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114 年末休み

 その後俺達は、外で待ってもらっていたシュウラとナーナと一緒に水神の洞窟を後にし、ギルドのゲートを通って屋敷へと帰って行った。

 二人と別れる前に、俺はショウランの事を聞いてみたが二人とも知らないみたいだ。まぁ、それは仕方ない。

 次に俺は、他の大陸がないかどうかを聞いてみたら有力な情報を得た。


「エルト大陸か」


 エルト大陸、それがシュウラとナーナが教えてくれた大陸であった。エルト大陸を教えてくれた二人の表情が、何だか嫌そうであったのがすごく気になるが。

 自室のベッドの上で仰向けになり、薄暗い天井を眺めながら俺はシュウラとナーナから聞いた大陸の名前を呟いた。部屋にはアリシアさんとカナデ、メリーとフィアナの四人も来ていた。

 帰ってきてすぐ、メイド達の目は髪をバッサリ切ったメリーに視線が集中した。流石に赤雷の刀の事は話せず、メリーはとっさに「イメチェンというものをしてみました」、と言って誤魔化した。まぁ、短くなっても可愛いから良いけど。


「それ以前に、この大陸にもちゃんとした名前があったなんて知らなかったぞ」

「聞かれなかったんだから答えようがないでしょ」

「わたしも気付いてお教えするべきでした」


 呆れるカナデに、何も知らなかった俺に教えられなかったことを悔やむメリー。まぁ、知ろうとしなかった俺も悪かったけど。

 ちなみに、この大陸の名前はシンテイ大陸だそうだ。神々に愛され、五つの国それぞれの主神に上級神が祭られていることでそう呼ばれているのだそうだ。

 新たに聞いたエルト大陸について、アリシアさんが説明してくれた。


「エルト大陸は、ナンゴウ海王国から海を渡って南に位置する大陸で、シンテイ大陸と同様に五つの大国で成り立っている大陸です」

「国の配置は、ここと同じです。ただ、あの大陸はちょっと」

「ん?」


 エルト大陸について何か問題でもあるのだろうか、メリーが口ごもってそれ以上喋ろうとしない。


「私が説明します。あの大陸は何と言いますか、魔物が非常に多く闊歩している大陸で、その数はシンテイ大陸の比ではありません」

「マジで!?」


 魔物が多い大陸って、そんな所に本当に人がまともに暮らしているのだろうか?


「更に言いますと、あの大陸にあるイースティア大帝国とウェスティラ神王国とセンティオ戦王国の三国にも問題があって」

「イースティア大帝国は、クフォト王国以上の独裁国家で、自分が言っていることが常に正しく、他人もしくは他国の人間が言ったことは全て間違いなんだという身勝手な国民性で、そこに住んでいる国民も皆が自分勝手な国なんだよね。その上、平気で人の物を盗んでは、それが初めから自分の物だと主張する国だからね」


 うわぁ、何そのクソみたいな国!下手をしたらクフォト王国よりも酷いんじゃないの。クフォト王国を嫌っているカナデにとっては、イースティア大帝国も同じ穴のむじななのだろうな。


「センティオ戦王国は、やたらと周りの四国に戦争を吹っ掛けたがる軍事国家で、住んでいる国民全員の血の気が非常に多く、時には相手の命を平気で奪う決闘もほぼ毎日のように行われています」


 そんなに戦争を吹っ掛けておいて、よくもまぁ今までやっていけたな。戦争というのは、人の命を奪うだけでなくその人の人生を台無しにさせる、破壊と殺戮と浪費を生むだけで何ももたらさない。そんな事をしても、その国が得をする事なんて何もないのに。


「最後に、ウェスティラ神王国なのですが、私にとってはこの国が一番の問題なのです」


 先の二国の状況を聞いただけでもげんなりするのに、ウェスティラ神王国はその上をいく酷い国なのかよ。説明をしているアリシアさんが、本当に困っているのという表情をしていた。一体何をやらしているのだよ、そのウェスティラ神王国って国は?


「実はあの国は、クフォト王国がショーマさんをはじめとした勇者召喚を行った三ヶ月後に、異世界から五人の勇者を召喚したのです」

「なっ!?」


 ちょっと待て!今聞き捨てならないワードが飛び出たぞ!

 勇者召喚を行ったって、神の援助なしでそんな事が出来るのかよ!大丈夫なのかよ、その国は?


「それって、何か問題でもあるのか?」


 ずっとファウーロ族という部族で戦士長をしていたフィアナは、それがどんなに良くない事なのかを全く理解していないみたいであった。

 そんなフィアナに、アリシアさんが説明してくれた。


「大問題です!主に三つ。

 一つは、神の援助が全くないのですから、一人召喚するだけで百単位の魔法使いの命が犠牲になってしまいます。五人も召喚するとなると、その数は計り知れません。

 二つ目は、国が勝手に力を与える神を選ばれるのですから、選ばれてしまった神の負担は計り知れません。

 そして三つ目が、召喚する勇者を選べないということです。神が事前に選出している訳ではありませんので、下手をしたらとんでもない悪党が召喚されてしまっている場合だってあるのです」

「マジかよ!って、翔馬も知ってたのか?」

「ああ。ただ、他所の国でも勇者召喚が行われていたのは知らなかったが」


 正確には、二つ目と三つ目は予想していたが、一つ目は想像すらしていませんでした。

 アリシアさんを疑う訳ではないが、一応デリウスにも確認をしてみることにした。


「デリウス、お前はウェスティラ神王国でも勇者召喚が行われたことを知っていたのか?」


《えぇ》


 デリウスの回答は、シンプルであった。


《でも、その召喚は私達のように自分の意思で加護を与える訳ではないから、人が無理矢理私達から力を奪って加護を与えるもんだから、負担は想像以上に重いわ。自分の意思で与えたのなら、負担は全くかからないのだけどね》


「ちなみに、どの神が無理矢理加護を与えられてしまったんだ?」


 俺の質問に興味を持った四人も、耳に手を当ててしっかり聞こうとしていた。念波で頭の中に直接送っているのだから、耳を澄ましてもあまり意味がないよ。


《槍の女神・ソルエルティと、弓の女神・アルテミス。アルテミスという名前は、地球でも有名な女神だから帯刀翔馬も知っているわよね》


「あぁ」


 というか、名前がそのままだから。デリウス曰くただの偶然らしいが、そういう神もいるのだな。


《他には、斧の神・ガングラ、盾の神・ホリエンス、最後にこの女神が一番気の毒ね》


「誰だ?」


《剣の女神・アラエラーよ》


「なっ!?」


 ちょっと待て!剣の女神・アラエラーって確か、俺達の召喚に関わった女神で、日比島に加護を与えた女神。日比島が汚れてしまったせいで、現在意気消沈してしまっていると聞いている。


《それから殆ど間を置かずに、アラエラーにも白羽の矢が立ってしまったのよ。日比島武治のことで落ち込んでいる時に、下界の人間による強引な勇者召喚が行われ、加護を与える神に選ばれてしまったのよ。本当に気の毒よ》


 まぁ、何処の世界でも剣を扱う勇者は欲しがるものだよな。

 苦しんでいる五人の神は気の毒だけど、何の前触れもなくこの世界に召喚されてしまった勇者五人のことが気掛かりだな。

 その五人は、本当にこの魔王戦で信頼できる相手なのか?ろくでもない奴が来ていたら、こちらにも火の粉が飛び散る可能性がある。ちゃんと安心できる相手なのか確かめないと。


「すぐにでもエルト大陸に行って、五人の勇者の様子を見に行かないと」


《私が様子を見て報告するという手もあるけど、実際に自分の目で確かめないと気が済まないわよね》


「あぁ」


 彼等は俺達と違って、自分の意思でこの世界に来たわけでもない。訳も分からずにこの世界に来てしまった彼等が今、どうなっているのか気になる。

 俺や神宮寺のように、魔物と戦って地道にレベル上げをして、困っている人を助けてあげている人ならいいが、中には勇者と言う身分を悪用して悪さをする奴だっているかもしれない。

 とてもではないが、そんな連中とは共に戦えない。日比島達も、フィアナに敗れた事で自分の弱さを自覚して精進している事を祈るばかりだ。


「ご主人様のお気持ちは分かりますが、しばらくそれは出来ません」

「は?」


 思わぬ相手に止められてしまい、俺は思わず間の抜けた声を上げてしまった。


「もうすぐ年末年始の休みに入ります。その期間中冒険者は、仕事始めの一月七日まであらゆる依頼を受ける事が出来ず、旅に出ることも認められていません」

「はは‥‥‥そういうことか」


 要は、もうすぐ年末年始の休みに突入するから、一般企業はもちろん冒険者も仕事を受ける事が出来ないのだな。

 そういえば今日は、一二月二十四日だったな。地球ではクリスマスイブの時期だが、この世界にそんな風習が無い。この日から殆どの店やギルドでは、今仕事納めを行っているそうだ。


「となると、うちも?」

「はい。いかにノラ属性のご主人様と言えど、年末大掃除を怠る事は許されません」

「諦めるのね」

「はは‥‥‥」


 まぁ、大掃除自体は構わないのだが、よりにもよってこんなタイミングで長期の休みに入る事になるなんて思わなかった。てか、ノラ属性なんて新しい言葉を作らない。


「という訳でショーマさん。明日からの大掃除を頑張って、年末年始はゆっくり過ごしましょう」

「はい‥‥‥」


 エルト大陸に渡るのは、しばらくお預けになったな。というか、冒険者にも年末年始の休みがあるなんて初めて知りました。はい。


       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 そんなこんなで俺は、だだっ広い敷地の大掃除をメイド達の力を借りて、六日かけて何とか隅々までキレイにする事が出来た。

 特に、俺が普段使っている工房の大掃除が大変でした。使った道具は片付けているのだが、それ以上のことは何もしていないものだから、汚れが酷かった。その上、入手した鋼材も無造作に置かれていたから、片付けるのに丸一日も掛けてしまった。反省。

 そして迎えた大晦日の夜。

 俺達は身内全員を広場へと集めて、バーベキューによるカウントダウンパーティーを行っていた。ナーナとシュウラは、それぞれの家族と共に年を越すみたいでこの場にはいない。


「しかしまぁ‥‥‥」


 こうしてみると、女性しかいないな。パーティーメンバー四人はもちろん、メイドが十一人。見事に全員女性であった。


「男はつらいのぉ」

「馬相手に何かやってんですか」


 そんな事言ったって、男は俺以外に馬の桜と紅葉しかいないもん。そんな俺を励ましてくれるのか、二頭とも俺に頬ずりをしてくれた。マジで馬にしておくには惜しい。


「何をおっしゃるのですか、これだけのハーレムを満喫しているのですから、もっとはぁはぁしないと」

「もうすぐ年が変わるって時に、お前はそんな事しか言えねぇのか」


 まったくブレない女狐メイドことミユキは、ワインの入ったグラスを片手に赤ワインを飲んでいた。この世界では十五歳で成人するから、ミユキがお酒を飲む事に関しては何も言わない。

 だけど、お酒を買った覚えはないぞ。


「ご主人様に内緒で何百本か購入いたしました。専用の貯蔵庫も作りましたので、管理に抜かりはありません」

「そんな事聞いてないのだけど」


 お酒を買うこと自体は自由だし、自腹で買っているみたいだし構わない。だが、何時ワイン専用の貯蔵庫、ワインセラーを作ったのだ?俺は何も聞いてないぞ。

 まぁ、折角の年越しだし無礼講いくのも良いか。皆も普段飲むことが無い高いワインを楽しむのも、悪くないか。


「ご主人様もいかが?この世界のワインって、地球のよりもまろやかで飲みやすいですよ。特にこれは、かなり高級なワインなので」

「いや、いい。俺は下戸だから」


 こっちの世界では大人でも、やはりお酒を飲むのは抵抗がある。そもそも、ワインは臭いを嗅いだだけでアウトであった。


「あら、そう?他の面々はチビッ子とフィアナ様以外は皆飲まれていますよ」

「ええぇ!?」


 よく見ると、未成年組は年長者組から逃げる様に離れていき、十五歳以上のメイドとアリシアさんとカナデとメリーは、陽気にワインを飲んでいた。

 よく見ると、カナデとメリー、ローリエとエメラダがほろ酔い状態であった。まぁ、この辺りはまだ大丈夫だ。問題は、名前が挙がらなかった面々だ。

 アリシアさんとラヴィー、ヴィイチとエリエの4人がかなり泥酔していたのだ。


「しょうなの《そうなの》!‥‥‥ヒック‥‥‥‥‥‥じょーましゃんったら《ショーマさんったら》、だびにででるあいだはじぇんじぇんがわいがっでぐでないがら《旅に出ている間は全然可愛がってくれないから》、よっぎゅうぶまんがだまっじゃうんの《欲求不満が溜まっちゃうの》」

「わだぐじも《わたくしも》、ごんなにごじゅじんじゃまをおぼっでるのに《ご主人様を思っているのに》」

「けっごんじでどはいわないのがら《結婚してとは言わないから》、ぜめでだいでほじいです《せめて抱いて欲しいです》」

「あははははははははははははははははははははははははは!」


 アリシアさんとラヴィーとヴィイチなんて、完全に呂律が回っていない程泥酔していて、笑い上戸なのか腹を抱えて笑い続けるエリエ。うわぁ、カオスな空間が出来上がっちゃっているぞ。チビッ子メイドが逃げるのも、無理はない。


「翔馬ぁ、助けてくれ!」


 俺と同じく下戸のフィアナは、泥酔組から逃げ出して俺に助けを求めに来た。一体何があったのか、涙目になって俺に抱き着いてきた。どんな目に遭ったんだよ。


「まったく、まだそんなに飲んでもいないのに皆さん酔っぱらうのが早すぎるのです」

「じゃあ聞くが、ミユキは平気なのか?」

「当然ではありませんか。自慢ではありませんが、前世では血液はお酒で出来ていると言っていい程飲んでましたから、お酒にはかなり強いです。転生してもそれは同じみたいで助かりました」

「さいで‥‥‥」

「女狐な上に酒豪かよ。私には理解できないな」


 そう言えば、酔っ払い組の倍以上飲んでいるが全く酔っぱらっていないようであった。どんだけ強いんだよ。

 悪いが、お酒の美味しさは俺には理解できません。舌はまだそこまで大人ではないので。フィアナは俺と出会う前に一度飲んだ事があるが、アルコールに弱かったのか一口飲んだだけで吐いて以来嫌いになったのだそうだ。


「ああっ、ショーマったらまたフィアナとイチャイチャして!あだしどももっとイチャイチャじなさい!」

「そうです、わたしども!」


 ちょっとカナデさん、メリーさん!あなた方も、一体何杯飲んでいらっしゃるのですか?というかあんた達、さっきまでほろ酔い状態だったのにすっかり泥酔寸前まで酔っぱらっているぞ!


「ぞうでずぅ《そうです》!わだじだっじぇばげでないでじゅがら《私だって負けてないですから》!」

「「おい!」」


 何を血迷ったのか、突然服を脱ぎだしたアリシアさんに俺とフィアナは絶句してしまった。


「あだじだってぇ!」

「わだしも!」


 そんなアリシアさんに続いて、カナデとメリーまで突然服を脱ぎだした。更にラヴィーとヴィイチまでも脱ぎ始めた。


「何だか楽しそう!私も!」

「じゃあ、私も!」


 しまいにはローリエとエメラダまでも服を脱ぎ始めた!一体何がどうなったらそういう状況になるの!?エリエなんて、ずっと腹を抱えて笑っているし。


「あらら。お酒が入った影響で狼に変貌しちゃったみたいですね」

「呑気に解説するなこの女狐!」

「お前等服着ろ!ここ外だぞ!」


 しかし、完全にでき上がってしまった酔っ払い組に何を言っても伝わらなかった。

 こうなると、取るべき行動は一つ。


「逃げるか」

「異議なし」

「そうですね。流石の私も、酔っ払いの相手は御免です」


 全裸になった酔っ払い組の魔の手から、全力疾走で逃げる俺とフィアナとミユキ。流石にこんな姿の彼女達を衆人環視の中に晒すことは出来ず、逃げながら俺達は彼女達を屋敷の中へと誘導した。

 その間にチビッ子組は、酔っ払い組が脱ぎ捨てた服と下着を回収してくれていた。助かります。

 笑い続けているエリエには、エリ特製の眠り薬を注射して強制的に眠らせてくれた。

 結局、俺とフィアナとミユキは、屋敷内で全裸になった酔っ払い組と鬼ごっこをすると言う、とても散々な年越しを送る羽目になってしまった。

 翌朝、酔っ払い組は気分が悪いということで一日ずっと寝込む事となった。理由は、言うまでも無く二日酔いだ。


新しい大陸に渡る前に、翔馬達は年末休みに突入しました。

酷い年末休みを過ごす事になった翔馬ですが、私個人としては羨ましい限りです。泥酔組の通訳が大変でしたけど。

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