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110 キリカの家族

 ナンゴウ海王国に来てから、今日で五日が経った。

 キメラクラーケンの件が落ち着き、オオカワの町では討伐したアリシアさん達の銅像が建てられ、すっかり町の英雄へとなっていった。

 事実、「オオカワの町の英雄」と、「海魔殺し」の称号が四人に加わっていた。

 対して、オオカワの町の住民の俺に対する視線が物凄く辛辣で、陰口を叩かれたり(無視した)、決闘を申し込まれたり(返り討ちにしてやった)、俺をアリシアさん達から無理矢理引き剥がそうとされたり(フィアナがキレた)と散々な目に遭った。住民からしたら俺は、町の英雄を誑かそうとしている軟派野郎に見えるのだろう。

 一応、キリカが俺の素性を話してくれたのだけど、だからと言って「はいそうですか」と納得してくれる筈もなく、町にいる間俺はずっと町民から睨まれ続ける羽目になった。この時一緒に来ていた、エリとアリアを見て余計に変な風に捉えられてしまったのだろう。

 下手に反抗するよりかは退散した方が良いと思い、俺はアリシアさん達を連れてそそくさとオオカワの町から出て行った。半日も経たず、オオカワの町の観光を終了させた。

 その後は、キリカの勧めでいろいろな町を回った。

 最後にエメラダだが、何だかサリーとローリエと意気投合しちゃって、そのままうちの屋敷でメイドとして住む事になった。サリーとローリエの発掘コンビが、エメラダが加わった事で正式なパーティーへと昇格した。なんでも、水辺のお宝発見に貢献しているらしい。

 まぁ、エメラダがそれでいいというのならそれでもいいけど。




 そんなこんなで迎えた観光五日目の今日、俺達はあのキメラクラーケンを購入し、オオカワの町を襲わせた張本人がいる町、ツガワの町に来ていた。ちなみに、今日同行したメイドはラヴィーとヴィイチの、やたらと色っぽい二人が来ていた。


「それにしても、どうして最終日がここなんだ?」


 こう言ってはなんだが、ツガワの町はこれといって目立った特産品のない町である。漁も盛んだけど、チクゴの町程ではない。

 それなのに何故?


「実はこの町は、拙者が暮らしている町なのでござる」

「そういえばキリカ様は、王都・オエドではなくツガワの町に住んでいましたよね。金ランク冒険者で唯一、王都に暮らしていないのでしたね」

「へぇ」


 つまり、ここを最終日に選んだのは、自分が住んでいる町を紹介したかったからなのだな。


「どうして王都で暮らさないの?ショーマやお兄ちゃんみたいに」

「拙者も以前はオエドに住んでいたのだが、その‥‥‥」


 なんだなんだ?急に顔を真っ赤に染めて、もじもじとしだしたぞ。


「この町に、拙者の旦那様が住んでいて、その、お嫁に行って、拙者が、旦那様の家に行った、の、でごじゃる」


 後半は顔をニヤニヤさせながら言っているぞ。つまり、愛する旦那の家に嫁いでいったから王都で暮らしていないのか。


「ちなみにご主人のご職業は?」

「陶芸家、兼、錬金術師でござる。それも、エメラルドポーション専用の瓶を作っているでござる。ポーションも自身で作っているでござる」

「エメラルドポーション専用ですか!?」

「それはすごいです!」

「あんな高価なポーション専用の!?」


 アリシアさんとメリーとカナデは声を上げ得て、ラヴィーとヴィイチは目を大きく見開いて驚いていた。そんな中、俺とフィアナは何のことやらわからないでいた。


「何だ?エメラルドポーションって?」

「そんなに有名なのか?」

「って、ショーマ殿はご存知ないでござるか!?」


 そんなに驚く事なの?まぁ、旦那が専用瓶を作っているから驚くのも無理ないか?


「エメラルドポーションというのは、数あるポーションの中でも最も高価な物で、体力回復はもちろん、


 どんなケガも病気も、状態異常や精神操作、更には欠損した体の一部までも元に戻してしまう、何でもあり超万能ポーションなのです」


「金貨三十枚はくだらない超高級品なんだよ」

「専用の瓶に入れないと時間と共に劣化していき、たった一日で効力が無くなってしまいます。空の瓶であっても、市場に行ってもなかなか売っていません」

「マジかよ!?」


 なんでも、専用の瓶を作るには国家資格が必要で、一本売るだけでも日本のサラリーマンの年収に匹敵するのだそうだ。キリカの旦那さんは、それを年間五百本も制作している期待の若手なのだそうだ。


「もちろん。普通の茶碗やどんぶりや湯呑等も作っているでござる。どれも美しく、惚れ惚れするでござる」


 ポッと頬を赤く染めて天を眺めるキリカ。普段キリッとしていて、大和撫子という感じなのだが、愛する旦那の事になると途端にポンコツになるな。相当ラブラブなのだろうな、惚気過ぎだ。

 更に話を聞くと、ポーションなどを生成する技術までも持ち合わせていて、自身でエメラルドポーションも生成しているのだそうだ。副業で普通の風邪薬も作っていて、町の人達に格安で売っているそうだ。すごい旦那さんを捕まえたね。

 そんなキリカの案内で、俺達はキリカの家に案内された。

 キリカの家は町の外れの森の中にあって、茅葺屋根の一軒家とナンゴウでは珍しいレンガ造りの建物の二軒が立っており、レンガ造りのすぐ隣には大きな煙突の様なものが出た大窯があった。

 二軒ある建物の中で、キリカは茅葺屋根の方の扉をノックした。


「旦那様♥帰ったでござるよ♪」


 すごく嬉しそうに声を弾ませながら、自宅の扉をノックするキリカ。俺達がいるということを忘れ、すっかり自宅でリラックスモードに入ってしまっているキリカ。その時点で、家ではどんな感じなのか容易に想像がついた。

 ノックから僅か五秒後に、扉から茶色い着物を着た端正な顔立ちをした茶髪の好青年が出迎えて来てくれた。


「キリカ!帰ってきたか♪」

「旦那様!」


 俺達の目を気にする事無く、キリカと男性はお互いに強く抱き合っていた。仲がいいのは結構だけど、少しは弁えて欲しいぞ。

 うちの女性陣が、全員目をキラキラさせながら見ているぞ。やらないぞ、俺はやらないからな。


「おおっと、紹介するでござる。拙者の旦那様です♥」

「タケオといいます」


 タケオという男性は、キリカと手を握ったまま礼儀正しく頭を下げた。


============================


 名前:タケオ・サーペント 年齢:二十三

 種族:人間        性別:男

 レベル:18

 MP値:1400

 スキル:聖魔法S   陶芸技術S   デザインS   

     錬金術S   薬品調合S   料理A   鍛冶C


============================


 キリカと結婚した事で、この人にも家名が付いたのか。金ランクのキリカの夫にしては、レベルはそれ程高くなく戦闘系のスキルも持ち合わせていない。聖魔法が使えるみたいだけど。


(エメラルドポーション専用の瓶を作るには、それ専用の聖魔法が必要になります)


 解説をありがとう、アリシアさん。

 自分でもポーションや薬を作っているらしいから、薬品調合や錬金術のスキルまでも身に着けていた。


「帯刀翔馬といいます。トウラン武王国出身の冒険者です。彼女達は、俺のパーティーメンバーと屋敷のメイド達です」

「アリシアです。ショーマさんのパーティーで、後方支援を担当しています」

「カナデです。支援射撃担当のパーティーメンバーです」

「メリーと言います。ご主人様と共に前衛を担当しています」

「フィアナだ。私も翔馬と一緒に前に出ている」


 フィアナ以外は丁寧な口調で自己紹介をするパーティーメンバー。まぁ、フィアナが敬語を使わないのはもう今更だし、それに彼女も金ランクの冒険者になったのだから誰も気にしないよな。‥‥‥気にしないよね。


「ラヴィーといいます。ご主人様の屋敷でメイドとしています」

「ヴィ、ヴィイチでしゅ‥‥‥あっ!?」


 続いてラヴィーとヴィイチも自己紹介をしたが、ヴィイチが噛んでしまって恥ずかしそうに顔を伏せた。まぁまぁ、気にしないで。


「こちらこそ光栄です。金ランクの冒険者でもあり、異世界から召喚された勇者様でもあるショーマさんに来てもらえて」

「ど、どうも」


 控え目に頭を下げた。もうだいぶ慣れたけど、ここまで俺の名前が広まるとは。


「そりゃそうです!ご主人様はもっと称えられるべきなのです!」

「翔馬はそれだけの活躍をしてきたんだ。当然だろ」


 メリーとフィアナは力強く言ってくれるけど、俺は出来ることならあまり目立ちたくなかったのだけど。

 召喚された当初は、あまり目立つ事無くオリエの町で細々と暮らす筈が、ここまで大々的に有名になるとは思わなかった。レイハルト公爵に目を付けられたのが、運の尽きだったかもしれない。後悔している訳でもないから良いし、もう慣れた。


「では、どうぞ。何のおもてなしは出来ませんが」

「いえいえ、お気になさらず」


 あまり派手おもてなしされるのは苦手だし、こういう質素な感じって結構好きだったりするのだ。

 タケオとキリカに案内され、俺達は家の中へと入っていった。昔懐かしの日本家屋の赴きに懐かしさを感じ、俺達は靴を脱いでキリカの建物の中へと入っていった。

 キリカの家に招かれた俺達は、畳が敷き詰められた部屋へと案内された。畳の匂い、落ち着くなぁ。屋敷にもあるけど、やっぱり日本家屋にある畳っていいよなぁ。


「十七の時に、金ランクに昇格したばかりのキリカとこの町で出会ったのです」

「陶芸を作っている傍らで、ポーションや薬なども作っている者がいると聞いたので、興味を抱いてこの町に訪れていたのでござる」


 しばらく話をしていると、キリカとタケオが出会った経緯を話してくれた。


「今でもそうですけど、当時のキリカは本当に高嶺の花の様な存在でもあり、ナンゴウで一番強い冒険者としても有名な方だったので、エメラルドポーションの瓶を作れるようになったばかりだった私とは、遠い存在でありました」


 通常、エメラルドポーションの瓶を作るには何十年という鍛錬が必要であったが、タケオはわずか数年でそれを習得したそうだ。

 元々タケオには錬金術と聖魔法、更には薬剤師としての才能があった為、当初親からは薬やポーションを専門に作ることを勧められた。事実、タケオは高純度のエメラルドポーションを何個も作る事が出来た。

 けれど、その保存に必要な瓶を買うとタケオに入る収入がグッと減ってしまうのだそうだ。

 そこでタケオは、ポーション造りの傍らで陶芸技術も習得し、自分で専用の瓶を作る事にしたのだそうだ。

 その努力の甲斐あって、今では町一番の陶芸家として名を馳せるようになった。

 同時に、自身で作ったエメラルドポーションも売る事で収入は一気に増えていったのだそうだ。


「ただ私は、あまり豪奢な暮らしが好きではなくて、ここで茶碗やどんぶりなどを作って売り、皆に喜んでもらう方が好きなのです」

「そういうところに拙者は惚れてしまい、半年かけてアプローチをしていってようやく想いを告げる事が出来たのでござる」


 当時を思い出したキリカは、頬を赤く染めてポォとしていた。


「最初はすごく戸惑いました。キリカはナンゴウでもかなり人気があり、見目麗しい美しさも兼ねていたので当時は少し困りましたし、周りの目も厳しかったです」


 まぁ、確かにキリカは清楚な美しさを持った大和撫子と言った感じの女性だから、タケオが気後れしてしまうのも無理ないか。

 その上、当時のキリカは金ランクに昇格したばかりで、今でもそうだがナンゴウどころかどの世界でも知らない人はいない程の有名人だ。

 そんなキリカから熱烈なアプローチを受ければ、タケオでなくても一般人なら誰だって気後れしてしまう。


「拙者はそんなことは意に返さず、旦那様を振り向かせるためにいろんな手を使ったでござる」

「確かに、いろいろされたよ。たくさんの人がいる中で腕を組まれたり」

「恥ずかしかったけど、思い切ってさらしを解いたでござる」


 リィーシャから聞いたが、キリカってさらしを解くと意外に大きいのだそうだ。


「二人で一緒に海に言った時は大胆な水着を着て来たり」

「ビキニを着ていっぱい見てもらったでござる」


 江戸後期の日本に似た風習のナンゴウ海王国だが、浜辺に行けば普通に海の家があり、海水浴を楽しむ客でにぎわっている。当然、水着も売られている。


「中でも一番効いたのが、キリカの手料理だったな。私なんかの為に練習してきたそうで、あれには参りました」

「男は胃袋を掴めばイチコロだと、女王陛下がおっしゃっていたので」


 うん。それ、滅茶苦茶効果覿面です。気になる女の子の手料理というのは、何時の時代でも男を虜にする。俺も、アリシアさんとメリーの料理の虜ですから。


「その甲斐あって、半年後に婚約を結ぶ事が出来たでござる♪」

「私の誕生日に部屋に訪れ、身体を密着してきたと思ったら不意を突かれて口づけを‥‥‥」


 照れ臭そうにしながら、当時のことを話してくれたタケオ。後半は少し口ごもっていたが、何となく想像がついた。押し倒させるように仕向けたな。

 この世界の女性って、やたら押しの強い人が多く、惚れた男に自分の持つ魅力をすべて出し切った上で、意中の男性をものにしようとする傾向がある。

 そんな感じで、タケオの心を掴む事が出来たキリカは、王都を離れこの家でタケオと同棲するようになり、更に半年後に無事に結婚したのだそうだ。


「旦那さまったら本当に恥ずかしがり屋で、拙者の精一杯のアプローチにかなり戸惑っていたでござる」

「まぁ、今はだいぶ慣れたけど、ここまで私の事を愛してくれるキリカに私もすっかり夢中になってしまいました」

「拙者は今でも旦那様に夢中でござる♥」

「まったくキリカは♥」

「旦那様ったら♥」

「まただよ‥‥‥」


 おいおい。何時の間にか自分達の世界に入っちゃっていますよ、お二人さん。

 最初は少し遠慮していたタケオだったが、キリカの熱烈アプローチのお陰で現在の様なラブラブ夫婦となったのか。仲良くするのは結構だが、もう少し人目を気にして欲しいぞ。




「で、何でこんな事になってんの?」


 前にも全く同じことを言ったが、そう言いたくなるような状況が今現在俺の目の前で起こっているのである。


「ショーマさんは、もっと私達の事を構うべきなのです」

「人目なんか気にする事なんて無いんだよ」

「わたしも、ご主人様ともっとイチャイチャしたいです」

「お前の初めては私が貰ったんだから、それ相応に愛するのが道理だろ」


 何てことを言って、浴衣風の寝間着を着た四人が四つん這いになって俺の前に迫っていた。胸元は少しはだけており、月明かりに照らされている姿が何とも言えないくらいに艶めかしい。

 あの後俺達は、キリカの提案で泊めてもらうことになった。そこで部屋を割り振る際に、何故か俺は皆と一緒に寝ることになったのだ。


(キリカめ。有難迷惑だ!)


 おそらく、そういうことである。百歩譲ってアリシアさん達は良いとして、何故ラヴィーとヴィイチまで居るのだ!しかも、四人と全く同じポーズをとって俺の前にいる!


「わたくしも、ご主人様に抱いていただきたいのです」

「私も、ご主人様と」


 おいおいおい!何でこんな事になってんの!?てか、ラヴィーなんて完全に見えちゃっているし!


《気にしないでいただいたら?あちらさんは久しぶりということで、すごくエキサイトしているわよ》


 むこうは夫婦なのだから良いの!この子達はまだ嫁入り前だぞ!四人とは婚約しているからまだいいけど、ラヴィーとヴィイチはマズいでしょ!

 キリカも、いちいちけしかけないで欲しいぞ!


《けしかけるって、この子達は猛犬かよ‥‥‥》


 猛犬どころか、猛獣でしょ。


「翔馬は、もっと私達との関係を深めるべきだ」

「わたしも、ご主人様ともっと」

「ショーマさんの最初のパートナーとして、今以上に」

「ショーマ!」


 右腕にメリー、左腕にアリシアさん、正面をフィアナが抱き着いて来て身動きが取れなくなったところで、後ろからカナデが豊満なバストを押し付けて抱き着いてきた。逃げられない。

 ていうか、このままではマズいだろ!人様の家に来てまでする事ではないだろ!せめて、屋敷に帰るまで我慢して欲しいのだけど!


「逃がす訳ないだろ」


 そう言ってフィアナは、不意打ちに近い形で俺にキスをしてきた。ヤバイ、すごく良い匂いがする!しかも、顔を上げた瞬間にフィアナの胸元が完全に開け、美しすぎる双丘が完全にはみ出てしまったのが分かった。

 そこまでは何とか理性が保っていたのを覚えている。


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