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105 ナンゴウ海王国

 巨竜島を消滅させてから十日が経ち、俺はメリーとフィアナとシュウラの三人と一緒に剣の稽古をしていた。


「三人とも、もう体は大丈夫なのですか?」

「ああ、お陰様でな」

「全開だ!」

「ご主人様の奴隷として、あるまじき失態を犯してしまいました」


 完全回復をアピールするフィアナに対し、俺よりも重い症状で寝込んでしまった事を落ち込むメリー。

 俺とアリシアさんとフィアナの風邪は、三日寝込んで何とか治す事が出来たが、症状の重いカナデとメリーとエリとヴィイチは八日かかってしまった。ミユキ曰く、この四人はインフルエンザにかかってしまったのだそうだ。そりゃ、俺達よりも症状が重い訳だ。

 まぁ、いろいろあったが無事にカナデの新しい魔法銃は完成した。相変わらず構造が複雑で、作るのがかなり面倒臭かったが。

 キリカも、風邪が治るとすぐにナンゴウ海王国へと戻り、夫の所へと帰って行ったそうだ。物凄く愛されているな、キリカの夫も。


(にしても、この世界にもインフルエンザがあるのだな)


《ウィルス自体は地球のものと一緒だけど、この世界の医療技術は地球ほど進んでいないから、判別は出来ても地球のように薬がある訳ではないから、かかったら自力で何とか治さないといけないわよ。インフルエンザに関しては、かなり重症化してからじゃないと聖魔法は効かないから》


(かからないようにしっかり予防しないと!)


 そんなこんなで四人も、何とか回復して現在のように元気になった訳だが、メリーとエリとヴィイチは滅茶苦茶落ち込んでいた。別に気にしなくてもいいのに。


「それよりも、本当によろしかったのか?ティラードラゴンの素材を全て売ってしまって」

「ああ。俺はカナデの新しい魔法銃をくれればそれでいいし、あんな紛い物の素材なんて要らないし」


 巨獣化していると言う事で、ティラードラゴンの素材は通常の3倍もの値段で売る事が出来た。そのお陰で、今回同行してくれたヴィイチとエリにボーナスを弾ませる事が出来た。


《というかあんた、この世界でとんでもない億万長者になったわね。君が持っている全財産は、日本円にするととんでもない金額なるわよ。それこそ、一生働かなくてもおつりが出るくらいに》


 だからと言って、だらけるのは良くないぞ。働かなくても大丈夫なんて甘い事は、どの世界でも存在しないのだ。油断して使いまくるとあっという間に底をついてしまう。

 更にそれに群がっていろいろと売り込んでくる連中もいれば、脅して奪おうとしたり、騙して奪おうとしたりする輩も出て来る。お金というのは怖いのだ。


《まだ十七のくせに、随分とシビアだね。地球で身に付いたドケチ根性が役に立ったわね》


 ドケチは余計だ。働かざる者食うべからず。手元に大金があっても、働く事を怠っては元も子もない。この身が尽きるその時まで冒険者として活動するつもりだ。

 それに、ここの土地代はバカにならないし、これだけたくさん収入があると払うべき税金もかなり高くなるから、どの道働かないという選択肢は最初から存在しないのだ。


《この歳でとんでもない税金と土地代を払う事になるなんてねぇ。まぁ、この世界ではもう立派な大人なのだけど》


 だからこそ、しっかりと働かないといけないのだよ。冒険者という職業は、自由奔放なノラの俺にピッタリの職業だと思っている。その分危険はいっぱいだけど。


「ところで、翔馬殿は何時頃ナンゴウ海王国に訪問されるのですか?」

「十一時頃に発予定だ。といっても、王城のゲートで直接向こうの王城に行くのだけど」


 初めは馬車で行こうと考えていたが、ミスズ女王陛下たっての希望によりトウラン城のゲートで、ナンゴウ海王国の王都・オエドにある王城へと行く事になった。自分の国が最後の訪問先になってしまったのが、少し不満だったみたいで早く俺に会いたいのだそうだ。


「一応手土産として、ご主人様が鍛えられたブルーアイアン製の刀を献上しようと思っています」

「それはいいです。ミスズ女王陛下も、翔馬殿に負けず劣らず刀が好きですから」


 それは助かる。

 本来は、新しい魔法銃が完成した次の日に来て欲しいと言う事だったのだが、体調不良や素材の売買もあって十日後になってしまった為、そのお詫びの意味を込めて刀を送る事になったのだ。

 今回ナンゴウ海王国には、これといった特別な依頼がある訳ではないから、おそらく有名所の町を観光して回る事になると思う。

 ここのところずっと直接依頼と武器作りばかりしてきたから、たまにはいい息抜きでもしてくるか。


「ショーマさん。そろそろ出発の準備をしてください」

「分かった」


 アリシアさんに呼ばれて、俺達は稽古を切り上げて出発の準備を急いだ。シュウラがここに来る際に乗ってきた馬車に、俺達も乗せてくれると言ってくれたのでその厚意に甘える事にした。

 その代り、シュウラ王子もナンゴウ海王国に行くのそうだ。なんでも、刀術を指南してくれたミスズ女王陛下に挨拶がしたそうだ。


「ミスズ殿に会われるのなら、この書状を渡してはくれないかな」


 出発する前に国王陛下は、息子のシュウラにミスズ女王陛下宛ての手紙を渡した。

 シュウラが手紙を受け取ってすぐ、俺達は王城のゲートを潜ってミスズ女王陛下が立っている側へと足を踏み入れた。


「よく来たな翔馬殿。待ちわびたのじゃ。それにシュウラも、久しぶりじゃ」

「女王陛下も、お久しぶりです」


 女王陛下に近づいたシュウラが、女王陛下と握手を交わした


「生憎キリカは今日依頼が入ってしまい来られないが、明日はそなた達にこの国を案内するようにわしから依頼という形で頼んでおいた」


 十二単の袖をなびかせながら、俺に近づいてきたミスズ女王。金色の瞳を除けば、大和撫子というタイプの美しい女性であった。


==========================


 名前:ミスズ・タキザワ  年齢:十九

 種族:人間        性別:女

 レベル:79

 MP値:11000

 スキル:刀術S   槍術S   薙刀術S   水魔法A

     柔術A   二刀流A   斬撃術A   抜刀術A

 その他:ナンゴウ海王国女王

     海魔殺し

     ドラゴンスレイヤー

     ゴーレムバスター

     ゴブリンスレイヤー

     勇者

     ナンゴウ海王国の英雄

     無敵剣豪


==========================


 本当に俺とは二つしか違わないのに、一国の女王にしてこれだけの功績を残しているのだ。ちなみに戦闘力は、五人の国王の中で最も強いそうだ。

 それにしても、依頼で俺達の案内を頼まれるなんて、キリカには申し訳ないな。


「まったく、ようやく我が国に来てくれたな」

「依頼がありましたので。そのお詫びと言ってはなんですが、女王陛下に贈り物がございます」

「ほぉ!それは楽しみじゃ。では、早速上へ上がるのじゃ」


 まだ十代のくせに、随分と爺臭い喋り方をするな。


「では陛下。籠をご用意したし」

「必要ない。わしをあまり嘗めなるでないのじゃ」


 一人称も「わし」ですか。

 というか、家臣が折角籠を用意してくれたのに使わないなんて。随分とアクティブなお方なのだね。


「ミスズ女王陛下も、翔馬殿に勝るとも劣らぬ自由人なのです」


 自由人と言われるのは初めてだな。ノラとはよく言われるけど。

 長い螺旋階段を上がった後、畳の床と京都の庭園を思わせる美しい庭が目に映った。そこからは土足禁止の様で、畳に上がる前に靴を抜いだ。脱いだ靴は、家臣の人が玄関まで持って行ってくれた。

 そこから町の様子を見ると、木造建築の江戸の街並みを思わせる城下町が見えた。

 よく見ると王城の中も、時代劇に出てきそうな日本のお城の内装によく似ている。

 日本によく似た風習の国だとは聞いているけど、ここまでそっくりだと何だか親近感が湧くな。

 これが、ナンゴウ海王国の王都・オエド。

 日本の城に似たナンゴウ城に見とれながら歩いている間に、俺達はとても広い部屋へと通された。その上座にある豪奢な座布団にミスズ女王陛下が座り、俺達もそれに倣って武器とアイテムボックスを横に置き、陛下と対面する形で座った。その瞬間、厳かな雰囲気が漂った。


「改めて、ナンゴウ海王国へようこそ。わし達はそなた達を歓迎するぞ」

「ありがとうございます」


 俺達は座ったまま頭を下げた。俺の隣にはシュウラが座り、頭を下げて挨拶をした。


「さて、我が国には目立った災害も無ければ、災害級の魔物の被害もない。だが、訪れてくれてありがとう。生憎今は冬だから、自慢の美しい海での海水浴は無理だが、この国を満喫してくれ」

「ありがとうございます」


 俺達は再び恭しく頭を下げた。


「本日はお近づきの印に、女王陛下に贈り物をご用意いたしました」


 アイテムボックスから金の刺繍が施された黒い布に入った刀を取り出し、それを家臣に渡した。刀を受け取った家臣は、それをミスズ女王陛下に渡した。


「拝見しても?」

「どうぞ」


 はやる気持ちを抑えながら紐を解き、布から刀を取り出す女王陛下。鞘から抜いてみた瞬間、サファイアブルーに輝く刀身の刀に目を奪われた。


「これは、素晴らしい!」

「はい。私も翔馬殿から一振り頂きました。本当女王陛下のその刀と同じ、ブルーアイアン製の刀を」

「何と!そのような希少金属を無償で?なんか申し訳ないな」

「いえ、喜んでいただければ何よりです。それに、女王陛下に送るのですから半端なものを渡す訳にもいきません」

「そうか。なら、ありがたく頂く」


 何て言ったけど、俺の手元には売ったら価格破壊が起こる程の量の色付きアイアンがある。ちなみに発掘したのは、お馴染みサリーとローリエの発掘大好きコンビである。

 しかしたくさんあるからといって売りまくると、ギルドと熟練の武器職人が困るからという事と、色付きアイアン自体の価値が下がってしまうということで、アリシアさんからは無闇に売り払わない方が良いと言われた。

 まぁ、国のお偉いさんに無償で与える分には問題ないそうなのだが、それ以外はやはりダメだそうだ。


「こんなに素晴らしい刀をお送りいただき、心から感謝いたす」

「勿体ないお言葉で」

「硬くならぬでよいのじゃ。挨拶は済んだ。楽にせい」


 せっかくの厳かな雰囲気を、女王陛下の方から壊していき、嬉しそうに俺から貰った刀を鞘に納めて横に置いた。


「翔馬殿も、我が国に来ていろいろと気付いた事はあるであろう。この国には、そなたの国と同じ風習を醸し出していることに」

「分かりますか?」

「そなたの名と、城と城下町を見た時の反応を見れば何となくじゃ」


 まあ、もう隠す必要もないのだし話すか。

 その後俺は、地球の事を少し話した。科学技術がこの世界よりも発達していて、この町の様な趣は三百年以上前に廃れていったことも、それでも伝統を守って残そうとしていることも。

 そして、この世界にたくさんの技術を広めてくれた羽賀高政が、俺と同じ世界から飛ばされた転移者であることも話した。


「そうか。タカマサ・ハガ殿も翔馬殿と同じ世界から」

「はい」

「それは私も初めて知りました」


 ま、シュウラには話す機会が無かったし、わざわざ話す事でもないだろうと思ったから。

少し考えた後、ミスズ女王陛下はあることを打ち明けてくれた。


「実はな、わしにはタカマサ殿の血が流れておるのじゃ」

「え?」


 羽賀高政がこの世界に飛ばされたのは、確か五百年前だった筈。なのに、ミスズ女王陛下に彼の血が流れているというのはどういうことなのだろうか?そもそも彼は、トウラン武王国に飛ばされた筈だ。そんな彼の血が、どうしてナンゴウの王家に?

 そんな俺の顔を見て、女王陛下は悪戯が成功したみたいな感じのニヤリとした顔をした。


「驚いたであろう。まぁ正しくは、タカマサ殿の長男がわしの先祖と契りを交わし、王家の婿養子として来てくれたのじゃ」

「ああぁ」


 それを聞いて思わず納得してしまった。

 つまり、ミスズ女王陛下は羽賀高政の子孫と言うことになるのか。五百年経った今でも、その血は絶えること無く受け継がれていっているのだな。

 女王陛下の黒髪も、おそらく羽賀高政の遺伝もあるのかもしれないな。


「ちなみに、ユズル殿とカナデ殿もタカマサ殿の子孫じゃぞ。タカマサ殿の次男の」

「知っています」


 俺のしれっとした回答に、女王陛下は「えぇ~」と不満そうな顔をした。いやいや、ユズルのステータスを見た時から何となくそうではないかと思っていたぞ。

 そうでなかったら、ユズルに「ハガ」の家名が付く訳がないよな。おそらく、ユズルは先祖である羽賀高政に敬意をこめてこの家名を選んだのだろう。

 当然、ユズルの妹でもあるカナデも彼の遺伝子を受け継いでいると言う事になる。尤も兄と違い、カナデは少々残念な子だけど。

 指摘されたカナデは、少し恥ずかしそうにうずくまっている。こんな姿のカナデも、何だか新鮮で可愛いのだけど。


「折角驚かせようと思ったのに、翔馬殿のいけず。まぁそれはそれとして、実は我が国を発展させてくれたのは、タカマサ殿よりも前にこの世界に飛ばされた、滝沢明文(たきざわ あきふみ)という男らしいのじゃ」

「滝沢明文‥‥‥」


 詳しく話を聞くと、遥か大昔、この世界に鎧姿の武将が町に現れたのだという。彼の名は、滝沢明文。

滝沢明文は言葉も通じないこの世界で、片言ながら日本の知識と技術を伝授させてくれた。彼は最初に田んぼを造り、この世界に米という食物を作り出したのだ。現在でも米は他の国にも広がっており、ナンゴウを除く他の四国では高級食材とされているそうだ。

 次に取り掛かったのが、軍備の増強であった。彼はタタラ噴きという技法を用いり、新たに刀という武器を生み出した。刀の力と切れ味に驚いた当時の人達は、それを使って反乱分子を一気に制圧し、国を大きくしていったのだそうだ。

 これは後に分かった事なのだが、色付きアイアンは刀の製造にこれ以上ないくらいに相性が良く、今では色付きアイアンで鍛えられた刀は金貨百枚以上で取引される程のものとなっている。


《ちなみに君が鍛えた色付きアイアン製の刀は、貴族達の間では金貨二千枚で取引されているみたいだよ。流石、「神級武器職人」の称号を持っているだけあるわね》


 マジかよ‥‥‥。自信の一振りだと自負しているけど、貴族達から金貨二千枚で取引されているなんて聞いてないぞ。というか、セリに掛けた事がないのにどうして?


《国王陛下やユズルが使っている所を見て、欲しがっている貴族が続出していて、もし見かけたら金貨二千枚を出してでも手に入れたいということなのよ。この先も価値が上がる可能性もあるわよ》


 何度も言っているが、武器職人に転職した覚えなんてないぞ。武器作りはあくまで副業であって、本職ではない。

 まぁ、それは置いておいて。

 滝沢明文はこの町の発展に大きく貢献し、今の街並みとこの城も、ナンゴウ海王国建国の立役者であり、初代国王でもある彼に敬意を込めたものだそうだ。

 更に、建国して千年が経った頃に上級神でもある海洋神・アストランテに認められ、それ以来この国の主神としてずっと見守っているのだそうだ。


「あれから幾千年。この国は東のトウラン、西のザイレン、北のホクゴに並ぶ大国へと成長したのじゃ。四国で同盟を組み、以来互いに協力し合い、今の平和を保っているのじゃ」

「それを維持している女王陛下も、その若さでかなりの器量であることが伺えます」

「何を言っておるのじゃ。シュウラ王子とてわしとそんなに歳は変わらぬだろ」


 そんな感じで談笑をしていると、あっという間に日が暮れてしまった。昼食まだだったのに、気が付いたら日が暮れてしまった。

 そのまま俺達は、女王陛下と一緒に食事をとる事になった。


「ほぉ!お主たちはそうやって翔馬殿を落とし、ものにすることが出来たのじゃな。それは羨ましいぞ」

「翔馬ときたら、無駄にガードが堅いから本当に苦労したぞ」

「どんなに色仕掛けを仕掛けても、頑固なショーマはちっとも手を出してくれませんでした」

「キリカ様やゴルディオ様のアドバイスのお陰で、無事に婚約出来ました」

「ご主人様と出会えて、わたしはとても幸せです」


 歳が近いということもあって、うちの女性陣とミスズ女王陛下はあっという間に打ち解けていった。話している内容はとても恥ずかしく、気が付けば女性の使用人たちまでも聞き耳を立てて聞いているし。

 俺はと言うと、シュウラと男性の家臣たちから生暖かい目で見られた。

 言いたい事は分かります。この世界に召喚して一年足らずで、四人の女の子と関係を結んだ上に婚約をしたのだ、無理もない。お陰で肩身の狭い思いをしながら食事をとる事になった。


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