軌跡 第3話 FESTIVAL
0
全てを貫き
全てを焼いて
それが あたしの見つけた役目
全ての煌めき
全ての過去
知らないなんていわせない
あたしは 死神女王!
それは街を彩る夜景のような
夢のような楽園の場所
待ってるだけじゃ 捕まらない
探して 追うのよ
それが あたしのやり方
傷つくときもあるけれど
恋という名のウイルスに
犯されるときもあるけれど
あたしが全て癒してあげる
聞こえる? 彼の足音を
感じる? 彼の気配を
あたしの鼓動が聞こえるかしら?
死の淵へ誘う セレナーデ
囁いて 導いてあげるわ
あたしの この『デス・ブリンガー』で!
全てを貫き
全てを焼いて
もう 決めたのだから
全ての煌めき
全ての過去
迷うなんて 言葉はないの
ただ あたしの道を駆け抜けるだけ
1
かちりと、最後の目覚ましが起動した。
『わーんが、ちゅーっと、にゃっとな……』
暫く、目覚ましのフルヴォイスが部屋に響き渡る。
もぞもぞと布団から手が伸び、それを止めた。
また寝ようとしたが、むくりと起き上がる。
「……今、何時?」
先程鳴った目覚ましを持ち上げた。時計の針は11時を指している。
「あ、また昼じゃない」
手にしていた目覚ましをベッドの脇に戻す。他にも目覚ましが5、6個並んでいるようだ。
「起きろ、あたし」
ぱんと自分の頬を叩くと、彼女は自分の寝室の扉を開けた。
これが、由比藤彩波の朝。いや、昼というべきか? 彩波はリビングに来ると、テーブルに置かれた置き手紙を発見した。
「綺沙羅も毎日ご苦労。って、何で昼に起きるって書いてあるのよ! 朝に起きるかも知れないのに」
綺沙羅とは、彩波の弟のことだ。
手紙を見終えた彩波は、リモコンでテレビを付ける。
『今朝、ダカーポ商事の社長、ハイハット氏が急病のためお亡くなりになられた……』
レンジの中に、グラタンが入っているのを確認してから、彩波はスイッチを入れる。
その間に洗面所へ行き、顔を洗い、タオルを手にリビングに戻ってきた。
『どんなバグでも、どんなウイルスでも。これがあれば大丈夫! バグ・クリーンとウイルス・クリーンがあれば、もう安心です!』
テレビでは女性がフロッピーを持って、力説する姿が映し出されていた。
ぴぴぴぴぴ!
と、レンジから暖め終えたことを告げる、音が鳴った。
「まずはご飯よね?」
彩波はキッチンに入って行った。ちょっと遅い、朝食を済ますために。
2
ここは溟海学園の図書館。城前寺晃はのどかな日の光を浴びながら、廊下を歩いていた。
「あら、晃じゃない? 今日は早いのね?」
金髪に大きな眼鏡が印象的な女性、翡咲ティナが彼に声を掛けた。
「おはようございます、ティナさん。今日はちょっと、準備がありまして」
苦笑して、手に持っていたものを開けた。
「ノートタイプのコンピュータね」
「ええ」
ティナの言葉に晃は頷いた。
「ああ、そうでした。あの、新型のポッドの件ですが、どうなりました?」
晃はティナに以前、頼んでいたことを尋ねた。
「ああそれね、ちょっと時間がかかりそうだけど、なんとかなりそうよ?」
「本当ですか? それは良かった」
ティナの言葉に笑みが零れる晃。
「それと、ウイルスの件ですが、対策はどうなってるんです?」
「それは……」
ティナがその晃の質問に答えようとしたとき、
「あら、晃さん。おはよう」
ティナの後ろから、女性の声が。
「お待ちしておりましたわ。麗華・ハーティリー博士」
「やだ、レイカでいいって前に言いませんでした? ティナさん」
どうやら、二人は知っているらしい。ティナの後ろから現れた女性。それは麗華・ハーティリーだった。
「どうして、レイカさんが?」
「図書館のコンピュータがウイルスに感染したので、ウイルス対策に協力して欲しいって、ティナさんから依頼されたのよ」
レイカは微笑みながら答えた。
「そうだったんですか」
晃は驚きを隠せないようだ。
「あ、私、準備があるのでこれで失礼しますね」
思い出したかのように晃は、レイカ達に頭を下げる。
「仕事が終わったら、話を聞かせて。ウイルス対策の参考にしたいの」
レイカの声に、
「分かりました。では、また後ほど」
頷いて、晃は地下のコンピュータ室へと歩き出した。相変わらず、のどかな日の光。外では小鳥の群が羽ばたいていた。
3
「メンバーは揃ったわね?」
と、彩波が揃った皆を確認する。ここは図書館の地下にあるコンピュータ室。そこには彩波の他に晃、天川瑠璃、九条忠宗が揃っている。そう、一人足りない。
「また、ですね」
ぽつりと瑠璃が呟く。
「また、でござるなぁ」
汗マークを付けながら、忠宗もそれに同意した。
「全く、あの子は何をしているのよ! それに言い出したのはあの子なのに!」
怒りのマークを何個も浮かべて、ぷりぷりと彩波は怒っていた。
「ごっめ~ん☆ 寝坊しちゃったぁ☆」
と、ばたばたと入ってくる、雪水沙夜。ばたばたと動くたび、リボンとポニーテールが揺れる。
「あのねー、分かってる?」
ずずいっと彩波が沙夜に詰め寄る。
「あああ! それよりも早く始めませんか? 早くウイルスを撃退しないと、いつまで経っても図書館は閉鎖のままです」
晃がそれをなだめた。
「分かったわよ……」
「それじゃ、今回の作戦の確認をします」
晃がコンピュータを手に話し始めた。
「まずはウイルスの形状を確認し、どのような障害をもたらすのか把握した後、殲滅にかかります」
コンピュータに映し出された映像を見せながら、晃は全員に確認を取る。その言葉に、皆は頷いてみせた。
「そこで殲滅のために、私はこれを用意しました」
そう言って、前に出てきた瑠璃の取り出すものは、4枚のフロッピーディスク。
「それ! 『ウイルス・クリーン』じゃない! 確か、新発売だって朝のテレビでCMしてたわ」
興奮しながら、彩波が叫んだ。
「そうなの? 私、そんなの出てるなんて知らなかった」
沙夜はちょっと悔しそうにしている。
「もしもの為に購入していたんです」
沙夜の言葉に反応して、答えを返す瑠璃。
「そうそう、今回は私もナビゲーションハッキングの要領で皆さんをサポートします」
「確か、サポートコンピュータもウイルスに感染しているのではなかったでござるか?」
忠宗の言葉に多少苦笑しながら、晃は答えた。
「ええ。ですが、一人でただ、見ているだけなんて出来ません。感染を防ぐ為の処置が施してある、このコンピュータで皆さんの力になれれば、と思いまして。ウイルスをいち早く解析出来れば、それだけで充分ですよ」
「それじゃ、行くわよ。皆!」
沙夜が力強くかけ声を掛ける。
「任せて」
「頑張るでござるよ!」
「たかがウイルス、私の敵ではありません」
「無理しないよう、充分気を付けて」
最後に晃が念を押し、彼等はいざ、図書館のネットシステムにダイブを始めた。
「翼を広げる、鳥になりたい♪」
沙夜はハミングしながら、ポッドを起動させる。
「遠くにいる、あなたの側に♪」
ゴーグルの中で、滝のように流れる英語の言葉を目にする。
「もっと近くに、あなたの側へ♪」
それはサイバーネットに入る為の、儀式のように。
「それなら、何時でも会えるから♪」
『準備完了』の言葉が沙夜に告げられるとき。
「だから私は、大空を行く鳥になりたい♪」
お
ち
て
い
く
彼等、ダイバー達が降り立った場所は、どこかの迷宮のような建物の中。
「ちょっとぉ! これって、ただの掃除機じゃない!」
彩波は手にしている掃除機を振り回しながら、叫び始めた。
「『ウイルス・クリーン』は掃除機なんですね」
ピンクの可愛い掃除機を構えて、瑠璃はそれを興味深く眺めていた。
「おもしろーい! これでウイルスを吸い取るのかな?」
はしゃいでいるのは沙夜。ういーんとスイッチを入れたり、切ったりと遊んでいる。
「拙者の格好に合わないでござるよぅ」
涙ながら、訴える忠宗。
『ちりとりと箒の方が似合いそうですね?』
晃の声が響いた。がっくりと肩を落とす忠宗をよそに彩波が晃に尋ねる。
「晃さん、そっちはどうなの? 大丈夫?」
『ええ、今のところは平気のようです。今の内にウイルスを探しましょう』
「OK!」
と、皆が頷いたとき、何かが目の前を横切った。
「なに?」
「分かりません、とにかくスピードが速いですね」
彩波の言葉に瑠璃が答えた。
「先に行くよ!」
ぱたぱたと沙夜が走り出した。
「ちょっと待つでござるよ」
忠宗の言葉を合図に、彼等は走り出した。
「か~わいい~☆」
沙夜が目をきらきらさせながら、掃除機を握りしめる。
『どうやら、それがウイルスのようですね』
「これが?」
彩波の指さすその先にあるのは、一体の生物、のようなもの。
「悪魔のような羽としっぽを持っているようです」
瑠璃が分析を始める。
「それにふわふわしてるでござる」
忠宗は拍子抜けした表情で、ウイルスと対峙している。分析の結果、ウイルスは……白くぬいぐるみのような毛皮を持ち、その毛皮に埋もれるかのように二個の瞳を持ち、悪魔のような、でも小さい羽としっぽを持っている。そう、まるでどこかのマスコットを思わせる、可愛い生物の形を取っていた。
『これからそちらに、サンプルのデータファイルを転送します。ウイルスがどう、反応するのか確認をお願いします』
「わかったでござるよ」
晃の言葉に忠宗は頷いて見せた。
と、何もない場所から半透明の青いプレートが現れた。ウイルスはそれにいち早く反応し、しっぽでプレートを引っ掻いた。
『ばーか』
プレートは一面、その言葉に埋め尽くされる。
「何あれ! あたし達をからかってるの?」
「そのようです」
マスコットのウイルスは壁やら、廊下やら落書きをしまくっている。
「おりゃああああ!」
気合いと共に、掃除機のパワーを最大にしてマスコットを吸い取るのに成功した。
「すごーい! 彩波ちゃん」
「沙夜ちゃん。その、ちゃん付けはやめてくれる?」
「手際はとてもよかったですよ」
瑠璃も声を掛ける。
「あ、彩波……殿……」
忠宗の声が震えている。
「一体、どうしたって……何これっ<」
忠宗が指さす先にあるのは、数え切れないウイルスの大群。
「とにかく、吸って吸って、吸いまくるのよっ!」
彩波の言葉が合図となって、彼等は仕事を開始した。
「全く、切りがないですね」
現実世界でサポートしている晃は、コンピュータでウイルスの特定に掛かっていた。
一つのウインドウでは、沙夜達の奮闘が見られる。もう一つのウインドウでは、ウイルスの種類や特性を照合して調査するソフトが起動していた。
と、調査の結果が出た。
「これは……! 早く沙夜さん達に知らせないと!」
画面には警告音と、巨大なグラフィックが映し出されていた。
しゅごーおお!
最後のウイルスをやっとの思いで吸い取った沙夜達は、深ーいため息を付いた。
「ふあああ。疲れたああ」
沙夜がオーバーにへたへたと座り込む。
「でもこれで終わりよ? ふふふ。結構、簡単じゃない」
「ですが」
瑠璃が言葉を挟む。
「これは忠宗さんが提案した作戦のお陰です。結界の中にウイルスを追い込み、吸い取るという作戦がなければ、もっと時間が掛かっていたでしょう」
「そう言われると、照れるでござるよ」
頭を掻きつつ、忠宗は苦笑した。
「あ!」
「どうかした? 彩波ちゃん」
「だから、ちゃん付けはやめてって。それより、もしかしてあのハッカーって、あたし達がウイルスに構ってる間に襲って来るんじゃない? だったら、急いで見張りを立てなきゃ!」
「そうですね。ウイルスももう、いないようですし」
瑠璃は彩波の言葉に賛成した。
「じゃ、外にいきましょ!」
沙夜がそう、振り返ったときだった。
「グオオオオオ!」
「何? あの声?」
泣きそうな顔をしながら、沙夜は後ろにいるダイバー達に尋ねた。
「さ、さあ?」
『皆さん! 大変です! ウイルスの本体が分かりました!』
晃の声が天井に響いた。
と、同時に何か、引きずるような音が、近づいて来ているようだ。
『ウイルスの本体は……』
ぐらりと大きな体が、沙夜達の前に現れる!
「と、東洋の、り、り、龍っ!?」
かつん、かつんと自分の足音だけが響く。
「うわああ。何かまた、出てきそうだよ~」
そわそわと天羽春斗は、図書館の隣にある書庫に来ていた。書庫、と言ってももう一つの図書館と言っても良いだろう。中は図書館とさほど、変わりはない。だが、置いてある本は貴重なものや、古いもの、あまり人気のない本まで様々に並べられている。
まだ、日は高いのだが、本の色あせを避けるため、ブラインドが掛かってあり、夕方のように薄暗い。蛍光灯を付ければそれは解決するのだが、今はウイルス騒ぎのため、電気も付けられない。
その中で春斗は懐中電灯の明かりを頼りに、とある本を探していた。
「確かこのあたり……」
懐中電灯で本棚を照らす。古い書物のようだ。
「あれ? 間違えたかな?」
と、かたんと音がした。
「ひっ!」
音に驚き、飛び上がりそうになる春斗。ぶるぶると頭を振ると、音のした場所に向かって歩き始めた。
「何だ。本が落ちたのか」
きちんと並べてなかったらしい。数冊の本が本棚から飛び出ている。春斗はそれを直した。
「もう、驚かさないでよね」
落ちた本を取り上げた。
「!」
その本の表紙には、見たことのある絵。思わず、春斗はポケットに入れていた一枚のメモを取りだした。
「間違いない、これだよ! やったあ!」
春斗は嬉しそうにその本を抱えると、一目散に書庫を後にした。
「きゃあああああ!」
どたばたと沙夜は龍の吐く炎を避けた。沙夜達を襲っているのは蛇のような東洋の龍。
「ちょっと、聞いてないわよ!」
掃除機を鎌に変えて、彩波は龍にちょっかいをかける。
「どこか弱点はないのですか?」
天井に向かって瑠璃が叫んだ。
『今、探しているところです! もう少し待って……』
「うわああ! 危ないでござるよっ!」
紐に小さな火が付き、ばたばたと消す忠宗。
「グアアアアァァァァ!」
龍が吼える。
『分かりました! 右目の横の鱗の斜め上の窪みです!』
「へ? 右目の……何?」
『右目の横の鱗の斜め上の窪みです!』
何やらややこしい説明に目眩を感じつつ、ダイバー達は龍に向かって一斉攻撃を掛けた。
「うらあああ! でござるよ!」
忠宗の放つ刀の波動が龍を叩く!
「結界よ!」
龍が忠宗の攻撃にひるんだ隙に、瑠璃は結界を作り、龍の動きを止めた。
「今よ!」
彩波と沙夜が息ぴったりにある一点を狙って攻撃した!
右目の横の鱗の斜め上の窪みに、である。
「グオオオアアアアア!」
龍の断末魔が響き渡る。
「やったあ!」
沙夜と彩波はお互い手をつなぎ合って喜んだ。
消えた龍のいた場所で、一枚のカードが落ちているのに、忠宗が気付いた。
「これは、何でござるか?」
カードには、一つの単語が刻まれている。
『KOUMEI』
「ウイルスを退治したわよ!」
高らかな叫びが聞こえる。忠宗はそれを懐にしまうと、彼等のもとへ向かっていった。
4
春斗はそわそわと、あの少年達を待っていた。カウンターの奥の棚には、先程見つけた、不思議な印のある一冊の本。
「早く見せてあげたいな」
微笑みながら、春斗はそっと本をさすった。
「あの、すみません。古い本を探しているんですが……」
と、声を掛けたのはとある少年。前に会った少年とは違うようだが……。
「もしかして、栗村君の知り合い?」
念のため、聞いてみる春斗。
「はい、そうです。僕は、彼の友達の風見司といいます」
どうやら、春斗の勘が当たったらしい。思わず春斗の顔に笑みが零れる。
「探しているのは、この本だよね?」
そういって、表紙に印の入った本を司に差し出す。
「あ、これは……」
「一週間、借りれるからね。継続の場合は、またここで手続きして」
「はい! ありがとうございます」
いても立ってもいられないらしい。春斗のする手続きが終わった本を受け取ると、一目散に去っていった。
「やっぱり、誰かの役に立つのって気持ちがいいよね」
春斗はそれをほのぼのと見送った。
瑠璃はいつものように、サイバーネットにダイブしていた。目的は一つ。ハッカー対応プログラムの強化である。ただ、瑠璃だけでは強化させることはできないので、信頼のおけるプログラマーに頼むことになるが。
「『電脳魔術師』を相手にすることの意味を教えて差し上げなくては」
そう、瑠璃は微笑んだ。手にした虹色に輝く、MOディスクを自分の体の中へ取り込むと、目的地に向けて、高速移動の準備を整え始めた。
が、それは突然の訪問者によって阻まれる。
「これがライン。ここがサイバーネット」
澄んだ声が、ラインに乗って流れてくる。その訪問者は長いエメラルドの髪と、エメラルドの瞳を持っていた。体の方は光が滲んでよく見えない。
「あなたは誰?」
瑠璃は訪問者に尋ねた。
「あなたは誰?」
オウム返しのように訪問者に尋ねられた。
「私は天川瑠璃」
瑠璃は名乗る。
「私は……」
訪問者が名乗ろうとしたとき、言葉が止まった。
訪問者はくるりと後ろを振り返った。何かに呼ばれたかのように。
「はい。マスター」
その澄んだ声は誰に向けられたのだろう。その声を最後に訪問者は溶けるように消えた。
「転移のようですね」
ぽつりと、瑠璃の言葉が残された。
5
松沢桂花と翡咲聖流、沙夜の三人はレイカの家へと向かっていた。
「ご一緒に学園祭なんて、とっても楽しみですわ~」
うっとりと手を合わせて、桂花のバックに花びらが舞い散っていた。
「そうね。去年は行かなかったしね」
聖流も嬉しそうだ。
「あ、レイカさんだ! レイカさーん!」
手を振って、沙夜は駆けだした。
「あ、待って下さい、沙夜さん!」
桂花と聖流も駆けだす。レイカの家は、目の前だ。
「わああ! 直ったんだっ!」
沙夜ははしゃぎながら、ジオの前に近づく。
「それじゃ、起動させるわね」
かたかたと機械の音と共に、ジオはその瞳を開く。
「おはようございます。レイカ」
レイカに向かって挨拶をする。
「おはよう、ジオ。調子はいかが?」
「どのシステムも異常はない」
と、ジオは沙夜を確認したようだ。
「おはよう、沙夜」
「おはよ☆ ジオ! もう、全然平気だね! それに、服が新しいね?」
沙夜に言われて、ジオは自分が新しい服を着ているのに、改めて気付いた。
「レイカ、これは?」
きょとんとしているジオを注意深く見つめながら、レイカは話し出す。
「今日は、特別な日でしょう? それに普通の服じゃ、すぐ破ってしまうし、いくらあっても足りないから、オートマータ専用の服を注文したのよ」
微笑みながら、レイカは答えた。
「それじゃ、創設祭にレッツ、ゴー!」
沙夜が叫ぶ。
「あ、私も行くわ。途中までだけど」
「もしかして、図書館のウイルス対策の件ですね?」
聖流が尋ねる。
「今日、資料を渡す約束をしているのよ」
「大変ですのね」
桂花は沙夜とジオがじゃれ合っている姿を眺めながら、言った。
「それが私の仕事だから」
また、レイカは苦笑を浮かべた。
6
ぱくり、もぐもぐ。
「おいしー! やっぱりたこ焼きだよね」
春斗は持っているたこ焼きを頬張っていた。
ここは、溟海学園の創設祭。催し物がそれほどない空谷村にとって、活気溢れる時。子供も大人も、この日ばかりは無礼講らしく、大いに祭を楽しんでいる。
「ああ、おいしかった。次は……焼きそばは、もう食べたから、今度はアメリカンドックでも食べよっと!」
春斗もその一人。さっきから食べてばかりである。
「あれ? あそこにいるのって……」
アメリカンドックを手に、春斗は発見した所へと向かっていった。
桂花はその光景に幸せを感じずにはいられなかった。
「次は金魚すくいしよう! ジオ!」
笑っている。例えそれが自分に向けられたものでなくとも、人の笑顔はこうも人を幸せにするのだろうか?
「これは、是非とも記念に撮って置かなくては!」
桂花は首に下げていたコンパクトカメラで、ぱちりぱちりと沙夜とジオを撮っていた。その横で、親子ではしゃいでる姿や子供が迷子で泣いている姿、そして、休憩しているのかベンチに座って休んでいる人の姿が流れていった。
「桂花ってば、写真が好きねぇ」
林檎飴をなめながら、聖流はそれを見つめる。
「趣味ですから」
笑顔でそれに答える桂花。
「あ、ジオさん。お金を払うのを忘れないで下さいね?先程、お教えしましたよね?」
「そうだった。すまない、桂花。今、払う」
桂花に言われて、急いで財布を取り出すジオ。
「いいよー。私が払うよ?」
沙夜が自分の水色の財布から、百円玉を二枚取り出し店の人に渡した。
「はい、嬢ちゃん」
金魚すくいにいたおじさんから、最中のカップとお椀を二つずつ、渡される。
「ジオもやろうよ。ね?」
「ああ」
沙夜から最中のカップとお椀を受け取った、ジオ。
「まずは私からね」
袖を捲り、沙夜は黒い出目金に狙いをつけ、一気に最中のカップをすくい上げた。が、逃げられてしまった。
「あちゃー。もう、この最中ダメだよぅ」
残念そうに沙夜は、へなへなになった最中とお椀をおじさんに返した。
「次はジオがやってみて」
「わかった」
そう言って、最中を構え、お椀をしっかりと持つ。
ぱしゃり。
飛沫と共に、沙夜の狙っていた出目金をジオはすくって見せた。
「すごーい! やったよジオ! 今度はあの金魚!」
沙夜の指さす先にいる、小さな金魚をまた、すくって見せた。
「えらいえらい! 次はね、あの出目金!」
黒い出目金をすくってみせようとしたとき。
ぺしゃり。
最中が水槽の中に落ちた。
「ああ、残念」
「でも、ジオさん凄いです。金魚を2匹もすくってしまうなんて」
決定的瞬間を撮れて幸せそうな桂花が慰める。
「はい、兄ちゃん」
おじさんから金魚の入った小さな袋をジオは受け取った。
「いいなー。ジオ」
うらやましそうに沙夜が言う。
「欲しいのか?」
ジオは金魚と沙夜を交互に見た。
「え?」
何も言わずに、ジオは沙夜の手に金魚の袋を持たせる。
「いいの?」
沙夜はジオに尋ねた。
「俺には必要ないから」
呟くようにジオは答えた。
「ありがとう、ジオ!」
「あっ!」
桂花の叫びも空しく。
ちゅ。
かちり。
沙夜はジオの頬にキスをし、そして何かが、音を立てた。
「また、増えましたわ……」
叫んだにも関わらず、きちんと写真に納めている所は、さすがは桂花、である。
と、後ろから聞き慣れた声が近づいてきた。
「沙夜ちゃーん! ジオ君、来てたんだー!」
大きく手を振り上げながら、こちらに向かっているのは、アメリカンドックを持った春斗だった。
「良かった。丁度、ジオ君に教えたい事があって」
息を弾ませながら、彼等の前に辿り着く。
「教えたいこと?」
お祭りの騒ぎが、遠くの方に聞こえる。
沙夜達は、学園の裏庭に集まっていた。
「教えたい事って何?」
そわそわと沙夜が春斗に尋ねた。
「それはね、ジオ君に……」
「あら、こんなところで何をしているの?」
レイカだ。何故か右腕に白い脱脂綿が付けられている。
「どうしたんですか? それ」
聖流がレイカに付けられた脱脂綿を見ながら、尋ねた。
「ちょっと息抜きに美術部の展示を見に行ったの。そうしたら、献血するよういわれちゃってね」
かなり取られたかしら? 戯けたようにレイカは微笑んだ。
「あなた達は何をしているの?」
「これから、ジオ君に空谷村のこととか、地上のこととか、後、童話や昔話なんかを教えようって思ってね」
そういって、春斗は背負っていたデイパックから、様々な本を取りだした。
「でも、ボクもまだよく見てないんだけど」
そう言って苦笑する春斗。
「えっと、まずは地上の様子からだよ」
手にした本を眺めながら、春斗は読み始めた。
「地上は謎の『エンゲージ』というウイルスにより、混沌の世界へと変貌していっている。『エンゲージ』とは感染した者を確実に死に追いやる、悪魔のような病気。それは年々増える一方だ。しかも特効薬はおろか、病気を治す手だてが見つからずにいる。おそらく、地上の全ての人間が発病しなくともキャリアでその死の運命には、逃れられない。そんな中で、穏やかに生きられるだろうか? いや、その大多数が死の恐怖に耐えかねて、発狂、又は自殺をしている。狂った者は街を壊し……」
春斗はその本を読むのをやめた。
「ごめん。何か別のにするね」
暗い表情で春斗はもう一つの本を取りだした。
「これは……ああ、童話の本を持ってきたのに、これ、童謡だ」
そう言って笑う春斗の顔は冴えない。無理も無いかも知れない。今のこの地球で穏やかに平和な時を過ごしているのは、この空谷村と一部の街だけだろう。そんな内容の本を読んだ後で、落ち込むなと言う方が難しい。春斗もエンゲージのことは知ってはいたが、地上の様子は良く分かっていなかった。沙夜も聖流もそうらしい。暗い表情になっているようだ。
「あ、また今度にしよっか? 後はお祭りを楽しもうよ?」
春斗は開いた童謡の本を閉じ、しまおうとする。
「待って。その童謡って何?」
沙夜がその手を止めた。
「ああ、これ? 空谷村の童謡だよ。あの子守唄の」
そう言って春斗は微笑んで見せた。
「じゃ、それ歌おうよ。ジオに教えてあげよ?」
「そうだね。暗い話だけじゃ、悲しいもんね」
「聞かせて下さい。私、まだきちんと聞いたことがないんです」
春斗と桂花が沙夜の提案に賛成した。
「私も聞いてみたいわ」
レイカも。
「私も歌う! いいでしょ?」
聖流も。
「俺も、聞いてみたい」
ジオも頷く。
「じゃ、ちゃんと聞いてよね? ……あまり上手じゃないけれど」
遠くで祭の騒ぎが聞こえる中、少し切なげな子守唄が聞こえたのを、何人が気付いたのだろうか?
いつの間にか夜空には、大きな花火が散っていた。
7
その日も、彼はおっとりと準備を始めていた。壁に掛けられたジャンパー。その下にはいつものリュックサック。どちらもくたびれているが、でも大切に使い込まれていた。
ふと、彼は机に置かれた写真立てを手にした。
そこには幸せそうに笑っている、家族と自分。
「行って来るでござるよ」
家にはいない両親。仕事で忙しい両親の代わりに、写真へ呼びかけた。
「忠宗。もう、仕事か?」
玄関で後ろから急に呼び止められた。
「ええ。もう時間でござるから。おじいさま」
靴紐を結び、後ろを振り向く忠宗。その視線の先には忠宗の祖父、宗春がいた。
「今晩は、鬼兵事件帳の特番がある。早く帰って来るのだぞ?」
微笑みながら、優しく見送る宗春に、
「早く帰ってくるでござる!」
元気良く応える忠宗。
「さて、今日も頑張るでござるよ」
外の日差しは暖かく、忠宗に降り注いだ。
8
ダイバー達が沈み込む場所。サイバーネットに皆は揃っていた。
「今日こそは、ウイルスの元凶を掴むわよ!」
彩波の声に頷くダイバー達。現在は前回のハッカー達を追うために、図書館のデータを守る傍ら、いろいろとサイバーネットで調査を始めて……
「昨日はその前に、ハッカーが来て大変でしたから」
瑠璃の台詞に、彩波はオーバーに頷いて見せた。どうやら、ウイルス調査は難航しているようだ。
「何故か、がんがん来るようになったのよね。ハッカー」
沙夜は腕を組んで考え込む。
「何か他に原因があるのでござろうか?」
同じく忠宗の腕を組む。
「とにかく、またウイルスに感染しないよう、守らなくっちゃね」
と、ファイティングポーズをとる彩波。
「それはそれは、ご苦労さんなことで」
それは、聞き慣れた男性の声。あのスーツ姿のハッカー達が、突然現れた。
「貴方は、あのときの。ですが、黒猫の方を先に攻撃した方がよさそうですね」
瑠璃は構え、とっさに駆けだした。
「後は頼みます」
そう告げて、瑠璃は黒猫の方へと札を投げ出した。
「まだ、強化していませんが」
一枚ではなく、今回は三枚を一緒にして。
「雷よ!」
巨大な雷が黒猫を襲う!
「!!」
黒猫は直撃をまともに受け、倒れてしまう。
「凄いでござるよ!」
歓声を上げる忠宗。と、目の前に赤い影が。深紅の豹だ!
「拙者は」
豹の牙を余裕で躱すと忠宗は腰に差した刀を抜いた。
「そんな攻撃ではやられないでござるよ!」
刀は艶やかに蒼く輝き、深紅の豹を切った!
「!!!!」
声にならない叫びが豹の口から漏れる。だが、黒猫の受けたダメージと比べると、まだかすり傷程度のようだ。
「あたしもやるわよ! スーツ男!」
意気込み、彩波はスーツのハッカーに襲いかかる!
「彩波ちゃん!」
沙夜の叫びが間に合わなかった。
彩波の足下に転がっている一つの丸い物体。それはあの、先日使われた骸骨。それに、
「きゃっ」
躓いた。それは見事な転びっぷりだった。一瞬、誰もがその転びっぷりに目を奪われていたが、スーツの男はいち早く、反応した。
「白か……いいものを見せて貰ったよ。お嬢ちゃん」
ようやく起き上がる彩波に、漆黒の鞭が降りかかる!
「ああ!」
何とか直撃は免れたが、その体は後ろの方へ、沙夜達のいる図書館のデータベースの前まで吹き飛ばされた。
「次は何奴だっ?」
スーツ男は不利な状況にいながら、声を張り上げた。
「次は、私よ!」
何かが弾けるような音と共に、沙夜の左腕に取り付けられたコンピュータが展開、光の弓矢が現れる。
「今回は私達の勝ちよ!」
きっと睨み付ける沙夜。
「お前……まあいい」
スーツ男は鞭を足下に叩き付ける。
「なかなか楽しめそうな目だ。まずはお相手願おうか?」
その台詞を言い終えるよりも先に、撓る鞭が、沙夜を襲う!
「はっ」
気合いと共に沙夜は辛うじて避けた。その隙を見計らって光の矢を射る。
バシュッ!
男はその矢を手にしている鞭で打ち消した。
「ふん、やはりな。あれは気のせいだったか。……とにかく、こいつらを始末しないといけないな」
男はぱちりと、豹に合図を送った。豹は黒猫を男の後ろへ運ぶと男のもとへと駆けてくる。
「とっておきの、技を見せてやろうか?」
「ちょっと、ジオ。何をしているの?」
レイカの地下の研究室。ジオは時々考えながらも、ある機械と自分をコードで繋げた。
「嫌な気がする」
囁くように、ジオは答えた。
「だから、何をしているの?」
ジオの手を止めようとするレイカ。
「沙夜ちゃんが仕事から帰ってきたら、貴方は沙夜ちゃんの家に行くのよ? 分かっているの?」
レイカは繋げられたコードを外そうとした。と、繋げられた機械に目が止まる。
「これって、オートマータ用の通信システムじゃない」
しかもそれは、サイバーネットに繋がるもの。
「貴方、もしかして……」
「沙夜が、危ない」
「え?」
準備が整ったジオは、
「いってきます」
レイカの言葉を無視して、ダイブした。
「どうなっているのよ……」
レイカはその拳を壁に叩き付けた。
「ダイバーだったなんて、気付かなかったわ」
スーツ男の鞭が、黒い一枚のフロッピーへと姿を変えた。
「見せてやるぜ」
ふと、男は豹に頷くと、そのフロッピーを空高く放り投げた。豹はそれを空中で取り込む!
「グライド!」
男のその叫びを鍵に豹は、黒い炎を身に纏わせ、駆けだした。
黒い炎が沙夜達を向かっていく!
「ちょっと、冗談じゃないわよ……」
やっと、起き上がった彩波は苦笑した。
「結界よ!」
炎の前に結界を張る、瑠璃。
ぱあん!
だが、その結界は破られた。
「もう、覚悟を決めるしかないでござるか?」
それを睨み付ける忠宗。
「こんなとこでは、死なないわ!」
沙夜が炎に向かって光の矢を射るが、それは意味を持たなかった。その光の矢は、溶けるように消えてしまった。
「クルルルルゥゥゥゥ!」
何かの声が響いた。炎はもう、そこまで来ていた。
「何?」
沙夜のその言葉を道標に、それは現れた。
「蒼い鳥」
瑠璃が呟く。
その現れた鳥は、炎の向かう先に立ちはだかるように、高度を合わせると、自らも蒼い炎となって、向かっていった!
ごうんっ!
黒い炎と蒼い炎がぶつかり合った。弾ける炎、飛び散る火の粉。それが合わさり、巨大な影を呼んだ。
ブラックホールを。
「きゃあああああ!」
沙夜も、
「何よおおおお!」
彩波も、
「あああああ!」
瑠璃も、
「吸い込まれるでござるっ!」
忠宗さえも、その影に捕らわれた。
「こ、これは、一体なんなの?」
春斗が叫んだ。図書館地下のコンピュータ室。春斗達の前には一台のナビゲーションコンピュータが起動していた。画面にはあのブラックホールが映し出されている。
「分かりません。ですが、もう収まったようです」
「そうじゃなくって、沙夜達はどうなっちゃったわけ?」
晃の言葉に食ってかかるような勢いで聖流は怒鳴った。
「我々がどうこう出来る状態ではありませんでした。幸いにも図書館のデータベースは無事……」
ぱん!
乾いた音が、コンピュータ室に響いた。聖流が晃の頬を叩いたのだ。
何か言いたそうな表情で、何かをこらえた表情で聖流はきびすを返すと、大きな音を立てながら、コンピュータ室を出ていった。
「先程のホールを分析します」
聖流を見送った晃の、右の頬は赤くなっている。
「晃さん……」
心配そうに春斗が声を掛けた。
「これくらい平気ですよ。それよりも、早くさっきのブラックホールを分析して、彼等を助けなくては」
「はい!」
力強く、春斗は頷いた。
「大変ですわ……」
コンピュータ室の扉の外で、桂花は事の重大さを知った。本当は沙夜達と一緒に帰る約束をしていて、外で待っていた。が、耐えきれず、こっそりとここまで忍び込んでいたのだ。
「何か、手だてを考えなくては……」
桂花は少し俯き、そして走り出す。
「私がお助けしますわ、沙夜さん!」
薄れゆく意識の中。
「大いなる扉……鍵……」
何かが囁いた。
どしん!
「きゃあああ!」
沙夜が叫んだ。
「ってあれ?」
何やら高台の上に、降り立ったようだ。そこはレンガで出来た家と道とが交差する、まるで中世の世界を思わせるような古い町並み。
「あれ? あれ?」
ふるふると首を振って、起き上がる。
「重いわよ~」
下からうめき声が。
「彩波さん?」
「だから、どいて!」
どりゃあ! っと気合いの入ったかけ声と共に、沙夜を突き飛ばす。
「いったあ……」
お尻をさすりながら、沙夜は再び起き上がった。
「きいいいい! 悔しい! あのハッカーにまた、やられたわっ!」
「それは、彩波さんだけです」
彩波の下から、瑠璃の声が。
「どけてくれませんか?」
「あ、ごめんなさい」
彩波はさっと降りた。体をさすりながら、起き上がる瑠璃の下では……
「忠宗さん?」
平べったくなっている忠宗の姿が。
「もう、ダメでござるよ~う」
へろへろになりながら、ようやく起き上がる忠宗。
「それよりも、ここは何処だ?」
と、突然現れるジオ。
『ジオ?』
四人の声が綺麗にハモった。
「どうしてここに?」
沙夜が驚きながら、尋ねた。
「一緒にブラックホールに吸い込まれただけだ」
「え? どういうこと?」
「あの蒼い鳥はジオさんだったんですね」
困惑する彩波の隣で、瑠璃が答えた。
「ああ、そうだ」
その言葉にジオは頷いた。
「うっそお!」
沙夜が大声を上げた。
「じゃ、ジオもダイバーなの?」
「ついさっき、思い出したんだ」
ジオが沙夜の前に来る。
「言うのが遅くなって、すまない。それに、こんなところまで来てしまったし」
そう言って頭を下げた。
「ジオ殿の所為ではないでござるよ。ところで、ここは何処でござるか?」
忠宗はふと、周りを見渡した。
「サイバーネットではないようです。それと、擬態が解けています」
「そう言えば!」
瑠璃の言葉に、彩波は気付いた。彩波の姿は鎌と悪魔のような翼……ではなく、普通のパーカー姿だった。
他の者もそうであった。ジオも鳥から人間の姿になっている。といっても耳の部分は相変わらず、機械ではあるが。
「どいて、どいてにゃ!」
「へ?」
避けきれず、忠宗とぶつかる。
「はうううう。痛いにゃあ~」
「おろろ~。痛いでござるぅ……」
と、ぶつかってきた人物を見た。
「大丈夫でござる……おや? 猫耳をつけているでござるな?」
起き上がる者は猫耳を付け、おまけに猫のようなしっぽを持っている少女。
「だから、どいてって言ったのに」
涙目で訴える。
「可愛い! 私も付けたいなっ☆」
そういって、猫耳少女から耳を引っ張る。
「いたたたたたたっ! 何するにょっ<」
「ん?」
「あちしの耳は作り物じゃないにゃっ!」
少女は叫んだ。
「これは、珍しい方ですね」
しみじみと瑠璃は少女を眺めていた。
「あなた、猫人間?」
沙夜は驚きつつ、尋ねた。
「あちしはビスティーノのミミナにゃっ! あ、いけない! お使いあったんだっけっ! 早く戻るにゃ!」
と、落とした鞄を探す。その横から、ジオがその鞄を渡した。
「ありがとう、お兄ちゃん……あっ!」
と、ミミナの目が丸くなった。
「機械人形? カリン様?」
ぶんぶんと頭を振った。
「違う、にゃ? 気のせいにゃ?」
ジオ以外の四人は顔を見合わせた。
「そうだ、連れていけばいいにゃ! ミミナ、頭いい! こうなったら、一緒に来るにゃ」
と、ジオの手を引きながら、てけてけと歩き始めた。
「ちょっと、待ちなさいよ! 何処行くの? いや、その前に、ここは何処?」
沙夜の剣幕に少々驚きながらも、ミミナは答えた。
「知らないの? ここはシュトゥッドガルドにゃ。これから、お城に行くにゃ!」
9
テレビでは鬼兵事件帳の大きなタイトルが出てきた。もうすぐ、その特番が始まる。
「遅いのう、忠宗は何をしておるのだ」
宗春はおもむろに立ち上がり、玄関の方を眺めた。
時計は午後の7時を告げている。
「全く、何を……」
その時、電話が鳴り響いた。けたたましく、でも何か切なげに……。
●次回GP
軌跡K1 元の場所へ帰るために
(飛ばされた人専用)
軌跡K2 元の場所へ連れ戻す
(空谷村の人専用)
軌跡K3 異世界に残る
(飛ばされた人専用)
軌跡K4 誰かに関わる
軌跡K5 ○○を調べる
軌跡K6 自分の道を行くにょ!




