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軌跡 第4話 FOREIGN  

 

  色あせた遠い記憶

  もう、セピア色に焼き付いた

  たった一枚しか残っていない

  写真を見るたび

  あの時を思い出す

 

初めて会ったのは何時だろう?

眩しいくらいの笑顔で

君は私を迎えてくれた

暖かい手と手を合わせて

将来のことを語ったね

 

 気付かない振りをした

 それは私のせいかも知れない

 お互い刃を交えたことを

 私は守るために

 君は求めるために

 全てを壊した後で

 残されたのは深い傷だけ

 

夢に見るのは

遠い君の幻

雨の中の待ち合わせ

店のショーウインドウの前で

傘を差し掛けるように

優しい微笑みをくれる

 

   もし、願いが叶うのなら

   あなたに一目 会いたい

   強く抱きしめて

   そっと 君に告げよう

   あの時言えなかった言葉を

   『愛している』と

 

 

 がちゃりと扉が開いた。部屋の中では暗く湿った空気で満たされていた。入ってきたのは一人の中年男性。その髪は黒い髪よりも白い髪が目立っている。顔のしわも幾分、深くなっているようだ。

「沙夜は……沙夜は何処ですか?」

 やっと声が出る。掠れたような声。

「沙夜さんのお父さんですね?」

 白衣の男性が前に出てきた。

「こちらです」

 白衣の男性の指し示す先に、沙夜はいた。まるでねむっているように見える。顔にはゴーグルを付け、何本かのケーブルが繋がっている。時折、ポッドの機械が読みとる音が聞こえた。そう、ダイブの最中なのだ。

 その中に不釣り合いなものが一つ。

 点滴、だ。

 それはゆっくりと沙夜の体に注がれていた。

「今は何とも言えませんね。今回の状況は極めて希なことですから。正直、私も驚いています。もし、この状態が続くようでしたら……」

「お願いです、私は沙夜を助けるためなら、いくらだってしましょう。助けてやって下さい。沙夜は……沙夜は親友の忘れ形見なんです」

 涙ながらに、中年男性は訴えた。

 

 

「そう、知らなかったわ。私、てっきり……」

 麗華・ハーティリーは、忙しなくコンピュータのキーを打ち込んでいた。レイカは、とあるプログラムを図書館のコンピュータ室で作っている最中である。

「はい。……丁度一年前ぐらいでしたか。交通事故で、ご両親を亡くしたと聞いています」

 隣で同じく、コンピュータでプログラムを作っている松沢桂花が答えた。少し、その声が震えていた。

「そうなの……」

 レイカが今、手がけているのは「身元特定プログラム」。元はハッカーの身元を割り出すための物で、相手の座標を察知する機能が備わっている。レイカはそれを使ってダイバー達の行方を掴むつもりである。試作のプログラムは出来てはいたのだが、他の有効な機能を拡張するため、時間がかかっていた。

「その後、ご両親の親友である光弘(みつひろ)さんが、沙夜さんを引き取ったと聞きましたわ」

 桂花もプログラムを作っている。レイカとは異なるプログラム。それが「AIプログラムBer.5・4」である。ネットに入ることの出来ない桂花は、自分の代わりに先日現れたブラックホールの解析をさせるため、そのプログラムを作っていた。

「二人とも、お疲れさま。コーヒーを持ってきたよ」

 彼女達の後ろから声がかかる。長い黒髪を靡かせた、天羽春斗だ。その手にしているお盆の上には、湯気の立った香ばしいコーヒーが乗せられていた。

「ありがとう。あら、もうこんな時間?」

 レイカの目に飛び込む時計。もう、深夜を回っていた。「春斗君も、桂花ちゃんも、もう遅いから寝なさい」

『でも!』

 レイカの言葉に二人は息ぴったりに講義した。

「ボクが出来るのって、こうして、頑張る人に夜食とかを届けるくらいしかないし」

「私だって、沙夜さんが大変な事になっているのに、おちおち寝ていられませんわ!」

 ふう、とレイカはため息をついた。

「しょうがないわね。後、一時間で私も片が付くから、それまでね? いいかしら?」

「はい」

 桂花は嬉しそうに頷いた。

「じゃ、ボク毛布とか用意しておくね……でも」

 春斗は言葉を切った。

「悔しいよ……力になれなくて。ボクもダイバーとかだったら、もっと役に立ったのに」

「春斗君……」

 レイカは優しく彼の名を呼んだ。

「そんなことないわよ。ダイバー皆の家族にいち早く連絡したのは春斗君だって、ティナさんから聞いたわ」

 春斗はレイカの声に応えるかのように彼女を見た。

「ちょっと嬉しいわよね。必要とされることは。でも、私だって出来ないことはいくらでもあるもの。私は連絡する事を気付くのが遅れたわ」

「そう、かな」

「だから、こうして私達のためにいろいろしてくれると、本当に助かるわ。私達って、これと決めたこと以外はあまり目に入らないから」

 そういってレイカは苦笑した。

「だから今は私達が出来ることを精一杯やりましょうよ。ね?」

 そういって、レイカはコーヒーを飲み干した。

「さて、もう一頑張りしましょうか?」

『はい!』

 春斗と桂花は力強く頷いた。

 

 

 城前寺晃は、コンピュータと奮闘していた。相手は図書館のデータを奪うために来るハッカー。これでも新しく入れたトラッププログラムのお陰で、いくぶん数が減っていた。

「皆はどうなってしまったのでしょう……」

 またハッカーをその手で、ロストさせた。

「このままでは図書館の警備が手薄のまま……ハッ! わ、私は何と言うことを考えて」

 こつりと自分の頭を叩いた。

「これでは、あのときと変わらないではないですか」

 ハッカーはもう、来ないらしい。トラップと警備プログラムを起動させて、晃は立ち上がった。

 そして、歩きながら今までの事を頭の中で整理してみた。

 一つ、突然現れた蒼い鳥のこと。

 そのことは、レイカの報告により分かっていた。晃もいや、それ以外の者も驚きを隠せなかった。ジオがダイバーだったことに。レイカが気付かなかったのは、ダイバーシステムが外部装置を必要とするオプションだったからだ。蒼い鳥はジオの擬態と考えて良いだろう。

 二つ、ブラックホールの出現原因。

 これは自分も見ていたのですぐに分かる。原因はジオと深紅の獣の攻撃。それにより、サイバーネットに大きく影響を及ぼし、ブラックホールを生み出した。

 問題は三つ目。ブラックホールに飲み込まれたダイバーを救う方法。

 例がないわけではない。いくつかの過去のデータが残されてはいた。が、無事に戻ってきた例は一つもなかった。

「とにかく、ブラックホールの出現した場所を、もう一度調べなくてはいけませんね」

 その前に、レイカたちの様子を見てこよう。

 晃はレイカ達のいる、コンピュータ室に向かった。と、部屋から声がする。

「悔しいよ……」

 春斗の声のようだ。部屋のドアを開けようとする晃の手が、止まった。

「ボクもダイバーとかだったら、もっと役に立ったのに」

 ダイバーだったら、役に立つ。

 その言葉がいやにはっきりと、晃の耳に響いた。

 気付くと、晃はその部屋から逃げるように、走り出していた。

「私は、いったい何をしているんですか?」

 その言葉に答える者は、誰一人いなかった。

 

 

「うっにゃにゃー♪ うにゃにゃー♪ うにゃ、うにゃにゃー♪」

 一番先頭で鼻歌を歌いつつ、まだジオを引きずりながら、猫耳のミミナはずんずんと王宮に入っていった。後に続くのは、ダイバーの四人。天川瑠璃、九条忠宗、由比藤彩波、そして、雪水沙夜。とにかく、端から見れば奇妙な団体は、人の目を気にせず、前へと突き進んでいた。王宮の中は思っていたよりもかなり広く、ミミナを見過ごすと、真っ先に迷子になりそうだ。四人は密かに必死だった。

「ねえ? ここってお城よね?」

 彩波がたまらず、ミミナに尋ねた。

「そうだにょ」

 急に鼻歌が止まる。

「もしかして、その、かりんとうだか言う人は、ここにいるってことよね?」

「カリン様だにょ!」

 ミミナの台詞を無視して、彩波は続けた。

「って、ことはよ。もしかして、かりんとうさんは、ど偉い人って訳?」

「カ・リ・ン・様!」

 ミミナは怒っている。それをおろおろと忠宗が冷や汗をかきながら見守っていた。

「そうそう、カリン様だっけ? 一体どんな人なのよ?このお城の主なの?」

「主って王様のことかにゃ? 違うにゃ。この国の巫女様だにょ!」

 えへんと、まるで自分のことのようにミミナは偉そうに反り返った。

『巫女様?』

 四人の声が見事にハモった。合唱団に入れるかもしれない。

「巫女様は王様の次に偉いんだにょ! くれぐれもカリン様の前では、変なことしないで欲しいにゃ」

 そのミミナの台詞にごくりと唾を飲んだ。

「なるほど、巫女の方なんですね? 肝に銘じておきます」

 瑠璃だけは相変わらずの表情で頷いていた。

 

 

 そうこうしている間に、彼等は目的地である、カリンのいる部屋の前に辿り着いた。

「カリン様、はいるです」

 ミミナもここばかりは文末に「にゃ」を付けないようだ。ぎいいと軋んだ音と共に、その大きな扉を開けた。

 ここだけ、何故か今まで歩いてきた所とは少し、雰囲気が違うようだ。カーテンの奥には、一人の女性がイスに腰掛けている。

 ミミナはジオを引きずって、カーテンの奥のカリンの前に持っていく。四人も後に続いた。

 驚愕。

 そこには、一人の、オートマータがいた。

 が、壊れているのがすぐ分かる。うつろに開いたその瞳は何もない所に向けられ、顔は何かでめくれたように機械の肌が見えていた。

 四人は驚くあまり、声が出なかった。

「カリン様、見て下さい。カリン様に似た、変な人間を見つけました!」

 そのミミナの笑顔は眩しい。

 と、そのカリンの口が開いた。

「May I help you? May I help you? May I help you?」

 そこから聞こえるのは、まさしく英語。

「先程の英語は『私に何かすることはないですか?』っていう意味の言葉でござるな?」

 忠宗はぽつりと囁くように言った。

「ええ、確か、そうだと思ったわ」

 彩波が頷く。

 四人はじっと、ミミナの様子を見つめていた。ミミナはうんうんとその声に頷いている。

「わかったにゃ! カリン様」

 何が分かったのだろう? 四人はどきどきとそれを見守っていた。

「お腹がすいたんですにゃ!」

 ずこっ!

 瑠璃とジオ以外の者が同時にずっこけた。これもまた、見事だ。

「何しているにょ?」

 ミミナはその意味が分かっていない。たぶん。いや、恐らく。

「あのねぇ、ミミナ。彼女はねえ……」

「あら、ミミナ。もう帰っていたの~?」

 ゆったりとのんびりした声がドアから響いた。

「ルヴィア!」

 ミミナは弾んだ声で、ルヴィアと呼ばれた女性に駆け寄った。

「お帰りなさい、ミミナ。お買い物は出来たかしらぁ?」

 閉じられた笑顔の瞳、グレイの纏められた長い髪。そして、体にぴったりとしたロングスカートのスーツ。どこから見ても温厚な女性に感じられた。ただ、ダイバー達にとって驚くべき事柄は、その耳。まるでおとぎ話に出てくる妖精のような長い耳だった。

「ここの世界の人って、耳に特徴があるのかしら?」

 彩波は、眉をひそめて言った。

「そうかも、知れないでござるなぁ」

 忠宗も腕を組みつつ、頷いた。

「あらぁ? 何をなさっていますの?」

 スローテンポのルヴィアの声の先に彼等は目を向けた。

「修理します」

 ぽつりと答えたのは瑠璃。

「治して欲しいそうだ」

 ジオも答える。

 二人は、カリンを注意深く診ているようだ。

「え? え? 治して欲しいって?」

 沙夜がジオに尋ねた。

「さっき、彼女が言っていたから」

「でも、ジオ。あの言葉は英語で……」

 彩波が反論する。

「マシンヴォイスです」

『マシンヴォイス?』

 三人の声がこれまた綺麗にハモった。やっぱり、合唱団に入るべきかも知れない。

「英語と共に人には聞き取れない、機械やオートマータのみが理解可能な言葉『マシンヴォイス』が含まれていました。それには『私を直して欲しい』と言っていました」

 瑠璃が答える。

「そういえば一度、聞いたことがあるでござるよ。声で機械を操ることが出来ると。オートマータはより快適にコンピュータを扱えるよう、機械にしか反応しない言葉を持つそうでござるな?」

「はい、そうです。その声により、データの受け渡しも可能です」

 瑠璃は忠宗の言葉にこくりと頭を動かす。

「へえ、そうなんだ」

 沙夜は分かったような、分からないような表情をしていた。きちんと分からなかったのであろう。

「そうそう、それで。そのかりんとうさんは直りそうなの?」

「カリン様にゃっ< 何度言ったら分かるんだにゃっ!」

「そうだっけ?」

 彩波は苦笑した。

「とにかく、中を見てみないことには分かりません。開けて見ても構いませんか?」

「そういう事でしたら、構いませんわぁ」

 ルヴィアはミミナを抱きしめ、応えた。

「では、失礼」

 ジオはそっと服を脱がせようとする。が、

「ちょっと待ったあ!」

 沙夜が叫んだ。

「ジオ、男の子よね?」

 何時にも増して、真剣な表情で沙夜は詰め寄る。

「ああ」

 短くジオは答えた。

「男の子は、女の子の裸を見ちゃダメなのよ! さっさと出る! あっと、忠宗君もね!」

 そう言われて、二人は部屋を追い出された。

「ふふふ。オートマータの一つや二つ、直せないものはなーいのよ☆」

 沙夜はふんぞり返って偉そうだ。

「では、そろそろ取りかかりましょう」

 瑠璃のかけ声で修理は始まった。世にも恐ろしい出来事の幕開けになろうとは、このとき、思ってはいなかった。はずである。

 

 

 こちらは空谷村、図書館。する仕事が少ない春斗は、いつものカウンター業務を行っていた。

「はあ、つくづくボクって、役立たず……」

 しょんぼりと、うなだれている。

「よ、元気ねえなあ、兄ちゃん」

 春斗の姿を見て、一人の学生が声を掛けた。

「あれ? ヨージ君? でも今、授業中じゃ……」

 ヨージと呼ばれた少年は苦笑した。

「たまには出たくないときもある」

 まじめな顔でそう言ったが、両耳に付けられた沢山のピアス、茶色い頭髪、極めつけの鼻ピアスが、真面目に勉強していないことを告げていた。

「あのね、ちゃんと出た方がいいよ?」

 春斗は優しくヨージに話し掛ける。

「心配してくれるのは嬉しいけどね」

「そう? じゃ、話し相手になってよ、兄ちゃん」

 誤解のない様に前もって言って置くが、二人は兄弟ではない。春斗の人柄だろう、学生の間では「お兄ちゃん」と親しみを持って、そう呼ばれていた。

「もう、怒られるのは君だけじゃないんだよ? ……一時間だけだからね」

 それでも念を押すのを忘れてはいない。

「やっぱ、優しいよなあ、兄ちゃんは」

 オーバーに嬉しそうな素振りをするヨージ。

「用件ってそれだけ?」

 早く切り上げたいので、本題を聞くことにした。

「よくぞ聞いてくれました! あのさー、先日、竜の民の学生に騙されたんだよ」

「騙された?」

「そう、一万が500円になった」

「ん? どういうこと?」

 いまいち話が見えてこない。もう少し話を聞いてみよう。

「いやー、俺も女だからって油断していたのも悪かったと思うよ。実際そうだったし」

「うんうん」

「その女がオートマータの事を聞いてきたんだ。教えてやったら金をくれるって」

「ははーん。やっと分かった。それで、一万円くれる約束だったのが、貰ったのは500円だったって訳だね?」

 人差し指をヨージの鼻先に付くかのように、前後に振ってみせる。

「そうなんだよー。何かさー、悔しくって。で、その話をこの近くの茶店で知り合ったかわいこちゃんに話したら、同情してくれてさ、これから会うんだ。代わりに金くれるって」

「……それって怪しくない?」

 春斗はその言葉に何かを感じた。

「だいじょーぶだって。だってさ、相手はまだ17、8位の女だぜ?」

「それに痛い目に遭ってるのは、誰だったっけ?」

「本当にだいじょーぶだって、言ってるだろ? それに、俺にはこれがあるし」

 そう言って、スタンガンを見せた。

「最新型のスタンガンだぜ」

「危ないよ! ダメだよ。それはボクが預かるからね」

 春斗はそう言って、鮮やかにそのスタンガンを奪った。

「あっ!」

「没収!」

「冗談じゃないよ! それ、高かったんだぜっ!」

「んー聞こえなーい」

 ヨージの言葉に耳を塞ぐ振りをして、無視をした。

「わかったよ。明日学校休みだから、それまで預かってくれよな」

「はいはい」

 そのヨージの背中を見送る。

「ちゃんと授業、出るんだよーっ!」

 手に残ったのは、重みのある黒いスタンガン。

「あれ? そういえば、ヨージ君、オートマータって言わなかったっけ?」

 ふと、思い出す一つの単語。

「ま、いっかあ。……あっ! そろそろ皆のお昼、持って行かなきゃ!」

 まだ、彼も気付いてはいない。もう一つの歯車が動き出したことに。

 

 

「ふう、皆酷いでござるよ」

 忠宗の周りには、何故かゴザが敷かれていた。赤い和風のパラソルも付いている。残念ながら獅子脅しがない。それさえあれば、まさに純和風のお茶会そのものである。

「だな」

 忠宗の隣にきちんと正座しているジオが頷いた。

「きっと大変なことが起きるでござるよ」

 そう言って、ずずずと持っていたお茶を飲む。緑茶なことは間違いない。

「何故だ?」

 真剣な眼差しが忠宗に注がれる。

「そんな気がするだけでござるよ。深い意味はないでござる。おろ? 飲まないのでござるか?」

「飲むものなのか?」

 知らなかったらしい。そういえば、ずっと眺めていたように思われる。

「緑茶は飲むものでござるよ。それとも飲めないのでござるか?」

「いや、液体なら飲める」

「……凄いでござるな、ジオ殿は」

 そういう忠宗の前で一気に飲み干した。で、一言。

「苦いな」

 真面目な顔でそう、呟いた。

「ぷ、くくくく……」

「どうした?」

「かーかっかっかっ! ……お、面白いでござるよ、ジオ殿。真剣な顔で苦い、なんて普通の人なら、しないでござるっ! あはははは!」

「そうなのか? では、どんな顔をするんだ?」

 相変わらずの真面目な顔で、真面目に尋ねる。

「そうでござるなー」

 少々考えてから、忠宗は答えた。

「こんな顔でござるよ」

 顔をしかめて見せた。本当に苦そうに見える。

「こうか?」

 やって見せたのは、怒った顔。

「惜しいでござるな。こう、でござる……」

 と、もう一度、手本を見せようとしたとき、

「きゃああああああああ!」

 王宮で、女性の悲鳴がこだました。

「沙夜っ!!」

 いち早くジオが反応して掛けだした。

「ま、待つでござるよ、ジオ殿~!」

 よろけながら、忠宗は後を追った。

 

 

 それは、まあ、一言で言えばどうやればこのような惨事になるのか、と聞きたくなるような有様だった。

「虫、虫、虫ですの~っ!!」

 文末の伸びはルヴィアらしいが、その言葉の一つ一つに先程聞いたおっとりさが感じられない。

「もうちょっとで捕まえれるにゃ!」

 そういって、ジャンプしてミミナはその虫を捕らえた。が、場所が悪かった。

「ねえ、そのコード持っててくれる?」

「えーまたぁ? 私、いっつもコード持ってばっかりだよう」

「ですが、その方が効率がいいです。あ、彩波さんそちらのレンチ、取って下さいませんか?」

 さり気なく、瑠璃は沙夜に痛い言葉を発していた。

「瑠璃ちゃんも酷いよ~」

 と、その時、

「退けて、退けてにゃあっ!」

 勢いに乗った猫、いやミミナを誰一人止められなかった。そのまま、作業中の三人の元に転がっていく。それにいち早く反応したのが瑠璃。

「彩波さん、このままでは、せっかく直り掛けているカリンさんの状態が悪化します」

「そうね、これは」

「進路を変更させるしかないでしょう」

 二人でそろって頷いた。この間1秒程。

「何? 何?」

 一人、状況がよく把握できていない。

「沙夜ちゃん、ごめんねえ」

 今でもはっきりと思い出される、彩波の笑顔。

「観念して下さい」

 無表情で瑠璃はさっと、沙夜の手にしていたコードを受け取った。

「いっけえ! 沙夜ちゃんボンバー!」

 彩波の意味不明な技が炸裂! 沙夜をひっつかんで、向かってくるミミナへと投げた!

「きゃああああああああ!」

 沙夜とミミナの声が響いた。

 どっかーん!

「たまやー!」

 満足げに彩波はその手でひさしを作る。

 そう、これが先程起きた有様。

 二人の最良の方法により、二人の少女はぶつかったのだ。そして、これも運が悪い。ぶつかった勢いで、コードやら余分な道具が置かれたところに行ってしまったため、二人はコードに素晴らしく絡まっていた。これもまた、ある意味、見事としか言いようがない。

「どうした、沙夜っ!」

 ばたん! と大きな音を立てて、ジオが入ってくる。

「あっちゃー。こりゃヤバイ?」

 彩波は、小姑ならぬジオを確認して苦笑した。

「私は関係ないはずです」

「あ、瑠璃ちゃん、そう言う?」

「今すぐ、助けますね」

 瑠璃はそう言って、絡まっている沙夜達の方に向かって行った。

「抜け駆けは、させないわよ! きゃああ! 沙夜ちゃん、大丈夫っ?」

 彩波も負けじと駆け寄った。

「もう、ダメかもしれなひ……」

 流石の沙夜も目を回している。

「虫、捕まえたにょほ~」

 ミミナも同じく。

 目を回す二人が無事、生還したのは、その一時間後だった。

 

 

「やっぱり、任せていられないでござるよ」

 忠宗が感想を述べた。今、ここにいるのはダイバー達だけである。邪魔をしてはいけないと、ルヴィア達は別の仕事に取りかかったようだ。

「何だぁ、忠宗君、修理が得意だったのね?」

 彩波の言葉通り、先程の時間の掛かり様を埋めるかのようなハイスピードに、皆が驚いていた。

「まあ、実家が電気用品を扱っているでござるからな。って、それにしても凄いでござるな。電子レンジよりも複雑でござるよ」

「全て直すのには無理ですが、話が出来る位は直せそうです」

 瑠璃も手伝っている。

「ここはこれでいいのか?」

 コードの確認をするジオ。

「それでいいですよ」

 瑠璃が答えた。

「やっだー! これって汚れてる? 手が黒くなっちゃったよ」

 そういって、鼻を擦った沙夜。

 と、皆の手が止まった。

「ふふふふふふ、あっははははははっ!」

 彩波が笑った。

「へ? 何? 何よ?」

 また、一人状況を把握してはいなかった。

「あ、彩波殿。し、失礼でござるよ」

 そういう忠宗も笑っている。

「だから何なの!」

 沙夜がたまらず、叫んだ。

「沙夜さん、鼻の下が黒くなっています」

 冷静に答える瑠璃。

「へ?」

 近くにあった鏡を覗いた。

「ちょ、ちょっと何これっ!」

 叫んだかと思うと、

「あはははは! 本当、髭みたいっ☆」

 沙夜も笑い出した。

「沙夜、これを使え」

 そう言って優しく、ジオは白いハンカチを差し出した。

「あ、ありがとう、ジオ」

 まだ笑いが止まらないらしい、沙夜の目に涙がにじむ。

「そういえば」

 彩波が声を出した。

「どうしたでござるか? また変なことしたでござるか?」

 忠宗の笑いはようやく収まりつつあった。

「ジオってさ、沙夜ちゃんのことだと妙に優しいよね」

「言われてみれば、そうですね」

 瑠璃も彩波の言葉に賛成した。

「なんというか、沙夜殿の前だと、その表情も柔らかくなるような、そんな感じがするでござるな?」

「何でだろう?」

「さあ、何ででしょう?」

「きっと」

 考えて、忠宗が口を開く。

「拾ってくれたのが沙夜殿、だからではござらんか?」

 うーんと三人は唸った。

 と、その時。

 ジオが笑った。

「え?」

 その台詞は誰の物だろう? ジオはその自然な笑顔を沙夜に向けていた。あらかじめインプットされたプログラムでは、再現できない自然な笑顔。それは、

「感情システム、ですか?」

 瑠璃の言葉に彩波と忠宗は頷いた。

 

 

 完成したのは、その一時間後。それでも早いほうだろう。まあ、繋がっていたはずのコードを繋げたような簡単なものしかやっていないのだから、無理もない。

 ゆっくりと、切られた電源をもう一度付けてみた。

 ウイーンという、機械が起動するお馴染みの音が聞こえる。

「大丈夫なのかにゃ?」

 心配そうにミミナはそれを見守っていた。

 その心配を余所に、カリンの瞳が開かれた。

「やったあ?」

 どきどきと沙夜も見守っている。

 カリンの瞳はもう、虚ろなものではない。しっかりと周りにいる人を一人ずつ捉えていった。

 そして、最後にジオを見る。と、微笑んだ。

「皆さん、直してくれてありがとう。お陰で、こうして皆さんにお話しすることが出来て、とても嬉しいです」

 ぐるりと見回し、もう一度微笑む。

「そして、久しぶりね、ジオ。見ない間にずいぶん外見が変わったようね?」

 そういって、また微笑むカリン。

「え?」

 ジオは自分の名を呼ばれ、複雑な表情を浮かべた。

「早速ですが、お願いがあります。言葉を教えてはくれませんか? どうも私の言葉は、彼女達には通じてないようですから」

 そういって、ルヴィアとミミナを見る。どうやら、本当にカリンの話す言葉が分かってないらしく、彼女たちもジオと同じ複雑な表情をしていた。が、突然の申し出に顔を見合わせる四人。

「ジオ、確か貴方、マシンヴォイスを話せるはずよね?」

 優しく響くアルトの声。凛と部屋に響いた。

「理解する事は出来るが、何故か話せない」

 ジオは複雑な表情のまま答えた。

「でも、何故、俺のことを知っている?」

 そのジオの言葉にカリンは眉をひそめた。

「一年前に2回ほど会ったはず。忘れたのですか?」

 カリンは確かめるように尋ねた。

「あのー、ジオね、記憶喪失なの」

 沙夜が話しに割り込む。

「記憶喪失?」

「そう、記憶喪失。ちょっと前に壊れ掛けていたのを私が助けてあげたのよ」

「まあ。では、困ったわね。このままでは彼女達とも話すことが出来ないわ。私にはこの世界の言葉が分からないのよ」

 カリンが残念そうに俯いた。

「マシンヴォイスなら、私も話せます」

 瑠璃が前に出てくる。

「貴女が?」

「私はジオさんや貴女と同じオートマータです。送るデータは言葉だけでいいんですね?」

「ええ。それじゃ、お願いするわ」

 こくりとカリンの言葉に瑠璃は頷いた。そして、それは始まる。

 まるでそれはさえずる小鳥のように

「綺麗ね」

 彩波が言った。

「初めて聞いたでござるよ」

 忠宗も彩波の言葉に同意する。

 部屋中に広がる、歌のような声。それが彼等の『マシンヴォイス』だった。と、データ転送が終わったらしい。その声は止まった。

「綺麗な歌でしたわぁ。何処の歌ですの?」

 のんびりとそれを聞いたルヴィアが口を開く。

「ミミナ、感動したにょ!」

 ミミナはその瞳をうるうるさせて、言った。

「ルヴィアにミミナ。今までありがとう。そして、これからもお世話になるでしょうけど、宜しくお願いしますわ」

 カリンがルヴィアとミミナに話し掛けた。

「か、カリン様が喋ったにゃっ!」

「これは陛下に早く知らせないと!」

 ルヴィアはカリンの世話をミミナに頼むと、すぐさま部屋を出ていった。

「もう一つ、お願いがあるんだけど。いいかしら?」

 カリンはまた、話し出した。

「ジオと二人きりにしてくれないかしら? ジオは私の弟なの。二人だけで話したいことがあるのよ」

『えええっ?』

 三人の声はまた、綺麗にハモる。

「……もしかして、姉さん?」

 ジオは静かに尋ねた。

「今頃思い出したの? 私はカリン。EL-2よ」

 その声に優しく答えた。

「本当に、姉さん? でも、俺が最後に会ったその日に、行方不明になったって……」

「そう。貴方にあったその日に私はここに運ばれた。原因は今でも分からないわ。でも一つだけ」

 そこでカリンは言葉を区切る。

「私は体ごと運ばれたけど、貴方達は違うようね? 精神体かしら?」

「ああ、恐らく」

 ジオがカリンの言葉に頷いた。

「じゃ、私達は一足先に部屋に戻っているね。積もる話に花を咲かせてね?」

 沙夜がそう切り出した。

「……分かった」

 ジオはどこか悲しげに見えた。

 

 

「全く、驚いたでござるよ」

 忠宗は腕を頭で組むと、そう、口にした。

「そうねー、ここにいるカリン様が、ジオのお姉さんだったなんてね、あたしも驚いたわ」

 忠宗の言葉に、彩波は頷いた。

「あそこを曲がれば、私達の部屋です」

 少し先の曲がり角を手で合図しながら、瑠璃は言った。

 と、沙夜が後ろを振り向いた。

「気になるの? ジオのこと」

 彩波はにんまりと沙夜に笑い掛ける。

「ちょっとね、カリンさんと何を話しているのかなって」

 ここにはジオはいない。カリンと少し話がしたいと、一人だけ部屋に残ったのだ。そして、彼は未だ追いついてきてはいなかった。

「それにしても、ここは迷宮の様でござるなあ、瑠璃殿やジオ殿がいなければ、すぐ迷子でござるよ」

 苦笑しつつ、忠宗は瑠璃の後をついていく。先頭は瑠璃が歩いている。次に忠宗、彩波、沙夜の順に歩いていた。その様子はまるでゲームの世界のようである。

「そうそう、あたしなんて何度迷子になりかけたか」

「彩波ちゃんの場合、迷子になりかけた、じゃなくってなってたじゃない☆」

 にんまりと彩波の後ろで笑った。先程のリベンジか?

「ち、違うわよ! そりゃ、瑠璃ちゃんには来て貰ったけど、一人でもちゃんと帰られるもの!」

 むきになっている。

「ふうん。だったら、もう一度カリンさんとこ行って、戻ってこられるか試してみよっか☆」

「望むところよ!」

 と、彩波が意気込んだとき、

「あっ」

 曲がり角に入った瑠璃が小さな悲鳴を上げた。曲がり角に入っていったので、ここからでは何が起きているのか分からない。沙夜達はすぐさま、駆けだした。

「瑠璃ちゃん!」

「瑠璃殿!」

 そこでは、瑠璃とある青年が倒れていた。どうやらぶつかったらしい。しかも瑠璃が青年を押しつぶすような格好となっている。三人は血の気が引いた。何故なら、オートマータは200キログラムの重さがあるのだ。

「大丈夫ですか?」

 沙夜達よりもいち早く、青年は起き上がり、瑠璃を軽々と持ち上げながら立たせた。

「はい、体の異常は見られません。貴方も何処か怪我をしていませんか?」

 呑気に瑠璃は青年を心配していた。

「いいえ、僕も怪我はないです。それにしても、君はとても軽いんですね……」

 苦笑しながら、青年は瑠璃に答えた。

「軽いの?」

 小さく彩波が囁く。

「そんなことはないと思うけど……」

 沙夜は考える様に腕を組んだ。

「ああ! 分かったでござるよ!」

 大きな声で忠宗が叫んだ。

「思い出してみて欲しいでござるよ。ここに辿り着いた時を」

「辿り着いたとき? 何かブラックホールみたいなのに飲み込まれたこと?」

「彩波殿、違うでござるよ……。このシュトゥットガルドに辿り着いたとき、拙者は皆の下敷きになったでござらんか。考えても見れば、その時、200キロ以上の重さがかかったにも関わらずに、拙者は外見こそは紙のようになりはしたものの、平気であったでござるよ。ということは……」

「無重力ねっ!」

「沙夜殿……、それも違うでござる。無重力なら、拙者達はふわふわと浮いてるでござるよ? 無重力とまでは行かなくても、実際の体重は十分の一程度しか無いように感じるのでござるよ」

「……あんたって、只の時代劇マニアじゃなかったのね」

「彩波殿、それは酷いでござるよう」

 忠宗は涙を滝のように流した。ここに竹の筒がさえあれば、流しそうめんが出来るだろう。

「あの、そろそろ行きませんか?」

 瑠璃は青年に礼を告げてから、こそこそと話す沙夜達に向かって言った。

「そうだね、早くもどろっか」

 沙夜の声に彼等は頷いた。


 

 晃は溟海学園図書館の裏の草原に横になって、空を見上げていた。

「逃げている、のでしょうか。私は……」

 その横を聖流が横切る。どうやら晃には気付いていないらしい。

「聖流さん」

 いつの間にか晃は聖流を呼び止めていた。ふと彼女の足が止まる。

「あ、晃先輩?」

 やや緊張した顔で晃を振り返った。晃は聖流に駆け寄った。

「その、聖流さん。この前は、すみませんでした」

 今回のブラックホールの件で、晃はダイバー達よりも図書館の状況とブラックホールの解析に力を向けた。それによって、聖流を怒らせてしまい、ビンタを貰ってしまった。そのことを言っているようだ。

「何で……何で先輩が謝るんですか? それに、それは私の台詞です。冷静さを無くして、先輩を叩いちゃったんですもの。後から考えれば、先輩のやったことの方が正しいじゃないですか? ……ごめんなさい、晃先輩」

 聖流も謝った。

 と、お互い、笑みが零れる。

「とにかく、早く沙夜達が戻れるようにお互い、頑張らないと行けませんよね?」

「そうですね。事件当日は専用のプログラムが出来ていなかったために、充分な調査が出来ませんでしたから」

 聖流はその晃の声に頷いた。

「はい。……それにしても、私もダイバーだったら良かったのにと悔しい思いです。先輩もそうでしょう?」

「え、ええ。まあ」

「ダイバーだったら、私、いち早く沙夜達の元に駆けつけるつもりです。そして、空谷村に帰ってきて早く、ダイバーさん達の家族を安心させたいんです」

「そう、ですね……」

「そうしたら、またいつものように業務に戻れますし」

「……ええ」

「溜まっているんですよね。仕事」

「……でも、もしダイバーならブラックホールに入らなくてはいけませんよ? 怖く、ないんですか? ブラックホールに入るのは」

 晃の声に、聖流は苦笑する。

「怖くないと言えば、嘘になります。でも、私の親友を助けることが出来るなら、私は行きます。だって、自分の手で助けることが出来るんですもの。今のようにじっと待つよりもはるかにいいです!」

 聖流はそう、強く言った。

「強いんですね」

「違いますよ。ちょっと楽観的なんです。たぶん」

 また、聖流が笑う。

「そろそろ行かなきゃ。仕事が溜まっちゃう」

「あ、呼び止めてすみません。急いでいたのに」

「いいえ。……でも嬉しいです」

「?」

「こうして話が出来たこと。このまま嫌な雰囲気のまま続くのはちょっと嫌だから」

「聖流さん……」

「それじゃ、もう行きますね。晃先輩も頑張って下さいね」

 そう言って、聖流は駆けだした。

「自分の手で助けることが出来る……ですか」

 もう一度、晃は空を見上げた。空は雲一つない澄み切った蒼い色だった。

 

 

「出来ましたわ!」

 高らかに桂花は、その出来立てのプログラムの入っているディスクを天高く翳していた。

「こっちもやっと終わったわ」

 レイカもやっとコンピュータから目を離す。

「やっと出来たんだね!」

 春斗は差し入れのコーヒーとサンドイッチを彼女達に渡す。

「これを食べたら早速、プログラムを使ってみるわね」

 レイカは受け取ったサンドイッチを口に運んだ。

「あら、おいしい」

「ありがとうございます。レイカさん」

 春斗が嬉しそうに応える。

「本当においしいです。沙夜さんにも食べさせてあげたいくらいですわ」

 うっとりと遠くを見つめる桂花。

「うん、今度皆が帰ってきたら、沢山作ってきてあげるよ!」

 春斗は心の底から喜んだ。

 ボクの作ったサンドイッチを喜んで貰えた!

 それは、春斗を喜ばすのに充分な言葉だった。こんな自分でも人に役に立てることを理解するには。

 と、扉が開いた。

「どう? 調子は?」

 聖流が入って来る。

「AIプログラムも、レイカさんのプログラムも完璧です!」

 口にしていたサンドイッチが飛び出るかと言うほどの剣幕で、桂花はプログラムの完成を告げた。

 その後、また扉が開いた。

「どうですか? プログラムの方は」

 晃だ。その晃の台詞に皆は笑い出した。

「あはははは! 聖流ちゃんと同じ台詞だよ?」

 春斗は声を出して笑っている。

「本当です。ちょっと違いますけど、大体は同じですわ」

 桂花もくくくと笑っていた。

「そうね、似たもの同士、かしら?」

 レイカはからかってみた。

「ちょっと、レイカさんっ!」

 聖流が赤くなりながら叫んだ。

「そうですよ、もう。皆でいじめるんですから」

 晃はそう言って、春斗の持っているサンドイッチに目を奪われた。

「これ、貰ってもいいですか?」

 サンドイッチを指して、晃は尋ねる。

「どうぞ。コーヒーもいります?」

 春斗はサンドイッチを晃に差し出した。

「おいしいですね」

 晃の微笑みに、また春斗は喜んだ。

 

 

「さて、始めるわよ」

 レイカのかけ声に桂花は頷いた。春斗と晃、そして聖流はその後ろで見守っていた。

「はい」

「では、起動!」

 レイカのコンピュータに入っているディスクを起動させる。いくつかのウインドウが画面に現れては消え、現れては消えを繰り返す。そして、ブラックホールの出来た地点にプログラムが到着するその時、

 ぱきん!

 何かが割れるような、そんな音がコンピュータから流れた。

「何?」

 レイカはいち早くプログラムの状態を確かめた。

 画面には一言。

 LOST。

 どうやら、何者かに壊されたようだ。その言葉と共にプログラムが破壊された事を告げるウインドウが現れていた。

「ちょっと、私達を邪魔しようとしているの? 冗談じゃないわ!」

 レイカは悔しそうに机を叩いた。

「次は私が行きますわ! 十六夜(いざよい)さん、スタート!」

 十六夜とは桂花の作ったプログラムの呼び名だ。十六夜は女性の形をしたコンピュータグラフィックを持つ、AIプログラム。人と同じとまでは行かないが、それでもサイバーネットでは充分に活躍できる人型プログラムだった。それに、どこか沙夜に似ていた。髪型や服装は全く別人なのだが。

「頑張って下さい、十六夜さん!」

 十六夜もブラックホールに到着した。が、その瞬間動きが止まった。

「え? 十六夜さん。どうかしたんですか? 十六夜さん!」

 何度も彼女に語りかけるが、反応がない。もう、てこでも動かない。

「どうやら、桂花ちゃんも失敗のようね……」

 レイカは静かに告げた。

「そんな! じゃ、沙夜さん達はどうなるんですか? 助けられずに終わりなんて、私は嫌ですっ!」

 桂花がたまらず叫び、泣き出した。

「やっぱり、ボク達じゃ何にも出来ないの?」

 悲しそうに春斗が言った。

「何だか、悔しいわ。もう、終わりね……」

 同じく聖流も涙を浮かべて呟いた。

「まだ、終わっていません」

 晃は言った。

「まだ一つだけ、方法が残っています」

「晃先輩?」

 聖流はその顔を上げた。

「私が……私がダイブします」

 晃の口から告げられたのは、意外な事実だった。

 

 

 二人のオートマータがそこにいた。

 一人は女性。カリン。

 もう一人は男性。ジオ。

「こうして話すのも、何カ月ぶりかしら?」

 カリンは話し出した。

「まだ、信じられない。貴女が俺の姉さんだって事が」

 ジオの声にカリンは笑った。

「やっぱり、まだ思い出せないのね? 正直言って本当は私も混乱しているわ」

「じゃあ、何故?」

 ジオが尋ねる。

「貴方に言いたいことがあったの。貴方、沙夜さんのこと好きね?」

「……好き?」

「そう、好き」

「……分からない」

「言葉の意味が? それとも、貴方の心が?」

「……両方だ」

 くすりとカリンは笑った。

「それでもいいわ。でも、忘れないで」

 カリンは笑みを止め、真剣な眼差しをジオに向ける。

「私達は人を愛してはいけないわ。身を破滅へと導いてしまう。本来の私達の存在が崩れてしまうのよ」

「好きとか愛することとか俺には分からない。でもこれだけは言える」

 カリンを見据え、今度はジオが笑った。

「俺は沙夜のためなら、死んでも構わない」

「わかったわ」

 ジオの言葉に頷くように

「それでも貴方は、私と同じ、茨の道をいくのね?」

 カリンの声にジオは頷いた。

「あの子を泣かせないようにね」

 最後は優しく語りかけた。

「そして、貴方も生きなさい。そして我々に見せてちょうだい。貴方の可能性を。……話はこれだけよ。もう戻りなさい。あの子が待っているわ」

「姉さん」

 ジオがカリンを呼んだ。

「ありがとう」

 沙夜に向けて笑った時と同じ微笑みで、

 笑った。

 と、突然、その扉が開く。

「ダメにゃ! 入っちゃだめにゃっ!」

 ミミナが入ってくる黒騎士を止めていた。が、上手くいかない。黒騎士の後ろにはルヴィアと同じ耳をした軍服姿の青年も入ってきた。

「あなたに聞きたい。ここにある飛空艇の場所を」

 黒騎士がカリンに尋ねた。その手にしているのは赤く染まった剣。ぽたりと、赤い血が落ちた。

「まずは自分の名を名乗るのが、礼儀ではありませんか?」

 カリンは落ち着いた表情で騎士に問う。

「私はこの国の軍人、エルンスト・マイヤーだ」

「私はこの国の巫女の代理を務めています、カリンと申します」

 二人は丁寧に挨拶を交わした。

「もう一度聞きたい。飛空艇はどこにある? 多くの人々を避難させるのに時間がないのだ」

「その前に聞きたいことがあります。その剣の血は誰の者ですか?」

「この世界で最も強い力を持っていた男のものだ」

「そうですか。ビルは……死にましたか」

 そう言う、カリンの顔は無表情だった。

「分かりました。お教えしましょう。飛空艇の在処を」

 騎士の後ろにいた青年も、前に出てくる。騎士とカリンの様子をじっとジオは見守っていた。

「飛空艇はここです。ここが飛空艇の一室。そして、動かすには私の力が必要です」

 それは、とてつもない事実。カリンと同化していたイスは飛空艇の操縦席の一つだったのだ。

「動かせるのか?」

 やっと、騎士の口が開く。

「ええ。ですが、一つ条件があります」

「条件? それは一体……」

 青年は事実に驚きながらも尋ねた。

「弟を……いえ、この者達をシュパイエルへ運びたいのです」

 そう言って、カリンは無言でジオを見つめた。

「人々を避難させた後でもかまいません。その条件を飲むとあらば、後はあなたの言う通りにしましょう」

「考えるほどでもないな」

 その言葉に騎士は即座に答えた。

「今、最も大事な事はみなの命を守ることだ。避難させてくれるというのなら、何でもしよう」

 出発したのは、その30分後だった。

 

 

 彼は久しぶりのラインを踏みしめた。ここはサイバーネット。そして、彼はダイバーである、晃。晃の擬態は冷たい氷の甲冑に身を包んだ騎士の姿だった。

「久しぶりだな。ネットは」

 苦笑しながら、辺りを見回す。ネットの中では晃の口調が冷たい響きに変わる。

「さて、目的地へと行くか?」

 晃は一人、あのブラックホールの現れた場所へ高速移動した。流れる様なライン、そして、天井からぶら下がっている建物。その全てが何一つ変わっていないように感じられた。

「あの時から、何も変わっていないな。ここは」

 もうすぐ目的地にたどり着く。

「変わったのは、俺か……」

 ぴたりと、その足を止めた。

 そこにあるのは小さな歪み。ぱちりと小さな稲妻が散る。

「おや、先客がいるようだ」

 やや押さえた女性の声。晃が振り向くと、そこにはアメジストの輝きを持つ髪の女性が立っていた。体にぴったりとしたメタリックのライダースーツを着ている。

「そのようですね」

 その女性の後ろには黒いスーツを着た黒髪の青年もいた。

「貴様、何者だ?」

 何もない空間から人振りの剣が現れる。

 氷の剣。

 晃の身を包む甲冑と同じ冷たさを持つ、氷の刃。それが晃の武器だった。

「私の名はコウメイ。……面白い、私とやり合うつもりか?」

 女性は冷笑した。

「勝つのは目に見えているが。……なるほど、溟海学園図書館のダイバーか。まだいたとはな」

「!!」

 一瞬で読まれた。晃は少々焦りながら、でも落ち着いた表情で相手を睨む。

 相手は手強い。

 そんな思いが晃を包み出す。

 と、そんな緊迫した空気を消す者がいた。

「あら、さっきも変なプログラムが来たって言うのに。今度は人?」

 影だ。ゆらゆらと、まるで晃達をあざ笑うかのように揺らめいている。その声はどうやら女性。

「ふふふ。心配しなくても、あの子達は自分で戻ってくるわ。それじゃないと鍵の意味がないもの」

「鍵だって?」

 黒髪の青年が影に言う。

「あなたには意味は無いわよ? だから、あなたたちは帰りなさい。それとも」

 影の口が三日月にゆがんだ。

「ここで死にたいの?」

 影の声に暫く沈黙していたが

「わかった、彼等は戻ってくるのだな?」

 ライダースーツの女性は影に向かって言った。

「あら、いい子ね。素直な子は私、好きよ?」

 そう言って、影はその女性の耳元で囁いたようだった。が、晃の耳には届かない。急に女性の顔が凍り付く。

「戻るぞ」

 短く、彼女は告げた。その声は、震えているように感じる。二人のダイバーはその場を去った。

「あなたはどうするの? しつこい男は」

 また、にたりと影が笑った。

「大嫌い」

 ぞくりと晃の背中に悪寒が走る。本能的に彼は分かり始めていた。

 先程のダイバーよりもヤバイ相手だ。

「ちゃんと戻って来るんだな?」

 晃はもう一度、影に問う。

「そう。しつこいのは嫌いよ? 同じ質問はもう止めて」

 影の笑いが止まった。

「分かった。では俺も行こう。だが彼等が戻らないなら」

 きっと影を睨み付けた。

「何?」

「貴様を倒して、ブラックホールを開ける。いいな」

「いいわ。でもそれって」

 無理よ?

 最後の言葉は直接脳に響いた。

「!」

 晃は本能的に素早くその場を去った。

「面白い男。私を楽しませてくれるのかしら?」

 また、影は再び笑った。

 

 

「本当にいると思う? こんな所に」

 彩波が皆に尋ねた。ここはシュパイエルという国の王宮の中。カリンと分かれて、ぞろぞろとダイバー達は歩いてあの、ハッカー達を探していた。

「探してみないと分からないでござるよ? それに拙者が思うに、もう一度あの攻撃技を行えば、ブラックホールが現れ、元の世界へと戻れる、そんな気がするでござるよ」

 忠宗がそれに応える。

「でも、ここもシュトゥットガルドと同様に迷宮のようです」

 瑠璃の言葉に二人は頷いた。

「それはごもっともな意見で」

「また、迷子になりそうでござるよ」

 と、前方を歩いていた沙夜の足が止まった。

「パパ? ママ?」

 呟くように聞こえる沙夜の声。

「え? 沙夜ちゃんのお父さんとお母さん?」

 後ろの三人は顔を見合わせた。

 と、同時に沙夜は駆けだした。

「沙夜!」

 呼び止めるジオの手を払いつつ、彼女はその二人づれのカップル元へと駆け寄っていった。

「パパ! ママ!」

 沙夜の声にそのカップルは振り向いた。

 違う。

 沙夜の心に声が響いた。

「ねえ、こんな子、知ってる? パパ、ママ、何て言ってるけど?」

 女性が言う。

「さあ? 知らないよ? 俺」

 男性もそう言った。

「ねえ、あなた」

 誰?

 

 沙夜の心に言葉が入り込んでいく。そして、生み出される過去の言葉。

『ねえ、何でこの子だけ何ともないの?』

 私だって、好きでここにいるんじゃない。

『きっと遺産目当てなのよ』

 違う。

『あの子が私達は必要としていた。でも、残ったのはこの子』

 何? 何が言いたいの?

『沙夜とかいう子は、うちではいらないわ』

 どうして?

『だって』

 ……。

『あの男の血を引いているもの』

 だから?

『いらないわ!』

 

 ぱきりと沙夜の中で何かが割れた。

「いやあああああああああああああああ!」

 沙夜の悲痛な叫び。

 彩波も、忠宗も、瑠璃も、もちろんジオも沙夜に駆け寄る。

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやあ!」

「沙夜殿! しっかりするでござる!」

 忠宗が沙夜を揺さぶる。

「障らないで障らないで障らないで障らないで障らないで障らないで!」

 忠宗を振り払った。

「ちょっと沙夜ちゃん? どうしたの?」

 彩波がもう一度、忠宗と同じように揺すぶった。

「知らない知らない知らない知らない知らない知らない!」

 彩波をも振り払う。

「沙夜さん。心拍数が異常に乱れています。落ちついて下さい!」

 瑠璃も負けじと強く揺すった。

「どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!」

 それでも適わない。

 と、そこで急に静かになった。沙夜の瞳から、止めどなく涙が溢れている。そして、瞳には何も映っていない。

「私なんて、いらないの」

 ぽつりと、やっと言葉を吐き出すように。

「いらないの」

 ぼんやりとある一点を見ている。その先は何もない。

「だから」

 いつの間にか沙夜の手に、ナイフが握られていた。

「消えるの」

 アームバンドもいつの間にか消えている。そこから見える手首には、何度も切りつけた傷跡。

 そっとナイフを手首に押し当てようとした。

「止めろ! 沙夜!」

 ジオはそのナイフを叩いて落とした。そこで初めて気付いた。沙夜の体が薄く透けている。

「沙夜! 目を覚ませ!」

 再び揺するが効果がない。

「私は、いらない」

 まだ、言っている。

 かちり。

 また、ジオの中で音がした。

「いい加減に目を覚ませっ! どれだけ迷惑を掛ければ気が済むんだっ<」

ばしんっ!

 ジオは沙夜の頬を叩いていた。

「……ジオ?」

 うっすらと目を開ける沙夜。

「俺はっ!」

 その顔は本気で怒っていた。

「そんな沙夜は嫌いだ!」

 その台詞に沙夜は微笑んだ。

「沙夜ちゃん?」

 彩波が声を掛ける。

 と、同時にかくりと、沙夜の力が抜けた。

 これが沙夜にとって初めて、他人に見せたものだった。

 

 

 その後、やっと落ち着いた沙夜を連れて、あのハッカーを見つけ出すことに成功した。ハッカーは二人。一人は背が高めで金髪のやや逞しい青年。もう一人は女性。両耳は機械になっている。オートマータのようだ。

 今は人気のない場所で彼等は集まっていた。

「本当に戻れるのか?」

 ハッカーの男性はじろりと忠宗を見る。

「やってみなくては、分からないでござるよ?」

 負けじと見返す忠宗。その顔には汗が見えた。

「分かった。では始めるか」

 そう言ってハッカーの二人づれは擬態を開始する。たちまち、いつもの見慣れた黒のスーツ姿と深紅の獣になった。

 それを見て、ダイバー達も擬態を始めた。黒いコウモリのような翼を持つ女性。過去の新撰組を思わせる武士。瑠璃は相変わらずだ。沙夜は腕にアームギアが付けられ、ゴーグルが顔を覆う。

 そして、最後の一人。ジオは空高く飛び上がり、蒼い光と共に大きな翼を持つ、一羽の鳥になった。ゆっくりと沙夜の腕に降り立つ。

「準備はいいな?」

 ダイバー達は、ハッカーの言葉に頷いた。

「始めましょう」

 瑠璃のかけ声で、それは始まった。

「グライドっ!」

 ハッカーの声と共に獣は赤い炎に包まれた。

「ジオ、GO!」

 沙夜の声に応えるかのようにジオも蒼い炎を身に纏う。 彼等の作戦はこうだ。

 もう一度あの原因になった攻撃を再現する。そうすればまた、あのブラックホールが現れて、元に戻れるのではないか? そんな忠宗の提案を実行する事にした。

 弾ける炎。巨大なエネルギーが火花を散らす。

 そして、再び現れる未知の空間。前回は暗闇のような暗い空間だったが、今回は純白を思わせる白の空間。

それを確認した瞬間、彼等はまた、そのホワイトホールに飲み込まれた。

 

 

「う、うーん」

 そこはいつものラインと建物が並ぶ世界、サイバーネット。

「はっ! 戻って来れた?」

 彩波が周りを見渡して、声を出す。どうやら、あのハッカー達はいないようだ。

「ここは、サイバーネットでござるか?」

 忠宗も起きてきた。

「そのようです」

 瑠璃も起きる。

「や、やったね☆」

 沙夜は嬉しそうに微笑んだ。と、何かが近づいてくるようだ。

「皆、大丈夫か?」

 男性の声が。

「へ?」

 その氷のような甲冑を身に纏う騎士は、彼等をどこかで知っているようだ。

「あなたは、誰ですか?」

 瑠璃が尋ねた。

「俺は、晃だ」

『ええええっ?』

 また、綺麗にハモった。こうなったら、ウィーン合唱団に入るのも良いかも知れない?

 そうして、彼等は戻ってきた。元の世界、『空谷村』へ。

 

 

 いつもの青空。のどかな日差し。いつもと変わらぬ日常。それを彼等は満喫していた。

「いやー、一時はどうなるかと思ったでござるよ」

 忠宗が一番始めに声を出した。異世界から戻ってきて、一週間が経っていた。

「そうそう。それに……まさかライズしたら、弟がいるなんて驚いちゃったわよ」

 苦笑しながら、彩波は言う。

「私も、まさかご主人様がいるとは思いませんでした」

 頷きながら、瑠璃も応える。

「拙者の方は、一家勢揃いだったでござるよ?」

 忠宗は苦笑した。

「いいじゃない、一家勢揃いも。私の所は、両親はもう、いないから……家族は弟だけよ」

 ぽつりと彩波は言った。

「そういえば、沙夜殿。あれからあまり笑わなくなったでござるな」

「そうねえ」

 忠宗の言葉に彩波は頷いた。

「あたし、じめじめしたの、嫌なのよ。なんかいい方法ないかしら?」

「腹芸というのは、いかがでしょうか?」

 瑠璃の突然の提案。

「瑠璃ちゃん、それ、どこから仕入れてきたの?」

 真剣な眼差しで、彩波が尋ねた。

「何か悪いことでも?」

「いや、まさか、瑠璃殿の口からそのような言葉を聞くとは、思わなかったでござるから」

 汗を滴らせつつ、忠宗は苦笑した。

「何を話してるんですか?」

 後ろから聖流が現れた。

「聖流ちゃん?」

 彩波達は振り向いた。

「あ、そうそう」

 ぽんと聖流は手を打った。

「皆さん、メロン好きですか?」

『はあ?』

 いやー、そろそろレベルアップか? 綺麗なハモりだ。三人の声は実に綺麗に揃っていた。

「今度、メロン狩りするんです」

 にっこりと聖流は笑う。

「メロン、食べ放題ですよ? 沙夜達もこれから誘おうと思うんですよ。いかがですか?」

 三人は聖流のその声に、顔を見合わせた。

 

 

 ●次回GP

軌跡K1 メロン狩り!

軌跡K2 ハッカー阻止のために

軌跡K3 ジオに何かを教える パート3

軌跡K4 あなたに関わりたい……

軌跡K5 これを調べたい!

軌跡K6 我が道を行くんだっ!

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