでもなく高く、ゲームで言うとHPが無限大に存在するという反則級の体力まで身に着けた。
けれど‥‥‥。
「なぁフィアナ。今の見えた?」
「いや。何あれ‥‥‥」
パワーアップしたメリーのスピードは、瞬間移動でもしたかの如く建物の陰から俺達の目の前まで来ていた。マンガだったら、魔物を切り伏せるコマを飛ばしてポーズを決めるシーンを書いたみたいだ。これ絶対にブーイングが出るな。
ハッキリ言って、勝てるかどうかわからなくなった。ギリギリ勝てると思うが、正直言って厳しい。それはフィアナも思ったみたいで、呆然と立ち尽くしていた。まぁ、フィアナとメリーの実力は互角だからどっちが勝ってもおかしくないけど。
「ちょっと待ってよ!」
「メリーさん、足速すぎです!」
そこへ、息を切らしたミヤビとヴィイチが合流し、体力回復のポーションを飲んだ。相当苦労したみたいだな。
「アンタ、本当に人の子なの?神である私でさえ、姿を捉えられなかったぞ」
どうやら、カラミーラーでさえ動くメリーの姿を捉えることが出来なかったみたいだ。
「前回のような失態は致しません。ご主人様達には指一本触れさせません」
「面白い。貴様等だけで、私の使い魔に何処まで行けるのかちょっと興味あるな」
そういうとカラミーラーは、銃で地面を三ヶ所撃ってそこから新たな蜂型の使い魔を召喚させた。
「うわぁ、神様なのにライドビーを使役するなんて」
「すごく危険な毒蜂ではありませんか」
ミヤビとヴィイチが驚いている中、メリーだけは表情を変えず赤椿を構えた。
「まったく、度胸が据わっているわね」
「他ならぬご主人様の為ですから、メリーさんが燃えない訳がありません」
メリーに続いて、ミヤビはレイピアを、ヴィイチはハルバードを構えた。
「アラエラーの様にはいかない。アナタ達が油断している隙に、私の使い魔がこの子達を襲うよ」
「そうはさせません!」
「私だって、ご主人様のために戦いたいです」
「私から逃れられるとでも」
際限なく湧いて出てくる蜂の群れに、メリーとミヤビとヴィイチが突っ込んでいった。
神宮寺とカナデが、そんな二人をそれぞれ魔法と魔法銃で援護していた。
「さて、俺達も行くか」
「ああ」
「三人でいけば何とかなるだろう」
俺とフィアナとユズルも、カラミーラーに刀と剣を構えてじわじわと距離を詰めた。
「剣や刀が、銃に勝てると思う」
そう言ってカラミーラーは、俺達に向けて両手に持っている銃を撃ってきた。弾が魔力で出来ていることから、魔法銃である事が分かった。
「私の魔法銃はカリンヴィーラ様の力によって、人を撃ち殺す事が可能になったのよ」
本来魔法銃は、魔物や魔族は殺せても人を殺すことは出来ないのだが、カリンヴィーラが改良したせいで人を殺す事が出来る様になったのか。だから、撃たれた騎士団の人達は皆死んだのだな。
ところが、魔力弾は俺達に当たる事無く全てハバキリと黒曜と花月に吸い込まれていき、吸収されていった。
俺のハバキリ、フィアナの黒曜、ユズルの花月には魔力吸収の能力が宿っている為、魔力で出来た弾丸が全て吸い寄せられて吸収されるのは当然の事であった。
「魔力吸収か。面倒だね」
魔法銃ではダメだと理解したカラミーラーは、魔法銃をホルスターに戻し、後ろの腰に装着したホルスターからオートマチック拳銃を二丁抜いて撃ってきた。
こっちは普通の銃みたいだが、カラミーラーが弾を交換しているしていなかった。実弾銃なのに一体どうなっているのだ?
「クソ!」
俺達はそれぞれ刀と剣で弾丸を弾いていったが、なかなか近づけないでいた。
《あの銃はカラミーラーが地球のアメリカで買った物で、神界に持ち帰った後で改良したみたいなのよね。カラミーラーのお気に入りでね、下界に降りる際はいつも持ち歩いていたわ》
いやいや、それ思い切り違法じゃねぇか!神様に言っても無駄だろうけど、法律は守ってもらいたいぞ!
詳しく聞くと、込めた魔力を撃つときに実弾に変えているのだそうだ。反則だろ、それ。
「チキショウ!こんなのありかよ!」
「しかも、撃つ速度がカナデ並だ!」
いやいや、確かにカナデも早撃ちの名人だけど、カラミーラーの早撃ちはカナデ以上だよ。銃の神様と言うのも伊達じゃない。これでは近づくのが困難だ。
そんな中、ユズルだけがあの弾丸の嵐を掻い潜りカラミーラーの目の前まで接近した。
「なに!?」
「はっ!」
腰を低く落としたユズルは、カラミーラーの鎧と鎧の隙間の腹に向けて斬撃を繰り出したが、カキーンと金属がぶつかり合うような音が響いた。
「色付きアイアンと言えど、元女神は容易に斬れないか」
「だったらどうする?」
「関係ない」
カラミーラーの追撃をかわしながら、ユズルは構わず花月で鎧を攻撃していき、上半身を覆っていた鎧を粉々に砕いた。
「体は斬れなくても、鎧は斬れる」
「人間の小僧が!」
鎧を砕かれたカラミーラーは、逆上してユズル一人に標的を絞って弾丸の嵐を浴びせようと撃ってきた。
けどユズルは、あれほどの弾丸の嵐であるにも拘らず一発も食らう事無く全て躱し、カラミーラーの左腕に花月を突き刺した。
「無駄だ。ダメージは無い」
「『ヘルファイア』」
そのまま魔法を唱えた瞬間、花月を突き刺された左腕から赤黒い炎が噴き出し、次の瞬間ドンと爆発した。
「あああああああああああああああああああああああ!」
左肩から黒い靄がドバァと音を立てて噴き出し、溜まらずカラミーラーはユズルから距離を取った。拳銃を口に咥えて、横に転がっていた住民の服を剥ぎ取り、それを身体に巻いて黒い靄の噴出を抑えた。
「クソ!再生に時間が掛かる!」
「っ!」
「なっ!?」
何時の間にかユズルは、カラミーラーの目の前まで接近し、空いている左腕で首を掴んだ直後に目の前の壁まで投げ飛ばした。
「なんて奴だ」
「相変わらず化け物だな。俺、よくあんな相手に勝てたな」
デリウスからも、トウラン武道祭で俺がユズルに勝てたのは奇跡に近いらしいから、あまり調子に乗らないようにと言われた。
うん。確かに、あの戦いっぷりを見ると勝てそうな気がまったくしない。神器も使わずに、カラミーラーに大ダメージを与えるなんて常人では絶対に出来ないぞ。
「小僧が生意気な!お前等は引っ込んでろ!」
逆上したカラミーラーは、標的をユズル一人に絞り、俺とフィアナには蜂型の使い魔を放ってきた。
「チッ!」
「面倒だな」
その頃
桜と紅葉が引いた馬車の中に置かれた翔馬のアイテムボックス。
その中にある神器、ミカヅチが光り輝き、アイテムボックスから勢いよく飛び出した。
まるで、何かに引き寄せられるかの如く。
前回の投稿がその年最後の投稿になるとは思っていませんでした。挨拶が出来ず申し訳ありませんでした。仕事が一旦落ち着きましたので、何話分か書いてからまた一定間隔で投稿しようと考えていますので、またしばらくかかるかもしれません。ご迷惑を掛けますが、今後ともよろしくお願いします。
「妖しの魔鏡」と「鬼嶋の鬼」も是非読んでみて下さい。