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テンプレ転生

口から吐いた息が冬の空気を少しだけ白く染めた


陽は既に落ち、より一層冷たさを増した空気が触れた肌を刺すような、そんな季節



若者とは少し言いづらくなった極普通の会社員、斎藤アキラはいつもの道を自宅に向かって歩いていた


今日は元々同じ会社に勤める部署違いの友人数名との飲み会の予定があったのだが、急遽仕事が入ったために週末で定時退社のアキラとは都合が合わなくなってしまい、急遽キャンセルとなってしまっていたのだった




―そんな俺、斎藤アキラは現在独り身である


巷ではそこそこ名の通っている会社に大学卒業と同時に就職、元々大学自体もキャンパスが実家から遠いというのもあり寮住まいだったため、就職してからはワンルームのアパートを借りて住んでいた



週末であることだしそもそも今日は飲み会の予定だったのだ、コンビニに寄って缶ビールくらい買ってもバチは当たるまい


そんな考えの下、いつものルート上にあるコンビニでいつもの銘柄(自分の親と同じく、銀地に黒の枠と文字がプリントされたアレである)のビール1本と弁当を手に取り、レジで精算を済ませる


そして自宅まであと二、三百メートル、最後の信号がある交差点の横断歩道を渡ろうとしたとき



―――『その時』は唐突にやってきたのだ



信号が青に変わったことを確認してから渡り始めたのだが、休みの前日ということで少し浮かれていたのだろう、接触するほんの寸前まで赤信号にも歩行者にも気が付かないまま市街地を暴走するトラックに気が付かなかった



気付いた頃にはもう避ける時間すら残されていなかった



トラックの前照灯に照らされながら意識だけが引き伸ばされた時間の中、俺の思考を支配したのは唯一つ



―ああ、俺、ここで死ぬんだな



現実では1秒にも満たない時間の後、全身を襲う激しい痛みと共に俺の体は宙を舞った





撥ねられたアキラ自身は知らぬことであるが、トラックに乗っていた運転手(ドライバー)は薬物乱用により既に正気を失っており、警察官による職務質問から逃げ出した後、近くに止まっていた運送会社所属のトラックを奪って逃走、カーチェイスになっていたところだった


彼にとっては不幸としかいえない状態ではあったが、同時にアキラを撥ねたことによりトラックはコントロールを失い横転、運転手の男も逮捕された



――――――――――――――――――




日に照らされた緑豊かな土地を優しく撫でるように風が吹いた




シュメール王国フランクリン領



その領主のものであろうか、控えめながらも気品を感じさせるその建物の一室にその少年にも少女にも見える10歳ほどの子がいた



―何のことはない、と言うのにはいささか問題があるが、中身は俺、斎藤アキラである


交通事故に遭って死んだはずだったのだが、気が付いたときには子供になっていた


元々日本をはじめ、少なくとも仏教の影響を受けた地域には『転生』という概念があったのだ、生まれ変わったとしても何ら不自然なことではない


それを証拠(?)に、ネットやライトノベルを漁れば異世界転生モノは沢山あったのだが・・・



まさか自分自身がそうなるとは



勿論、そういう知識があるということは少なからず読んだことがある、という事である


アキラ自身は時々暇つぶし程度で目を通していただけだったのだが、クオリティが高いものもあれば安易な俺TUEEEEEもあり、正直飽き始めていた



そして、こんなどうでもいいことまで思い出してしまった理由がこの世界のシステム(?)である


街は中世~近世とまではいかなくとも、現代に比べてみれば明らかに発展していない街並み


人間の生命を脅かす魔物が跳梁跋扈し、対する人間は剣や槍、弓矢と魔法(現代日本人であったアキラが勝手に付けた呼称、当然本来の名前ではない)で対処している世界



・・・もう認めよう、ここは典型的なファンタジー世界だと



そしてもう一つ


この世界、少なくとも身の回りの人間は『転生』というものが当たり前にある事象だと捉えている


基本的に死亡した時点で(表現はどうであれ)肉体は滅するので記憶は引き継がれず、赤ん坊として生まれてくる頃には何も憶えていないのだが、極稀に前世の記憶を持ったまま生まれてくる者がいる


その時点でも(前世の職業に関わらず)転生勇者として祭り上げられるのだが、これがこの星の者ではなかった場合



それはもうお察しと言う他ない




そうそう、この世界での新しい俺の名前だが



アドリエル・ターナー・フランクリン、そう隅に小さく書かれた紙が置かれている



前世でも散々『性別が分かりづらい』と言われてきてはいたが、それも引き継いでしまったようだ



因みに通名は『アディ・フランクリン』



・・・もう認めるしかない、何故か転生で性別まで変わってしまっていた



転生を自覚したのはつい最近の話であるが、そうなる前から俺に対する評価は『同じ歳の男の子にも勝る、やんちゃで我侭な子供』だったそうだ(態々訊くまでもなく実母であるアンナが事あるごとに口にしていた)



そして短いながらもこの世界での教養を受けて気が付いたことがある


それは、例え女の子だったとしても『転生者』であることが分かれば扱いに男女の差がなくなってしまうということ


理由は唯一つ、前世の記憶を持ったまま生まれてきた子供は大抵肉体的にも精神的にも、魔法の能力でさえそうでない者と比べて強いこと



・・・つまり、平穏に暮らしたいのなら秘密としてしまった上で墓場まで持っていくのが一番いいのだ


それは同時に男として生きていた記憶があるにも関わらず女として生きていかなければならないという事であるが、不慮の事故で死んだことまではっきりと憶えていたアキラにとっては些細な事だと・・・少なくともこの時点ではそう考えていた




現在のアドリエル―――アディは見た目に違わずまだ10歳の子供である


勇者とするにしてもまだ教育を施さねばならない歳であり、事実彼女自身はまだジュニアスクールに通っていた


男性であった頃の記憶が露呈すれば転生者だとバレてしまうが、幸いにも生まれつきボーイッシュな性格であることは少なくとも彼(彼女)の助けになっていた




―――――――――――――――



アディが『斎藤アキラ』としての記憶を取り戻した直後、彼女は混乱の極みにあった


幸いだったのは同じ部屋に誰もいなかったこと、それだけだった


地方とはいえ領主の娘、その居室であれば姿見(大きな鏡)が備えられているのが一般的であり、どこのとは言わないが感覚を確かめる前に姿見に映った自分の姿が視界に入ったのだ



極端ではないが整った顔立ちに気品を感じさせる艶を持つ、短く切り揃えられた濃灰(ダークグレー)の髪、子供らしく大きな琥珀色の瞳を持つ目は釣り目気味で、将来有望であることが伺えた



―――中身が『斎藤アキラ』でさえなければ



その頬は角張りそうな気配さえなく、もはや下着を脱いだり服の上から触って確認する前から思考は現実逃避を始めたのだった



そしてその現実逃避の方法が今までただのアディとして生きてきた時に受けた教育内容を思い出すことだった





シュメール王国、嘗ては数多存在した人間の国の内の一つ


地球(グレゴリオ)暦でいうところの1年を通してほぼ温暖であり、他国との争いを殆ど起こすことなく隣国とは友好国間同盟を結ぶ程であった


そんなシュメール王国を良く思わない国家も当時存在し、その筆頭格がカナ転写にして僅か一文字違いのシュメーヌ国だったのは何かの皮肉であろうか


シュメーヌ国は反シュメール連合を結成、当時の魔物の1部族を従えていた者とも密かに同盟を結び、侵攻まであと少しというところまで進んだのだと言う



ところが、いざ宣戦布告をしてみると魔物が連合国家領で暴走、侵攻対象国の兵どころか自国民までも襲いだした為にシュメーヌ国の反体制派が蜂起、シュメール王国との臨時同盟を結び暴走した魔物の排除と現体制の捕縛に動き出したのだ


甚大な被害を出した連合国家の格首長は退くことを余儀なくされ、同時に国家間の争いを防ぐために人間の国の統合が提案された際にシュメール王国が中核となって新国家を設立する案が採用された結果、殆どの国は王国傘下の領地となり今に至る


同時に各国で使用されていた暦もシュメール王国暦に統合され、地球暦で言うところの1年は1600日、1日は20時間になったのだと言う



現在、単に『王国暦』と呼んだ場合は基本的にシュメール王国暦の事を指す



ここで地球人であったアキラの抱いた疑問、それは暦に『月』の概念がないことである


それもすぐに知れることとなった


地球暦で30日どころか、王国暦の1年が経っても月のような天体が見当たらないのである



太陽系の天体であっても、水星や金星のように現在(グレゴリオ暦2018年1月)衛星の存在が確認されていない惑星がある



王国の存在する星にも同じように衛星が存在しないのだ


また、旧シュメール王国領やその付近では気候の変化が殆ど存在せず、海も無いために1年経ったという感覚がなくなってしまう


そこで1年を8つに分け、第○季という呼称が付くに至った


王国暦は旧シュメール王国の成立まで遡り、成立年を1年とした上で王国暦制定を564年第6季48日としたのである



アディの生まれは王国暦2874年第4季124日であり、アキラとしての意識が戻ったのは王国暦2884年第4季98日の事であった


因みに王国各領主の子供は生まれ順や性別に関わらず12歳の誕生日に領民や他領主へのお披露目も兼ねたパーティーの主役を飾ることになる


彼らもその殆どは血筋を辿れば嘗ての国家元首の子孫であり、元貴族であるという意識を与えるためだ


唯一このルールが適用されないのが国王子息であり、彼らは15歳の誕生日を迎えると成人の儀と共に親である国王自らから王位継承順位を告げられることになる(基本的に国王の子として生まれた時点で継承権は発生するが、隠し子がいないことの証明を行うため)




もう一つ、これはアディ(アキラ)の体感でしかないのだが、王国暦の20時間は地球暦の20時間とほぼ等しい


だが、1年は1600日もあり、地球人の感覚では王国暦で1年経つ間に4年近い時間を過ごす事になってしまう


にも関わらず地球人と王国人との見た目に殆ど差が無いのは『そういうものだから』・・・では流石に投げやりにも程があるので



答えは簡単、王国人の成長速度は地球人のほぼ1/4なのである




―――メタな発言をすればここで説明終了、といったところであろう


自分自身は全く落ち着けていないが




主人公の転生後の名前はイニシャルがATFになるように(中性的な名前になるようにしつつ)調整、転生前の名前は悩みましたがふと浮かんだ斉藤姓に某漫画原作船頭アニメのメインキャラクターの一人から採りました(カタカナ表記ではない上に女性ですが)

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