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軌跡 第2話 VIRUS

 

   静寂が時を刻み始める

         失ったものはすぐには戻らず

自分の無力を知った

 

  もう、会えない?

 

           もう、戻れない?

 

  刻まれたはずの思いも

全て、消えてしまうの?

 

 

 幾千、幾億のライン

       繋がる先に

何があるのか

 

     求めても

         手に出来ない

 

 それでも

     欲しい何かが

得られるのなら

 

 

「俺の名前は、分かりません」

「か、肩慣らしぃ?」

「このまま、ジオを完全に、目覚めさせていいのかしら?」

 

 

闇に浮かぶ その舞台で

 

  咲き誇る華は美しく

 

交錯する 光と光は

 

  散る花びらを纏わせて

 

舞踏は始まりを告げる

 

 

この、熱い思いを

 あなたに伝えられるなら

どんなことでもしよう

 たとえ、この身が滅ぶとも

それでもかまわない

 

 あなたを守れるのなら

あなたを、救えるのなら

 

 

 しんと静まり返った図書館の一階。今はもう日が暮れかけて、夕闇に包まれている。

「ふう、今日は書籍整理でちょっと疲れたなぁ」

 腰まであるロングヘアーを後ろで一つに束ねている、青年が歩いていった。名は天羽春斗(あもう はると)。外見が華奢な体つきなうえ、やや幼さの残る顔で、図書館職員見習いにも関わらず、学生に勘違いされることもあった。が、彼はそんなことは全く、気にしていない様子だ。

 肩をおもむろに揉んで、春斗は首を回す。

「うう、こってる……」

 ふと、かたかたとコンピュータが何かを読み込む音が、かすかに聞こえた。

「あれ? 電源が付いてる?」

 どうやら側にある、検索とインターネット用のコンピュータ室から音がしたようだ。

 春斗は自分の職員専用のカードを、扉の側にあるスロットに滑らせる。がちゃりと扉が開いた。

「まったく、誰か消し忘れたのかな?」

 そう、ぼやきながら春斗は、音のするコンピュータに近づいていった。部屋の一番奥にあるコンピュータの画面が付いている。

「……ん?」

 チカチカと画面が点滅した。

「!」

 そこから煙のようなものが出てきて、

「な、何?」

 そして、

「こ、こ、これは、その、もし、もしかしてっ!」

 春斗の声が裏返ったとき、

「う、う、噂のっ」

 それは浮かびだした。

「亡霊っ!?」

 ぬっと春斗の前に現れたのは、枯れ草色のローブを身に纏った老人の亡霊。その影のような、周りの風景ととけ込むような、透き通った姿は紛れもなく、亡霊だった。

 春斗と亡霊の目が合う。

「うわあああああ!」

 春斗は驚き、一目散に逃げ出した。

 残されたのは静寂と亡霊。亡霊はゆっくりと辺りを見回すと、すうっと消えた。と、同時にコンピュータも切れる。

 静寂だけが取り残された。

 

 

「ほんとに見たんだって!」

 春斗の声が図書館に響いた。

「ほんとなの?」

 沙夜はカウンターの中で眉をひそめた。

「あら、どうしたんですか?」

 そう言って話しに加わったのは、松沢桂花。手にはこれから借りるのだろう、コンピュータやオートマータの専門誌が抱えられている。

「うん、春斗君がね、亡霊を見たんだって。私は一度も見てないのにね」

 沙夜は桂花の言葉に答える。

「見てないから、そう言えるんだよ。本当に怖いんだからっ!」

「まあ、怖い。沙夜さんも気を付けて下さいね。あ、これを借りたいんですけど」

「あ、ジオの修理に使う資料でしょう? OK、貸し出しチェックするね」

「へ? ジオ?」

 春斗が耳慣れない言葉に反応した。

「ジオさんは沙夜さんが拾った、オートマータさんなんですよ。現在は修理中ですが」

「え! オートマータ? オートマータって地上とか調査団とかにいる、珍しいロボットでしょう? うわああ!ボクも見たいっ! ねえ、ボクも連れてってよ」

 春斗の興奮する様子に沙夜と桂花は驚きつつ、顔を見合わせた。

「ま、いっか。えっとね、今日の仕事が終わったらジオに会いに行くから、そのときに一緒に行きましょう」

「本当? やったぁ! じゃ、待ってるね。……あっと、そろそろ、3階に戻るよ。また後で!」

「またねー!」

 元気に春斗に声を掛ける沙夜。

「騒がしい方ですのね」

 桂花がぽつりと言った。

「そう? でも楽しい人よ」

「……何か嫌な予感がします」

「?」

 桂花は沙夜から本を受け取り、不吉な言葉を口にした。

 

 

「あの、すみません」

 突然、カウンターにいた春斗に声が掛かる。声を掛けたのは、天上人の男子学生、栗村蓮美(くりむら れんみ)だ。

「はい、なんでしょう?」

 春斗は笑顔で蓮美に答えた。

「ここに……何か古そうな本とかないの?」

「古そうな本ね……どんな内容の本を探しているの? もしかしたら、ここにはないかも?」

 ちょっと困った様子で春斗は言った。

「う~ん、変な印の載っている本とかかな」

 少し考えて、蓮美は話した。

「変な印? どんなのかわからないと、探せないよ」

 蓮美のその曖昧な言葉では、検索出来ない。春斗はもう一度、尋ねた。

「えっと……こんなのなんだけどね」

 と言って、蓮美は、何やら絵のようなものを書き出す。

「どれどれ?」

 そういって、春斗は蓮美の描く絵をのぞき込む。何やらよく分からない、不思議な絵だ。春斗の返事を黙って蓮美は待った。

「そんな印だね。ちょっと待ってて、カウンターで調べてみるから」

「お願いするよ」

 春斗は蓮美の言葉に頷くと、蓮美から受け取ったメモをカウンターのコンピュータに読み込ませて、検索を始めた。

 と、そこへ一人のオートマータが現れる。努弓(ゆるゆみ)だ。

「何か見つかったのか?」

 カウンターに立つ、蓮美に話し掛ける努弓。そこで丁度、検索結果が出た。

「えっと、本館にはないみたい。書庫にあるかもしれないけど、時間がかかるけどいいかな?」

 ちょっと困った様子で春斗は言った。

「う~ん、そうなんだ」

 と少し考え込んでから、

「じゃ、いいです。ありがとうございました」

 顔を上げて蓮美は答えた。しっかりと礼を述べて。

 そして、二人はそこを去っていた。

「何だったのかな?」

 ぽつりと春斗は呟きを漏らした。

 その瞬間、大声が響く。

「アフロ! 手持ち無沙汰だからって踊るなー!」

「ああ、またあの人達だ……」

 春斗はふう、と何度目かのため息を付きながら立ち上り、注意のために彼等の方へと向かった。

 

 

「あれ? 瑠璃さんに、彩波さん、忠宗さんも来ていたんですか? テストは明日なのに」

 後ろから声を掛ける青年、城前寺晃が三人を見つけた。

「あっちゃー、ばれちゃった?」

 由比藤・彩波が言う。

「やはり、拙者はこういう、こっそりとやる事はあまり好きではないでござるよ」

 九条・忠宗はばつが悪そうに声を出した。

「提案は彩波さんです」

 天川瑠璃があっさりと答えた。

「ちょっと練習を、て思って……やっぱり駄目?」

 彩波は晃にうるうると訴えてみた。

「残念ながら、今日は調整中なんですよ。……そうそう、せっかくですから、一緒に行きませんか?」

 晃は三人に提案する。

「え? どこに、でござるか?」

 忠宗の言葉に頷く、彩波と瑠璃。

「レイカさんの家に、ですよ」

「?」

 微笑む晃の言葉に、三人はお互い顔を見合わせた。

 

 

「また、遅刻ですね」

 苦笑しながら、晃は図書館を見上げた。今は仕事を終え、沙夜との待ち合わせをしている。今回は桂花と晃、それに彩波、瑠璃、忠宗と春斗が一行に加わっている。

「遅いですね。何かあったのでしょうか?」

 心配そうに晃と同じく、図書館を眺める桂花。

「そういえば、先程おしゃっていたお話とは、何ですか?」

 突然、瑠璃が晃に向かって話し掛けた。

「あ、大したことはないんだけど。ちょっと今回の事でオートマータに興味を持ちまして」

 急に話を振られて、ちょっと戸惑いながら、言葉を選ぶ晃。

「やっぱり、オートマータさんは苦手なものとかあるんでしょうか?」

「そうですね」

 晃の質問に答え始める瑠璃。

「私達は、体の大部分が機械で出来ています。防水加工は施してはいますが、性質上、水に好んで近づくことはありません」

 瑠璃は丁寧に答えた。

「そうですか。なるほど。ありがとう、また何かあったら聞いても良いですか?」

「どうぞ、私が答えられる範囲であれば」

 その瑠璃の言葉に晃は満足そうな笑みを浮かべた。

「ごっめーん☆ 玄関まで行ったときに、大事な忘れ物しちゃって。さあ、行きましょう!」

 と、沙夜がやってきた。

「あら、聖流さんは?」

 桂花が一つの疑問を沙夜に尋ねた。

「今日は残業だって。遅くなるから、今日は一緒に来れないって言ってたよ」

 沙夜は少し残念そうに答える。

「じゃ、メンバーも揃ったし、オートマータを見に行きましょう!」

 春斗の元気な声で、一行は図書館を後にした。

 

 

 ここは、レイカの豪邸。青い屋根の家は相変わらず大きい。初めて来た者から感嘆の声が上がる。

「すっごーい! 一度でいいから、こんな家に住んでみたいよ」

 彩波が家を見上げる。

「本当に、大きくて立派な家でござるなー」

 忠宗が声を上げたとき、

「まあ、また増えたの?」

 豪邸から一人の金髪女性が現れる。

「レイカさん、こんにちは。また増えちゃった」

 沙夜は多少苦笑しながら、答えた。

「すみません、ご迷惑でしたか?」

 晃が頭を下げる。

「いいえ。とにかく、ここでは話しもできないから、さあ、中へどうぞ」

 金髪の女性、麗華・ハーティリーは、沙夜達を中へと案内した。

 

 

「わああ! オートマータが寝てるよっ!」

 春斗は調整ベッドで横たわるジオを見て、大声を上げた。

「そんなに大きな声を出したら、起きちゃうよ?」

 戯けたように沙夜は冗談を言う。

「レイカさん。さっそくお手伝いさせていただきますね」

 桂花はそう言って、ストレートに長い黒髪を三つ編みで纏める。

「あ、ごめんなさい。今日のメンテは終わったわ」

「えっ?」

 三つ編みを編み上げる、桂花の手が止まった。

「どういうことですかぁ?」

 半ば泣きそうに桂花はレイカに詰め寄る。

「外見は大体、修理が終わってるの。後は細かい調整ね。もう少し早かったら、手伝って貰ったんだけど」

 ごめんなさいね、ともう一度レイカは謝った。

「その代わり、沙夜ちゃんとジオにいろいろ教えてあげて。ね?」

「そういうことでしたら、私に任せて下さい!」

 変わり身が早い、桂花。

「あ、ボクも!」

「あたしもっ!」

「じゃあ、拙者も」

「私も行きましょう」

 春斗の声に、彩波と忠宗、そして瑠璃も加わった。

「ねえねえ、レイカさんの家のお庭でいろいろ教えてもいい?」

 わくわくと沙夜はレイカに尋ねた。

「あ、ちょっと待って。彼、裸よ? 今、私の父のお古を持ってくるから」

 レイカは奥から、ぱりっとした紳士服を取り出した。

「それじゃ、ジオに着せてあげるね☆」

 レイカから服を受け取り、沙夜はジオの方に向かって行った。

 

 

「私に用って、何かしら?」

 レイカは紅茶を口に運ぶ。庭では、沙夜達がジオと遊んでいるようだ。賑やかな声が聞こえてくる。ここは庭の見えるバルコニーで、白いテーブルに白い椅子の、いたってオーソドックスな場所だった。

「今回のこともありまして、その、オートマータのことについて教えていただこうかと思いまして。良ければ詳しく教えていただけませんか?」

 晃の前に同じく、紅茶が置かれている。

「そう、オートマータのことね。私の分かる範囲でいいかしら?」

「え? 分かる範囲ってオートマータに詳しいのではないのですか?」

 レイカはことりと、カップを皿に乗せた。

「私の専門は電子・情報工学なのよ」

 そのレイカの言葉に頷く晃。

「オートマータはその知識も使われているけど、他にも生物学、心理学など様々な学門の知識も使われているわ。そう、言うなれば全ての学門が合わさって出来た芸術品ね。だから本当に細かいところは、制作者であるマイスターに聞かないと分からない訳。あの失った部品とか」

「それじゃあ……」

「でも、基本的な知識は分かるわよ。これでお金を貰っているんだし。そんな難しいことを聞きたいのではないのでしょう?」

「ええ」

 ほっと晃は一息ついた。

「で、何が聞きたいの?」

「えっと……」

 晃は瑠璃と話したときも同じく、戸惑っていた。

 そういえば、漠然とオートマータを調べることしか考えてなかったです……。

「あの、すみません。また時間をいただけませんか? ちょっとど忘れしてしまって」

 苦笑しながら、晃は何とか言葉を選び出した。

「いいわよ。何か思い出したら、聞いてちょうだいね」

 と、レイカが微笑んだとたん、

「きゃあああ! ジオっ?」

 沙夜の叫びが庭中に響き渡った。

「あ。充電しておくの、忘れてたわ」

 レイカの笑顔が苦笑に変わる。

「ちょっと手伝ってくれます? 晃さん」

「いいですよ」

 二人は立ち上がり、庭に降りていった。


 

 沙夜はぼんやりとカウンターで座っていた。

「はあ、早く終わらないかなー。仕事」

 と、バンダナを付けた男子学生が来た。

「あのう、昔の新聞を見たいのですが……」

 何やら重い表情で、彼は尋ねた。

「あ、それならコンピュータで見れますよ。ディスクがありますから。何年頃の新聞ですか?」

 検索用コンピュータを動かしながら、沙夜は彼に答える。

「それじゃ……55年から56年のを」

「はいわかりました。では学生証を見せて下さいね」

 沙夜は彼の学生証を預かった。『ランスロット・レムジャイド』それが彼の名前だった。沙夜はカウンターの奥から二枚のディスクを取り出し、学生証とディスクのバーコードをコンピュータに読み込ませる。

「ハイ、学生証と、これが55年から56年にかけての新聞のディスクです。ここか、二階が混んでいるようだったら、三階のコンピュータ室を使って下さい。閲覧方法は、そばに説明書あるし、ナビも内蔵されてるから。もし分からなかったら、カウンターにいる私を呼んでね。あ、返却の際もここでーす」

 そう言ってランスロットに、学生証とディスクを渡す。

「創設祭の準備でしょ? 頑張ってね!」

 沙夜はそう言って、ランスロットを見送った。

「沙夜、晃さんが呼んでるよ。後は私に任せて」

 聖流が交代を告げた。

「それじゃ、頼むね。さっき、新聞のディスクを借りた子がいるから、それもね」

「はいはい。頑張ってテストしてあげてね」

 聖流に見送られて、沙夜は奥の職員用の扉を開けた。

 

 

「何で、何でぇ?」

 彩波は様々なものが、山のように積まれている倉庫の中で叫んだ。彩波の背中にある黒い羽がゆらりと揺れる。

 ここはサイバーネット。図書館のデータベース内の一室である。現在、ダイバー達のテストが行われていた。テストの内容は……

「088のナンバーが付いてるものなんて、本当はないんじゃないのっ?」

 あらかじめ三人にはそれぞれ、とあるナンバーを教えている。そのナンバーが隠されているものを倉庫で見つけるという、いたってシンプルなテストだった。

「まだ5分あるでござるよ」

 元気づけるように、忠宗が彩波に声を掛けた。このテストは制限時間が設定されている。忠宗は2番目にその目的のものを見つけていた。『067』とナンバーが浮かび上がっている印籠を手にしている。忠宗の擬態の姿である、新撰組を思わせる武士の格好によく似合っていた。

「後、5分です」

 瑠璃も声を掛けた。瑠璃の擬態の姿は、よほど自信があるのか、現実世界と同じ姿。瑠璃の持っているものは『626』のナンバーが浮かび上がる、ピンクの不思議な杖だった。

『見つかった?』

 天井から響く、沙夜の声。今回、沙夜はダイブはしていない。沙夜はナビゲータをしながら、テストの様子を見ていた。

「おあいにく様、まだですよーだっ! 本当にある訳?」

 いらいらと彩波は、山のように積まれたものを一つ一つ取り出しては、投げ出していた。と、その手が止まる。

「きゃあ、何これ?」

 骸骨の頭だ。

「ん?」

 ふと、その骸骨の頭を見る。浮かび上がるナンバーは、

「088!」

 やっと、彩波も見つけられたようだ。

「って、何で私のは骸骨なの!?」

『だって、その格好にぴったりでしょ』

 その彩波と沙夜のやり取りに、後ろにいた忠宗が苦笑した。

「あっ、笑ったわね?」

 むっとしながら彩波は忠宗を睨んだ。

『これでテストは終わりでーす。そろそろライズしてね』 沙夜の明るい言葉が部屋中に響き渡る。どうやらテストが無事に終了のようだ。

 と、突然、警告音が鳴った。

「どうしたんでしょう?」

 瑠璃は持っていた杖をしまう。

「わからないでござるよ。沙夜殿、これはどうしたのでござるか?」

 印籠を懐にしまって、忠宗は天井に向かって話し掛けた。

『やだ! ハッカーがここに向かって来てるっ!』

「えっ?」

 彼等はお互い顔を見合わせると、すぐさま駆けだした。

『あ、ちょっと待ちなさいよ! ねえってばっ!』

 沙夜の言葉がむなしく、部屋に取り残された。

 

 

 三人はデータベースからラインのひしめく、ネットに出てきた。

 瑠璃はネットに出ると同時に、データベースに一枚の札を貼り付けた。

「何をしているでござるか?」

 忠宗がそれを見つけた。

「結界、ですよ」

 瑠璃はぽつりと答えた。

 と、声が掛かる。

「どうやら、お出迎えらしいぜ?」

 前回も来た、黒いスーツのハッカー。その横には、深紅の豹。そしてもう一匹。

「黒猫?」

 彩波は眉をひそめた。

「ムツゴロウさんみたいなヤツでござるな~」

 とぼけたようなことを言う、忠宗。

「先に行きます」

 瑠璃は短く告げると、いち早く攻撃を始めた。

 すっと、赤い札を取り出す。

「炎よ!」

 瑠璃の言葉と共に、札をスーツのハッカーに向かって投げつけた。札は炎となってスーツのハッカーを襲う!

 ぼうっ!

 スーツのハッカーはそれを避けようとしたが、上手くいかず、左腕に炎が当たった。

 そのハッカーはまた、黒い鞭で瑠璃を攻撃するが、瑠璃はそれをあっさり躱した。

「よくやったわ! 瑠璃ちゃん。後はあたしに任せてっ!」

 彩波もスーツのハッカーに攻撃しようとした。

「邪魔よっ!」

 彩波の鎌、『デス・ブリンガー』を深紅の豹が己の牙で受け止めた。

 ぱりぱりっ。

 火花が散る。

「ちょっと、離しなさいよ」

 しっかりくわえているらしい。デス・ブリンガーは、びくともしない。

 深紅の豹と彩波がやり合っているとき、その横で、忠宗が攻撃しようとしていた。

「お主の相手は拙者が勤めるでござるよ!」

 忠宗は黒猫との間合いを詰める。

 が、黒猫が先に忠宗へ攻撃を掛けたっ!

 それに反応して、忠宗は黒猫の攻撃を躱す。

「あ、危ないところだったでござる」

 手に汗がにじむ。きっ、と黒猫を睨む忠宗。

「気を引き締めなくては、でござるな!」

 忠宗は腰の二本の刀を抜いた。刀が妖しく艶やかに光る。

「はっ!!」

 気合いと共に、刀を振り下ろす。刀から生まれた風はかまいたちとなって、黒猫に向かって行った。が、狙いが外れた。

「おろー」

 忠宗の着物が肩からずり落ちる。

 

「!?」

 

 その瞬間、それは起こった!

 

黒猫から

光が溢れ

その光は帯となり

図書館のデータベースを襲ったっ!

 

 バリバリバリッ!!

 

 凄まじい音と共に、データベースの一部が、崩れていく……。

 

「ええええっ! 嘘っ!?」

「何が起こったでござるっ?」

 

「これは……『ウイルス』でしょうか」

 瑠璃の頭部にある電子がそう、告げる。

 

 『一部』それだけが救いかも知れない。

  彼等が気付いたときには、もうハッカー達はいなくなっていた。

 

 

「ちょっと、これって、どうなってるの?」

 一方、現実世界にいる沙夜の所、図書館地下のコンピュータ室では、異変が起きていた。

『へいs。ryjskじぇwんこうhlれおfgじぇあksirngcsout;kgsidjtugkenhsxyfkrlsug,rpysha,w;fuhsleltis;wleglsjgjlglrirpg;sldjtodlt;dptrgoitw98321s@pt4ltfdjw,fd:g0o5-i3sd,gjssfrgg-koumei-soirhy;sjzkma;.gozja,ts;jka.ajf』

 一面に文章とも記号とも思えない文が、ナビゲーション用コンピュータに流れ始める。

「どうしたんですか?」

 その沙夜の様子に晃は駆けつける。晃は側にいて、沙夜のサポートをしていた。

「変な文字が出て来ちゃって、もう、どうしたらいいのか……」

 泣きそうな顔で晃に訴える沙夜。

「ちょっと貸して下さい」

 晃は沙夜に代わって、コンピュータに向かう。

「……」

 晃は少し考えてから、何かをキーボードで打ち込んだ。

『エラー』

 また、何かを打つ。

『……』

 次は反応しない。

「! 沙夜さん、早く、全てのコンピュータを停止させて下さい! 早くっ!」

 晃は叫んだ。

「え? え?」

 泣きそうなまま、沙夜は言われた通りにする。

 『緊急停止』

 赤い、そのボタンを見つけて叩き付けるかのように、押した。と、サイレンが鳴り響く。

「何があったんですかっ?」

 春斗がサイレンの音に駆けつけてきた。

「ちょっと、なに? なんなの?」

 聖流も部屋に入ってくる。

 と、同時にメインコンピュータ室から、小さいが、爆発音が響いた。

「わかんないよー」

 とうとう、沙夜は泣き始めた。

「ハッカーにやられました」

 泣く沙夜の代わりに晃が告げる。

「図書館のコンピュータ内に、『凶悪なウイルス』が入ったようです。……春斗君と聖流さんは館内にいる学生と一般の方を外に誘導して、すぐ閉館して下さい。沙夜さんは私と一緒にメインコンピュータのチェックをします。いいですね?」

 晃はそこにいる全員に仕事を与えると、爆発音のしたメインコンピュータ内に入って行った。

「……一体、何が起こったの?」

 よく分からないまま、彼等は言われた通りに仕事をするため、部屋を出ていった。

 

 

 ウイルス騒ぎの翌日。

 晃の迅速な行動により、メインコンピュータは無事だった。損害はホストコンピュータの3台のみが壊れてしまったこと。それに瑠璃の施した結界がなければ、もっと酷い損害が出たであろう。壊れた3台は、先程、新しいコンピュータに取り替えられたばかりだ。

「で、どうなの? 晃。現在の状況は」

 長い金髪を三つ編みにして、眼鏡を掛けた女性が、コンピュータに向かう晃に尋ねた。側には、他にも図書職員がいる。その中には、春斗、聖流、沙夜の職員見習いの三人とダイバー試験に合格した彩波、忠宗、瑠璃もいた。

「これから、このコンピュータを起動してみないことには何とも言えませんね、ティナさん」

 ティナと呼ばれた、眼鏡の女性は頷いた。

「それじゃあ、頼むわ」

 ティナの側に聖流が近づいた。

「大丈夫なの? ティナ姉」

 聖流はティナに心配そうに聞いた。どうやら、ティナは聖流の姉のようだ。

「そうね。きっと大丈夫よ。あなたは後ろで見ていなさい」

 そういってティナは、聖流を沙夜達の方に促した。

 それを確認したかのように、晃はホストコンピュータを一台、起動させた。

 が、

『kssこつienfcoarsj4;ぴyhwutkje88あおtlk3l28sjkt;ぺいqxynm5,8uvkwkoumeiあいrtwぷvg。あ;きばmfぱtまうが;とじゃ;g:あ:』

 新しいコンピュータにもウイルスが侵入したらしい。やはり、変な文が画面いっぱいに現れた。

 

「ねえ? あたし達は何ともなかったのよね?」

 彩波が後ろでこそこそと話し出した。

「そうでござるな」

 それに頷く忠宗。

「全く、影響はありませんでした。きちんと現実世界に無事にライズできましたし、ダイブ用コンピュータも無事でした」

 瑠璃も答える。

「じゃ、あたし達で『ウイルス』を退治できないかな?」

 彩波がそう言ったとたん、

「そうよ、それよっ!」

 沙夜が話しに加わった。

「私達で、『ウイルス』をやっつけよう!」

 

 

 

 ●次回GP

軌跡K1 ウイルス退治!

軌跡K2 ハッカー対策の提案

軌跡K3 ジオに何かを教える パート2

軌跡K4 誰かに関わる

軌跡K5 何かを調べる

軌跡K6 学園祭に参加!

軌跡K7 私の道を行くっ!


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