表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/224

158 キタールの王都

「行け!絶対に王都に近づけるな!」

「無理です!これ以上は、‥‥‥あっ!」


 騎士団長の所へやってきた部下が、黒色の鎧に包まれた赤髪の剣を持つ女の騎士によって殺された。

それを見た騎士団長は、怒りに駆られ、剣を振り下ろしていった。

 が、黒騎士はそれをアッサリいなし、騎士団長の首筋をすれ違いざまに斬っていった。


「つ、つよ、い‥‥‥」


 首筋から大量の血しぶきが噴き出し、その場に倒れてしまった騎士団長。黒騎士は、そんな騎士団長を嘲笑う様に見下していた。


「いか、せない‥‥‥!王都に、だけは!」


 だが、そんな騎士団長の意思も虚しく、黒騎士によってトドメを刺され息絶えてしまった。


「弱いくせにいきがって。この国ももう終わりだな」


 そう言い残し、黒騎士はフゥと姿を消した。


        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ここもやられたか‥‥‥」


 狩りに行き、シャリスと井端と別れてから今日で五日目。

 俺達は、キタール亀王国の王都・ウォンテンに向かう途中にある村の一つに来ていた。

 だが、その村は既に壊滅状態になっており、住民は一人残らず全員殺されていた。

 入国したあの検問所から王都までの間に、三つの村と集落があるのだが、その内二つの村と集落が黒騎士によって壊滅された後であった。

 そして、三つ目のこの村も壊滅された後であった。


「焼け跡や、遺体の状態から、襲撃があったのは昨夜だと思います」

「チッ!全然気付かなかったぞ」


 遺体の腐敗がそこまで進んでいないのを見ても、最近襲撃があった事は想像がつくが、まさか昨夜行われていたなんて思いもしなかった。

 俺達がこの村に到着したのは、丁度正午だった。ここから昨夜野宿した所まではかなり距離はあるが、それでも何かしらの異変は感じることが出来たのではと思ってしまう。


《おそらく、襲撃の際に高度の結界でも張ってあったのでしょう。マップを誤魔化してしまう程の》

《けど、それで誤魔化せるのはマップと神の目だけです。地上からは普通に見えます。例えば、火の手やそこから上がった黒煙などは》


 まぁ、カリンヴィーラにとってデリウスとイリューシャの目は厄介だから、そういう監視の目を掻い潜る為の結界を張るように命じていてもおかしくはない。

 だが、イリューシャが言う様にそれで誤魔化せるのはあくまで神の力のみで、肉眼で普通に見ることは可能の筈。にも拘らず、俺達は全く気が付く事が出来なかった。


「たぶん。襲撃があったのが真夜中なのだと思います。その時間帯でしたら私達は全員眠っていますので」

「私もアリシア様と同じ考えです。特に今は、ミホコ様が不可視と魔物除けの結界を張ってくださいますので、誰も夜番をする必要が無くなってしまいましたので」

「そこを狙われたという訳ですね。私の掛けた結界が、裏目に出てしまいました」


 アリシアさんとヴィイチの予想を聞いて、悔しそうに奥歯を噛み締める神宮寺。

 俺達だけでの旅だったら、魔物除けは出来ても盗賊除けは出来ないので、交代で夜番をしていた。その為、夜番をしている人は寝不足になる事があった。

 だけど、神宮寺が一緒に来てくれた事で魔物除けだけでなく不可視の結界まで掛けてくれるようになった。そのお陰で、俺達は夜番をする必要が無くなり全員でぐっすり眠る事が出来る様になり、誰も寝不足に悩む事は無くなって助かった。

 今回は、それが裏目に出てしまったみたいだ。


「あまり自分を責めるなよ。俺達だって、楽な方を選んでしまったんだから、神宮寺一人が思い詰めることは無い」

「えぇ。でも、悔しいです」


 気持ちは分かる。だが、それが可能だと聞いてお願いをしてしまったのは俺だ。俺が楽な方を選んでしまったせいで、黒騎士の襲撃を見過ごしてしまった。距離があったというのも確かにあったが、それでも燃え盛る炎や黒煙くらいは見えていた筈だ。


《悔やんでも仕方がない。それよりも、真ん中辺りに食糧庫があるから急いでそこに行きなさい。生存者が居るわ》


「「なに!?」」


 俺と神宮寺の声がハモった。この状況で生存者が居るって!

 俺と神宮寺は、すぐにデリウスが指定した場所へと走って行った。ちょうど瓦礫の撤去をしていたフィアナもいたので、事情を説明して付いて来てもらった。

 指定したそこは、村民達の食料が貯蔵されたと思われる建物の残骸があった。マップでも確認してみたら、確かに生存者が瓦礫の下敷きになっていた。


「フィアナ」

「分かった」


 持ち前の馬鹿力で、瓦礫の山をひょいひょいと退けていくフィアナ。いつ見ても恐ろしい馬鹿力だ。うぉ、自分の身長の倍以上もある残骸も片手で持ち上げちゃっているよ。


「いたぞ、翔馬!」

「本当か!」


 俺と神宮寺は、フィアナの視線の先に目を向けた。そこには、赤い服を着た短い茶髪にこの世界では珍しい黒い瞳をした、十三歳くらいの男の子が弱々しいが確かに呼吸をしていた。早く助けないと手遅れになる。

 ここから慎重に瓦礫を退けるフィアナ。やがて男の子の全身が見えてきたので、神宮寺はすぐに男の子に近づき、アイテムボックスから十字架型の神器のエルクリスを取り出し、強く握って意識を集中させた。もう片方の手を、男の子の方に向けた。

 すると、十字架の神器のエルクリスが少し金色に光り出し、同じタイミングで神宮寺は呪文を唱えた。


「『光よ輝け、彼の者に聖なる癒しを。メガヒール』」


 呪文を唱えた直後、男の子の身体を光が包み込み、身体にあった傷が次々に治っていった。それだけでなく、出血が多く真っ青だった男の子の顔がみるみるうちに赤みを帯びていった。


《私の加護と、エルクリスの力が加わった事で怪我や欠損部分だけでなく、失われた血液まで元に戻っているのです。本当に上達しましたわね、美穂子様》


 流石は、聖の女神に気に入られて加護を授かっただけの事があるな。怪我をしている人を助けることに関しては、アリシアさんさえも凌駕している。魔王戦においては、とても重要なヒーラーとなるだろうな。


「あぁ‥‥‥」


 身体の痛みが無くなった男の子は、起き上がってすぐに自分の手を握ったり開いたりして状態を確認していた。

 改めて確認してみたら、男の子の腰には剣が提げられていて、身に着けている革鎧もそこそこ値が張りそうなものであった。おそらく、冒険者なのだろう。


「信じられない。身体の痛みが、嘘みたいに‥‥‥」


 自分の傷が治っていることに驚いているうちに、俺は男の子に鑑定眼を使ってステータスを見た。


======================


名前:トキト       年齢:十三

種族:人間        性別:男

レベル:47

スキル:剣術A   格闘術A   棒術A   槍術B

    酪農技術B   農業B


======================


 レベルはシャリスや井端と同じくらいで、年齢も二人と近かった。そういえばあの二人、今頃何をしているのだろうか?


「助けてくれてありがとうございます。俺は、トキトといいます。一応、青ランクの冒険者です」


 青ランクというところも、シャリスと井端と同じか。


「俺は翔馬だ。トウラン武王国から来た」

「トウランって、シンテイ大陸から来たのですか?」

「ああ」

「そういえばその黒い髪と黒い瞳、もしかして異世界から来た勇者様ですか!?」


 また同じ反応をされた。


「人違いです」

「「嘘つくな」」


 ちょっとフィアナと神宮寺、速攻でバラさないで。ほら見ろ、目をキラキラさせながら見てるじゃない!


「やっぱり勇者様だったんですか!しかも、刀を三本差しているところを見ると、剣の腕もかなりのものと見ました!」

「か、買いかぶられては‥‥‥」

「この前のトウラン武道祭で、あのユズルに勝って優勝したくらいの腕前だ」

「元の世界でも剣術を習われていましたので、実力はかなりのものです」


 ちょっとお二人さん!


「すごいです!だったら、俺に剣の指導をお願いします!」


 なにこれ!?井端と会った時と同じ展開になっているのだけど!


「やったな翔馬、今度こそ新しい弟子が出来るぞ」


 何故フィアナが嬉しそうなの!?そんなに弟弟子が欲しいのか?


「メリーさんにフィアナさんにシュウラ王子、それにトキトさんで四人目になるますね」

「三人も弟子を抱えていらっしゃるのですね!」


 バラさないで神宮寺さん!ていうか、トントン拍子でどんどん事が運ばれていっているけど!いやいやいやいやいや、三人もいれば俺はもう十分でございます!


「とりあえず皆さんに報告ですね。そこで改めて自己紹介をいたしましょう」

「ああ」

「お願いします!」

「あの、俺の意思は?」


 その後、皆を集めて唯一の生存者であるトキトを紹介した後、全員一人ずつ自己紹介をしていった。その時に、神宮寺も俺と同じ勇者だと知ってトキトは驚いたが、何故か俺の時みたいに大袈裟な反応は示さなかった。助けてくれた命の恩人なのに、何故?


《そりゃ、ここに来て剣の達人に巡り合えたのだから、剣を極める人にとってはまたとない好機だものね》


 さいで。


        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「まさか、黒騎士の正体が女神様だったなんて」


 村人の遺体全てを埋葬した後、俺達は急いで王都へと向かう為馬車に乗り込んだ。

 その中で俺は、トキトに黒騎士の事を話し、トキトは俺達に村を襲った黒騎士の特徴を話してくれた。話を聞いたデリウスは、今回村を襲撃したのは、剣の女神・アラエラーであることが分かった。


「ジーガの次はアラエラーか」


 確かアラエラーは、デリウスやイリューシャとは同期の女神で、デリウス程ではないが剣の腕も相当なもので、戦闘力もかなり高いと聞いた事がある。


「それで、俺は一体何をすれば?」

「この国の王に会って、この事を報告する。唯一の生存者として、トキトにも一緒に来てもらうぞ。さっき話したことを、王にも話してもらいたいから」

「分かりました。王に会うのは正直畏れ多いが、事態はかなり深刻ですから」


 トキト話によると、アラエラーの行動パターンは黒騎士の中でも比較的単純で、町や村を襲うと二日後には必ず一番近くの村や町に現れるのだそうだ。事実、俺達が訪れた三つの村と集落以外にそれらしい所は無かった。

 そして、その行動パターンから予想するに、アラエラーが次に現れるのは王都・ウォンテンである可能性が非常に高い。トキトの言う様に、事態はかなり深刻だ。王都が落とされたら、この国はもう終わりだ。

 幸い、あの村から王都までそれ程距離は離れておらず、馬車で二時間ほどの距離にある。


「それにしても、結構ギュウギュウですね」

「仕方ないだろ。元々こんな大人数を乗せるつもりなんて無かったんだから」


 トキトが加わった事で、総人数が十一人。御者台に二人座っても、九人いる為馬車の中はおしくら饅頭状態となっていた。


「アラエラーの件が済んだら、一旦トウランに帰るか。次来るのは一月後で」


 俺の提案に全員が声を揃えて『異議なし』と答えた。ついでに、向こうで大きめの馬車を購入しないといけないな。桜と紅葉、桃と椿には負担を掛けるかもしれないが。


「ショーマさん、そろそろ王都の関所に着きます」

「おう」


 王都を囲う大きな塀が見え、門の前で槍を持って駐屯している騎士にトウランのメダルを見せて、料金を払う事無く俺達は王都・ウォンテンに到着した。

 町の至る所には観葉植物が植えられていて、どの建物には植物の蔓が張り付いており、屋根には芝生が敷かれた日本でもたまに見られる草屋根というものがたくさんあった。まさに、自然と共存していると言った感じであった。

 その町の中央にある王城にも草屋根が使われ、堀の周りにはたくさんの植物が植えられていた。

 早速警備の人に事情を話そうとしたら、俺の顔を見るなるすんなりと通してくれた。最初は何故って思ったが、すぐにその訳を知る事になった。


「お待ちしておりました!そろそろ皆さん到着される事だと思い、昨日からここで待っていました!」

「それはどうも」


 城の門の前では、いつもの修道女姿のカレンが満面の笑みで俺達を出迎えてくれていた。そういえば、エトウス国王と外交に行くって言っていたから、王族御用達のゲートでここに来ていてもおかしくないな。

 たぶん今俺、物凄く微妙な表情をしていると思うぞ。俺だけじゃなく、他の皆もポカンとしているもん。

 このヘンタイの神様レーダー、なかなかに侮れない。


《才能の無駄遣いだわ》

《エロウィラが気に入りそうな方ですね》

《そこがいいじゃない。私はエロが大好きなんだから!》


 女神達からも呆れられるなんて‥‥‥。あと、ウザいから性欲魔神は少し黙ってろ。あ、魔神ではなく女神だった。


「ささ、皆さんこちらへどうぞ!フローラ女王陛下がお待ちしていますわ」

「お、おう」


 キタールのトップって、女王だったのか。

 カレンに案内された俺達は玉座まで案内され、そこでは四十代半ばの女性が大きな椅子に座って俺達を見ていた。この人が、キタール亀王国の女王なのか。

 女王の三メートル手前で俺達は片膝を付き、首を垂れた。もはやお約束のフィアナも、皆が片膝を付いた後で自分も片膝を付いた。いい加減慣れてほしいぞ。

 俺の後ろでは、トキトがガチガチになりながら片膝を付いて首を垂れた。城に入る時も、右手と右足が同時に動いていたけど、大丈夫なのか?トキトには、昨日の黒騎士襲来について話さないといけないのだけど。


「よく来てくれました。ようこそ、キタール亀王国へ。私は、キタール亀王国女王のフローラ・メル・キタールといいます。お話は、エトウス国王と、そこのザイレンの巫女さんからいろいろ聞きました」


 温和そうな笑みを浮かべながら、キタール女王陛下が自己紹介をしてくれた。


「光栄です。トウラン武王国より参られました、帯刀翔馬と言います」

「存じております。シンテイ大陸でたくさんの手強い魔族を倒し、悪神カリンヴィーラの計画を阻止し、更にエトウスでは爪の黒騎士を倒されたそうですね」

「私一人の力ではありません。ここにいる皆の助力があってのことです」


 俺の仲間達も一人ずつ自己紹介をしていき、一人一人の顔を見て女王が悪戯めいた顔をして俺を見始めた。


「あらあら、こんなにたくさんの可愛らしい女の子を連れて、意外と手が早いのね。ハーレム志望?」

「お言葉ですが、私にそのような願望はございません。結果的に女性が多いというだけであって」

「でも、四人の婚約者を抱えていると伺いましたよ」

「うぅ‥‥‥はい」


 お盛んねぇ、と言わんばかりに女王がニヤリと笑いだした。エトウス国王と言い、キタールの女王と言い、随分と軽い感じの王様ですね。ま、その方が変に肩ひじ張らずに済むから良いのだけど。



「妖しの魔鏡」と「鬼嶋の鬼」も是非読んでみて下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ