100 新しい素材を求めて
「よし、これも会心の出来だ」
出来上がった刀の刀身を見て、俺は満足げに頷いた。
ホクゴ獣王国から帰ってから一週間が経ち、俺は再び工房にて武器制作に取り組んでいた。帰ってすぐに、シュウラ王子に刀を一振り与え、その後も刀や片手剣、大剣や槍や薙刀といった武器を作っていた。
カナデからは相変わらず、新しい魔法銃を作れとせがむが、あんな構造が複雑な武器を作るのはもう懲り懲りだ。
《そんな事を言わないで作ってあげなさいよ。マギグラムゴブリンの魔石はまだあるでしょ。面倒臭がらないで作ってあげなさい、可愛い君のお嫁さん候補の一人でしょ》
そう言われると弱いな!
とは言え、俺は銃に関する知識は皆無に等しいぞ。前回作った豪炎魔銃でも、見た目が完全に色違いの荷電魔銃という感じになっていて、見た目には何の特徴もない平凡な形になっているしなぁ。
《それなら、ライフル銃に似た魔法銃を作ってあげればいいじゃん。その辺もカラミーラーに聞いてみるから》
何かもう作る流れになってません!?というか、銃に乏しい俺でも分かるぞ!ライフル型って、あんな長い物を作れっていうのか!
《そんな情けない声を出さないの。そうと決まったら、可愛い婚約者の為に一肌脱ぎなさい》
「んん‥‥‥」
まぁ、カナデだけ何も作ってあげられないというのも流石に可愛そうだから、久しぶりに新しい魔法銃でも作るか。
出来上がった刀を鞘に納めてから工房を後にし、工房に置いてあった昨日鍛えた刀と剣を持って広場の方に来ていた。
そこでは、メリーとフィアナに稽古をつけられているシュウラ王子の姿があった。刀を受け取った後シュウラ王子は、貰った刀を完璧に使いこなしたいと言う事で毎朝屋敷を訪れて、こうして稽古を積んでいるのだ。
初めは一方的にメリーとフィアナに打たれるだけだったが、次第にその数も減っていき、今ではメリーとフィアナ相手に浅いながらも一本取れるようになっていった。レベルも、たった一週間で100を超える程だから、相当な実力の持ち主である事が頷ける。
「おぉ、翔馬殿」
「翔馬か」
「そちらが、昨日出来上がった刀と剣ですか?」
俺に気付いた三人が、速足で俺の所へと駆け寄った。シュウラ王子の関心は、俺が手に持っている刀と剣。メリーとフィアナの関心は、俺自身というのがそれぞれの視線でハッキリと分かった。
まぁ、それは置いておいて。
「あぁ。どっちもミスリルで鍛えてあるから、軽くて丈夫だ」
能力は無いものの、どちらもランクはBと上々であった。まぁ、軽い時点でどちらもフィアナには不向きであるのは明白。重量のある武器でないと、武器がフィアナのパワーに耐えられないから。
「すごいです。翔馬殿の鍛える武器は、どれも市場に出すと金貨五十枚以上でも足りないくらいすごいです」
「そんなご主人様の武器を、わたし達は愛用しています」
「武器屋で売られている武器が霞んで見えるくらいにな」
何故二人が自慢げに語るのか分からないが、そんな風に言われると何だか照れるぞ。
「まぁ、そんな訳で、刀はメリーにやる。剣は工房に置いておいて、メイド達が自由に使える様にしておくか」
「よろしいのですか」
「あぁ」
ミスリルで出来た刀を受け取り、嬉しそうに鞘から抜いて銀色に輝く刀身を眺めるメリー。
「メリー殿が羨ましいです」
「翔馬以外で刀術に長けているのはメリーだからな」
「なら俺も、もっと精進しないと」
そんなに気張らなくても、その内また鍛えてあげるから。
《チョリーッス!皆の女神、デリウス様だよ♪》
「こっちは相変わらず突然だな」
「わたしは今ご主人様から頂いた刀を眺めているのです」
「俺も初めは驚いたけど、今はもう完全に慣れてしまいました。女神感がゼロに近いです」
言い忘れたけど、ホクゴから帰った後シュウラ王子のたっての希望でバディーの誓いを結ぶ事になった。男同士だから、パートナーではなくバディーである。シュウラのレベルが100を超えられたのは、その恩恵があるからなのかもしれない。
《それよりも聞いてよ》
そんな俺達のディスリも華麗にスルーするなんて、ちょっとは逞しくなったようだな。
《カラミーラーからライフル型の魔法銃は作れないか聞いたけど、それには専用の素材が必要みたいなの》
「「「でた」」」
「?」
俺とメリーとフィアナが眉間に皺を寄せて、いかにも面倒臭そうな表情をしている横でシュウラ王子が頭に疑問符を浮かべていた。
デリウスの話を聞く前に、俺は三人に新しい魔法銃を作る事を手短に伝えた。
「魔法銃ですか。でもあれは、専門の職人でないと作れないと聞いています」
「ご主人様は、カナデ様の為に豪炎魔銃という魔法銃を作った事があるのです」
「でも、それ以来作ってないよな」
「まぁ、それじゃカナデが可哀想と言う事で作る事になったんだ。ライフルに似た魔法銃を」
持ち運びが面倒だけど、カナデもアイテムボックスを持っているから関係ないよな。
「あの、ご主人様。ライフルというのは何ですか?」
「あぁ、流石にそこまで知らないか」
羽賀高政も、ライフルの作り方までは伝えていないみたいだな。というか、銃が元になって魔法銃が出来上がっているのだから、いずれ誰かが作ろうと思ったら作れると思うのだけど。
とは言え、どう説明したら良いものか。
《あぁ、私が説明するから帯刀翔馬は黙ってなさい》
はい。そうします。
その後、デリウスの説明を聞いた三人がうんうんと頷いて納得してくれた。射撃を得意としているカナデに、狙撃タイプの魔法銃も必要かもしれない事も納得してくれた。
《ただ、カラミーラーのやつとんでもない事を言ったの》
「それは何となく想像がつく」
「カラミーラー様は、デリウス様とは馬が合いませんので」
「また嫌がらせで言った可能性が高いぞ」
「俺もフィアナ殿の意見に賛成です」
俺だけでなく、皆もカラミーラーが嫌がらせの為に言ったのではないかと疑っている。そもそも、デリウスとカラミーラーは仲があまり良くないから。
《それが今回はそうでもないらしいのよね。ライフルそっくりとまではいかなくても、長い魔法銃を作るにはそれ専用の素材で作らないと、銃自体が魔力砲の威力に耐えられずに自壊するらしいのよね》
「マジかよ‥‥‥」
だから今まで作られなかったのか。過去に作ろうとした人はいたみたいだけど、使った瞬間に自壊してしまったから使っている本人が危険だから、その先作られることが無かったのだな。
《そうならない為に必要な素材というのが、ティラードラゴンの骨らしいのよ》
「ティラードラゴンだと!?冗談じゃないぞ!」
ドラゴン恐怖症のフィアナは、物凄く嫌そうな顔をして絶句した。
まぁ、フィアナじゃなくても嫌だよな。
「まさか、あのティラードラゴンの骨だなんて」
「確かに、ティラードラゴンの骨なら可能かもしれませんが、流石にマズいのでは」
「そうだな」
ティラードラゴンというのは、ティラノサウルスに似た姿をした地を駆けるドラゴンで、大きさも三十メートルもあるドラゴンというよりも怪獣がしっくりくるドラゴンだ。
その外皮は非常に硬く、剣や魔法銃はもちろん、他のドラゴンのブレスが全く通らない程である。骨はもっと硬く、色付きアイアイには一歩及ばなくてもそれに近い硬さを誇っている。
性質は非常に凶暴で、視界に入る生き物は全て餌に見えて襲い掛かってくる。人間なんて一飲みだし、他のドラゴンもコイツにだけは絶対に近づかないくらいである。
救いがあるとしたら、トウラン武王国のずっと東の海を渡り、本土から五キロ離れた島、巨竜島にしか生息していないと言う事だろう。地竜である為、飛ぶことはもちろん海を泳いで渡る事が出来ない。
「でも、かなり面倒な事になるます。ティラードラゴンは、ドラゴンの中でも最も凶暴と言われているブラックドラゴンと同じくらい凶暴です。遭遇した瞬間に襲い掛かり、捕食しようとしつこく追いかけてきます。あの巨体で物凄い速さで走りますし」
「ティラードラゴンだけでも危険なのに、あの島には他にも凶暴で危険な魔物が複数生息していますから、漁師はもちろん冒険者も近づきません。父の命であっても、誰も巨竜島まで船を出してくれないと思います」
「やっぱりそうか‥‥‥」
巨竜島というのは、読んで字のごとくとんでもなく巨大なドラゴンがたくさん生息していることから付いた名前で、ティラードラゴンはその島で頂点に君臨している。
そんな危険な島まで船を出す阿呆なんている訳がないわな。
《だけど、ライフル型を作るとなるとそのくらい硬い素材でないとダメなの。色付きアイアンは銃の製造には不向きだから論外だし、オリハルコンやヒヒイロカネも魔法銃の製造には向かない。ミスリルでは魔力砲に耐えられないから、どうしても必要なのよ》
まあ、この世界にある素材は元々剣や槌などといった武器を作るのに向いていても、銃を作るには向かないものばかりだ。カナデが使っている二丁の魔法銃は、どちらもマナダイトで作られている。
マナダイトももちろん使うが、それだけではダメらしい。
やっぱり調達するしかなさそうだ。
「シュウラ王子の方で、船は用意できないか?」
「ん‥‥‥父上に頼めば何とかなるかもしれないが、俺の同行は絶対に反対するだろうな」
そりゃ、一人息子で大事な跡継ぎだから行かせてくれないだろう。
そこはいつものメンバーだけで、どうにかなるだろう。
「一応父上に頼んでみる。二日ほど待ってください」
そう言ってシュウラ王子は、奥さんのユニ様と一緒に城へと帰って行った。
あとは、国王陛下の許可待ちとなる。
その後俺は、念波でアリシアさんとカナデに先に報告をし、次にサリーとローリエとミユキを通して他のメイド達にも伝えた。
巨竜島に行くと聞いた時は、流石に皆驚いていたみたいだけど。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さて、どれを使ったら良いかな・・・・・」
あれから二日が経ち、時刻は夜の十時。
俺は腕を組みながら、目の前に並べられた刀と剣を見渡していた。その数、全部で十三振り。ハバキリ以外の、俺の持っている主力武器である。神器をやたら無闇に使って良いものでもないから。
「向うで武器の交換は出来ないだろうから、どう戦うかによって使う武器も違ってくる」
先ずは、使わない武器をアイテムボックス入れる事にした。外皮の硬いティラードラゴンに、能力のない普通の武器である虎鉄と金鉄、海鉄と美鉄、剛鉄と古墳剣は使えない為すぐにアイテムボックスに収納した。
力と破壊力を優先するのであれば、火竜の剣と火車斬と赤鉄。
鋭さと切れ味を優先するのであれば、シクスカリバーと蒼龍と青鉄。
連撃と速さを優先するのであれば、緑鉄。
「一振りずつという手もあるが、ティラードラゴンは俺だけでなく皆にとっても未知の存在」
《何考えているのよ。そもそも君は、ティラードラゴンの四倍もあるオリハルコンゴーレムを単独で倒したじゃない。深く考えないで、いつも通り感覚で選んでいいのよ》
「感覚、かぁ‥‥‥」
まぁ、感覚で言ったら青鉄と赤鉄と緑鉄の三振りを使いたいと思っている。この三振りは、ゴールドアイアンに他の色付きアイアンを組み合わせて鍛え上げた刀だから、力もかなり強力。
確かに、ここのところハバキリに頼り切ってしまっているところがあるから、これ等の武器も使わないと勿体ないよな。
という訳で当日は、青鉄と赤鉄と緑鉄の三振りを使う事に決め、他の刀と剣をアイテムボックスに収納した。
(翔馬殿。少しよろしいでしょうか)
(おぉ、シュウラ王子か)
(はい。父上から特別に、巨竜島行きの船を一隻手配すると約束してくれました。ただ、俺は同行を禁止されましたけど)
(まぁ、仕方ないさ)
その後の説明を聞くと、今回使われる船は全体を板金で覆われた軍船で、俺達の為に特別に用意してくれたのだそうだ。その分高い使用料を取られるそうだが、その辺は狩った魔物の魔石と素材で換金した金で払っても良いとの事だ。当然の事ながら、ティラードラゴンの骨もいくつか使用料と一緒に渡す様にも言われた。
(それと、これはナンゴウ海王国のミスズ女王陛下からのお願いなのだが)
(ミスズ女王陛下から?)
ミスズ女王陛下も、ホクゴのパーティーで挨拶と会話をした事がある。長い黒髪の大和撫子タイプの美人で、俺と二つしか違わないのに女王として国を一つまとめているのだからすごい。瞳の色が金色なのがちょっと残念だけど。
(ミスズ女王陛下からというよりは、キリカ殿の頼みみたいです)
(キリカから?)
(はい。「丁度ヒマしていたから、拙者も同行させよ」と言われて、申し訳ありませんが彼女も一緒に連れていく事になりました)
(はぁ‥‥‥)
丁度ヒマだったからって、他所様のパーティーに無理やりついてくるのもどうかと思うけど。というか、結婚して家庭を持っているのならそっちを優先してあげて。
(で、それが終わって、新しい魔法銃が完成した次の日にナンゴウに来てくれとも言われました。特に用事はありませんが)
(いいよ。そんな事だろうとは思っていたから)
ザイレン、クフォト、ホクゴと訪れているから、あと行ったことが無いのはナンゴウだけだったから丁度良かった。
(では明日、城のゲートを使ってキワマの町まで行き、そこで船に乗って向かう事になります)
(分かった。ありがとう、わざわざ)
(いえ。では、俺はこの後業務がありますのでここで)
(夜も遅いし、無理だけはするなよ)
シュウラ王子との念波を切った後、俺は明日の準備をしてからベッドに潜った。
どうやら、長旅は回避できるみたいだな。大変なのは現地に着いてからだけど。