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101 楽しい?航海

「デカ!」

「私も初めて見ました。トウランが誇る軍船、黒虎(くろこ)


 トウラン城のゲートを抜けて、巨竜島から一番近い港町に出た俺達は、港に浮かべられている大きな黒色の鉄の船を見て絶句した。パッと見はまるで、ペリーが日本に来た時に乗ってきた黒船みたいだ。

 シュウラ王子から聞くと、トウランが誇る四大軍船の一つの黒虎というらしい。ちなみにあと三隻は、赤船の赤雀(あかすずめ)、青船の青鯨(あおくじら)、白船の白狼(はくろう)があるらしい。虎と雀と鯨と狼かよ。

 話は逸れたが、俺達はこのバカデカイ軍船に乗って巨竜島に向かうのだそうだ。やり過ぎな気がするが、あの恐ろしい巨竜島に行くのだからこのぐらいしないと不安だよな。


「まあ、絶対不可侵領域に指定されている巨竜島に行くのでござる。やり過ぎなんて事は無いでござろう」


 何てことを言っているのは、今回の同行者であるナンゴウ海王国の金ランク冒険者、キリカ・サーペントである。

 何でも、依頼がなかなか来ないから暇だったそうで、ナンゴウ女王陛下に頼んで同行する事になった。その代り、俺は新しい魔法銃を完成させた次の日にはナンゴウ海王国に行かないといけなくなってしまった。

 行くのは別にかまわないけど、観光以外特にやることが無いのだよ。ナンゴウ海王国には、キメラクラーケンという獣とタコをミックスさせた巨大魔物がいて、そいつを倒す事で称号「海魔殺し」が得られる。

 しかしながら、港や海岸に姿を現すのはごく稀。それに、キメラクラーケンくらいなら俺でなくても、地元の金ランク冒険者キリカがいるし、何よりナンゴウ女王陛下もかなりの実力を有していると聞いている為、わざわざ俺が出向くことでもない。

 となるとやはり、観光する以外にやることが無いな。


「そんな事より、早く乗るわよ」

「カナデ様は張り切っていらっしゃる」

「無理もない。翔馬が久しぶりに新しい魔法銃を作ると言ってんだから」


 初めは絶句していたカナデも、すぐに気持ちを切り替えて意気揚々と黒虎へと乗り込んでいった。そんなカナデに呆れるメリーとフィアナ。本当に現金な女だ。

 そんなカナデに続いて、俺達も黒虎に乗り込んだ。そんな俺達から少し遅れて、エリとヴィイチも恐る恐る乗り込んだ。

 今回の渡航には、俺達メインパーティーメンバーの他にメイドのエリとヴィイチも同行させた。


「あの、何で私達を指名されたのですか?あっ!も、もちろん、ご主人様の旅に同行できるのは光栄です」

「吾がいる限り、ご主人様のお手を煩わせません」


 巨竜島に行くと聞いて少し怯えるヴィイチと、俺と同行できると張り切っているエリ。

 今回この二人を指名したのは、一週間前に青ランクから赤ランクへと昇格した事と、たくさんいるメイド達の中で特にこの二人の成長が目まぐるしく、今回の巨竜島渡航で更なる成長を期待しての事であった。

 補足すると、メイド組で最も強くなっているのはミユキなのだが、あの女狐を連れて行く気になれず留守番をさせた。


「安心しろ。本当に危なくなったら俺達が守ってやるから」

「いい、いいえ!そんな!」

「吾とて、自分のみは自分で守れます」


 その意気は良いが、今回の獲物は物凄く危険なドラゴン、ティラードラゴンだ。


「そうか。でも、無茶だけはするなよ」

「「はい」」


 二人にしっかり言い聞かせた後、俺達も黒虎に乗船した。

 ヴィイチとエリが乗り込んですぐに船のエンジンがかかり、ゆっくりと船が出港した。

 船に乗っている間は特にすることが無いので、出航前にアリシアさんから手渡された書籍に目を通しながら、俺は着いた後の事をメリーからこの後の予定を聞いていた。


「巨竜島にはどのくらいで着く予定だ?」

「本日の正午に着きます。ですが、上陸は明日の早朝になり、今日はこの船で一泊する予定になっています。ただ、船は浜辺から二百メートル離れた所で停泊し、そこから手漕ぎの船に乗り換えて上陸になります」

「流石に、重要な軍船を失う訳にもいかないから当然か」


 着いてすぐに上陸、という訳にもいかないか。

 ちなみにアリシアさんとカナデは、甲板で釣りをしていた。なんでも巨竜島の周囲には漁師も近づかない為、大きくて活きの良い海産物が豊富に取れるらしい。

 エリとキリカは、それぞれ自室で精神統一をしている。

 今現在俺がいるデッキには他に、メリーとフィアナとヴィイチの三人がいる。


「それにしても、このリストを見る限りじゃとんでもない魔物ばかりがいるな」


 アリシアさんから貰った書籍には、巨竜島で生息が確認された魔物やドラゴンの種類がズラリと掲載されていた。

 その書籍によると、王者であるティラードラゴンはもちろん、他にも試練のダンジョンでメリーと戦ったスピーダードラゴン、首が三つもあるアバルドラゴン、蛇みたいな姿をしたスネークドラゴン、トリケラトプスみたいな姿をしたアーマードラゴン等々。

 恐竜みたいな姿をしたドラゴンから、有名な怪獣映画にも出てきた怪獣に似たドラゴンまで、さまざまなドラゴンが生息していた。しかも、大きさも本土に住んでいる種類の二倍も巨大だ。


「まさに、ドラゴンの巣窟だな」

「早く用事を済ませて帰りたい」


 横から書籍を読んでいたフィアナが、顔を真っ青にさせて呟いた。ドラゴン恐怖症のフィアナにとっては、巨竜島は地獄そのものなのだろうなぁ。それでも付いて来てくれたのはありがたいが、正直言って今回のフィアナは全く戦力にならないだろう。


「ドラゴンの他にも、ブラックトードやアーマーギガントまでもいます」

「普通の動物もいるみたいですけど、ワニや蛇、熊やサソリといった危険動物ばかりです」

「うわぁ。よくそんな生態系でやってけたな」


 そりゃ、誰もあの島には近づかないよな。そんな危険生物の宝庫の様な島になんて。俺だって、新しい魔法銃を作るという目的が無かったら、そんな島には絶対に上陸しようだなんて思わなかったぞ。規制が厳しい訳ではないが、一応絶対不可侵領域に指定されている。


《作り方を教えてくれたカラミーラーも、教えてくれたのはいいけど、「絶対に巨竜島に行くな。諦めるのだね」って言っていたくらいだからね》


 そもそもカラミーラーは、作るのを諦める様に言っていたのだな。にも拘らず、デリウスは俺達にそこへ行けというのか。


《勇者には試練は付きもの。それに、向こうでちょっと気になる事が起こっていたから、ついでにそれも解決させちゃおうと思ってね》


 鬼か、あんたは!

 まぁ、気になる事があるというのなら仕方ないか。事態が大きくなってからでは、手遅れになる事だってあるのだし。


「ご主人様、そろそろ島が見えると思います」

「おお。もうそんな時間か」


 島が見えると言う事は、時刻はもう正午になったと言う事になるな。

 それは今置いておいて、俺達は大急ぎで甲板まで行って見にいった。釣りをしていたアリシアさんとカナデも、手を止めて全貌を明らかにした巨竜島に目を向けた。


「アリシアさん」

「はい。あれが巨竜島です。私も実際に見るのは初めてですけど」

「あれが」


 海から二百メートル程離れた所には木々が覆い、目の前には断崖絶壁が聳え立ち、左側には砂浜があるがそこには既にスネークドラゴンが一頭悠然と這っていた。島の中心には、とても高い山がその存在感を醸し出していた。

 こんな島に、複数の大きくて凶暴なドラゴンがたくさん暮らしているのか。


「島に着いたって、誠でござるか!」

「遅れて申し訳ございません、ご主人様!」


 遅れてキリカとエリも甲板に出てきた。個室からここまで行くまでの道のりは迷路みたいなものだから、おそらく迷ってしまったのだろう。


「あの島に、目的のドラゴンがいるのね」


 そんなキリカとエリの事は気にせず、カナデは真っ直ぐ島を見つめていた。


「あありがたい。三十メートルもあるらしいから、注意が必要だ」


 ここからではまだ姿は見えないが、島の奥にとてつもなく大きくな何かがいるのが気配で分かる。


「一応、このくらい離れていれば大丈夫なのですが、それでも地元の方達はこれでも近づこうとはしません」

 おいおい。いくら危険な魔物やドラゴンばかりといっても、五キロも離れた所から泳いで渡れる個体はあの島にはいないぞ。熊やワニだったら可能性はあるけど。


「ご主人様は知らないかもしれませんが、ティラードラゴンはわりと最近発見されたドラゴンなのです。どういう訳か、あの島にしかいないみたいなのですが」


 ヴィイチの言う事は確かの様だ。

 資料によると、ティラードラゴンの存在が公になったのは今から3年前であって、それまでは足跡すら見つけられなかったのだそうだ。

 そんなに大きくて凶暴なドラゴンが、何故今まで発見されなかったのかについては疑問が残る。

 おかしいのはそれだけではない。ティラードラゴンは個体数が非常に少なく、三体しか存在が確認されていないそうだ。その内一体はユズルが、もう一体は偶然島の近くを通ったエルダー種のブルードラゴンによって倒された。

 その為、あの島にいるティラードラゴンは一体だけと言う事になる。

 ドラゴンというのは、正式には魔物ではなく神獣に分類されている。不老不死に近い寿命を持っているから、個体数が少ないのは仕方がない。しかし、だからと言って三体だけというのは流石に少なすぎる。


「気になるのは分かりますが、本日はしっかり休んで明日の上陸に備えた方がよろしいかと」

「そうだな」


 気になることはあるが、とりあえず今日は休んで明日の上陸に備えるとしよう。

 上陸したらすぐに目的のティラードラゴンを探して、さっさと島から離れてしまおう。それが一番いい。そもそもあの島は、絶対不可侵領域に指定されている島だ。用が済んだらさっさと帰るのが一番だ。


「しかし、ショーマ殿ももの好きでござるな。新しい魔法銃を作る為に、ティラードラゴンの骨を採取するとは」

「まあ、何時までもカナデだけ武器を作ってあげないというのは可哀想だし。なに、危なくなったら逃げるさ」


 絶対不可侵領域に指定されているが、そこまで規制が厳しくされている訳でもない。入りたければ好きにすればよい、という感じである。

 しかし、だからと言ってわざわざあの島に足を踏み入れようと思うバカな冒険者はそうそういない。

 って、俺達はその島に上陸しようとしているじゃん!ユズルに至っては、既に一度入っているし!


《何一人で悶々としているのよ。今更やめる気なんてないくせに》


 確かに今更戻るつもりなんてない。危険は承知の上。獲物を見つけたらサクッと討伐して、サクッとこの島から出て本土に帰る。

 うん。これでいく。

 島を目視した後、俺達はアリシアさんとカナデが釣った魚で昼食を取る事になった。かなり大きくて脂がのって美味しかった。

 だが


「‥‥‥ヒマだ」


 昼食を食べた後、俺は何もする事も無くのんべんだらりとベッドの上でゴロゴロしていた。

 そして何故か、部屋にはアリシアさんとカナデが来ていた。


「ここに来たってする事無いだろ」

「そうですけど、一人で部屋に籠っても退屈ですし、ショーマさんに構ってもらいたくて」

「あたしもヒマだったから、構ってよショーマ」


 アリシアさんは遠回しに、カナデはストレートに構って欲しいと言ってきた。要はヒマだから相手してくれって事か。


「まったく。こんな事なら、とっとと上陸してサクッと討伐してさよならした方が良いんじゃねぇ」

「そうは言いますけど、本来三体いたティラードラゴンも今ではたったの一体しか残っていません」

「流石のティラードラゴンも、エルダードラゴンには敵わないみたいだね」

「まぁ、エンシェント種の次に神に近いドラゴンと言われているからな」


 エルダー種は、五千年以上長生きをしたドラゴンのみが進化できると言われていて、高い知性と言語能力も有した高位のドラゴン。主にブルードラゴンやゴールドドラゴン等と言った、比較的温厚な種類がなることが多い。

 エンシェント種は、更に何千年も長生きをしたエルダードラゴンのみが進化できる、神に最も近い種類と言われている。この種類になると変身能力を身に着け、人の姿に化けることが出来る。この種類に限っては、何故かゴールドドラゴンの率が高く、それ以外の種類のドラゴンはかなり少ないそうだ。

 これ等のドラゴンは、他のドラゴンとは違い人に対して友好的な姿勢を示している。

 その為、傷つける事が禁止されている保護指定の種類でもある。


「そういえば、ユズルが討伐した個体はどうしたんだ?」

「はい。内臓を除いてすべての素材が高値で取引されました。外皮は竜皮とは思えないくらいにとても柔らかく、それでいてとても頑丈なので革製の鎧や服の原料にも使われています。実を言うと、ショーマさんが今着ている青色の服も、ティラードラゴンの外皮を染めた後絹で覆って仕上げた物なのです」

「マジで!?」


 初耳だぞ!というか、今着ている服の中に竜皮が使われているなんて聞いてないぞ!


「前に皮をそのまま使ったジャケットが販売されたけど、誰も買ってくれなかったからこんな面倒な方法が取り入れられているのよ」


 あらら。ティラードラゴンの皮って人気が無いのだね。カッコイイと思うけど、こっちの世界ではあまり受けなかったのだろう。他のドラゴンの皮はかなり人気が高いのに。


《おそらく、ティラードラゴンの外皮の肌触りがダメだったのでしょう。ゴツゴツしている上に、触り心地もかなり悪いからだと思うわ。それはまさに、全身に紙鑢が擦り付けられている様なものだからね》


「サメ肌かよ」


 そんな物で出来た服を誰が着るか。そりゃ人気が出ないのも分かるわ。


「でも、歯と骨はかなりの需要があって、高い魔法銃の原料としてすごく人気が高いの」

「それこそ、金貨五百枚もします」

「高!?」


 需要があるのは分かるが、いくらなんても高すぎだろ!まぁ、だからこそライフル型魔法銃の作成に打ってつけなのだろう。

 これだけ高ければ、討伐して一攫千金を狙う冒険者がいると御者だけど、相手が相手ではそれは無理だよな。


「更に言うと、ティラードラゴンの骨って真っ黒らしくて、鉄製の道具でも傷つけられなかったくらいに頑丈らしいの」

「ただ、火には弱くて加工の際には溶かして固める方法が使われています」

「それって鉄と何ら変わんねぇじゃ」


 ヤバイ。その骨で刀を鍛えてみたいと思ってしまった。魔法銃を作る前に、刀を鍛えてみたいかも。


「ちょっとショーマ。あたしの魔法銃を作る前に刀を作ろう、なんて思っていないわよねぇ」

「‥‥‥ソンナコトハナイヨ」

「何で片言。そして最初の間は何?」


 魔が差してしまいました。せめて、合間に鍛えさせて。


《あらあら。完全に武器職人と化してきているわね。ティラードラゴンの骨で出来た刀か、マズイわ。私も欲しいかも》


 武器職人に転職した覚えはないが、デリウスもティラードラゴンの骨で出来た刀が欲しいのか。


「ショーマさん。意地悪しないの」

「そうよ。あたしの魔法銃を先に作ってくれたら、一緒にお風呂に入ってあげるから」

「そう言う事を言うもんじゃない」


 魅力的なお誘いではあるが、それだと俺の自制心が持たないと思います。絶対に襲う。


「ええ!あたしと一緒にお風呂に入りたくないの!?」

「私は知っています。サリーさんとアリアさんとは一緒にお風呂に入った事がある事を」

「そんな目で見ない。相手は子供だぞ」


 二人とも、俺の背中を流す為に入ってきたそうだけど、逆に俺が二人の髪を洗ってあげたのだよ。第一、子供相手に発情はしないから何にもなかったぞ。マジで何も無かったからな。


「だったらあたし達とも一緒に入っても良いでしょ」

「そうです。帰ったら一緒に入りましょう」

「君達は一体何と張り合っているんだ」


《お風呂は無いけど、一番上の階に温水プールがあるからそこで裸のお付き合いというのもありだと思うわよ》


 煽るな!お願いだから煽らないで!

 今の今まで俺にだけ聞こえる様にしていたのに、この時だけオープンにしないで!これ絶対にメリーとフィアナにも届いているだろ!

 ほら、俺の部屋に向かって近づいて来る二人の気配があるのだけど。というか、これ絶対にメリーとフィアナだろ。

 それも一分もしないうちに、近づく二人が部屋に入ってきた。やっぱりメリーとフィアナであった。

そして俺は、四人のゴリ押しに負けて温水プールで裸のお付き合いをする事になりました。四人の裸は、それはもう大変魅了的でございました。

 大事な事なのであえて言おう。一緒に入っただけで何もありませんでした。何とか耐えぬいてみせました。


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