15 反省
翔馬とデリウスの反省回なのに、長めに書いてしまいました。
「はぁ‥‥‥今日は疲れた」
アリシアとの食事を終え、再びオリエの町を出て、隠れ家である古代樹の森の小屋に戻った翔馬は、風呂に入った後自室のベッドの上に横たわった。
《でも、あの事普通に話せて良かったじゃない。私が最後にこの世界に居たのは一年半前だけど、あの子は本当にいい子だからお勧めだよ。美人だし、スタイルも良いし、性格も良いし》
「確かに、アリシアさんは信用できる相手だと思うよ」
《でしょ。早くも、お嫁さん候補が見つかった感じかしら♪》
「お嫁さん候補って‥‥‥流石にそれはないだろう」
《でもあの子、君にすごく気があるみたいだよ。どうする?》
「そこまで俺は自意識過剰じゃねぇぞ」
《あらそう?でも、話の途中で実は君がこの世界の人間ではない事を話していたじゃないの》
「あっ、あれは‥‥あのまま彼女に嘘をつき続けるのが何だか嫌になったから・・・・・・」
後半からアリシアさんに全てを打ち明けたが、アリシアさんは全く気にした様子もなくすんなり受け入れてくれただけでなく、俺の事を黙ってくれるとまで言ってくれたのだ。
《でも良かったじゃない。お陰であの子には気兼ねなく接する事が出来るし、秘密を共有し合える仲にもなった訳だし。しかも、君に丁度良さそうなパーティーメンバー候補まで見繕ってくれるなんて、本当にいい子だねぇ~》
正直言って、ここまで都合よく話が進むと裏を感じるんじゃないかって心配になるが、デリウスが「裏なんてないから安心していいよ」って言うからとりあえず信じる事にした。曰く、頭の中を覗いて裏がないかも一応確認したらしいし、大丈夫だろう。
《(クフォト王国に引き渡してしまったら、間違いなくもう二度と会えなくなってしまう。そうなるのは嫌だからこのまま黙っておいて、もし聞かれても知らんフリしておこう。それに秘密の共有って、何だか恋人っぽいし良いか。なんて思うなんて、本当に可愛い子なんだか♡)》
「何か言った?」
《いいえ。何にも》
まったく。こっちの考えは筒抜けなのに、そっちの考えが全く分からないと言うのはちょっと不公平な気がしてならないぞ。
《まぁまぁ。気にしない気にしない。私は何があっても君の味方だから、それに嘘偽りなんてないから》
そうですか。
まぁ、アリシアさんの事は信じても大丈夫だろう。俺自身も、あのままあんな良い子に嘘つき続けるのは辛かったし。
それよりも
『ステータス』
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名前:帯刀翔馬 年齢:十七
種族:人間 性別:男
レベル:88
MP値:6269/8820
スキル:刀術S 剣術S 槍術S 観察眼S 危険察知S
柔術A 回避術A 料理B 神速B 格闘術C
跳躍力C 斬撃術D 二刀流D 脚力D 剛力E
火魔法F
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ご覧になって気付く方もいるだろうが、明らかにおかしな点が幾つもある。
まず、レベルが一気に88にまで上がっていた事。
今朝まで千を下回っていた最大MP値が、今は8820にまで爆上がりしていた事。
取得スキルに、新たに六つ取得視されていて、中でも斬撃術と言うスキルが特に気になったと言う事である。
最初の二つに関しては、デリウス曰くオリハルコンゴーレムを倒したせいじゃないかと言うのだ。本来あれは金ランクの討伐魔物であるため、獲得した経験値がそれだけ大きかったのだろう。
また、あのオリハルコンゴーレム自体が物凄い魔力を保有していた為、それが討伐時に得られるMPに上乗せされた結果ではないかと言うのだ。
三つ目の斬撃術に関しては、俺がオリハルコンゴーレムに止めを刺す際に無意識に取得したスキルで、その効果は対象が刀身より大きくても両断できるようになると言うチートスキルである。まるで、有名怪盗グループの仲間の侍みたいだ。
《最初に話したと思うけど、君みたいに異世界から来た勇者は、レベルが上がる速度がかなり速いの。それに加えて、経験値の取得もそれに関連した訓練、若しくは自然に使う事で簡単に取得できるの。そのくらいじゃないと、とても魔王には太刀打ちできないからね》
「そうか。だけど、レベルが上がったってあんな戦い方をしたんじゃ、魔王討伐なんて到底かなわないだろう」
今回の討伐依頼は、俺にとってたくさんの課題が残る結果となってしまった。
先ずは、MPの向上を怠ってきたツケが出てしまった事だ。MPとは魔力の残量の様な物で、その数値が低いまま火竜の剣の炎をコントロールしようとした結果、魔力切れを起こしヒステリー状態に陥ってしまったと言う事だろう。
今回の討伐で十倍以上跳ね上がったが、これで慢心しては今回の様な事態に再び陥ってしまう可能性がある。そうならない為に、魔物討伐以外でもMPを上げる方法を模索しないといけない。
次に、自分の型にはまりすぎてしまったと言う事だ。初めから急所である魔石が埋まっている箇所ではなく、足を潰しておけばもう少し早く倒す事が出来ただろう。
また、火竜の剣が片手で扱うには大きすぎたと言う理由はあったが、ハバキリと一緒に使った二刀流最初に行っていれば最初より楽に倒す事が出来ただろ。
更に二刀流を行うのに、筋力が不足している事。この3日間、異世界に来たことに対する戸惑いから、前の世界で行っていたトレーニングを怠ってしまった。たった三日と思うが、それでもかなり大きいだろう。明日からトレーニング再開した方が良いだろう。
最後に、貰ったばかりとは言え、火竜の剣を充分に使いこなせていなかった事だ。いくらMP値が雀の涙程しかなかったとはいえ、コントロールするには放射とは別に魔力が必要だっていう事は分かっていた筈だ。
ならば、それ相応の戦い方だってあった。なのに、我武者羅にコントロールする事だけを考えてしまった。そのせいで、魔力切れを起こしてしまった。
「なぁデリウス。魔物討伐以外で、MPを上げる方法って何かないか?」
《基本的な事と言えば、精神統一かしら。特に、座禅がよく効くわ。それでも、得られる魔力は微々たるものよ》
座禅くらいなら、明日からのトレーニングメニューに加えれば何とかなる。例え少量でも、日々の積み重ねが大きな力になる。
《もう一つが、魔法を頻繁に使う事ね》
「魔法を?」
《魔法を使うには、魔力のコントロールが必要不可欠で、それを行っていくうちに魔力は自然と上がって行くことがあるの。今の君のMP値なら大火力の火魔法を使う事が出来るでしょう。あとは、呪文とコントロールを身体で覚える事ね》
「耳で聞いても分からないな」
何にせよ、しばらく火竜の剣は使わない方が良いだろう。魔力コントロールがうまくできる様になったら、再び使えばよい。
とは言え、俺の火魔法のランクは未だにFのまま。使ったことがないのだから、ランクが上がっていないのも当然か。これからは、ちょくちょく魔法を使っていった方が良いかもしれないな。
《じゃ、私はこれで失礼するわよ。おやすみダーリン♪チュ♡》
だから投げキッスは要らないって。あと、ダーリンでもないから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ、何とか死なせずに済んだけど‥‥‥」
自室のベッドの上に仰向けになりながら、デリウスも今回の事を反省していた。
「あの時、もうちょっと強く止めていれば」
そもそも、オリハルコンゴーレムの討伐を行わせたこと自体が間違いであり、最終的には彼女自身もその依頼に乗ってしまった。
その結果、翔馬を危険な目に遭わせてしまった。命こそ助かったが、一歩間違っていれば翔馬は死んでいたかもしれない。
事実、今回の討伐依頼で翔馬は初めて魔力切れを起こしてしまった。魔力切れを起こした者は、例外なくみんなあんな状態になってしまう。
「確かに、私のせいかもしれない‥‥‥」
翔馬の魔力を回復させる際に行った彼の言葉
「そもそもテメェがこんな世界に送り込んだせいで俺はっ!」
彼のあの状態は、間違いなく魔力切れにより起こった状態だった。その時の彼の残量MP値は、完全にゼロになっていた。
なのに、その言葉がデリウスの胸に深く突き刺さっていた。まるでそれは、翔馬が今まで溜め込んでいた不満や怒りが一気に爆発した様に見えた。
そう考えると、自然とデリウスの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「私はただ、帯刀翔馬にハルブヴィーゲで第二の人生を楽しんでもらいたかっただけなのに・・・・」
魔王討伐と言う大役はあるが、その間に彼には自分が愛したあの世界を、ハルブヴィーゲを好きになってもらいたかった。
ハルブヴィーゲの住民は、良くも悪くも裏表のない人達ばかりで、心に深い傷を負い、人間に不信感を抱くようになった翔馬にはピッタリな世界であった。
でも、そんな世界でもまだ3日しか経っていない。不安や不満が全くない訳がなかった。
「頭の中でしか話しかけられないのが、凄くもどかしい」
本当なら彼の傍に居て、困っている時に直接助けてあげたい。今回みたいな事になったら、そっと優しく抱きしめてあげたい。
なのに、直接顔を見る事も、触れる事も出来ないなんて。
「いったい、何の為の勇者召喚なのよ」
魔王が誕生した原因は完全にこちら側の落ち度なのに、その尻拭いを異世界の子供達に任せて、召喚に携わった女神達は百年間地上に降りる事が出来ない。直接助けてあげる事が出来ない、完全な丸投げ状態であった。
「上の連中は、自分達の失態を彼等に話す事を禁止させるなんてどうかしているわ!」
ここ神界では、一人の最高神と五人の上級神、そしてデリウス達が位置付けられている複数の下級神で構成されている。
最高神は、基本的にデリウス達のする事には一切口出しせず、ただただ成り行きを見守るものであり、本来神と言うのはそういうものなのだ。
問題なのが、その下に居る五人の上級神である。
彼等はそれぞれ、太陽、海、大地、自然、冥府の神様。彼ら五人は何と言うか、自分達の保全や、神としての面目を守る事ばかりを考えている、保守的思考の持ち主であった。
そんな彼等の失態により、ハルブヴィーゲに魔王を落としてしまった。誕生したと言ったが、実際はここ神界で魔王が誕生し、神界を守る為に力を奪った後ハルブヴィーゲに魔王を落とし、その討伐任務を異世界から召喚された子供達に丸投げするように命じたのだ。
事情を知っている下級神は、デリウスを含めてもごく僅か。共に召喚に携わった四人の女神は、この事を知らない為使命に対して真っ直ぐな気持ちで挑んでいた。
そんな奴らの思惑に、自分が気に入った少年を利用するのに心が痛んだ。
「あの子に問題があったのは事実だし、それを解消する為にトウラン武王国に召喚させたのは確か。でも、やはり・・・・・・」
何も知らされないまま、魔王討伐に強い使命感を燃やす彼等を見ると堪らず罪悪感に押し潰されてしまう。何の疑問も持たないまま。
デリウスにはそれが我慢ならず、最後の抵抗もかねて翔馬を違う所へ召喚させた。いずれは対峙しなければならないかもしれないが、翔馬にはきちんと自分の意思を持って魔王討伐に挑んでもらいたかったし、その為の援助なら何でもする。そんな事で、自身の罪悪感をぬぐう事が出来ないけど。
「強く成長して欲しい。帯刀翔馬には、強い意志を持って魔王討伐に挑んでもらいたい。これが、私にできる精一杯の抵抗だから」
上級神五人を説得するのは大変だったが、何とか捜索は地上のもの達に任せようと言う事にさせた。
「明日も早いだろうから、もう寝ましょうか」
そうして彼女の意識は途切れ、深い眠りに就いた。
そんなデリウスの様子を、扉越しから聞き耳を立てていた神が一人居た。
「バカ。全部一人で抱え込んじゃって。なんだかんだ言って、プライドが高いから」
この言葉を発した後、その神はその場を後にした。