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14 秘密の共有

「すごいな‥‥‥」

「はい。巨獣化していたなんて知りませんでしたが、単独であのオリハルコンゴーレムを・・・・・」


 討伐を終えた翔馬は、一旦ギルドへ戻ってヤンシェとアリシアの二人と、解体専門の職員を十名程連れて、バラバラになったオリハルコンゴーレムの残骸を見せた。

 デリウス曰く、通常サイズであれば持って行ってギルドの裏にある闘技場に出しても問題ないのだが、巨獣化して通常の3倍大きくなった残骸を向こうで出すと近所迷惑になるとのことだ。なので、事情を説明して、解体が得意な職員も同伴させることにしたのだ。


「かなり苦戦しましたが、アリシアさんから頂いた火竜の剣のお陰で何とか倒す事が出来ました。ありがとうございます」


 火竜の剣をくれたアリシアに、俺は向けて深々と頭を下げた。


「いえ、そんな、頭を上げてください」


 何故か顔を真っ赤にしながら狼狽えるアリシアに、俺は疑問に思った。何で赤くなってんだ?


《天然なのかしら?これで前の世界ではずっとボッチだったなんて》


 デリウスの呟きが頭の中に響いたが、あえて無視する事にした。


「これは、とんでもない大偉業だ・・・・・・」


 残骸を眺めながら、ヤンシェがそんなことを呟いた後、翔馬の方を向いた。


「ショーマ殿。すまぬが、換金は明日でよろしいだろうか?今日はもう遅いし」

「それは構いません」


 辺りはすっかり暗くなっている為、これ以上はヤンシェも俺を引き留めるつもりは無かった様だ。


「あぁ。ギルドで待っている。それとギルドカードを預からせてくれ。明日換金と同時に返そう」

「分かりました」


 懐からギルドカードを出し、ヤンシェに渡した。


「今朝言った様に、いきなり銀以上は無理だが、赤ランクにしておこう」

「ありがとうございます。では私はこれで」


 スゲェ大出世だなと思いつつも、俺はギルドカードをヤンシェに預け、そのまま古代樹の森へ帰ろうとした時。


「あの、待ってください」


 声の主からアリシアさんだと思い、俺は足を止めて振り返った。その時の彼女の頬は先程よりも赤くなり、熱を帯びた視線で見つめていた。


「どうしました?」

「いえ・・・・・・あの・・・・・・その・・・・・・」


 熱は帯びたまま視線を泳がせ、ハキハキしてそうな彼女にしては珍しく口ごもっていた。

 やがて意を決した様にアリシアさんは、先程まで泳いでいた視線を翔馬に向けて言った。


「あの、実は私もう上がりで、この後暇なのです。その、もしよろしければご一緒にお食事に行きませんか」


 何かと思えば、食事のお誘いであった。それ自体は嬉しい事なのだが、人付き合いが苦手な翔馬は少し躊躇っていた。そんな俺の仕草に不安そうな表情を浮かべるアリシアを見て、俺も意を決して重い口を開いた。


「その、恥ずかしながら、実は自分は人見知りが激しく、その上過去に住んでいた集落でも親も含め大勢の人の裏切りに会い、天涯孤独になった為、そう言った付き合いがどうも苦手になってしまったのです。具体的にどんな目に遭ったのかについては、あまり話したくありません。なので、もしご一緒してもあまり喋る事が出来ないかもしれません」


 詳しい内容についてはあまり語りたくは無かったし、語っても前の世界の事なので自分がクフォト王国の勇者召喚からあぶれて、違う場所に召喚してしまったノラの勇者であることがバレてしまう可能性があった。


「構いません。そういう事でしたら、無理に話す必要もありませんので」


 それでもアリシアさんは、そんなこと全く気にする様子もなく俺の手を握って、オリエの町引いてくれた。今まで女の子に手を握られたことがない為、柄にもなくドキドキしてしまった。


「お、俺なんかで本当によろしかったでしょうか?アリシアさん、とてもお綺麗なので、俺なんかよりも・・・・・・」

「そんな事、気にしないでください。それと、ショーマさんって普段自分の事を『俺』と呼んでいるのですね」

「あぁ、いや、その・・・・・・!」

「ふふ。良いんです。むしろ、今はお仕事中ではありませんので、もっと肩の力を抜いてください」

「は、はぁ‥‥‥」


 このような経験が今までなかった為、終始動揺してばかりだった翔馬であった。そんな翔馬を、アリシアは微笑ましそうに見つめており、先程までの緊張が嘘のように解れていた。

 そうこうしているうちに、俺とアリシアさんはオリエの町のレストランに着き、俺はかつてないくらいに緊張していた。


「ショーマさんは、普段どんなものを食べているのですか?」

「そ、そうですね‥‥‥」


 三日前までは日本に住んでいた為、この世界で普段どんなものを食べているのか聞かれてもすぐに答えを導き出す事が出来なかった。


「その、引かないで欲しいのですけど、実は、狩で仕留めた獣や、食べれそうな魔物を焚火で素焼きにしたものを。昨日は、アイアンロブスターの身を・・・・・・」


 当たり障りのない嘘で誤魔化した。ちなみに、昨日アイアンロブスターの身を食したのは本当だ。素焼きではなく調理してだが。


「焚火で素焼きって事は、ショーマさんは普段町の外で野宿しているのですか?」

「え、えぇ、まぁ、宿に泊まろうかなとも思いましたけど、野宿生活が長かったせいか、どうにも落ち着かなくて・・・・・・」


 事実は、古代樹の森の中にあるデリウスの別荘で快適に過ごしています。


「慣れなければいけないとは思っているのですが、どうにも決断しきれなくて・・・・情けない話ですが・・・・」

「過去に酷い仕打ちを受ければ、仕方がない事です。ですが、ギルドに登録されたと言う事は、人の住む所に戻ろうと言う意思が少しでもあったからなのですよね」

「はい。俺も十七になったので、自分でお金を稼がないと、と思い」


 流れから浮かび上がった嘘だが、全部が嘘という訳ではない。お金を稼ぐ為にギルドに登録しようと思ったのは、嘘ではない。


「でも、それでもすごい進歩だと思います」

「そ、そうかな?」

「はい。そういう人は大抵山賊になってしまう事が多いのですが、ショーマさんはそうならず、こうしてここに居るのですから。すごく立派な事だと思います」

「ありがとう。そう言ってもらえると、何だか救われた気分になります」


 アリシアさんの朗らかな雰囲気により、不思議と俺の緊張は解れた。

 同時に、こんな人に嘘をついてしまった事に対する罪悪感が一気に湧いて出てきた。


「あの、聞いて欲しい事があります」

「はい」

「その、俺は、この世界の人間ではありません」

「え?」


 言ってしまった。だけど、溢れ出る感情を抑えきれず、俺はアリシアさんに全てを話した。自分が異世界から召喚された勇者の一人である事を、刀の女神・デリウスの計らいでこの国に召喚された事も、デリウスの力で髪と目の色を変えてもらっていることも全て。

 それを聞いたアリシアさんは、それ以上何も話さなくなった。


「ごめんなさい。嘘をついてしまって」


 アリシアさんは、ただただ俯いたままであった。


「どうして、そんな大事なことを内緒にしていたのですか?いえ、話すべきではなかったのかもしれませんね」


 やっぱりそうなるよな。これで明日からは、指名手配犯の様に逃亡生活を強いることになりそうだ。


「どうしてもっと早く相談してくれなかったのですか!話してくれたら、何かアドバイスを送ることが出来たかもしれないのに!」

「え?」


 予想外の返答に、俺は思わずキョトンとしてしまった。


「あの、俺の事はもう知っているのでは・・・・・・」

「ギルドでも話題になりました。でも、私はショーマさんをクフォト王国なんかに引き渡すのには反対だったのです。あれでは重い罪を犯した犯罪者を探しているみたいで、許せませんでしたから」

「そ、そうなのですか‥‥‥」


 一体どんな方法で捜索しているのだ、クフォト王国よ。


「事情は分かりました。ここで聞いた事は誰にも話しません。ギルド長であっても、国王陛下であっても」

「大袈裟だね‥‥‥」


 でも、何だか肩の荷が少し降りた気がした。秘密を共有できるというのは、こんなにも心強いもんなんだな。


「でも、今でも信じられません。まさか、異世界の勇者様とこんなに早くお会いできるなんて」

「勇者様って呼ばないでください。俺は、そんなガラではありませんので」

「分かりました、ショーマさん。私も出来る限りお手伝いします」

「ありがとうございます」


 少しホッとしたが、ここまで俺に協力的だとついつい裏があるのではと疑ってしまう。


《大丈夫よ。彼女は悪い子じゃないわよ。それに、嘘も言っていないから安心して》


 デリウスが言うのなら、アリシアさんは本当に大丈夫なんだな。始めて出来た味方が、こんなに可愛いエルフ子だなんて信じられないな。正しくは、ハーフエルフだけど。

 その後は楽しそうにお喋りをしながら食事を楽しんだ。


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