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166 道化の果てに

 とりあえず俺とミユキは、秋葉と王女殿下に連れられて王城へと向かっていた。

 秋葉が何故か勝ち誇ったという顔をしているが、俺にはカリンヴィーラとセンティオ国王、その両方に良い様に利用されている哀れな道化人に見えてならなかった。

 ミユキはというと、両手を縄で縛られ、口も布で縛られていた。完全に人質にしているじゃん。しかも、それでいてまだ自分が正しいと本気で思い込んでいるのかね。一度、秋葉の脳みそを切り開いて中身を見てみたいくらいだ。


《随分猟奇的だね。人体解剖したいなんて》


 物の例えだ。

 それと、この事はフィアナとシュウラにはもちろん、各地に散らばっている他の仲間にも念波で伝えてある。それによると、既に何千という兵が襲撃に来ていたのだそうだ。尤も、全く苦戦する事無く全滅させたそうだ。

 その翌日には飛行機を使ってきたみたいだが、それも金ランクの冒険者達が一機も残さず撃墜したそうだ。魔法が使えるリィーシャはともかく、キリカやミヤビとゴルディオはどうやって撃墜したんだよ。


《その高さまでジャンプして、一機ずつ物理的に破壊していったわ》


 化け物かよ。


《君だって十分化け物の部類じゃない》


 不愉快だ。

 そうこうしているうちに、俺とミユキを乗せた馬車は王城へと到着した。

 到着してすぐ、俺は兵士達に誘導され城の敷地内にある闘技場へと案内された。

 闘技場には、秋葉と金髪王女と髭を生やした壮年の男性がいて、四人の兵士がミユキを囲むように立っていた。縛られている割に、ミユキはとてもに落ち着いていた。

 壮年の男性の方は、華美な服に高そうな毛皮で出来たマントを羽織り、腰には宝石をあしらった鞘に納められた剣が提げられていた。見るからに王様って感じだな。

 更に闘技場の周りの席には、王都に住んでいる貴族達が所狭しに座っていて、全員が俺を蔑む様な目で見ていた。来ることが分かっていたから、公開処刑の様に無様に負ける俺を見せつけて士気を高めようとしているのだな。


《髭を生やしたおっさんが、この国の王のアブソート・カウ・センティオよ。ちなみに王女様の名前は、マリフィナ・ラウ・センティオ》


 王女の名前まで聞いていない。何か物凄く危険な薬物をもじったような名前をしているな。

 王様の方は一見温厚そうだが、目付きは非常に鋭かった。ユズルから聞いていた通りの外見だな。


「そなたが、勇者を名乗る紛い物の犯罪者か」

「勇者とは言っているが、俺は別にそれを悪用した覚えなんてないぞ」


 そう言わないといけない様な状況が多いし、それ以前に黒髪黒目の人間なんて転移者でもない限りこの世界には存在しないからな。


「黙れ犯罪者!シンテイ大陸やエルト大陸、我が大陸ではイースティア大帝国をその地位を使って支配していると聞いた」


 うわぁ、酷い捏造だな。というか、イースティア大帝国を滅ぼしたのはカリンヴィーラなのだけど。あ、そのカリンヴィーラが流したデマ情報だったな。


「哀れな娘よ。今こそ真の勇者たる時治殿が、そなたを救ってくれるぞ」

「時治様♪頑張ってください♪」

「ああ。待っててミユキちゃん。この悪魔を成敗して、絶対に助け出してあげるから」


 ミユキの言う通り、頭の中がお花畑すぎるぞ。この男、自分が称賛される事に酔っているぞ。


《だったら、あの時と同様に徹底的に叩きのめしなさい。カリンヴィーラの思惑に乗ってしまうのは癪だけど、このまま調子に乗せる訳にも行かないからね》


 わぁお、女神様らしからぬ発言ですな。まるで悪魔のささやきだ。


《さすがにそれは酷いわよ!泣くぞ!》


 さてさて、おふざけもこの辺にしてあのバカの目を覚まさせないとな。


《スルーしないで!》


 槍の素材は、矛の部分が赤色をしているということは、ヒヒイロカネ製かな。レッドアイアンなら、宝石の様にもっとキラキラしているからな。

 鑑定眼を使いたいところだけど、今のアイツもステータス画面を見る事が出来るから迂闊に開く事が出来ない。開いたら開いたで何を言われるか分からないし、最悪卑怯だと言ってくるだろう。ソルエルティも余計なことをしてくれたな。


《こっちで確認もしてみたけど、アイツのレベルは以前より20程上がっているけど、君の足元にも及ばないわよ》


 ようやくレベル70代に到達した割には、随分と偉そうだな。


「棄権しろ帯刀。今の俺のレベルは800を超えたんだ。いくらお前でも敵う訳がない。潔く負けを認めろ」


 なんて言っているが、実際はどうなんだ?


《そんなにある訳がないでしょ。そもそも君でさえレベルが615でカンストしている状態なのよ。いくら普通よりレベルが上がりやすいと言っても、500を超えると上がりにくくなるものよ》


 そりゃそうか。そう都合よくいかないよな。

 そもそも俺のレベルが600を超えたのは、サラディーナが力を与えてくれたお陰なのだろうし、今までが都合よくポンポン上がっていたのだ。上がる速度が普通に戻ったと思えばいいか。


《ソルエルティが、情報を改竄してそう見せているのかもしれないわね。君も経験があると思うけど、私達神の力を使えばステータスを偽装する事が出来るの》


 そういえば、クフォト王国に入国する時もデリウスに俺のステータスを偽装してもらい、日比島達の目を誤魔化していたな。


「驚きのあまり声も出ないか?」

「いや」


 とりあえず虎鉄を抜いて、決闘開始の合図を待った。


「そんな刀で、俺に勝とうていうのか?そんななまくらで」

「なまくらじゃねぇ。虎鉄は俺の愛刀の一つだ。能力は無いが、最高の一振りだと自負している」


 蒼龍と火車斬と同時期に鍛えられた、俺の大切な刀だ。切れ味も抜群に良いし、丈夫さだって折り紙付きだ。そんな虎鉄をなまくら呼ばわりされると無性に腹が立つ。


「愚かな男だ。真の勇者たる秋葉殿に勝てると思っているのか?」


 小馬鹿にするような言い方で俺を煽る王の言葉に、見物に来ていた貴族達が大きな声を上げて笑った。

 何処まで救いようが無いのだこの国は?俺がいくら言っても、コイツ等は聞き入れようとしない。ただただ、戦争をする理由を屁理屈並べて正当化しようとしている。本当によく、今の今までこの国は存続出来たな。


「なら、圧倒的力の差をもって己の犯した罪を悔い改めろ。始め!」


 王の合図で、俺と秋葉の決闘が始まった。


「最後の警告だ。負けを認めろ」

「それはテメェの方だ」


 秋葉は槍を構えて、俺に負けを認めるように言ってきたが、俺はそんな事は知った事ではない。こんなバカと嫌な再会してしまっただけでも憂鬱なのに、その上またこんな無意味な決闘を申し込まれてしまうなんて。以前シャリスが言っていたように、やっぱり呪われているのだろうか。


《失敬ね》


 それは置いておいて。

 俺が負けを認めようとしない事で、秋葉は地面を強く蹴って赤い槍を力一杯突いてきた。俺はそれを、半歩横に移動しただけで躱した。


「まだまだ!」


 それでも諦めず連続で突いてくる秋葉だが、ハッキリ言って遅すぎる。傍から見たら少しは速いのだろうけど、俺から見ればスローで突いている様にしか見えなかった。

 判定としては、時代劇で見る足軽の槍捌きに毛が生えた程度のものであった。競技としてなら確かに早いが、実戦形式で剣の訓練を行ってきた俺にとっては避けるなんて造作も無かった。

 王様や王女様、貴族達には秋葉が押しているように見えているのか、歓喜の声を上げて秋葉を応援していた。攻撃をしている秋葉も、実は自分が不利な状況になっているのが分からないのか、調子に乗っているのが表情から読み取れた。

 何でこんな茶番に付き合わないといけないんだ。


(翔馬、聞こえるか?)

(お、フィアナか。追手はどうだった?)

(私とユズルが瞬殺した。全員雑魚揃いだった)

(はは‥‥‥)


 そりゃ、フィアナとユズルの敵ではないでしょ。


(そんな事より、お前またソイツのお遊びに付き合ってんのか?)

(好きで付き合ってんじゃねぇよ。てか、お前等この闘技場に来ているのか?)

(あぁ、私は天井付近から、シュウラはお前が入った入り口の所までゆっくり歩いている)


 秋葉の攻撃を躱しながら、俺は周囲を注意深く見渡した。貴族達に混じってユズルとラヴィーとナーナが、城壁の上にはフィアナがこちらを見下ろしていた。


(翔馬殿、聞こえますか?)


 四人の姿を確認した所で、今度はシュウラから念波が届いた。


(丁度ころあいと思い、ブラックレイルを使って各地のゲートから兵が進軍してきます。遊びもそのくらいにしてください)


 だから、遊んでいるんじゃないのだけど‥‥‥。まぁいいか。

 どうやら、準備も終えたみたいだし俺もこんな茶番を終わらせるか。


「オラオラどうした!逃げるしか出来ないのか!」

「反撃して欲しいのなら、望み通りにしてやるよ」


 丁度すべての準備が終わったみたいだし、この辺でケリをつけるか。

 突いてきた槍を、俺は虎鉄で力一杯払った。槍と一緒に、持っていた秋葉までも吹っ飛ばした。


「貴様!勝てないからって卑怯な手を!」

「使ってねぇよ。テメェが弱いだけだ」

「ほざけ!」


 何処までもバカで、何処までも自己愛に支配された秋葉は、懲りずに先程と同じ攻撃を繰り返すだけであった。

 正直言って疲れる為、俺は槍の柄の部分を両断して強制終了に持ち込むようにした。穂の部分がヒヒイロカネでも、柄は木製である為切るのはそんなに難しくなかった。

 そんな光景に、王や王女はもちろん、見物に来ていた貴族達がざわつき始めた。


「バカな!?」

「いい加減理解しろ。お前のやっていることは、ただ悪戯に世界を混乱に陥れているだけだ。そんなのは正義でも何でもない」

「それはお前の方だろ!」

「お前は、自分がしている事がどういうことなのか全く分かってない」


 飛行機を戦争の道具として利用し、自分が特別選ばれたと思い込んだばかりに暴走し、戦争を望むバカな王やソルエルティの思惑も疑う事無く鵜呑みにして。

 異世界に召喚された事で、自分がゲームやラノベの世界の主人公にでもなった気になっているのだろうか。否、実際にそう思っていなければこんな事態になっていなかったな。


「時治様!」


 見かねた王女が、秋葉に向けて新しい槍を投げて手渡し、その槍で再び俺に攻撃を仕掛けてきた。


「悪であるお前が言うな!」


 何処までも自分の行ってきた事が間違っていないと妄信し、可愛い女の子全てが自分になびくものと思い込んでいる。異世界=ハーレムという思想は、間違っていると思う。

 もうダメだ。


(デリウス)


《いつでも準備できているわよ。あのバカから、ソルエルティの加護を強引に返させてもらう》


(そんじゃ、始めるか)


 俺が神威解放しようとしていると、王女が俺の死角に周り魔法を掛けようとしているのが気配で分かった。


「やらせない」

「っ!?」


 王女が魔法を放つ直前、城壁から飛び降りたフィアナが金色の剣の虎眼の切っ先を王女の首元に向けた。突然のフィアナの登場に、王と貴族達が更にざわめきだした。


「アンタ何者よ!?」

「夫を支えるのが、妻の務めだからな」


 夫と妻って、まだ結婚していないのだけど‥‥‥。あと、答えになってないぞ。

 だが、お陰で助かった。

 俺は改めて意識を集中し、全身に神気を薄く纏わた。同時に、フィアナにも紫色の神気が全身を覆った。


「何だあの力は!?」

「あれが、悪魔の力なの?」

「それなのに、何でこんなに神々しいのだ!」


 戸惑う貴族達を無視して、俺は秋葉の槍と掴んで取り上げ、足払いをして正面から転倒させた。あらら、顔面を強打しちゃったのか、鼻血が出ちゃっているぞ。


「まっ、そんなの関係ないか」


 俺は構わず秋葉に馬乗りになる様な態勢になり、後頭部を鷲掴みにして神気を更に高めた。


「離せ!何をする!」

「デリウス!」


《『神の名のもとに命ずる。彼のものが奪いし加護を、本来あるべき所に戻せ』》


「っ!?ああああああああああああああああああああああああ!」


 突然苦しみだした秋葉の身体から、濃い紫色の神気が発生し、それが俺の左手を通してデリウスの所へと送られているのが分かる。


「敷島の時は、胸の前で加護が球体となって表れたけど」


《あれは、レベルとMPが下がったり、スキルが無くなったりするのを防ぐ為の物だけど、今回はかなり強引な手段だから、レベルとMPが下がるのはもちろん、スキルも無くなってしまうからハッキリ言ってこの状態でこの世界で生きていくのは苦痛よ》


 デリウスの指摘通りで、試しにステータスを開いてみると、レベルとMP値がどんどん下がっていくのが分かり、スキルも一つ、また一つと消えていった。

 加護を取り返した所で、俺も神気を納め、フィアナの神気も収まった。

 そして最終的に、加護を失った秋葉のステータスがこれだ。


======================


名前:秋葉時治      年齢:二十一

種族:人間        性別:男

レベル:1

MP値:10

スキル:なし


======================


 レベル1な上にMP値がたったの10、その上スキルも無し。しかも、これでもう二度と上がらないらしいから生きていくのが大変だ。


「離せ!」


 俺を振り払おうと暴れるが、今の秋葉が殴っても俺にダメージを与えることは出来ないし、槍も満足に持つ事も出来なくなっているようだ。


「離せ!ソルエルティ様が、俺を認めてくださったんだ!お前みたいな悪に勇者である俺が負ける訳には!」

「知らないようだから教えるが、ソルエルティならカリンヴィーラによって堕天してしまい、悪魔になって隣のイースティア大帝国にいるんだ」

「嘘つくな!だったら何で俺とコンタクトが取れるんだ!」

「堕天してしまっても、神としての力は使える。カリンヴィーラの指示に従い、お前に嘘の情報を伝えて世界を混乱に陥れようとしてるんだ」


 本当に何で、あんなのが今まで女神を続けられたのか不思議でならないぞ。廃嫡しなかった結果、こんな大事を招いてしまった。神様って自己保身の塊かよ。


《返す言葉が見つからないのが悔しい》


 デリウスも前々からカリンヴィーラの事を嫌っていて、何度も廃嫡して欲しいと懇願してきたが、カリンヴィーラの主神であるハーディーンが自己保身を優先してしまったのが間違いの始まりだ。


「いい加減なことを言うな!偉大なる女神のソルエルティ様が、勇者である俺を騙す訳がないだろ!」


《残念ながら、そのボウヤが言っていることは全て事実よ》


「なっ!?」

「デリウス!」


《間違いないわ、ソルエルティよ》


 やはり、ソルエルティの声だったのか。秋葉にも聞こえる様にしているって事は、もう用済みとなってしまったって事か。デリウスも、秋葉にも聞こえる様に念波を繋げた。


《久しぶりね、デリウス》

《無様な姿になったね。悪魔になったせいで、身も心もカリンヴィーラの意のままになったのかしら》

《失礼ね。ただ、ようやく目が覚めただけ》


《私達みたいな特別な存在が、人間のような下等生物なんかのために働くのが間違いだって事にね》


「え?」


 ソルエルティの言葉に、秋葉が間の抜けた声を出した。


「何言っているです。あなたは、俺に正しい道を示してくださったではありませんか」


《ふっふっふっ、まだ信じているのかしら!私はカリンヴィーラ様のお陰で生まれ変わったの!だから、まだ加護を持っているお前を利用して、この世界に恐怖と絶望と混乱をもたらそうとしたのよ。そうとは知らずに、ただただ道化のごとく動いたアンタを見ていて笑いが止まらなかったわ!》


 最後にソルエルティは、大きな声で笑い出した。この高笑いを聞いて、俺は更に嫌な気分になった。

 真実を聞いた秋葉は、絶望のあまり全身の力が抜け、直後に悲鳴を上げた。


《あははははははははは!カリンヴィーラ様のおっしゃる通り、絶望のどん底に叩き落された人間の悲鳴を聞くのはたまらなく最高だわ!なんて気持ちいいのかしら!》

《ソルエルティい!》


 怒りを露わにするデリウスだが、ソルエルティはそのまま念波を切った。


「そんな‥‥‥」


 生気を失った秋葉から、黒色の靄の様なものが漂いだしたのが見え、それが真っ直ぐ東に向かっていった。おそらくこれが、負のレイキュラなのだろう。

 そして、王と貴族達からも負のレイキュラが発生しているのが分かった。


「おのれ!よくも我が国の勇者様を!衛兵!」


 王の指示で、城に常駐していた兵が一斉に闘技場へと雪崩込み、フィアナも王女を一旦諦めて俺と合流した。


「まったく、気色の悪い靄を出して」

「フィアナにも見えるのか」


 何百という兵に取り囲まれているにも拘らず、俺達は何故か落ち着いていた。

 何故なら、王の背後から


「そこまでだ」


 刀を抜いたシュウラが、兵に紛れて王の背後に回って首元に刃を向けていた。同時に、町から爆発音の様なものが聞こえてきた。


「貴様は!?」

「この世界を支配しようと戦争を仕掛けた罪は大きいぞ」



「妖しの魔鏡」と「鬼嶋の鬼」も是非読んでみて下さい。

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