75.目的のもの
「こんなもんか」
ザンッ、とアウロが地面に大剣を突き刺す。
結局、アウロが一人で全てを片付けてしまった。
サーシャ達が捕らえられていた倉庫内にいた男達は総勢で三十名程度。
誰一人としてアウロに傷つけることもできず、戦いは終わることになる。
(相変わらず、すごい……)
サーシャはぽかんとした表情で、その光景を眺めていた。
今のアウロは、人間を相手にしているわけではない。生死をかけた、魔物との戦いが主となっているのだ。
対人戦と対魔物戦では勝手が違う。
けれど、アウロくらいの強さになれば、どちらも関係がない――無双の強さというのは、まさにこのことを言うのだろう。
「……で、これはどういう状況なんだ?」
くるりと、アウロが振り返りサーシャの下へとやってくる。
散々暴れた挙句に、まだアウロは状況を完全に把握しているわけではなかった。
とにかく、倉庫内を鎮圧することから始めた、ということだろう。
「ええっと、何から説明したらいいのか……」
サーシャも、アウロに問われて動揺する。
簡単に説明できる話ではない。そもそもの発端は、サーシャが猫探しを引き受けたところから始まっているのだ。
一先ず、サーシャはアウロに事の成り行きを説明する。
「なるほどな。猫探しをしていたらこうなった……と。どうなったらそうなるんだ?」
「うっ、それは私にも分かりません……」
アウロの至極真っ当な突っ込みに、サーシャもそう答える他ない。
話を終えたサーシャは、そもそもの目的に気付く。
「……って、そうだ。倉庫内で猫を探さないと……!」
「落ち着け。これから第一騎士団の奴らを呼ぶ。ここから先は任せとけばどうにかなるだろうさ」
「いえ、中にいるかまだ分からないので。それに、騎士団の方に任せると、飼い主のところに戻すのにも時間がかかってしまうかもしれませんし……」
「確かにその通りだが……鳴き声の数も相当だぞ。この中を探すつもりか?」
「この中くらいなら、私だったらすぐに見つけられると思います」
「そう言えば、お前は魔法が得意だったな」
思い出したかのように言うアウロ。……『優秀』という理由で補佐官に指名されたはずなのだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「あ、あの……」
「! フィルさん――って、その猫は……!?」
声を掛けられ振り返ると、そこには猫を抱えたフィルがいた。
その猫の特徴は、ミナから教えてもらったものと一致する。
「ユーカ!」
「にゃん?」
名前を呼ばれたからなのか、猫が首をかしげた。
念のため、サーシャは《魔法印》を目に宿し、《鑑定》する。
猫のような動物でも、魔力を有している。ミナから預かっているカチューシャに残った《魔力痕》と、目の前にいる猫の魔力痕は完全に一致した。
ユーカであることが、確定したのだ。
「でも、どうしてフィルさんが……?」
「わ、私もこれくらいのことは、したかったので」
俯き加減にフィルは言う。
この倉庫の中から見つけ出してきたのは、正直驚きを隠せない。
けれど、彼女もまた一緒に猫探しを手伝ってくれていたのだ。ここで見つけてきてくれたのだから、サーシャからすれば感謝の言葉しかない。
「フィルさん、ありがとうございますっ! これで、ミナちゃんにこの子を返すことができますっ」
「い、いえ……私は、何も」
「そんなことないですよ! ここで見つかるかも分からなかったですし……」
「良かったな。見つかって」
「はいっ――あ」
とびっきりの笑顔をアウロに向けて、何故か急に恥ずかしくなり、サーシャは俯く。
至極自然な流れであったが、無邪気に笑顔をアウロに向けるのは、気恥ずかしい気持ちしかなかった。
「目的のものが見つかったんだ。お前らはその猫、飼い主に返してやれ。俺はここで第一騎士団の対応をするからよ」
「え、ですが……」
「それが目的だったんだろ。それに今日、お前は非番だ。休みの日まで仕事してんなよ」
最後に釘を刺されるような言葉を言われ、サーシャはムッとした表情をしながらも、アウロに頭を下げて、フィルと共にその場を後にする。
約束通り、猫を見つけることができた。
思った以上に大事になってしまったが……思ってみれば、こんな時でもアウロに助けられてばかりな気がする。
(……でも、今日は本当に助かったし。今度何か、お礼でもしようかな)
そんなことを考えながら、サーシャはミナの下へと急いだ。




