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170 楽しい?旅路

 出発して早々スタンピードに遭遇するという災難はあったが、その後は何事もなく進んだ。

 途中で何度か休憩を入れて、その度に今回付いて来たメイド達が俺と一緒に乗りたいと言ってきたので、ジャンケンをして一人ずつ交代で俺達の馬車に乗る事になった。

 そんな訳で、今現在はローリエが俺達の馬車に乗っていた。何か嬉しそうに尻尾を振っていた。


「そういえば、アリシアさんから聞きましたけど、虎鉄という刀がボロボロになってしまって、むこうで融解させていると」

「ああ。一度玉鋼の状態にしてから、新たに生まれ変わらせようと思ってな」


 桜と紅葉の手綱を握りながら、隣に座る神宮寺と話をしていた。


「とは言え、一度融解して玉鋼にしてしまうとサイズが小さくなるから、小刀サイズになってしまうんだよな」


 だから、新しい素材を見つけて生まれ変わらせたいと考えている。できれば、この大陸でしか手に入らない鉄で。


「そういう意味では、ローリエさんがいてくれて助かりますね」

「そうだな」

「呼んだ?」


 名前を呼ばれてローリエがぬぅと馬車から出てきて、俺の隣に腰を下ろした。


「ああ、ローリエなら、この大陸でしか手に入らない珍しい鉄塊は知らないかなって思ってな」

「それって、虹牙鉄のこと?」

「こうがてつ?」


 聞き慣れない名前の鉄塊に、俺と神宮寺は頭に疑問符を浮かべた。


「カナンマ王国でしか取れない希少鋼鉄で、色付きアイアンに並ぶ希少金属で硬さと切れ味は色付きアイアンと同じで、あれで鍛えられた剣は折れることも、朽ちる事も、刃毀れする事も、ヒビが入る事も、曲がる事もない。言うなれば、色付きアイアンのスワガロ大陸版みたいな物。カナンマ王国では、王族の鎧を作るのに使われている。虎鉄の原料になっているミスリルとの相性もバッチリで、カナンマに伝わる聖剣も虹牙鉄で出来ているって聞いた事がある」


 何故か饒舌になるローリエ。何処でその情報を知ったのだ?


「その聖剣の事でしたら、私も聞いた事があります。何でも、魔物の身体の一部を吸収する事で力を増していき、更に吸収した魔物の力等も使うことが出来ると聞いた事があります」

「へぇ」


 虹牙鉄にそんな特性があるのか?


《虹牙鉄そのものにはそんな力は無いけど、その剣に装着されている球体が聖剣にそういう力を与えているみたいなの》


 虹牙鉄だけでは、伝説の聖剣は鍛えられないのか。


「しかも、虹牙鉄には使う人に合わせて刃の色を変えるという不思議な特性もあるのよ。しかも、何故その色になるのか、そもそも何故色を変えるのかは今でも解明されておらず、この世界の最大のミステリーとも言われているのよ。分かっている色だけでも七色もあって、使う人によって色を変えるから第一発見者が虹牙鉄と名付けたの」

「はいはい。分かったから」


 自分の好きなことに熱が入るのは分かるが、これ以上はエスカレートしそうなのでブレーキを掛けさせた。

 それにしても、使う人間によって色を変えるなんてな。


《理由は私にも分からないわ。そもそも、実物を見たことが無いのだから知りようがないけど》


 単純に実物を見たことが無いから分からないのか。なら、見つかれば分かるのだろうか。


《それどうかしら。虹牙鉄というのは、色付きアイアン以上に発掘が難しい希少金属よ。特にここ百年は一個も発掘されていないのよ。石ころサイズでも、王侯貴族がこぞって欲しがるくらいよ。専門家は採り尽してしまったのでは、と言っているけどね》


 採り尽されてしまったか。

 更に詳しく聞くと、貴重価値の高さでは色付きアイアンを圧倒的に上回り、小さな石ころサイズでも王金貨五十枚で取引される程らしい。

 しかし、百年以上石ころサイズでも発掘されておらず、その価値は年々増加傾向にあると言われている。

 今回も、行ったとしても掘れるかどうかも分からないという。でも、もしかしたら勇者の強運が役に立つかもしれないと淡い期待抱いていたりして。


「帯刀君。顔がにやけていますわ」

「ご主人様も、なんだかんだ言って希少金属には目がない。これは探さなければ」


 ローリエが何だか燃えちゃっているけど、本人がやる気みたいだし時間があれば発掘に行くのも悪くないな。


《いや、燃えているのは君でしょうが》


 ツッコミどうも。

 それよりも今は、カナンマ王国とその国王、シャータン・バルグ・カナンマ国王の事について考えないといけない。

 カナンマ王国は、獣人や亜人、魔人族が多く住んでいる国だが、人間も普通に暮らしている。それに、料理もいたって普通らしいが、食材の中に魔物の肉が含まれている場合もあるから、食材探しは少し慎重になった方がいいかもしれない。


「クミナミ程ではありませんが、カナンマもなかなかに魔物が多いそうです」

「そうか」


 神宮寺とカナンマ王国の事についての情報を聞いていると、退屈になったのか、ローリエがのそのそと馬車へと入っていった。


「その中でも特に多いのが、ジェリースライムというスライムの仲間です」

「えぇ、あのゲル状のスライムか?」


 シンテイ大陸のスライムは、ブヨブヨしているが弾力もあり、見た目はそれ程恐怖を感じない可愛らしい姿をしている。

 しかしジェリースライムは、まるで液状のネバネバした気色の悪いスライムで、しかも植物繊維の物を溶かして来ると言う危険極まりないスライムなのだ。


「何であんな気色の悪いスライムを野放しにするんだ」

「実害がないからだと思います。農作物への被害はありますが、シンテイのスライムほど深刻ではないので放っておかれているのでしょう。それに、服は溶かしても命までは取りませんので」

「そうなんだけど」


 それでも、あんなスライムを放っておかないで欲しいぞ。うぅ、想像しただけでも悪寒が走ってしまう。


「他には‥‥‥あ、ゼフィル鉱山で三百年前から大量の魔物が住み着く様になって、しかも物凄く危険な種類ばかりとなっているので、今では誰も近づく事が出来なくなったそうです」

「ゼフィル鉱山か。交渉の手段として使えるかもな」

「帯刀君の考えが分かりました。ゼフィル鉱山魔物を一掃しようとおっしゃるのですね」

「ああ」


 それに鉱山ならローリエがいるし、魔物を倒すついでに鉱石もいくつか貰っておくのも悪くないかも。

なんて事を考えている俺を、神宮寺は何だか嬉しそうにジーと眺めていた。


「何だ?」

「いえ、ただ、地球にいた頃よりもとても楽しそうにしていらっしゃるなって思いまして」

「そうか?」

「えぇ。以前の帯刀君は、クラスでいつも孤立していて、誰ともかかわろうともせずどんよりとした雰囲気を出していました」

「そうだったな」


 それって、根暗の人見知り野郎って言いたいのか?人見知りなのは自覚がるが。


「それでも、誰かを気遣う優しさと、周りが何を言おうとも自分の道を見つけようとする姿勢がありましたわ」

「そうしないと、親や門下生が振り撒いた根も葉もない噂から目を逸らせなかったから」


 要は、逃げていただけだ。周りに違うといくら言っても信じてもらえず、皆が俺を蔑む目で見ていた。それを払拭する為に、困っている人を助けてきたが、それでも全然感謝される事無く皆が俺を怖がっていた。

 この世界に召喚される前の日比島達は、そんな俺の事を心配してくれていたが、それでも根本的解決には繋がらなかった。


「それでも、帯刀君は手を差し伸べてあげました。それは、誰にでも出来ることではありませんし、この世界に召喚されてもそれは変わらず、今では勇者として称えられています」

「そんな大層なものではないよ、俺は」


 何時だってそうだ。

 俺がクラスで浮いていても、神宮寺だけは俺の事を常に気にかけてくれた。周りがどんなに止めても、彼女だけは俺に話しかけてくれた。俺の下手糞な会話でも、笑顔で聞いてくれた。休みの日に、ショッピングに誘ってくれた事もあった。


「どうかしました?」

「いや」


 確かに神宮寺は、よく俺の事を気にかけてくれたが、それが自分への好意ではないかと思う程俺は自惚れていない。神宮寺はただ、曲がった事が嫌いで不当な扱いを行う周りの連中が許せなかっただけだ。

 勘違いしてはいけない。それは神宮寺にとっても迷惑だ。


《(美穂子様、道のりはかなり長いみたいです‥‥‥)》

《(どこまで鈍感なのよ。あの子達の苦労も分かるわ‥‥‥)》

《(まったく、四人も五人も変わらんのに、まだ地球の常識に囚われてるぞ)》


 デリウスとイリューシャとタケミヤの、三人の神様が何か考えているようだが、桜と紅葉の手綱を握っている為考えないようにするか。馬というのは、手綱から騎手の感情を読み取る事が出来るからな、その辺は気を付けないといけない。


「あの、帯刀君」

「何だ?」

「その、マップを開いてみてください」

「マップを?」


 言われた通りにマップを開いてみると、目の前にまたしても魔物の群れの様なものを見つけてしまった。


「おい。これって‥‥‥」

「えぇ、このまま放っておくと間違いなくスタンピードになりますわよね」

「スタンピードって、発生する頻度がこんなに高かったっけ?」

「いいえ‥‥‥」


 やはりこれって、俺と神宮寺で災難二倍に膨れ上がってしまったせいなのか?


《《《さあぁ》》》


 さあぁ、って酷くねぇ!?

 何事を考えていると、目の前に種類がバラバラの魔物達が数百の群れを成して、今にも興奮しそうな状態になっていた。チキショウ、どうしてこんな目に遭うんだよ!


「これ、私達のせいなのかしら?これで一体何度目なのでしょうか?」

「今日だけだったらまだ二回だが、トータルするとかなりの遭遇率だな。そもそも、二回も遭遇する事自体が珍しいのだけど」


半ば諦めた俺は、後ろの馬車も停めて全員降りる様に指示を出した。


「結局こうなるのね」


 ミヤビからそのようなお言葉を頂き、わたくしの心に無数の棘が突き刺さり蜂の巣と化しました。酷いです。


「まっ、慣れているから別にいいけど」

「早いとこ片付けちゃいましょう」


 フィアナとカナデまで俺の心を抉らないで!


「まぁ、素材がたくさん採れてお金もたくさん入ると思って頑張りましょう」

「わたしは例えご主人様が疫病神であろうとついていきます」


 アリシアさんとメリーも、それ全然励ましになっていませんから。


「はぁ、やるか」


 戦う前から心をズタボロにされた俺は、アイテムボックスからガラドボルグを取り出し、それを腰に提げた。


「それは、アラエラーと戦った時の戦利品の」

「ああ、試してみたくてな」


 神剣・ガラドボルグは、アラエラーが人化してこの世界に降りた際に愛用していた剣で、ゴールドアイアンで鍛え上げられた業物でもある。直剣に対して業物という表現は変かもしれないけど。


「俺とメリーとフィアナとユズルで前半分を何とかする。ミヤビとローリエとヴィイチとラヴィーは真ん中辺りを。エリは討ち漏らした魔物を、アリシアさんとカナデと神宮寺は後方支援を」

『分かった!』


 俺はガラドボルグを抜き、黄金の刀のゴルドを抜いたフィアナと、銀色の剣を抜いたメリー、そして俺が与えた刀を抜いたユズルと共に群れの前方へと駆け出した。

 前方には、ロックボアやレッドオークなどのパワー系の魔物がたくさん固まっていた。通常であれば、剣が通りにくい魔物ばかりではあるが、ガラドボルグはそんな魔物達を、全く手応えを感じさせる事無く斬っていった。


「よく斬れる!やっぱり翔馬はすごいぞ!」

「はい!斬るのが難しいロックボアをアッサリと!」

「金貨二千枚で買っただけのことはある!」


 フィアナとメリーとユズルは、俺が鍛えた刀と剣の切れ味に感激しているみたいだな。そこまで感激する事なのか?

 まぁいい。それより、他の皆どうなのだ?


《真ん中にいるメンツも、ミヤビとヴィイチを中心に戦っているわね。ローリエとラヴィーが、二人を援護しながら戦っている感じね》


 ミヤビに付いて来られるなんて、ヴィイチもかなり成長しているな。もしかしたら、ミユキよりも強くなっているかもしれないな。後で確認しておこう。

 ローリエとラヴィーもかなり強い筈なのに。てかラヴィーも、グリーヴを装備しているとはいえ、蹴り技だけでよく魔物を仕留められるな。


《エリは後方に行って、皆が仕留めきれなかった魔物を倒しているわね》


 こういう時、エリがいてくれると助かる。暗殺が得意なエリは、気配を消して相手に近づくのが得意で、俺もマップなしでは気配を察知しにくくなってしまう程だ

 アリシアさんとカナデと神宮寺の三人はというと、正確に俺達の後ろから襲おうとする魔物を中心に攻撃していった。

 その上、フィアナもメリーという常に背中を任せられる存在がいるお陰で、俺は安心して目の前の敵に集中できるのだ!

 お、今度はアイアンロブスターだ。今夜御馳走だぞ!

 そうして二時間後、俺達は魔物の群れを全て倒していき、メリーを筆頭に奴隷組が魔石と素材の回収作業に入っていた。

 奴隷組が回収した魔石と素材を、俺のアイテムボックスの中に収納し、神宮寺とユズルのアイテムボックスにも均等に分けて入れた。

 回収した魔石と素材は、次に訪れた町のギルドで換金する予定だ。ただし、全部ではなく少しずつ換金していく形になる。そうでないと、価格破壊を起こしかねないし、こちらが使える素材だってあるかもしれないから持っていて損はない。


「それにしても、ショーマさんが持っているその黄金色の剣、すごい切れ味ですね」


 手に取った素材を収納しようとした時、ユズルが俺の腰に提げられたガラドボルグに注目した。


「ああ。これは戦利品だ。剣の黒騎士を倒した証のな」


 アラエラーが大切にしていた剣だから、俺もこの剣に最大の敬意をもって使っていきたいと思っている。


「剣の黒騎士という事は、剣の女神のアラエラーを倒したんだね。ジーガだけじゃなく、アラエラーまで倒すなんてすごいな」

「爪にトドメを刺したのは俺じゃなくてフィアナだよ」


 俺がやったことは、ジーガの両腕を切り落としただけだ。あとはアリシアさんと神宮寺が鎧にヒビを入れて、そこへシャリスが渾身の一撃を入れて破壊し、最後にフィアナがジーガの身体を一刀両断にしたのだから、俺だけの功績ではない。


《あんた達、聞こえている》


 デリウスの突然の念波に俺だけでなく、アリシアさん、カナデ、メリー、フィアナ、神宮寺、ローリエ、ユズル、ミヤビと、俺とユズルとパートナーの誓いを結んだ子と、他の神の加護を宿している奴が反応した。


《明日急いで次の町、マシラの町に向かった方が良いわ。イリューシャとタケミヤと入念に調べたところ、マシラの町にカラミーラーが来ることが分かったわ》


『っ!?』


 カラミーラーって確か、丸本に加護を与えた銃の女神だったな。エンゲアやヴァルケリーに加えて、カラミーラーまでここに来ていたのかよ。アリシアさんの予想が見事に的中したな。


《カラミーラーさんだけではありません。アルテミスさんやサラフィさんまでも、スワガロ大陸に来てしまったみたいです》

《ソルエルティやキルラエル、ゾーアの三人はイースティアに留まっているが、それでも面倒な奴等が来た事には変わりはない》


 イリューシャとタケミヤも更に情報を与えてくれた。おいおいおい、弓と魔法の女神までもがここに来てしまったのかよ。

 しかも、次に向かおうと思っている町にカラミーラーが現れようとしているのが分かった。

 これはあまりのんびりしてはいられないぞ。



「妖しの魔鏡」と「鬼嶋の鬼」も是非読んでみて下さい。

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