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12 オリハルコンゴーレム

今回は長めです。

「これは一体・・・・・・」


 目的の荒野に辿り着くと、そこには複数の魔物の死骸がそこら中に転がっており、魔石も何個か踏み潰されていた。


《オリハルコンゴーレムは、自分の縄張り内に居る他の生き物を徹底的に排除する習性があり、あんな風に魔石諸共踏み潰してしまう事があるの。更に厄介な事に、より大きい個体となると縄張りを広げようとする傾向があり、他の生き物の縄張りを奪う事があるの。そしてそれは、人間の住んでいる所も含まれる》


 だから二人とも、あんなに焦っていたのか。

 更にデリウスの話によると、オリハルコンゴーレムは荒野を好み、新たに得た縄張りにある草木等も根こそぎ薙ぎ払う事があるらしく、環境や生態系の破壊にも繋がってしまうらしい。


《通常は百年周期で一体発生するものなのだけど、あまりにも強力だったからなかなか倒す事が出来ず、何千年も放っておいた結果、もう人の手に負えないまでに数を増やしてしまったの。銀ランク同士でパーティーを組んでようやく倒せるレベルで、金ランクになると単独で数体倒せちゃうけど、五人しかいないから手が回らなくて》


 討伐できても、何百居る中の僅か数体。そりゃ問題にもなる。しかも、単独で倒す事が出来る金ランクの冒険者は世界でたった五人しかいない。

そんなオリハルコンゴーレムだが、決して弱点が無い訳ではない。

 一つは、動きがかなり鈍い事。通常サイズでも、体重がおよそ二十トンもある。そのせいか動きが非常に鈍く、攻撃の回避が容易にできる。その代り、攻撃を食らうと一撃で相手の命を奪う程のパワーを誇っている。

 もう一つは、スライムを除くどの魔物にも共通して存在する魔石だ。魔石を失うと、どんな魔物も生命活動を停止してしまう。そしてそれは、オリハルコンゴーレムとて例外ではない。ただ、物凄くかたい体のせいでそれがなかなか出来ないでいる。それこそ、絶対斬撃のスキルを持つハバキリですら何十回も斬撃を加えないと両断するのが難しい程。

 それを解消できるのが、三つ目の弱点である炎だ。オリハルコンゴーレムは火に弱く、長時間高温の炎に晒されると表面が溶け、普通の剣でも斬れるようになると言う。


《ところが、君の魔法の才能は無きに等しい》


「やかましい」


 せっかく魔法が使える世界に来たのに、その才能がないなんて受け入れたくない。何の嫌がらせなんだ。


《そこで役に立つのが、ギルドで君が貰った火竜の剣よ》


「火竜の剣には、火属性付与のスキルが付与してたな」


 出すにはごく少量であるが魔力が必要みたいだが、威力はかなり強大。しかも、俺みたいな雀の涙程の魔力しかない俺でも扱えるからありがたい。


《ブルーアイアンと同等の硬度を誇るレッドアイアンに、火竜の牙と鱗が含まれているから、それによって火竜の吐く炎と同威力の炎を宿した、この世に二つと無い剣。これなら、オリハルコンゴーレムにも有効》


「あぁ」


 ただし、何度も同じ場所を正確に熱する必要がある為、楽に倒せるとは言い難い。

 これにハバキリが加わればなんとかなると思うが、生憎俺は二刀流が苦手である。できなくはないが、あまり積極的にやろうとは思えない。ましては、火竜の剣は長剣である為片手で扱える得物ではない。

 ハバキリは、通常の刀にしては長いが片手で扱うのは不可能ではない。

 けれど、もう片方が片手で扱えない様な剣では結局は実現不可能であった。


「結局のところ、倒せるのかどうかは俺の実力次第だな」


 昨日ようやくレベル35になったばかりで、尚且つ、この世界に来てまだたったの三日しか経っていたい。今までは、武器のお陰でここまで来れたけど。


《あら、その武器も使い手の腕は悪けりゃ使いこなす事も出来ないし、それこそ力を発揮させられないまま終わってしまう事になるから、ハバキリを使いこなせているのは純粋に君の剣の腕はいいからだよ。レベルは35だけど、剣の腕に関して言えばレベル180相当だと思うわ。でも、それだけでは魔王は倒せないわ》


「分かってる」


 ソロではなく、ちゃんとしたパーティーを組まないとダメなのだろう。それも、召喚された他の勇者とも力を合わせて。

 でも、今の俺ではそれが出来ないから、こうしてここに居て自分だけのパートナーを見つけて慣らしていかないといけない。

 そんな時、ズシンズシンと大地が揺れる程の足音が聞こえてきた。しかも、こっちに向かっている。


「いよいよお出ましか」


 足音が近づくにつれて揺れが更に大きくなり、目の前の岩山から黄金色に輝く大きな手が出てきた。

 そして、現れたのは山を軽々と越える大きな黄金の人型の魔物であった。姿は、無数の不揃いの鉄塊がいくつも密集し、人の型を成型したものだ。顔にあたる部分には、赤色に光る眼が2つ付いているだけの簡素な顔立ちではある。


「これが、オリハルコンゴーレム・・・・・・」


 そのあまりの大きさに、翔馬は息を呑んだ。


《ちょっと待ってよ!あれ、完全に巨獣化しているじゃない!》


「巨獣化?」


《通常の個体の何倍も巨大化した、魔物の突然変異種よ。発生原因は不明で、力も通常の10倍以上とも言う最優先で討伐しなければいけない災害級の超危険種よ》


「マジかよ!?」


《オリハルコンゴーレム自体、年と共に巨大化し続ける魔物だけど、それでもせいぜい三十メートル。あれは百二十メートルもあるわよ》


「ウソだろ・・・・・」


 元々巨大化が当たり前の魔物だったから、ギルドの方でも巨獣化に気付けなかったのだろう。

 この大きさは完全に予想外だ。


「だが、引き受けたからには、引き下がる訳にはいかない」


 腰に提げた火竜の剣を鞘から抜き、雀の涙程しかない自身の魔力を剣に込めた。

 すると、真紅の刀身から炎が噴き出し、あっという間に剣の刃全体を覆った。


《気を付けなさい。持ち主である君が触れても熱さは感じないが、服とかに燃え移るとそれはもう剣の炎ではなく自然の炎になるから、当然熱いし火傷だってしてしまうわ》


「分かった」


 火竜の剣を構えながら俺は、ゆっくり近づいて来るオリハルコンゴーレムを観察し、その弱点となる魔石が埋め込まれている所を正確に見極めた。


「魔石は、あの分厚い胸板の左。心臓にあたる部分」


 その根拠は、胸にあたる鉄塊が異様に大きく、ボディービルダーの様な逆三角形な体付きをしていた事と、炎を見た事で左胸を庇う様な態勢を取った事でそこにあるのだと確信した。


《まずは足を潰した方が良いわね。下半身が上半身より質量が小さいから、片方でも潰されればあっという間にバランスを保てなくなるわ》


「セオリーだな。だが!」


 一先ず、その言葉通り俺は先ずオリハルコンゴーレムの左足を狙いに走った。同時にオリハルコンゴーレムも、右腕を上げて攻撃態勢に入った。


「腕の角度から、俺が左足に着く直前に殴るつもりか」


 走りながら俺は、オリハルコンゴーレムが攻撃を正確に読み、拳が頭上に襲い掛かってくる前に即座に右にずれ、標的を左足から右足に切り替えた。

 剣が触れた瞬間、カキィーンと言う金属音が鳴り響いた。


「ヤッパそうなるよな」


 だが、僅かながら傷つける事には成功し、その傷目掛けて火竜の剣から炎を集中的に放射した。

 だが、オリハルコンゴーレムは地面にめり込んだ右拳を引き抜くと、手を開き俺を捕まえようと接近してきた。その前に、オリハルコンゴーレムの背後に回り、彼を捕まえようと追った右腕が股下あたりに来た事でバランスを崩し、転倒させることに成功した。


「よし、今のうちに」


 素早く背後の岩山の中腹まで跳躍し、先程熱した右足にではなく上半身の左側、魔石が埋め込まれている箇所に向けて炎を放射した。


《やっぱり、急所である魔石が埋め込まれている部分を狙うのね》


「当然。それが、帯刀流だから」


 急所を正確に見極め、一撃で相手を仕留めるのが帯刀流剣術。今回は相手が相手だけに一撃は無理だが、集中的に攻撃すれば急所である魔石に到達すると俺は思った。

 事実、オリハルコンゴーレムが起き上がる頃には炎を浴びた背中部分は真っ赤になり、高温に熱せられていた。

 敵が拳を上げて振り返る前に、俺は岩山を駆け下り、再びオリハルコンゴーレムの股下を潜り抜けて攻撃を躱した。同時に、転ばせる際に攻撃した右足に再び炎を浴びせながら。

 再び背後に回り、先程攻撃した背中へ向けて炎を放射した。

 が、コントロールがうまくいかず、背中と言うよりお尻にあたる部分に攻撃が当たった。


「クソ!うまくコントロール出来ねぇ!」


 ごく少量の魔力でも炎を出せると言っても、その炎をコントロールするにはそれとは別に魔力が必要である。MP値が未だに千を下回っている俺の魔力では、真っ直ぐ放射するのが精一杯であった。


「クソ!」


 火竜の剣の炎の威力は強力だし、切れ味もそんじょそこ等の剣とは比べ物にならないくらい鋭い。だが、それでもオリハルコンゴーレムに傷を負わせるには至らない。

 ハバキリには絶対斬撃と言うスキルのお陰で、鉄や岩でもよく斬れるし、火竜の剣とは比較にならないくらいの切れ味を誇る。オリハルコンゴーレムに対しても、浅い切り傷を負わせる事が出来るだろう。だが、それではコアである魔石には届かない。

 どちらも、オリハルコンゴーレムを倒すには一枚足りない。

 ましてや、相手は巨獣化している為並の攻撃では歯が立たず、その大きさも相まって人の手で倒すのがより困難になっている。


「チッ!」


 敵がこちらを向いた瞬間、俺は再び股下を抜けて岩山を登ろうと飛び上がった。

 が、オリハルコンゴーレムとてそう何度も同じ手は食わない。

 俺が岩山に足を掛けた瞬間、オリハルコンゴーレムの裏拳が岩山の頂上を砕き、巨大な岩が翔馬の頭上に降り注いだ。


「ウソだろ!」


 降り注いでくる巨大岩を回避しながら、オリハルコンゴーレムの次の動きを予想して・・・・・・。


「動きは鈍いが、一度受けた攻撃に対する対処が早い。おそらく二度と同じ手は通じない。デカイ鉄の塊の分際で随分と高い知能を持っていやがるな!つか、デカすぎるせいで魔石まで剣が届かねぇ!」


 そんな余裕はすっかり無くなっていた。

 そもそも、こんな魔物を倒してしまう金ランク五人って実はバケモノなんじゃねぇのか!完全に人外の領域に達しているだろ!

 そんな事を考えていると、俺の進行方向上にオリハルコンゴーレムの大きな拳が襲い掛かってきた。


「っ!?」


 飛び散った尖った石を浴びてしまったが、何とか直撃を免れた。


「そもそも、何で俺はこんなデカ物と戦わなければいけねぇんだ!勝てる訳ないじゃん!何で引き受けてしまったんだ!そもそもこんな化け物が闊歩する世界で、何で命を懸けながら生きてかなきゃならないんだ!これが俺の運命だと言うのか!親に裏切られ、門下生共から妬まれ、挙句の果てにはそいつ等にあることない事勝手に噂を広め、町の住民も誰もその嘘に疑いを持たず白い目で俺を見る!こんな人生を送る為に俺はこの世に生を受けたのか?こんな惨めな思いをしてまで何で俺は誰かの為だとふざけた事をほざいてんだ!前の世界でそんな目に遭ったんだ!この世界の人達がどうなろうと俺の知った事ではない筈ではないのか!こんな依頼受けるんじゃなかった!」


 イラついた俺は、やむなく崩れた岩の隙間に身を隠した。


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