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130 新しく仕える国

 サウスティス夏王国で一日だけ過ごし、ゲートを設置してさっさと帰った後俺達は、その三日後にノースティル鉄鋼国に訪れて国王陛下に会いに行った。あのドⅯ女王とこれ以上一緒にいたくなかったし。

 鉱山に巣くった魔物を一掃した事を改めて報告し、鉱山の入山許可書も改めて貰った。まぁ、一掃した時点で既にもらったようなものだけど。

 更にそれから一週間が経ち、いよいよ今日はクフォト王国を除く四国で合同会議を行い、水島と小鳥遊が仕える国が決まる。

 俺達は今、王城に行くための準備を進めていた。


「それにしても、こんな豪華な屋敷に住んでいるのに、一年の殆どを旅で費やすなんて」

「何だかもったいないですね」

「冒険者もしているのだから仕方ないかもしれないけど、それにしては家を空ける時間が長すぎる気が‥‥‥」


 その間、三人には俺の屋敷に泊まってもらっている。

 早朝の訓練にも積極的に参加し、水谷と小鳥遊の二人はレベルが100を超え、エフィアもメリーとフィアナに鍛えてもらっているお陰で剣術のランクがSに上がり、刀術までも身に付いた。

 訓練を終えると、俺の鍛えた剣と刀などの武器に興味を持ったのか、工房に足を運んで見学をしに来るようになった。

 そんな中、水島からは手頃な盾とオリハルコン製の剣(エフィアの希望で渋々)を、エフィアはグリーンアイアン製とヒヒイロカネ製の剣を一振りずつ、小鳥遊はレッドアイアン製の戦斧を希望してきた。今お金が足りないということで、全員ツケとなった。


「ツケとはいえ、武器を貰った上に調理器具やワイン、更には野菜やお肉まで」

「野菜や肉に関しては、俺も知らなかったが‥‥‥」


 エリエが裏庭で果樹園と野菜畑、更には牛までも飼育していたみたいだから初めて知った時はビックリした。ちなみに肥料は桜たちの馬糞。

 今はもう慣れたし、生産すること自体反対はしない。お陰で新たに土地を購入する事になったが、エリエの作った野菜と果物と牛肉はかなり品質が良く、高級レストランと取引がされるくらいだ。恐るべし、酪農技術のスキル。

 で、今回与えたワインは、俺がサウスティス夏王国から帰る五日前に出来た物で、ミユキ曰く今まで飲んだワインの中でも一番美味しいとのことだ。俺にはよく分からないが。

 エリエさんマジ万能!


「隆文様。準備が出来ました」

「翔馬。早く乗ってくれ」

「あぁ」

「今行く」


 俺達も馬車に乗り込み、トウラン城へと向かった。

 今回の話し合いには当事者である水島と小鳥遊と、水島のパートナーであるエフィアはもちろん、金ランク冒険者である俺とユズルとフィアナも出席する。

 更に金ランク冒険者には、一人だけお供を同席させることが許されているのだが、それが出来るのは俺とフィアナとユズルの3人だけなのであまり意味がなかったりする。

 ちなみに俺が同行者としてメリーを選び、フィアナはカナデを選んだ。アリシアさんは出来たてのポーションを売りに、ランテイの市場で行商をしに向かっていた。

 俺に同行者として選んでもらえなかった事もあり、行商に向かう前は少し機嫌が悪そうにしていたが今回は我慢して欲しい。

 ユズルは言うまでも無く、サブリーダーのミヤビを同行させるそうだ。何と言うか、ミヤビって完全にユズルの奥さんって感じだな。

 あぁそれと、ミヤビは今回のビッグスタンピードでの活躍が称賛され、トウラン武道祭が終わった次の日にはめでたく金ランクへと昇格する事が正式に決まったそうだ。


《金ランクが九人になるなんて。しかもこれから先更に三人増えるとして、その分を含めて十二人。君が来てから、英雄クラスの冒険者が続出したわね》


 別に俺がいなくても、ミヤビなら金ランクに昇格が出来るだろう。

 それは今置いておいて。今回の会議で自分が就く国が決からか、水島と小鳥遊がさっきから黙っていた。


「無理もありません。あの教皇とは違い、今回はちゃんとした一国の王様と会われるのですから」


 何て言っているエフィアも、若干声が震えていた。気持ちは分からなくもないが。

 結局一言も話すことなく俺達は王城に到着し、騎士団長の人に案内されて俺達は会議が行われる部屋へと案内された。城についてすぐに、ユズルとミヤビとも合流したのでそのまま一緒に行く事になった。

 部屋は学校の教室ほどの広さがあり、その中心に丸いドーナツ型のテーブルと、人数分の椅子が置かれていた。そこには既に、ガリウムを除く他の金ランク冒険者が集まって座っていた。当たり前だが、今回の会議にクフォト王国の国王であるナルダンは呼ばれていない。


《あの王様のことだから、がめつく「我が国に仕えるべきだ!」なんて言ってくるに決まっているから、省かれて当然ね》


 おおよそ、女神とは思えない発言に俺は内心呆れてしまっていた。まぁ、実際その通りの理由なのだけど。


「あらん♪ショーマちゃんとユズルちゃん、久しぶりん♪」

「えぇ!?」

「なに、あのゴリラは!?」

「隆文様!流石に今のは失礼です!」

「いや、実際にゴリラの獣人だから間違いではない」


 俺とユズルを見つけるなり、右隣にはお馴染みの白のゴシック調の服を着た金髪縦ロールのおっさん、ゲフン!ゴルディオが俺達に投げキッスをしながら声をかけてきた。間違いがないように言うが、あんな筋骨隆々な体格のおっさんに見えるが、ゴルディオはれっきとした女性である。

 水島と小鳥遊なんて、姿を見た瞬間頬をビクつかせながら驚いていたぞ。まぁ、俺も投げキッスされた瞬間氷点下の土地に投げ出されたような寒気を感じた。


「ユズルぅ♪会いたかったよぉ♡」

「リィーシャさん、少し声のトーンを抑えてください」


 向かいには、ザイレンの金ランク冒険者代表のリィーシャと神宮寺がいた。はしゃぐリィーシャを、神宮寺が宥めるというお馴染みの光景が目に入った


「しかし、新たに二人の勇者が正式に誕生するなんて、驚きでござるな」


 左側には、紺色の和装を着た侍、キリカが腕を組んでジッと待っていた。この人は、普段はキリッとした美人でカッコいい女性なのだけど、旦那のタケオの前だと超甘々のデレデレ奥さんに変身するんだよなぁ。


「何と言うか、金ランク冒険者と聞いてもっとこう、殺伐として感じをしているのかと思ったが」


 水島は一体金ランク冒険者にどんなイメージを持っていたんだ?

 まぁ、確かにこうして見てみるとキャラの濃い面子ばかりだな。


 ・ゴリマッチョなおっさん風の女性

 ・キリッとした雰囲気とデレデレした雰囲気の二面性を持った甘々奥さん

 ・あまり関わりをもちたくないチョーウザ女

 ・普段は大人しい子羊なのに戦いになると虎に変貌するお義兄さん

 ・王様相手でも尊大な態度を崩さない我が婚約者。


 この世界の金ランク冒険者は、なかなかに個性的なメンバーばかりが集まっているな。


「皆さん、陛下たちが参られます。私語を控えてください」


 騎士団長の人が俺達に声をかけると、皆の表情が変わりキリッとして立ち上がった。

 そのすぐ後に各国の代表四人が部屋の中へと入ってきたので、俺達は一斉に頭を下げた。フィアナだけは一~二秒遅れて頭を下げた。いい加減慣れて欲しいぞ。

 四人の国の代表が席に座ると、俺達も頭を上げてほぼ同じタイミングで椅子に座った。

 俺達の前には、トウラン武王国国王のリュウラ・トウランが座り、その正面にはザイレン聖王国教皇のジェシカ・クラウ・ザイレンが座っていた。右にはホクゴ獣王国獣王のジュガ・ガウン・ホクゴが、そして左にはナンゴウ海王国女王のミスズ・タキザワが座った。


「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」


 皆を代表して、うちの国王陛下が立ち上がって皆に挨拶をした。


「本日お集まりいただいたのは、新たに召喚され、そして正式に認められた二人の勇者をどの国に就かせるかについて、重点的に話し合いたいと思います」


 話し合うも何も、ナンゴウとホクゴのどちらかに就く事になるんじゃないの?トウランには俺が、ザイレンには神宮寺が就いているのだから。


「我が国には既に美穂子殿という勇者を抱えておりますので、うちは退きます。それ以上の欲張りは、ジュラン様に叱られます」


 ほら、教皇猊下は真っ先に辞退を表明したぞ。


「我が国にも、翔馬殿という勇者がいます。となると、ジュガ殿とミスズ殿で話し合われる事になります」


 うちの国王も辞退し、ナンゴウ女王陛下とホクゴ獣王陛下の話し合いとなった。


《だからと言って、あちらさんで勝手にポンポン決めて良い訳がないでしょ。あの子達にだって、決める権利ぐらいあるだろうし》


(まぁ、少なくともゴルディオを初めて見ていきなり一緒に戦えと言われても、男だったら大なり小なり抵抗があるよな)


 俺とユズルはもう慣れたけど、初めて見た水島と小鳥遊にとっては違う意味で刺激が強すぎるだろうな。

 それだったら二人とも、キリカがいるナンゴウ海王国の方が良いと思うだろうが、それだと流石に不公平になるよな。


「わしとしてはそうじゃな、陸人殿がなかなかに可愛い顔をしておるから良いのう。かと言って、隆文殿も捨てがたいのじゃ」

「それは俺も同じだ。なに、二人の希望も聞きながら決めていけば良い」


 そう言って獣王陛下は、俺達の後ろで立っている二人に目を向けた。どうやら、二人の意見を聞こうとしているのだろう。


「俺は、ナンゴウ海王国に行きたいと思う」


 いきなり遠慮なしに言ってくるな、水島は。というか、獣王陛下の眉が若干ピクッとなったぞ!もう少しオブラートに言えないのかよ、この毒舌勇者!


「女王陛下に仕えているキリカさんは、抜刀術の名人だと伺っています。うちのエフィアにも、是非とも教えを乞うて欲しいのです」

「隆文様、私のために」


 頬を真っ赤に染めつつも、エフィアはかなり嬉しそうに身体もじもじさせる。


「いや、わしとしては隆文殿の意見が聞きたいのじゃが」

「俺よりもエフィアです。ホリエンス様の加護は守る事で最大限発揮されますので、エフィアの剣の腕が向上するのはこちらとしても望ましい事なので」


 自分の国を選んでくれた理由に少し納得がいかない女王陛下だが、水島はシレッと回答するのみであった。水島って、何気にエフィア優先で行動しているよな。エフィアの方も、水島に気に入られていることをかなり嬉しそうにしているな。


「そうねぇん。あたしでは剣術の指南は出来ないものねん。ユズルちゃんとショーマちゃん、それにフィアナちゃんはトウラン出身だものねん。ここは、キリカちゃんが適任かもしれないねん」

「拙者もそれで構わぬ。拙者が身に着けた技術のすべてを伝授させるでござる」


 まぁ、確かにゴルディオはどう見ても拳を使った肉弾戦の方が得意だし、獣王陛下もどちらかというと格闘術の方が得意そうだし。ここはやはりキリカが適任だろう。


「ま、ゴルディオがそう言うのなら俺が止める理由はないな」

「わしとしては勇者殿の意思が聞きたかったのに、まさかの連れの意思と育成が優先されるとは‥‥‥」


 獣王陛下と女王陛下は若干腑に落ちない感じではあるが、ここはゴルディオとキリカの意見を優先させたみたいだ。


「となると陸人殿は、我が国に来ることになるがそこのところはどうだ?」


 獣王陛下に話を振られたことで、小鳥遊が若干ビクッとなったがちゃんと自分の意思を伝えた。


「ぼ、僕は構いません。見た感じですと、ゴルディオさんは格闘技が得意そうで、力もかなりあると思いますので。僕もガングル様にガッカリされないように、力を付けて生きたと思っています」


 力を付けたいか、確かに大きな斧を扱いのであればそれなりに腕力が強くないとダメだろうな。

 そういう意味では、ゴルディオが一番の適任だろうな。


「結局わし等よりも、キリカ達の意思が尊重されてしまったのう」

「ああ。だが、結果的に我が国も勇者を抱えることになったんだ。精一杯援助するぞ」


 二人とも納得しているが、要はゴルディオとキリカに師事してもらう為に選んだようなものだから。ま、それもありなのかもしれないけど。

 かく言う俺も、召喚された場所がトウランだったからトウラン武王国にいるし、神宮寺はイリューシャの進めでザイレン聖王国に来ているのだし今更か。


「では、隆文殿とエフィア殿はナンゴウ海王国に、陸人殿はホクゴ獣王国に仕えるということで異論はないでしょうか」


 誰も異論が出なかったので、水島とエフィアはナンゴウ海王国に、小鳥遊はホクゴ獣王国に就く事が正式に決まった。


「では、決まりました。隆文殿と陸人殿、それぞれの国の席に着いておくれ」


 トウラン国王陛下に促され、水島はエフィアと手を繋いでキリカの隣の席に座り、小鳥遊は若干おっかなびっくりと言った感じでゴルディオの隣に座った。


「これからよろしくねん。早速筋力アップのトレーニングをしないとねん」

「は、はい‥‥‥おねがい、します」


 おいゴルディオ、小鳥遊の身体をやたらと触らんじゃない!


《筋肉の状態をチェックしているだけよ。セクハラしている訳じゃないわよ》


 確かに、小鳥遊は線が細くてヒョロそうに見えるから心配するのも分かるが、それにしてはベタベタ触り過ぎだ。


「俺も訓練に参加したいのですので、よろしくお願いします」

「私の方も、よろしくお願いします」

「拙者こそ、みっちり鍛えるでござるな。それと」


 何やらキリカが、エフィアの耳元で何か囁いていて、それを聞いた瞬間エフィアの顔がボンと赤くなった。あれは間違いなく、水島に抱いてもらう為のテクニックも吹き込む気だな。


「ほほ、本当ですか!?」

「うむ、拙者もそれで旦那様を落としたでござる」

「是非お願いします、先生!」


 ちょっとキリカさん、家でもないのに顔がタケオと一緒にいる時と同じ様に蕩けているぞ。第一印象とのギャップに、水島が思わず二度見しちゃっているぞ。というかエフィア、何故先生なの?


「では次の議題だが、来月我が国で大々的に行わる祭り、トウラン武道祭についての話をしたいと思います」

「おぉ!もうそんな時期であるか」

「わしも非常に楽しみじゃ」

「前回はユズル様とリィーシャさんが、他を寄せ付けない圧倒的な強さで、剣術部門と魔法部門で優勝されましたわね」


 トウラン国王陛下の出した議題に、三国の代表は大はしゃぎのご様子であった。物凄く楽しみにしているのが分かる。


 四人の代表が話し合っている内容を手短に要約すると、トウラン武道祭は王都・ランテイで十日間行われる、トウラン武王国で最も大きな武道祭だ。

 それぞれの部門に分かれていて、剣術部門、射撃部門、拳闘部門、槍術部門、魔法部門、斧部門、槌部門、以上七つの部門にそれぞれ分かれていて、一人一部門での参加が認められている大会の目玉。

 いずれの部門も各国で厳しい審査をクリアしていき、誰もが認める実力を有した者のみが参加を許されている。

 つまり、この大会に参加資格を得た選手は、その国の王が認めた実力を持った冒険者ということにもなる。その為、大会に参加する冒険者、もしくは武道家はその国を背負って大会に挑むということになる。

 国を挙げての大規模の祭りで、出費も大きいがその分収益もかなり多いのだそうだ。まるでオリンピックだな。

 前回大会は、当時まだ金ランクではなかったユズルとリィーシャが大活躍だったそうだ。ユズルは剣術部門で圧倒的な強さを見せつけて優勝し、リィーシャも魔法部門で完全優勝を果たしたことで話題になったそうだ。

 ちなみに前々回、八年前の剣術部門では当時十三歳だったキリカが優勝を果たしたそうだ。

 例年であれば金ランク冒険者の参加は不可だが、今回は特別に金ランク部門が設けられ俺達も参加できるようにしてくれた。


「それと、これはもう皆さんもご周知のこととは思いますが」

「分かっておる」

「大会まで一月となったのじゃ、大会参加者はギルドの依頼を受けるのを禁止させておる」

「え?」


 ちょっと待て。女王陛下の口から何やら不穏な言葉が。


「依頼を受けて怪我をされては堪りませんので、そこは注意しています」


 なるほど、そんな訳だから大会に参加する冒険者や武道家は、訓練は許されていても、大会が終わるまでギルドの依頼を受けるのは禁止されているのだな。そりゃそうだな。

 って、いやいやいや!その間俺はずっとヒマしていなきゃいけないのかよ!


《何言っているの。副業と家事に専念すればいいじゃない。所有する土地も増えたのだし、丁度良かったじゃん》


 そうなんだけど、一ヶ月も休暇を取られるなんて堪ったもんじゃない。こっそり依頼を受けて‥‥‥。


《ダメに決まっているでしょ。お祭りと言っても、あんたはトウラン武王国を背負って参加するのだから、夏休みを貰ったと思って我慢なさい》


 夏休みって、今三月なのだけど。


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